埼玉県の秩父郡や比企郡小川町などに伝わる。何者かが子供を連れ去るといわれたもので、宿かいやヤドウケとも称される。
子供を攫う名人のような妖怪として伝承され、秩父では子供が行方不明になることを「夜道怪に捕らえられた」とか「隠れ座頭に連れて行かれた」という。
柳田國男の著書によると、夜道怪の正体は妖怪などではない人間で、中世に諸国を修行して旅していた法師・高野聖のこととされている。彼らが一晩の宿を借りようと「宿ぅ貸ーっ!」と叫ぶ、その声が妖怪の名の元になったという。
というのは、修行中の法師とはいえ、土地の人間からすれば得体の知れない流れ者であり、何をされるかわからないという恐怖感があったからである。スレた高野聖の中には、歓待しなければ法力をふるって懲らしめる、などと脅すものも出るようになったためなおさらだった。こうなると僧なのか集りなのかわかったものではない。「高野聖に宿貸すな、娘取られて恥かくな」という言葉も生まれたほどである。
中には高野聖を装った本物の夜盗もいたため、下手に信用して宿を貸したら、一家丸ごと惨殺されて何もかも奪われるというリアルな危険も伴っていた。
そのため、高野聖に関わらないよう平素から戒める心得が、いつか妖怪を指すものと考えられるようになった、と考えられている。