概説
「倫」(倫理)とは人がふみ行うべきみちのこと、道徳と同じような意味であるが、この「倫」ではない、人の道から外れたような行動のことを「不倫」という。
現代では主に「婚姻関係を結んだ夫婦のうち、どちらかが配偶者以外の者と恋愛関係、特に肉体関係を持つこと」を指す場合が多い。
この用法は1983年に公開された恋愛ドラマシリーズ『金曜日の妻たちへ』によって定着したとされる。同様の行為は「不義(密通)」、「不貞行為」と呼ばれていたが、すでに一般市民の間では死語と化しており、歴史上の用語や法律用語として使われるのが大半である。
浮気と似たような使われ方ではあるが、浮気は婚姻関係の有無を問わないことが多い。
また基本的には不倫する側は正常な判断ができる状態で「望んで」しているということが前提となり、無理やり襲われた、薬や酒で意識が朦朧としているときに関係を持ったなどの場合は不倫とは言えない。
既婚者同士の不倫は「W不倫」と呼ばれることが多い。中には「合意の上で夫婦同士が互いのパートナーを交換し合う」という業が深すぎるものも。
ある調査によると、成人男性の6割・成人女性の4割が不倫をしている、あるいはしたことがあるという。
法律における不倫
1947年10月26日以降の日本では刑事罰に処せられることはないが、「不貞行為」は民法第770条の「離婚事由」に相当し、不倫した側が配偶者から慰謝料等を請求される可能性がある。
この場合の「不貞行為」とは「配偶者としての貞操義務に違反する行為」であり、具体的には「配偶者ではない相手と、自由な意思で性的な関係を持つこと」と示されている。
不倫が理由で離婚を要求された場合、不倫していた側が有責とされ、慰謝料の金額や財産分与、子供の親権獲得の上で不利な材料になりうる。
現実の不倫に於いては、これを理由に離婚する際に財産を根こそぎ奪われて放り出されたという悲惨な結末に至る者も少なくない。
また、不倫相手が同性であったとしても同様に慰謝料を請求することが可能である。
仮に不倫していたことを隠して離婚できたとしても、後から不倫がバレて元配偶者から慰謝料を請求されるということも(離婚から一定期間内であれば)起こり得る。
性風俗サービスの利用を「不倫」に含むかは人によって見解が分かれる。上述の通り「不貞行為」には「配偶者以外と望んで性的関係を持った」という意味があり、風俗店の利用もこれに該当するが「店に通って性的行為のサービスを受けた」ことが証明できなければ「不貞行為」とは認められない。例えば「店のポイントカードを持っていた」というだけでは不倫したかどうかはわからず、有力な証拠とはならない。
また配偶者の側が、自身の心身の調子や「個人間の恋愛関係に基づかない」ということを前提に(一時的な)風俗店の利用を容認しているケースも存在しており、明確な基準はないといえる。
その他社会的制裁
勤務先によっては「風紀を乱した」などの理由で懲戒処分の対象になることがある(特に職場内恋愛や、夫婦で勤務している場合など)。
職場内の風紀はもちろんだが、不倫をされた配偶者に怒鳴り込まれて評判が悪くなったり、取引上問題のある間柄での不倫の場合業務に差し支えが出たりといったリスクも考えられる(※仕事上の取引関係を盾に関係を迫ったり、逆に恋愛感情から関係を持った後に仕事で優位な取り計らいをしたりといった事態が確認された場合など)。
「学校の教師と教え子の親」のように、直接的な取引でなくても双方の家庭に影響が大きい関係も同様であり、後述するように子供がいる場合は特に問題視される。
特定のパートナー以外と密接な関係を持つということは、感染症、特に粘膜接触が原因の性行為感染症のリスクが高まり、本人はもちろん配偶者が病気に感染してしまう可能性がある。
コロナ禍においては、同居家族以外との会食、密室での接触、水商売系店舗への出入りが感染拡大の危険につながり、家庭はもちろん所属チームやグループ内でクラスター発生源になる危険性があるため、特に流行初期は「その手の店に出入りした」というだけで厳しく処分される事例もスポーツ系や芸能系で確認された。
不倫とマスメディア
「イメージ(印象)」を仕事道具としている芸能人の場合、仕事を割り振りする事務所やメディアから干されることも少なくない。さらに、事務所側としては仕事をさせたくても、世間の声を気にして企業がオファーを出しにくくなるという事情もあり、一般人よりもそのダメージは大きいと言える。
特に清楚、清廉なイメージを売りとするアイドルグループや若手の俳優の場合、所属事務所から専属契約を解除されることもある。
アイドル以外でも、いわゆる「匂わせ」や配偶者への嫌がらせといった問題行為、不倫相手への情報漏洩などの取引先との契約に係る事態が付随した場合、所属事務所からの処分が厳しくなる傾向にある。
一方、元から「きれいな」イメージで売っていない場合(女遊び・男遊びしていることを公言していたり、アダルト関係の仕事をしていたりなど)、本人や周囲がネタにすることでイメージダウンが軽く済むこともしばしばある。また、騒動後に自ら「ヨゴレ」に転じることでこれまでのイメージを変えることもある。
週刊誌やワイドショー、暴露系・炎上系Webメディアやインフルエンサーのネタにもなりやすい。
メディアによるセンセーショナルな取り上げ方によって、第三者から必要以上に叩かれる(ネットリンチ)、憶測が広まってトラブルが大きくなってしまう、行為そのものに対する制裁の範疇を大きく超えた被害が起こってしまう危険性がある。
所属組織によっては隠蔽されるという見解もあるが、大手事務所でも解雇やそれに近い形での自主退社、グループ脱退などという形で責任を取っている人物は数多い。むしろ、組織そのものの対応より、世間の批判の声を理由に復帰できなくなる、逆にファンからの擁護によって不問になるケースのほうが多いといえる。
子供への悪影響
不倫は、夫婦関係の悪化や離婚などで子供の将来にも少なくない影響を与えることになる。
親に対する信頼が揺らぐだけでなく、それが原因で人間不信に陥ったり、周囲に親の不倫を知られていじめの材料にされてしまうこともあるなど、多感なその心に大きな傷を負わせてしまいかねない。下手をすれば、その心の傷は一生を貫く深刻なものとなる。
また、親が不倫していた子が成長したあとに、親を受容し(親の不倫によって感じた)自身の苦痛を否定したいなどの思いから「トラウマの再演」として不倫に及んでしまい、自身を含めて被害を拡大させるケースも少ないながらにある。
生きとし生ける全ての人が持つ基本的人権の観点から本来あってはならない事であるが、婚約や結婚、就職などの際に身上調査を行い、子どもの親が不倫を行っていた事を理由に婚約破棄させる、就職を拒否するなどの事態が度々起こっており(日本でも戦前〜戦後すぐの頃などは珍しいことではなかった)、親の因果が子に報う、という形になってしまうことはある。
さらに、子ども自身が「不倫をするような親を持っている自身も不倫してしまうかもしれない」と考え、結婚や子供を持つことはおろか恋愛、ひいては人間関係全般に恐怖を覚える、拒否してしまう危険のほうが高く、こと(不倫した人物の)子どもに関しては、不倫は発覚した時よりも、むしろ時を置いてからの方が影響が大きくなりやすい。
不倫は児童虐待の側面も強く持つものであると言える。
子どもにとって親は自らにとって本能的な意味でなかなかに離し難く、幼少の子あるいは弟妹のいる子であれば、その絆を護りたくて受け入れ難き事でも受け入れてしまうケースが往々にしてありうる。これは虐待全般に見られるケースでもある。
ゆえに不倫に纏わる親子関係においては「子どもが許してくれた」という文言はよく聞かれるものである。
しかし、これは親子関係における親の優位性を乱用した許しの強制である(事実上、子どもに「許す」以外の選択肢を与えていない。つまり子ども自身が本当に許したわけではないのに、許した体裁だけを「強制的に」整えられてしまった)ケースも充分にありうる。万が一、このケースに該当してしまった場合には、当然、子どもの心の傷(さらには心の闇)は時を過ぎる毎に無意識下でどんどん広がっていく事になり、結果、取り返しのつかない事態に陥る事は充分にありうる。
資産・家計に対するリスク
不倫は非嫡出子を巡る養育費や遺産相続のトラブルのリスクを高める行為としての側面もある。
また、不倫相手に入れ揚げるあまり正式な家族を疎ましく思い、家庭に生活費を入れなくなる事例、中には最初から金目当てで不倫をする悪質な例もあるため、不倫自体収入のある既婚者にとっては非合理な行為である。
すでに夫婦としての実体がない配偶者と書類上の婚姻関係を保ちながら事実婚として別の家庭を持つような、実質的には不倫ではない事例もあるが、資産分与・遺産相続において法律上の配偶者と事実上の配偶者で優劣が発生することになりかねない。
刑事ドラマなどで、非嫡出子が遺産相続に名乗り出たことを発端として殺人事件に発展する…というストーリーはもはや定番だが、殺人といつ極端な事態に至らなくとも本質的な部分は同じである。
また、妻や夫を持つ人は独身者と異なり、「自分以外の家族、家庭を守る」という意味で税金・社会保険上の優遇を受ける事ができ、民間サービスでも既婚者を優遇するシステムは少なくない。しかし、不倫をして家庭を省みることをやめる(貞操の義務を放棄する)ことでこれらの権利を不当に受けることになるともいえ、相互扶助の社会を構成する存在としても問題がある行為である。
性病のリスク
不倫は当然ながら性病のリスクを高める行為でもある。これは文化的、信条的な違いを超えた、万国に共通する「不倫がダメな合理的な理由」である。
そもそも多くの国で採用される一夫一婦制の婚姻制度は、性病の蔓延を防ぐために整備された側面もある。また、多くの国で不倫が悪とされるのは、近代以前の性病予防が発展途上で医療が未熟であった頃の名残とも言えるものであり、性病予防の普及や医療の発達によりその辺があいまいになっている層が近年目立っている。
ゴールしても…
不倫を成就させ結婚できたとしても、余程のことがない限り幸せにはなりにくいと言われている。
寝取り寝取られた罪悪感が残るのは無論、「達成してしまった」ことで背徳感によるドキドキすらなくなって気持ちが急に冷めてしまい、場合によっては「こんな相手ではなかった」ということもよくある。それで結局離婚してしまう、また新たな不倫へと陥ってしまうケースも…。
必然的に以前の家族を捨てる、他人を元々の家族から引き剥がす略奪婚となる以上、親族を含めた周囲からの印象もよくない。少なからず反感を抱かれ、最悪絶縁されてしまう可能性もある。
慰謝料や養育費等の金銭面については本人の元々の資産状況によるが、仮に金銭的なダメージが少なかったとしても他人からの信頼を失うことになるのは当然であり、それが仕事を含めた人間関係に影響を及ぼすこともまた当然である。愛情や信頼はお金では買えないのである。
慰謝料は『女性がもらうもの』と勘違いしている人もいるようだが、性別に関係なく『有責側が謝罪の意として払うから慰謝料と呼ばれている』のである。
創作における不倫
背徳的な恋愛関係に惹かれる人は多く、古くから浮気や不倫は文学・芸術の分野で題材として好まれ、数々の作品が登場している。
現代では成人向け作品における一大ジャンルとしても確立されており、また結果的には不倫であるが双方同意の上関係を持っていることを描く作品も存在する(→NTR/寝取り/寝取られ)。
また、成人向け以外でも、作中の登場人物が「不倫したことで生まれた子供である」、「配偶者や親が不倫していることを知っている」、「不倫されて離婚した」等、キャラクター設定として利用されることもある。
pixivにおいてはいわゆる「NTR」を題材にした作品、また人妻キャラとの不倫を想像した作品などが多く、その性質上R-18作品が多い。
一方不倫被害者からは、「社会的規範に反する」「ジャンル的に嫌い」として、そうした嗜好を牽制する動きも強い。そのため不倫が成就する作品では、不倫する側に相応に同情できる理由(DVや相手がすでに不倫しているなどの理由で夫婦関係が冷え切っている、政略結婚のような望まない結婚だったなど)が設定されていることも多い。
また「不倫した夫/妻に制裁を加える」ことを主題とする作品もある(復讐ものなど)
外国における不倫
外国、とりわけフランス等の西欧諸国では、宗教的な理由から離婚が難しい国も多く「プライベートなこと」として不倫には割と寛容だが、政治家など公人についてはスキャンダルとして報じられる事が多く、日本同様ゴシップのネタにされることもしばしばある。
他方、イスラム教の国や少し前までの韓国では不倫をすると姦通罪で捕まる事もしばしあった。
セカンドパートナーとの違い
近年登場した類似の概念である「セカンドパートナー」は、不倫との境界線がかなり曖昧である。
基本的には肉体関係は持たない「友達以上不倫未満」といった感じの緩い関係を差すため、セカンドパートナーを持つ事を推奨する声さえあるが、基準が明確に定まっている訳ではない。このため、一歩間違えると不倫と変わらない関係になってしまい、単なる「不倫を正当化するための言い訳」に捉えられかねない。
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間男 / 間女:どちらも不倫の中心となる人物及び悲劇の元凶となる存在である。
スカッとする話:動画のネタとしてよく用いられる。
失楽園(渡辺淳一):不倫を主題とした恋愛小説。ドラマ・映画が大ヒットし、不倫の代名詞となった。
反抗期:不倫の原因は反抗期が遅い及び成人してから来た(=自立心が十分育たなかった)反動によるものという説がある。