概要を書いて何故悪いか!?
『機動戦士ガンダム』第9話「翔べ!ガンダム」内でのアムロ・レイの台詞。おそらく少年時代の彼が放った最も有名な台詞の1つ。
セリフが使われた経緯
元々は民間人であるにもかかわらず、なし崩しにガンダムのパイロットになったアムロは、サイド7から大気圏までの死闘を果敢に戦い抜いてきた。
しかし一向にジオンからの追撃は止まず、ホワイトベースに保護している他の民間人からの苦情を受ける身となっていた。
士官候補生の身で艦長代理に任命されたブライトもまた、経験の浅さ故に民間人協力者に過ぎないアムロを気づかう余裕がなく、軍人として高圧的に振舞ったことでアムロの精神は疲弊し続け、敵襲の最中にアムロはボイコットを起こしてしまう。
「なぜ自分の任務を果たそうとしない」と詰め寄るブライトだが、軍人ではないアムロに軍規を押し付けても効果はなく、逆に「ブライトさんはなんで戦っているんです?」「そんなにガンダムを動かしたいんならあなた自身がやればいい」とある種の正論を返され「出来ればやっている」と逆上。
口答えが止まらないアムロに対して、とうとう平手打ちをかました。
頬を張られたアムロは「殴ったね…!」と恨めしそうな目つきで返し、ブライトは何故か仰々しく両腕を広げて背後の空いているドアの方を振り向きながら「殴って何故悪いか」と言いふらすように叱咤した。
戦わないと死ぬかもしれないという状況の中で、やむなく回ってきたパイロットという激務を受け入れられないアムロは更に口答えしてしまう。
怒ったブライトはもう一発殴るが、ここでアムロが言ったのが
「ぶったね…」
「二度もぶった…!!」
「親父にもぶたれたことないのに!!!」
の「ぶった」三段活用であった。
これに対してのブライトからの返答は「それが甘ったれなんだ!殴られもせずに一人前になった奴がどこにいるものか!」という買い言葉であるが、アムロの複雑な家庭環境は「甘ったれ」で言い表せるものではない。
当然ながら激怒したアムロは「もうやらないからな!誰が二度とガンダムなんかに乗ってやるもんかよ!!」と戦闘を拒否するが、ブライトは「今のままだったら貴様は虫けらだ。俺はそれだけの才能があればシャアを超えられる奴だと思っていたが、残念だよ」と、アムロに対する期待を露呈しながら部屋を出て行く。
ブライトの思わぬ発言を受けて素に返るアムロだったが、更に幼馴染のフラウ・ボウが(アムロが乗らないなら)自分がガンダムに乗るとまで言い出した。
「自分のやった事にうぬぼれられない人なんて嫌いよ。今日までホワイトベースを守ってきたのは誰でもない俺だって言えないアムロなんて男じゃない」と叱責を受け「悔しいけど、僕は男なんだな…」と意を決してジオンとの戦いに向かうこととなる。
余談を語って何が悪いか
このシーンは「ガンダム」全編を通しても「俺を踏み台にしたぁ!?」や「たかがメインカメラをやられただけだ!」に並んで有名なシーンである。
ちょうど家庭や学校内で子供への体罰教育を廃止しようという試みがなされていた時代背景もあり、作品内の名言というよりは社会的な方向で話題となった。
またこの時点でのアムロはあくまでも軍に所属していない「民間人の協力者」という立場であり(軍に所属したのはジャブロー到着後)、ブライトの「軍人としての命令」に従う道理はない。それでもフラウの説得もあり最終的に出撃しているあたり発破をかける効果はあったのかもしれない。
CMなどにも起用され、後発の作品などでパロディされることも多い台詞。事実、『戦場の絆』のCMではこのパロディがなされている。ただし余りにもパロられ過ぎたせいか「この台詞は知ってるけど出所がガンダムとは知らない、もしくは後から知った」という人も珍しくない。
そして、「親父にも殴られたことないのに!」とか「親父にもぶたれたことなかったのに!」などと間違って覚えている人も結構多い。
同作15話を下敷きとした映画『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』においてはアムロがアレグランサ島偵察中に消息を絶ちまた脱走が噂された際にこの出来事を回顧し、「むしろ…脱走であってくれた方が…。」と彼の身を案じている。(本作は『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』の時系列に沿うよう製作されており、ホワイトベースの航路が見直された関係からアムロは既に脱走やランバ・ラルとの戦いを経験している。)
当然ながら件の回想シーンも安彦良和氏の画風に寄せられた新規作画で描かれている。なお『THE ORIGIN』における当該シーンは「二度もぶった…親父にだってぶたれたことないのにィ!!」と若干台詞回しが変わっているが『ククルス・ドアンの島』ではアニメと同様の台詞となっている。
とあるSNSの投稿から引用して二人の状況をわかりやすくまとめると、
アムロ
- まだ15歳の子供
- 前線で人殺しをさせられている
- 戦闘なんてやったこともなければ学んだことすらない手探り状態
- 周囲からのケアは皆無
- 上手くやっても労いや賞賛はない
- どころかガンダムの性能に頼りすぎと戦法を酷評される
- 守るべき市民からは感謝どころか身勝手な文句を言われる
- 食事中すら嫌なものを見せられる
- ここ最近は軽い睡眠障害
ブライト
- まだ19歳で学校を卒業したての軍人
- 最近になって両親が死んだばかり
- いきなり正規兵が殆どいない軍艦の艦長にされる
- 戦力はガンダム、ガンキャノン、ガンタンクのみ
- 自分のミス1つで全員が死ぬ可能性あり
- 敵の勢力圏に来てしまった
- 余裕なんてあるはずない
- アムロが戦ってくれないと皆が死ぬ
この様に、当時の2人がどれだけ余裕が無かったのかがうかがえる。
正に悲しいけどこれ戦争なのよねである。
関連項目を示して何が悪いか
ギレンの野望…シリーズ初期の頃は何故かアムロ撃墜時のセリフに宛がわれていた。
修正パンチ:次回作品に登場した似たようなシチュエーション。ある意味後輩。
関連キャラクター・人物
機動戦士ガンダム関連
テム・レイ:アムロの父親。結局、生涯アムロを殴ることはなかった親父。
カイ・シデン:不手際からブライトにぶたれた人。なお初登場シーンではセイラ・マスにもぶたれている。
ガンダムシリーズ関連
ハサウェイ・ノア:ブライトの実の息子。逆襲のシャアにおいて戦場に向かう軍艦に密航していたことがバレ、父親のブライトに殴られる場面がある。後年「一人前になった息子」と自身が、レイ父子とはまた違う形で悲劇的な結末を迎えることなど、当時のブライトは知る由もなかった…。
カミーユ・ビダン:機動戦士Ζガンダムの主人公。不手際からブライトにぶたれた人。なおカミーユは親父にもぶたれているが、「家庭を蔑ろにする親父がぐうの音も出ない皮肉を吐かれて逆ギレ」というあんまりなシチュエーションであり、ある意味レイ父子よりも悲惨な境遇と言える。おまけにネット上ではある理由からネタシーン扱いされてしまっている。
バスク・オム:ティターンズの総司令官。横暴かつ権力主義的として、グリーン・ノアIの居住区でのガンダムMk-IIの飛行テストに抗議してきたブライトを問答無用で殴り飛ばしてティターンズとは何かを主張した。カクリコン・カクーラーを中心とするティターンズの士官達も所属の違いで抗議を続けようとするブライトを問答無用でいじめた。
ジュドー・アーシタ:機動戦士ガンダムZZの主人公。最終回でブライトから希望した上で逆にブライトを殴っている。
元気丸:SDガンダムフォースの登場人物。食料を全て隠す虚武羅丸の陰謀で爆熱丸と喧嘩する際に「親父にも怒られたことないのに!」と怒鳴っており、爆熱丸には「怒られずに一人前になった武者がいるか!」と怒鳴り返される。
シン・アスカ:機動戦士ガンダムSEEDDESTINYの主人公。命令違反による2発のビンタを受ける点が共通し、第2クールにおいてザフトに復帰したアスラン・ザラにぶたれる場面がある(この際の台詞は「殴りたいなら別に構いやしませんけどね!」。)。因みに最新作では喧嘩を仲裁しようとしたら相手から一発ずつ殴られるという不憫な目に遭った他、自業自得だが恋人に悪戯して背負い投げとビンタを食らっている。
パトリック・コーラサワー:機動戦士ガンダム00の登場人物。カティ・マネキンに2回殴られた際に「二度もぶった!」と言っているが、残念ながらマネキン大佐は美女だったため、コーラサワーが次に言った台詞は「はっ…いい女じゃないか」であった。
イオリ・セイ:ガンダムビルドファイターズの登場人物。催眠術を掛けられた際にこのシーンのセリフを言っている。
グエル・ジェターク:機動戦士ガンダム水星の魔女の登場人物。アムロとは逆に2度も親父にぶたれたガンダムキャラ。しかも1話で主人公にお尻を叩かれている。また、スペシャル特番のナレーションでもネタにされている。
ガンダムシリーズ以外
星飛雄馬、司馬宙、サボ…アムロと同じ声の、親父、親に恵まれない人達。
碇シンジ:新世紀エヴァンゲリオンの主人公。庵野秀明監督の要望により、スーパーロボット大戦F参戦時に、自分勝手な理由でパイロットを放り出そうとしたシンジがブライトの逆鱗に触れて修正を受けた際、「父さんにも殴られたことないのに…」と言うシーンがある。シンジ自身も思うところがあったためへそを曲げて平行線をたどったアムロと異なり最後までブライトの説教を聞き入れパイロット継続を決意する。こちらも父親が息子と向き合おうとしなかったのは同じだが、テム・レイより性質が悪い。むしろテム・レイと中の人が同じ冬月コウゾウの方がシンジと接していたのは皮肉である。
坂田銀時:銀魂の主人公。ガンダムをパロディにした物語で相方の志村新八からツッコミを受けた際に「ぶったね! ブライトさんにもぶたれた事無いのに!?」と批難するシーンがある。なお、テレビアニメ版を制作しているのがガンダムと同じ会社
朝倉いずみ:ナースのお仕事の主人公。第1シリーズで夜勤にもかかわらず私的な理由でナースコールに気づかなかったことに激怒した先輩ナースの尾崎翔子に平手打ちを受けた際、同様の台詞を口走った。しかし「人の生命を預かる」看護師としての責任を説かれたことで自分の未熟を悟り、後のシリーズで後輩を指導できるまでに成長する。
神崎すみれ:サクラ大戦の登場人物。テレビアニメ版5話でほぼ同様のセリフを言っていた。
九条カレン:きんいろモザイクの登場人物。友人にぶたれた際に「パ、パパにもぶたれた事無いのに!?」とショックを受けるシーンがある。尤も、こちらは家庭環境に恵まれており、ぶたれたのもカレンの不手際が原因である。
玉置豪:仮面ライダーリバイスの登場人物。第30話でその台詞を言っていた。
ヘルメッポ:ONEPIECEの登場人物。この台詞のパロディを口にした。彼が親父に殴られなかった理由はアムロとは根本的に異なるが、子供と真っ直ぐ向き合わなかったいう意味では似通っているとみなすことも出来る。
リディア・ガートランド:バトルアスリーテス大運動会ReSTART!の登場人物。テレビアニメ第2話でほぼ同様のセリフを言っていた。
ワルズ・ギル:海賊戦隊ゴーカイジャーの敵キャラクター。自分から戦場の最前線に出ておきながら、敵のリーダー格から銃撃を受けて流れる血を見て取り乱し、「今まで父上に叩かれた事さえ無かったのに!」と本記事を彷彿とさせる泣き言を言った(更に言うとこの時の出来事が原因で自軍は撤退する事になり、自軍の親衛隊長があと一歩まで追い詰めていた敵対勢力を全滅させる大チャンスを棒に振ってしまった)。一応、その父親との親子仲は悪くないどころかテムがアムロに寄越した物とは比較にもならない超強力な戦力を贈られるなど溺愛レベルの愛情を向けられてはいたが、結果的にはワルズの討死という形で裏目に出てしまっている。