概要
「デビルマン」の小説版。著者である泰宇氏は弟である永井氏と共にテレビアニメの企画や設定、あるいは原作者・ブレーンとして辣腕を振るい、テレビアニメ版のデーモン一族の設定は彼の考えたものでもある。
本作は泰宇氏のデビュー作であり、永井氏が描いた漫画版を下地にしながらも漫画版では一切登場しなかった明の両親の設定、シレーヌなどの一部のデーモンの過去、牧村家惨殺後の明の動向などが独自に描かれており、その中でも第一巻である「悪魔復活編」で明と美樹が既にデーモン(とは言っても犬にしか見えない個体だが)と遭遇し、既に平和であった日常が徐々に崩壊し始めている描写がストーリーの進行とともに書かれている。
因みに本作では原作のシレーヌ編後に登場した不良組は登場せず、魔王ゼノンも別キャラクターに変更されて一切登場しない。
本作の挿絵や表紙は永井氏本人が描いたもので1999年に電撃文庫で加筆及び表紙を変更された「デビルマンTHENOVEL」が刊行された。
原作との相違点
本作は永井氏の書いた漫画版では描けなかったエピソードがいくつか追加されており、一部のキャラの名前の変更や明と合体した勇者アモンとシレーヌの因縁が掘り下げられている。
第一巻:「悪魔復活編」
OVAの「誕生編」と同様に明がデビルマンになるまでの経緯。所々が原作と大きく異なる。
第二巻:「魔獣血闘編」
「妖鳥シレーヌ編」を過去エピソードなどで掘り下げられたもの。ここでシレーヌに妹がいたことと現在の姿になった経緯が明かされる。
第三巻:「魔王血戦編」
漫画版の「ジンメン編」とゼノン(とは言っても別キャラに差し替えられているが)の宣戦布告を描いた。
最終巻:「逢魔偈呑編」
雷沼教授の誤った指摘により現代の魔女狩りで滅びへと進む人類と牧村家の悲劇、明たちデビルマン軍団の行動、そして、最終戦争へ。
- 明の両親
漫画も含めて映像作品でぐらいしか取り上げられていない明の両親は本作では原作の飛鳥教授と共にデーモンの研究をしている学者と設定されている。父親の方は「悪魔復活編」の冒頭でデーモンに憑りつかれ、母親を殺害しようとしながらヒマラヤで行方不明になる。
- デーモンとの遭遇
原作の漫画版では了が紹介するまではデーモンは一切登場せず、世間が知ったのもゼノンの宣戦布告からなのだが本作ではそれ以前に秘かに日常に溶け込むかのように秘かに殺戮をし始めている描写が追加されている。
ちなみに第一巻では明と美樹が人間がデーモンに喰われているところを目撃している。
- シレーヌとアモンの因縁
原作も含め、シレーヌと勇者アモンの関係についてはほとんど触れられていなかったが本作ではシレーヌにイフェメラ(挿絵を見る限りは容姿は妖精っぽい)という妹がいたことが明かされ、彼女がアモンの恋人だったことが判明している。ちなみに現在知られているシレーヌの姿は本作ではイフェメラを見殺しにしたアモンへの復讐のために二体のデーモンと合体したことでなった姿でそれ以前はイフェメラ同様に美しい姿だったと思われる(今でも十分美しいと思うが……)。
しかし、その裏で彼女がアモンに対して愛を感じていたことが判明した。
- ジンメンの性格
原作では外道中の外道だったジンメンだがこちらでは明確な意思が存在せず本能のままに動く下級デーモンとして扱われている。こちらでは明の母親を喰い殺しており、これが後のOVAと最新作の「Devilman_Crybaby」に逆輸入される。
- ルシフェルとディーテ
本作のゼノンに当たるキャラクターで双頭の悪魔とされている。こちらは役割はそれほど変わっていない。
- あまりにも非力すぎるデビルマン「山野さん」
本作では不動夫妻の助手である山野というキャラクターが登場しており、最終巻で彼もデーモンと合体してデビルマンになっていたことが判明するのだがその能力は右手がトマホークに変化するだけと言うとてもデーモンともデビルマンともいえない一言で言えばショッカー戦闘員に剣を持たせた程度のレベル。彼は終盤、暴徒が襲撃する牧村家で原作において奮戦する木刀政の代役で美樹とタレちゃんを守るために応戦するのだが当然、右手がトマホークだけの能力では対応しきれず、暴徒たちに殺害されてしまう。
- デーモン以上に冷酷になった明
美樹の死後、明は最終戦争に向けてデビルマン軍団結成している最中、デーモン以上の残虐な行動をしていたことが本作で明かされている。それは無差別に誘拐してきた人間を捕まえたデーモンと無理やり合体させると言う漫画の中盤に起こった無差別合体攻撃を連想させるような行いで、うまくデビルマンになった者を軍団に加えるというものだった。人類滅亡へ手を貸したかのような勢いで明の人間に対する憎悪が原作以上に引き出させている。
余談
- こういう小説物は大抵は大幅にアレンジされているものと独自解釈を加えつつオリジナルを尊重するものの二手に別れるが本作はいい具合で原作を壊さず、大幅なアレンジを加えた「もう一つのデビルマン」を作り上げている。
- 永井泰宇氏は元々小説家として活動をしていたがダイナミックプロを立ち上げる際に一時的に活動を中断し、本作が再デビュー作品となっている。
- 本作の設定は他のデビルマン作品に活かされているがシレーヌの妹であるイフェメラは他の媒体では一切登場しない。設定故に出しづらいかはたまた本作の知名度の低さが影響しているのか。