概要
読んで字のごとく、他者(特に主人公)に対してとても理不尽な理由で(あるいは「そもそも理由はない」が)暴力を振るうヒロインを指す。
なお、pixivのタグでの利用状況や、ニコニコ大百科など他事典サイトの内容を踏まえ、この場合の「暴力」とは主に身体的なものや、攻撃的な態度として表に出ているもの、またそれがある程度継続的に行われている状態を指し、当人に悟らせない形での間接的な攻撃(特に精神攻撃)などは除くものとする。
基本的には作り手が意図して設定するキャラ属性(萌え要素)ではなく、読者や視聴者がヒロインについて抱く印象、感想であり、作中では特に理不尽ではないように描かれているケースもしばしばある。
ツンデレやヤンデレの中の一類型としても見なされているが、複数の属性から成り立っており、簡単な説明は難しい。
ちなみに、好意を抱いていながら暴力を振るってくるヒロインに萌えを見出だす『ボコデレ』なるジャンルも開拓されたが、「暴力性に萌えを見いだす」点で『ドMホイホイ』などと重なる部分が大きい為、それほど普及していない。
また、ボコデレには「男性恐怖症などのっぴきならない事情で、本人としては暴力を振るいたいわけではないが反射的に手が出てしまう」キャラを指す目的で広まった経緯から、単純な暴力性とは異なる。
「理不尽暴力ヒロイン」の表現は「何を以て『理不尽』とするか?」「どの程度までを『暴力』とするか?」は受け手によって印象が一定ではなく、またキャラをそのように形容することでキャラヘイトとして不快感を与えてしまう可能性もあるため、気軽に用いられるような属性ではない。
故に、本記事ではこの属性に該当し得るキャラクター名や、そのようなキャラクターが登場する作品名、(キャラ・作品名を伏せた形での)詳細な描写については特に記載せず、あくまでこの属性そのものの解説に留める。
歴史的な考察
「敵役ではないが、主人公等に暴力を振るう」属性を持つキャラクターは決して珍しくはなく、昔から存在していた。
無論ヒロインに位置付けられるキャラにおいても多数存在し、そうではない「女性のお邪魔虫キャラ」等も含めると更に多い。
この「主人公その他に対し暴力を振るうヒロイン」に関しては、通常は対象の何らかの悪行(セクハラ、浮気等々)への制裁、あるいは他者や自分を守る為の咄嗟の防衛行動パターンが多かったとされる。
前者では、よくある流れとして「スケベな主人公がヒロインにセクハラor浮気する→鉄拳制裁」が挙げられる。
こちらは「理不尽に酷い目に遭ってウケをとるポジション」的なものである。漫画におけるギャグとしての暴力表現の源流には、ツッコミがボケに平手打ちやハリセンで殴りかかったり、逆にボケから殴り返されたりする「どつき漫才」があることから、つまり「暴力でオチがつくところまでを含めたギャグ」の一種と言える(ただし、このような理由付けがあっても、過剰な暴力に見える、理不尽に感じられるキャラがいたことには留意する必要がある)。
後者の場合は「とっさの防衛の為」となり(度を越していれば当然過剰防衛になるが)、筋は通っているので理不尽とはならない。
一方で2000年代後半頃からのアニメやライトノベルにおいては、それまで少数派であった特に理由が描かれない、あるいは身勝手で理解に苦しむ理由から暴力を振るう女性キャラも目立つようになった。
例えば「主人公が他の女性と仲良くしていたのが気に入らなかったから(=嫉妬)」、「ただの照れ隠しのつもり」等、ツンデレ・ツンギレ・ヤンデレなどに分類されるような「相手への好意が空回りした結果『暴力』の形で表現された」行動原理を持つキャラクターがいる一方で、酷い場合「ヒロイン本人の失態を主人公になすり付けるため」、「一方的な思い込み、単なる八つ当たり」というケースもあるなど、好意が伴わないように見えるキャラクターもいる。
一応フォローしておくと、当該キャラも大抵は主人公に対し好意を持っている実態ははっきりしており、行動の根本が好意や善意であるのには変わりない。
しかし、本人の性格が非常に短気であったり、ワガママであったりする、もしくは感情の変化や理由が明確に表現されない為「やきもち」や「照れ隠し」では済まないレベルまで、暴力やその経緯がエスカレートしてしまっている。
また、作中で「理不尽である」と糾弾されていたり、(主人公との力関係など)暴力に至る背景がきちんと説明され、ヒロインが反省して改善していったりする作品もあるが、それほど多くはない。
「理不尽暴力ヒロイン」が生まれるのは、作り手側の描写不足、説明不足が主な原因であるが、特にハーレム系と呼ばれる「ヒロインが多数登場する形式の作品」においては、多少性格が変わったヒロインでないと、キャラクターが立ちにくい作劇の都合も挙げられ、作り手側も問題を把握しつつ、あえて極端なキャラ付けにされている作品も少なくない。
他にも、アニメ化等メディアミックスの段階で(話数や時間の都合、他のキャラとの兼ね合いから)ある程度キャラクターの詳細な描写が削られ、本来明確で理解を得やすい理由による言動が「理不尽」に見えるように改変されてしまう例や、逆に原作では理不尽にしか見えないものだった言動が、メディアミックスでは補足しきちんと理由付けされる例もある。
結果的な変遷
一時期はこうしたキャラが登場する作品も多かったが、現在では様々な理由により衰退しつつある。以下にその理由として推測されるものを記述する。
1つ目としては、上述したような「短気でワガママな性格」が、「可愛い」だけでは許されず、嫌われるようになってきた点。
そもそも「理不尽暴力ヒロイン」と呼ばれる存在が増えたのには「ツンデレ」属性がブームになり、作り手が本質や魅力をろくに理解しないまま「照れ隠しで手が出てしまう」「気が強い」という部分だけを強調したヒロインの粗製濫造が横行した結果、より印象を強めようと内容が極端になっていき、冗談では済まない横暴さが際立つ描写が用いられるようになったと考えられる。
それに晒された読者層は次第に「魅力的なキャラ」と「見た目だけのウザキャラ」の違いを把握し、ツンデレと理不尽暴力ヒロインを明確に分けるようになっていった。また、作り手側も読者の反応を受けて、理不尽と思われないツンとデレの匙加減を見極め、萌え・ギャグとしてのツン表現をうまく表現できるようになっていった(もしくは、できない作り手は市場から淘汰された)。
2つ目としては、「決める時は決める」が普段はスケベだったりトラブルメーカーだったりな、三枚目要素のある主人公が減り、読者や視聴者が感情移入しやすいような人格者・優等生・常識人的な性格描写や、ヒロインを含めた登場人物の個性を生かすために、影の薄い、大人しい草食系なタイプが増えてきた点。
三枚目な主人公ならば『ツッコミ役』『制裁担当』の形で筋の通っていた「ヒロインの横暴」が、おとなしい主人公にとっては純粋に理不尽なだけで目に余る横暴となったと言える。
他にも企業コンプライアンス上の問題や、ポリティカル・コレクトネスの観点から、一般メディアにおいて過度な暴力描写自体があまり行われなくなった点が挙げられる。
結果、ブーム自体が収束を始め、新たな性格傾向のヒロインがもてはやされるようになった商業的背景な理由も大きい。
現在はこうした事情もあってか、新たに創作されるキャラはツンデレであってもワガママでは無かったり、攻撃的な態度も暴力行為などに走らない軽いもの(仮に手が出るとしても頭をはたく、お互いに頰をつねり合う等)にされたりなど、所謂「地に足の着いた」キャラとして描かれるケースも増えてきている。
創作上での扱い
「暴力を振るう」時点ですでに好き嫌いが分かれる以上、創作で「手が出てしまうヒロイン」を登場させる場合は注意が必要となる。
単独ヒロイン、もしくはメインヒロインがそのようなポジションに置かれているなら別だが、複数ヒロインがいる作品でサブヒロインが暴力を振るうキャラであった場合、「暴力」がある意味では強烈な個性と成りうることから、他のヒロインの存在感が薄まってしまい、看板ヒロインの空気化などが起こりかねない。
また、暴力が「ギャグ」や「萌え」のための「鉄板」として描かれる都合上、同じような展開が繰り返されてテンプレ化し飽きられてしまったり、嫌厭されたりしてしまうことがしばしばある。
仮に(主人公からの説得などで)暴力をやめるようなストーリーになったとしても、それまで「暴力ありき」で性格が構築されていると、特徴が失われ、キャラを動かすのも難しくなってしまう。結果として出番が減り、人気の低下に拍車をかける可能性が高まる。
視聴者や読者から見ても自然に認識できる長所・魅力、暴力行為に至るまでの納得し得る設定をしっかり作り込まない限り「理不尽さ」は拭えず、暴力を止めるにあたっても「暴力以外の特徴がない」キャラクターに陥らないようにする展開が重要である。
視聴者・読者からは、暴力行為そのものよりも「理不尽であること」が非難される場面が多いことから、主人公がヒロインの暴力をしっかり咎めない、もしくは理不尽に思っても最終的には受け容れてしまう(抵抗を諦める)展開も避けるべきであり、理由なき暴力をしない・させないと誓っている主人公像の方が好まれる傾向にある。
そうした意味においても、非常に扱いが難しい属性と評価せざるを得ない。
尚、理不尽暴力ヒロインに対するアンチテーゼ……よりはヘイト創作なのか、一時期小説家になろうやカクヨム等の小説投稿サイトでは、『理不尽暴力ヒロイン(特に幼馴染)による度重なる横暴に愛想が尽きてしまった(堪忍袋の緒が切れてしまった)主人公が完全に縁を切り、別のヒロインと出会って親密な関係になる』という展開の、いわゆる〈幼馴染ざまぁ〉作品が流行っていた。
ただし、これにも創作者側が理不尽暴力ヒロインの背景にあったはずの「理」を描かずに切り捨て、都合のいいキャラに乗り換えてしまっているだけという問題点がある。
主人公と近しい関係にあったキャラを「理不尽暴力ヒロイン」と定義することで、負のご都合主義として、主人公が成り上がる、別のヒロインを過剰に持ち上げるための「かませ犬」「便利な舞台装置」にしてしまうことで、ある意味では物語を進めやすくなるが、「邪魔をするだけの役」では人物的な奥行きがなく話を広げにくい上、他のキャラ(ヒロイン)も単体の魅力ではなく「あいつよりはマシ」という相対的な部分でしか評価されなくなり、作品全体の質の向上には繋がらない。
二次創作での扱い
もし二次創作でそのまま登場させたくば、極力露出を減らして腫れ物に触るように扱うか、さもなくば原作を無視した、聞き分け(と都合の両方)が良いキャラにでもするしかない。なんとも難儀であるが……
……さて、ここまで示したのは、なるべく綺麗な活用法である。
だが悲しいかな、ここまでヘイトを買うキャラである。散々殴られっぱなしで黙っていられようはずはない(何より暴力ヒロインならば暴力ヒロインらしく、扱ってあげなければならない)するとどうか?
まず同人誌なんかでは当然無事で済むはずはない(お約束の展開だがチンピラorDQNにいつも通りの舐めた口調の悪態を吐いて、集団でボコられて路地裏に連れ込まれ、以下略である)。
「相手がストイックに時間と労力と金と愛情をかけて築き上げたものをグチャグチャに崩壊させるんだ」「これはもうセックス以上の快楽だッ」
……そんな感じで溜飲を下げつつ、鬱憤晴らしに殴りたいのが人間の心理かも知れず、上記の〈幼馴染ざまぁ〉が生まれた理由なのかもしれない。
参照
関連項目
恋愛下手:大きく見ればこれに該当(するはず……)。
関連付けられやすい属性
幼馴染:上述の通り「理不尽暴力ヒロインを懲らしめる」ジャンルとして〈幼馴染ざまぁ〉が発生した経緯から、相当な風評被害を受けている。逆にお嬢様はそのような作品では「理不尽から主人公を救済する」ための便利なポジションに置かれている扱いもしばしばあり、ある意味こちらも風評被害である。
ツンデレ:作者としてはツンデレを表現したつもりが、ツンの匙加減などを間違えた結果、理不尽暴力ヒロインになってしまったケースは多々ある。
勝ちヒロイン/負けヒロイン:「勝ちヒロイン」はハーレム系作品における「最終的に主人公とゴールインできる」ヒロインのことで、負けヒロインはできなかったヒロインの俗称。理不尽暴力ヒロインは、ストーリー的な立ち位置や作者の好みから最終的に勝つ(ゴールインする)のが目に見えてわかる「勝ちヒロイン」もいれば、「ざまぁ」系のようにどう考えても最初から負けている「負けヒロイン」もいる。
ウザイン:「ウザい」ヒロインの俗称。主人公がヒロインに「ウザい」と思っている場合と、読者や視聴者が「ウザい」と思っている場合の2種類があるが、後者の方で該当する場合がある。
コミュ障/猫かぶり/風紀を乱す風紀委員/ヤンデレ(ヤンギレ):必ず該当する訳ではないが、親和性の高さから複合型になりやすい。