概要
BlackLivesMatter(黒人の命は大切の意味)の略。
2013年から使われている黒人差別への抗議運動のスローガンである。
誤解されがちだが、このスローガンは黒人の命を特別視することではなく、すべての人種の命が大切であるとしたうえで、黒人にはその原則がまるで守られていないことに対するものである。
背景
南北戦争と1960年代の公民権運動を経てなお、アメリカの黒人は社会的・文化的抑圧に晒され続けていた。一般に黒人の犯罪率は、他の人種より高いものであるがこれは他の人種よりも抜き打ちの路上検査が極めて多く、本来であれば罰金刑で済む軽犯罪でも金銭的に余裕がないことが多い黒人は懲役刑に服することが多く、職を失った出所後に生活のために犯罪に走り、これが警察の警戒心を刺激して黒人に対する厳しい取り締まりを行わせる、といった悪循環の下に形成されたものだった。
このため、一般の黒人家庭では子供達に何をされても警官に反抗的な態度をとらない、外出の際は良い身なりで、買うことを決めるまで商品を手に取ってはならないなど、警察からの過剰な取り締まりを防ぐための予防策を教えることが常態化していた。
ジョージ・フロイド殺害事件
2020年5月25日、アメリカ・ミネソタ州ミネアポリス市の路上で20ドルの偽札使用の容疑で警察に身柄を拘束された黒人・ジョージ・フロイドが白人警官に首を膝で圧迫されて死亡する事件が起きた。
フロイドはいくつかの犯罪を行った後キリスト教の信仰に目覚めて更生し、地域の黒人コミュニティの相談役でもあった。その後仕事を求めてミネソタ州に引っ越し、警備員とトラック運転手の仕事を得たが新型コロナウイルスの影響で職を失った。
偽札を使用したとされる店の店員の話では、明らかに偽札であったが、フロイドが死亡したためそれを知ったうえで使用したかは不明である。また、実弟がその後の「兄の命は20ドルしか価値がなかったのか」と激怒するなど、その後受けた仕打ちからすればあきらかに軽すぎる罪であったというほかない。
この事件を目撃した通行人は「息ができない」と苦しむフロイドを見かねて、警官に膝を押し付けるのをやめさせようとしたが、直接手を下した警官と同僚の警官3人は無視、フロイドが亡くなるまでの8分46秒間、救急隊がかけつけるまで拘束を解くことはなかった。
反響
結果、映像は全米だけでなく全世界に拡散、アメリカ国内では警察の過剰な取り締まりと人種差別に対する怒りが自然発生、各都市でデモが起きる事態となった。
デモに参加するほとんどの人々は平和的なものであったが、一部に略奪を働くものがあり、しかも計画的に行われたものであった。
各地で警察署が焼き討ちされ、5月29日には大手テレビ局CNN本社も襲撃を受ける事態となった。
これら一部の暴徒をドナルド・トランプは「極左系人種差別反対組織・ANIFA」と断言し、「テロ組織」に認定すると表明したが、「アンティファ」は一部に過激なものはいるものの、ゆるやかに広がるネットワーク上のつながるものであって、リーダーとなる人物もいない。
現在、略奪に参加したもののなかには極左系の者もいれば、極右系の者もいるとされている。
全米に広がる平和的なデモにドナルド・トランプは各州の知事や各都市の市長に「鎮圧に州兵を動かす」よう指示、「もし鎮圧できなければ、アメリカ陸軍に鎮圧を命令する」と発言した。
トランプはさらに首都・ワシントンのデモ隊を催涙弾などで追い払い、ホワイトハウス近くの教会で聖書を片手に記念撮影をするパフォーマンスを見せた。
これらのトランプ発言にエスパー国防長官は反対を表明、マティス前国防長官も「トランプの憲法違反、国民を分断する」発言や行動を批判する文書を発表するにいたった。
6月1日、ジョージ・フロイドの実弟・テレンスが「暴力的な方法ではなく、平和的な方法で問題を解決しよう」と演説し、デモはより平和的なものとなりつつある。
6月4日、ニューヨーク州バファロー市で警官に突き飛ばされた75歳のデモ参加者が一時意識不明の重体になった事件で、トランプは根拠がないにもかかわらず「極左系運動家が大げさに倒れたヤラセだ」と投稿、野党・民主党だけでなく与党・共和党からも批判が起こった。
この後もトランプはデモ参加者は民主党支持者や極左、無党派が暴動を起こしているとレッテルを貼りつづけ、民主党知事や市長の姿勢を弱腰と批判、実働部隊を送り鎮圧すると主張した。