「避難民よりガンダムが先だ、ホワイトベースに上げて戦闘準備させるんだ」
概要
CV:清川元夢(TVアニメ及び劇場版)/坂口候一 (THE ORIGIN)
本作の主人公・アムロ・レイの父親。
元々はスペース・コロニーの建築技師であるとも言われ、一年戦争勃発と同時に軍に移籍した。
連邦軍のV作戦に深く関わっており、軍の命運を賭けたモビルスーツ・ガンダムの設計や、ガンキャノンの開発に携わるという重要な役職と、それを任せられるだけの優れた才覚を持つ人物。
機械工学、そしてその技術者としては優秀な反面、自身の価値基準だけで物事を判断する典型的な職人気質であり、その事が妻のカマリア・レイに間男を作らせ、更には妻の心を悟りつつも黙って宇宙に上がるだけの行動しか執らせず、現在では妻とは完全な別居状態にある。(カマリアは離婚はせず、技術士官であるテムの『地球居住特権』を行使して「愛人」と地球で暮らしていた。)
しかし、それでも同じく機械屋としての気質を受け継いだ息子のアムロは、テムに対しては父親としての敬意を向けており、『ぼくがついていなければ父親がダメになるであろう』という想いもあって、まだ幼いながらも自らサイド7のコロニー(後述)に上がる決断をした。
人物
1話「ガンダム大地に立つ」の時点では冷静かつ真面目な人物として描かれている。
階級は大尉だが、上官のパオロ艦長からは敬語で話しかけられるなど、連邦軍の中でも大物として扱われているようにも見える。
サイド7がジオン軍の襲撃を受けた際には、民間人の避難・安全よりもガンダムの搬出を優先させるなど、時と状況によっては任務を優先させる軍人らしい冷徹さも見せている人物である。
また、息子アムロとは会話することが少なかったようで、アムロがフラウに父親について聞かれた際は「親父は何も教えてくれやしない」と何処となく不機嫌であった。
子への想い
しかし、アムロに対しては親としての愛情は持ち合わせているのが、ホワイトベースの自室でアムロの写真を飾っている事からも分かり、アムロの為により安全な避難経路を個人的に手配したり、その身を案じて不安に駆られている様子も見られたりと、ちゃんと人間味も垣間見える人物だった。
テム「ブライト君と言ったね?何ヶ月なるね、軍に入って」
ブライト「6ヶ月であります」
テム「19歳だったか?」
ブライト「はい」
テム「ガンダムが量産されるようになれば、君のような若者が実戦に出なくとも戦争は終わろう」
ブライト「お子様でいらっしゃいますか?」
テム「ああ…こんな歳の子がゲリラ戦に出ているとの噂も聞くが、本当かね?」
ブライト「はい、事実だそうで」
テム「嫌だねえ……」
V作戦に熱心なのも、一年戦争の末期的状況の示唆と連邦軍の現状について嘆き、戦争の終結を早める事で少年兵と言った若者達を戦争に参加させたくないと言う思いからである事が、1話でのブライトとの会話からも分かる。それは敵であるジオンに対しても同じで、アムロと同じくらいの年齢の少年兵がジオンの兵士として戦っている事を嘆く描写もある。彼からすれば、従軍して6か月のブライトもその若者たちの中に含まれている。
そうした仕事の忙しさ故にアムロの事は基本的には放任ではあるが、そもそもの教育方針として新興コロニーの建設の場に連れていく事そのものが、アムロの為になると考えており、少なくとも地球にそのまま住み続けるよりは、アムロが時代の風を感じられた事は間違いないだろう。
勘違いされがちだが、ホワイトベース内でのアムロの写真がほぼ最近の物である事から、仕事に没頭して碌に家に帰らないというのは間違いである。家へ帰らずに我が子への興味が無ければ、立てかけたアムロの写真は異動した頃の幼少期の姿だったろう。
コロニーへ異動する際には妻のカマリアを放置せずに誘おうとするなど夫婦仲も悪くなかったようにもみえる。
そのため、行方不明になるまでのテムは父親としても軍人としても理想的な人物だったと言えるだろう。
スペースコロニー「サイド7」に於いて息子のアムロがガンダムに搭乗し、サイド7に潜入してきたザクⅡを撃墜した際に、コロニーの外壁に開いた穴から宇宙に投げ出され行方不明になった。
再会、父よ…
「急げ!お前だって、軍人になったんだろうが!」
行方不明になった後は、中立コロニーのサイド6に流れ付くが、宇宙を漂流していた期間が長かったのか酸素欠乏症状態となってしまう。表情にも疲れが見え、体制もだらしない猫背になっている。経緯は不明だが、アムロがガンダムのパイロットであることを知っており、連邦軍に所属していることまで知っている。
サイド6を訪れたアムロと再会した際には、後遺症の影響によって最早家族の存在や安否を何とも思っておらず、既に時代遅れの「最新型の回路」を大喜びでアムロに託すなど、かつての人格者の面影は消失し、完全に精神が破綻してしまっていた。当初は生存に喜ぶアムロだったが、故郷で母親に会ったという体験談を聞いても気にもしない程に変わり果ててしまった父親の姿に落胆し、別れた後で涙ながらに回路を投げ捨てている(漫画『機動戦士ガンダム デイアフタートゥモロー ―カイ・シデンのメモリーより―』では、後にアムロによってハロの学習回路として利用されている)。
再びアムロと再開するが、相変わらずガンダムの事ばかり気にしていたため、彼から決別される。そしてアムロと別れた後、TVで中継されたガンダムの性能に酔いしれながら興奮して外に飛び出して、連邦に万歳した勢いで階段で足を滑らせて転倒し動かなくなるシーンを最期に物語からフェードアウトする。小説などの媒体によってはここで頭を強く打った事で帰らぬ人となった、とするものもある(少なくとも本編やその台本では生死については全く言及されていない)。
派生作品での活躍
スピンオフであり、アナザーストーリーを垣間見えるゲーム「ギレンの野望」では、ルートによっては酸素欠乏症から回復した力強い姿が窺える。特に戦闘時の台詞となる「ガンダム ばんざーい」は彼を象徴する迷文句と言えよう。
さらに「ギレンの野望 アクシズの脅威V」では、酸素欠乏症から回復した後、時代や勢力を超えて技術者を集めて「テム・レイ軍」を結成し、地球圏統一を目指すシナリオがあるなど、主役化まで果たしている。どういう事なんだ……。更に善政を敷くと息子のアムロをはじめとした主役勢が仲間になるため、親子の共演も可能。
後続作の「新ギレンの野望」でもテム・レイ主役のモードが用意されており、連邦軍を勝利に導く為に史実通りにV作戦の開発主任になる。その後の選択次第では何と自らもプロトガンダムに搭乗し、息子のアムロが乗るガンダムと共闘して、サイド7を襲ったシャアが率いる部隊を親子で撃退する。そしてジャブローにデータを持ち帰る事に成功して、その功績で中佐に昇進するなど、主役に相応しい獅子奮迅の大活躍をする(もちろん酸素欠乏症にもならない)。
wii専用ソフトSDガンダムスカッドハンマーズでも色んな意味で主役級の活躍をする(暴走とも言う)
理論的に言って当然である!
スーパーロボット大戦シリーズでは、ファーストガンダムがあまり再現されていない事もあり、テム・レイ本人は登場していないものの、「テム・レイの回路」が強化パーツとしてシリーズを通して度々登場している。
作品ごとに効果は違っているが、主に機体性能が下がったり予測できない変化を起こす代わりに、何かしらのメリットが発生するというパーツになっている。が、最新作(スーパーロボット大戦30)では「移動+2 運動性・照準値+5 射程1以外の武器の射程+1」という破格の性能に進化しており、言うならばハロの下位互換と言った所。ガンダム設計者が作ったパーツは伊達ではないということか……。
更に、DLCで参戦するHi-νガンダムの開発にもこの回路の存在が大きく関わってくる。
パーツ性能がインフレ気味の本作では飛び抜けて強力というわけではないが、あえてアムロの搭乗機に装備させるのも良いだろう。
安彦良和著の「機動戦士ガンダムTHEORIGIN」では、トレノフ・Y・ミノフスキー博士の直弟子にして、アナハイム・エレクトロニクスのMS部門部長という設定が新たに加えられており、過去編では当時のジオンのザクⅠとガンキャノンの戦闘を直接戦場で見届け、ジオンの力に改めて危機感を抱き、ガンダム開発計画を推し進めるなど、これまた連邦サイドの主人公級キャラと言っても過言ではない活躍をしている(その様子からガンダム版プロジェクトXなどと言われる事も)
また、息子のアムロに対しても、彼なりの愛情と期待を注いでいた事が窺える描写がさらに追加されている。加えて最期はやはり階段から落ちて後頭部を強打する描写があるが、死亡したかは不明である。
他には「ガンダムマガジン」掲載の「ガンダム伝説 RX-78誕生秘話」では、ガンダムのテストパイロットとしてアルガと言うジオン軍捕虜を起用していた。パオロからは秘密兵器開発に敵を利用するのは危険だと言われるも、ただ一人MS開発に携わる同志として敵の捕虜でありながら彼を信頼していた。なお、開発にあたり通常のモビルスーツよりも小型のRX-78の雛形も製作している。
初代ガンダムのパラレル作品である漫画『機動戦士ガンダム0080 消えたガンダムNT』では、何と酸素欠乏症は偽りで、秘かに次世代モビルスーツ開発に携わっている様子が描かれている。アムロに対しては戦士としての甘さが残っているという理由から、健常者である事はあえて告げなかったとの事。また、アムロに渡した回路部品も実はスパイ対策用のダミーだったというまさかの展開である。
外伝漫画『虹霓のシン・マツナガ』にも登場。宇宙世紀0079年7月に、ジャブローに各方面から集まったモビルスーツパイロット志願兵達を、セキ技術大佐と共に眺めている様子が描かれている。
SDガンダム外伝では
ラクロアの勇者にて、酒好きでちょっととぼけているが腕は確かな鍛冶屋として登場する。
横井孝二の漫画によれば原作通り騎士アムロとは親子。光の騎士プロローグでは破損した三種の神器を元通りにすることは不可能だったがバーサル騎士ガンダムの鎧に打ち直している。
伝説の巨人の予言者アレクサンダー、アルガス騎士団の家老ウォン、ヴァトラスの剣の賢者アントニオなどスダ・ドアカワールドの各地に同じ顔の人物が存在し、彼らを含めればジークジオン編皆勤賞を成し遂げている。
余談
一人の父親として、あるいは技術者やキャラクターとしても彼に関する意見はファンの間でも様々である。酸素欠乏症になってからのイメージがどうしても強く、否定よりの父親として扱われがちだが、彼の息子に対する不器用ながらも確かな愛情は様々な作品を通じても窺え、彼の技術者としてのスキルやコロニーに息子を住ませるという教育方針は、アムロに対して良い意味での影響も与えている。
またアムロの『親父にもぶたれたことはない』発言は有名ではあるが、originにおいては久しぶりに帰宅した父親をシャツとパンツと言うだらしのない恰好で出迎えたアムロに対して『そんな恰好で女の子を家に呼びこんでいるのか!』と真っ当な理由で𠮟りつける場面もあるので、決してただ甘やかしているわけではないとも言える。躾と称した安易な暴力を、強く己に戒めていたのかもしれない。
実際に、酸素欠乏症になるまでは何だかんだで親子関係はちゃんと回っていたのもその証左である。また、上記のガンダムを作った動機など、軍属の人間としては至極真っ当な感性や価値観の持ち主である事も分かり、彼なりに戦争を終わらせようとしていた想いも本物であろう。
その為に、「不器用だが、優秀な技術屋の親父」という評価をするファンが多い。
また、主人公の父親という立ち位置のため上記の外伝やゲーム媒体の紹介を見てもらっても分かる通り、各作品では主役級の扱いをされる事も少なくはないなど、公式からも優遇されているキャラクターであり、さらにその数々の迷言もあってファンからはネタ・ガチ両方面で幅広く総合的に愛されている人物である。
ちなみに、モデルは富野監督の実父。「テム・レイは僕にとって全くフィクションの人物ではない」とインタビューで答えている。
関連イラスト
酸素欠乏症前
酸素欠乏症発症後(after)
関連項目
歴代「主人公の親」関連
フランクリン・ビダン…次回作の主人公の父親。ガンダムを開発した技術者であるなど共通点も多いが、こちらは息子や家庭を全く顧みずに外で愛人を作ったり、自分の好奇心や保身の為に息子を置いて一人で機体を強奪して逃げようとするなど、どこまでも身勝手な人物である。またテムとは違って、自分が作ったガンダムMk-Ⅱについても全く評価していない。あとフランクリンのやってることは、どちらかと言えばアムロの母のカマリア・レイに近い。
ヒルダ・ビダン…次回作の主人公の母親。ガンダムを開発した技術者であるなど共通点も多い。フランクリンと違い、問題を起こした息子のカミーユを引き取りに赴くなど、子供への愛はあったことが窺える。カミーユ側も母親が殺される場面に直面した時には堪え切れずに涙を流している。直前の父親のフランクリンが死ぬ時は涙しつつも割り切れた点でかなり対照的である。
レズリー・アノー…機動戦士ガンダムF91に登場した主人公の父親。金属工学の権威であるが、研究が軍事にだけ利用されることを嫌って辞職。やはり技術者の父親であるのだが、こちらは家族との時間や子供をどう育てるかに腐心する一方で妻の生き様にも理解を示し支えるガンダムシリーズでも随一の良き父親である。
モニカ・アノー…機動戦士ガンダムF91に登場した主人公の母親。F91に搭載されているバイオ・コンピュータの開発責任者であるが巡り巡って其の機体に息子が乗ることになったことにはショックを受けるなど、寧ろ彼女が女性版(さらに言うなら良い結末を得られた)テム・レイといえるかもしれない。但し上述のように夫が彼女の研究への熱意に理解を示しつつ息子たちの世話も引き受けるという包容力を持っており、結果的に家族の和解に繋がったのは幸運であった。
ウィルミット・ゼナム…Gのレコンギスタに登場した主人公の母親。富乃作品どころかアニメキャラの母親としても屈指の賢母で息子に時に厳しく接するが愛情が強く優しく時には息子のために命をかけられる母親である。
ミカムラ博士…機動武闘伝Gガンダムに登場する主役機シャイニングガンダムとゴッドガンダム(アニメ版のみ)の開発者だが、主人公ではなくヒロインの父親である。中の人が同じなのはシリーズとしても様々な転機となった非宇宙世紀作品一作目ゆえの原点回帰か。元々は悪人ではなく不器用なところはテムと同様であるが、とある人物に利用されたのもあったからとは言え嫉妬の一心でクーデターを起こし主人公の家族をほぼ壊滅に追い込み、挙げ句保身のために証拠を責任転嫁出来るよう改ざんし事実隠蔽を謀るなど歴代ガンダムシリーズでもかなり悪質なことをやっている。当然その事実を知った実娘は激しい怒りを買い彼を叱咤し、加害者家族としての責任を負って自己犠牲にまで走ろうとした。
ユーレン・ヒビキ…機動戦士ガンダムSEEDの主人公の血縁上の父親。・・・なのだが、こちらは自分の目指す技術の革新の為なら他人の子供の命はおろか自分の血のつながった赤ん坊すら平気で人体実験の道具にしたため彼よりは数段まともな妻に非難されるというテムやアノー夫妻どころかフランクリンですらドン引きするレベルの外道。ちなみに出産直後に研究所を襲撃され死亡したためキラとの直接的な面識はない。一方で劇場版において彼の同僚にしてとんでもない毒親が登場したことで「少なくとも愛はあった分まともな父親だった」と評価が上がることになった。
フリット・アスノ…機動戦士ガンダムAGEに登場した主人公の一人で、第二部の主人公の父親。こちらもガンダムを開発した人物であり、また「新ギレンの野望」のテムと同じく、世代交代後もかつて自らが手掛けたガンダムに搭乗して、息子や孫とガンダム同士で共闘している。