概要
「デビルマン」の小説版。著者である泰宇氏は弟である永井氏と共にテレビアニメの企画や設定、あるいは原作者・ブレーンとして辣腕を振るい、テレビアニメ版のデーモン一族の設定は彼の考えたものでもある。
本作は泰宇氏のデビュー作であり、永井氏が描いた漫画版を下地にしながらも漫画版では一切登場しなかった明の両親の設定、シレーヌなどの一部のデーモンの過去、牧村家惨殺後の明の動向などが独自に描かれており、その中でも第一巻である「悪魔復活編」で明と美樹が既にデーモン(とは言っても犬にしか見えない個体だが)と遭遇し、既に平和であった日常が徐々に崩壊し始めている描写がストーリーの進行とともに書かれている。
因みに本作では原作のシレーヌ編後に登場した木刀政ら不良組は登場せず、魔王ゼノンも立ち位置は変わらないものの別キャラクターに変更されて一切登場しない。
本作の挿絵や表紙は永井氏本人が描いたもので1999年に電撃文庫で加筆及び表紙を変更された「デビルマン THE NOVEL」が刊行された。
本作発表の6年後に発売されたOVAは本作の一部を取り入れている。
内容構成
永井氏の書いた漫画版では描けなかったエピソードがいくつか追加されており、一部のキャラの名前の変更や明と合体した勇者アモンとシレーヌの因縁が掘り下げられている。
第一巻:「悪魔復活編」
OVAの「誕生編」と同様に明がデビルマンになるまでの経緯。所々が原作と大きく異なる。
第二巻:「魔獣血闘編」
「妖鳥シレーヌ編」を過去エピソードなどで掘り下げられたもの。ここでシレーヌに妹がいたことと現在の姿になった経緯が明かされる。
第三巻:「魔王血戦編」
漫画版の「ジンメン編」と悪魔王(ゼノンとは別キャラに差し替えられているが)の宣戦布告、雷沼教授の誤った研究発表までを描いたもの。
最終巻:「逢魔偈呑編」
現代の魔女狩りで滅びへと進む人類と牧村家の悲劇、明たちデビルマン軍団の行動、そして、最終戦争へ。
本作独自の設定
- 明の両親
漫画も含めて映像作品でぐらいしか取り上げられていない明の両親は本作では原作の飛鳥教授と共にデーモンの研究をしている学者と設定されている。父親の方は「悪魔復活編」の冒頭でデーモンに憑りつかれ、母親を殺害しようとしながらヒマラヤで行方不明になる。
- デーモンとの遭遇
原作の漫画版では了が存在を明かし、二人を襲うまでデーモンは一切登場せず、世間に認知されるようになったのもゼノンの宣戦布告からなのだが本作ではそれ以前に日常に溶け込むかのように潜伏し、秘かに殺戮をし始めている描写が追加されている。
ちなみに第一巻では明と美樹が人間がデーモンに喰われているところを目撃している。
- シレーヌとアモンの因縁
原作も含め、シレーヌと勇者アモンの関係についてはほとんど触れられていなかったが本作ではシレーヌにイフェメラ(挿絵を見る限りは容姿は妖精っぽい)という妹がいたことが明かされ、彼女がアモンの恋人だったことが判明している。ちなみに現在知られているシレーヌの姿は本作ではイフェメラを見殺しにしたアモンへの復讐のために他の二体のデーモンと合体したことでなった姿でそれ以前はイフェメラ同様に妖精っぽい容姿だったと思われる。
しかし、その裏で彼女がアモンに対して愛を感じていたことが判明した。
- ジンメンの性格
原作では外道中の外道だったジンメンだがこちらでは明確な意思が存在せず本能のままに動く下級デーモンとして扱われている。本作において明の母親を喰い殺しており、この設定が後のOVAと最新作の「Devilman_Crybaby」に逆輸入される。
- 悪魔王ルシフェルとディーテ
本作の「悪魔王ゼノン」に当たるキャラクター。双頭一身で、それぞれの頭部に独自の人格があり、右の漆黒かつ三つ目の顔が「ルシフェル」、左の黄金色かつ単眼の顔が「ディーテ」を名乗る。こちらは役割はそれほど変わっていないが、サタンを慕う気持ちが強くなっている。
- 非力だけど偉大なデビルマン「山野さん」
本作では不動夫妻の助手である「山野」というキャラクターが登場しており、第三巻で彼もデーモンと合体してデビルマンになっていたことが判明する。
その能力は右手がトマホークに変化するだけと言う、酷い言い方をすれば腕だけ付け替えた怪人レベル。他には、申し訳程度のテレパシーと、文字通り人間離れした運動神経が挙げられる。スポーツ選手と見紛うほどの逞しい体格だが本職は学者であり、博士号も有している。
彼は終盤、教え子である八代(こちらは全くの人間である)と共に、暴徒が襲撃する牧村家で原作において奮戦する木刀政の代わりとして美樹とタレちゃんを守るために応戦するのだが、右手がトマホークだけの能力では対応しきれず、暴徒たちに殺害されてしまう。
補足するが戦闘力が低いだけで決して取り柄がなかったわけではなく、明や他のデビルマンたちに信頼されるほどの人物で死ぬまではデビルマン軍団の初代リーダーを務め、原作以上に組織の拡大に貢献している。
OVA版にも彼らしき助手が登場しているが残念ながら死亡したと思われる。
- デビルマン軍団の規模
ボンズ・オブ・ヒンズーが登場した時点でのデビルマン軍団は、原作だと人間メンバーを含めても二十人にも満たない有様だったが、こちらでは本部所属のデビルマンだけでも三十人越えとなっている。さらに全国に支部を設け、人間のシンパ組織も存在していたりと、原作よりも速いペースで組織が拡大している。
- 悪魔特捜隊
原作ではデーモンが人間社会から引き上げたため、無実のデビルマンや人間ばかりを網にかけていた特捜隊だが、こちらではある程度のデーモンを捕獲する描写がある。ただし、それらは人間同士の不信感をあおるために悪魔王たちが送り込んだ下級デーモンであり、デーモン軍団にとっては大した痛手になっていない。
- デーモン以上に冷酷になった明
美樹の死後、明は最終戦争に向けてデビルマン軍団を組織している最中、デーモン以上の残虐な行動をしていたことが本作で明かされている。それは無差別に誘拐してきた人間を捕まえたデーモンと無理やり合体させると言う漫画の中盤に起こった無差別合体攻撃を連想させるような行いで、うまくデビルマンになった者を軍団に加えるというものだった。人類滅亡へ手を貸したかのような勢いで明の人間に対する憎悪が原作以上に引き出させている。
余談
- 本作では両親の死をきっかけに明はデーモンと合体して戦うことを原作以上の強い覚悟で受け入れている。
- 今のところ本作の映像化される様子はない(一部の設定がOVAや他の映像作品への逆輸入はあるが)。
- 永井泰宇氏は元々小説家として活動をしていたがダイナミックプロを立ち上げる際に一時的に活動を中断し、本作が再デビュー作品となっている。
- 本作の設定は他のデビルマン作品に活かされているがシレーヌの妹であるイフェメラは他の媒体では一切登場しない。設定故に出しづらいかはたまた本作の知名度の低さが影響しているのか。
- ちなみに最終戦争までのデビルマン軍団の行動について書かれたのは映像作品を含めて「AMON デビルマン黙示録」のみ。しかも黙示録の方は飽くまで美樹死亡後すぐに起きた出来事であるため最終戦争までの経緯が明らかにされていない。