M4中戦車のアメリカ陸軍での最終型。
M4中戦車の3型の試作8号という意味で、元々はM4中戦車の改良と性能試験のために製作された1両の試作車両に与えられた固有名だった。
この試作車はM4中戦車の生産途中で個々に加えられていた改良を一つの車両に盛り込んだような設計であった。M4中戦車は製造工場が多岐にわたったこともあり、改良仕様が開発されてもその適用は統一されておらず、準備が整い次第工場単位で改良仕様を逐次適用しているような状況であり、それらの仕様を『全部盛り』した試作車としてM4A3E8は製造された。この試作車の特徴は次の3つに集約できる。
- フォード社製の8気筒エンジンを搭載 - 当初M4中戦車はライト社製航空機用エンジンを搭載していたが、軍用機増産のためこのエンジンが供給不足となったため様々な代替エンジンが試された。M4A3E8では代替エンジンの中でも信頼性や整備性の面で最も高い評価を受けていたフォード社製8気筒エンジンを搭載した。これはM4A3をほかのシャーマンの型式から区別付ける特徴であり、この試作車がM4A3系列に分類された理由である。
足回りはHVSSと幅広履帯を採用。 - これまでのVVSS(垂直巻きばねスプリングシステム)方式に代わって緩衝性能の高い新型のHVSS(水平巻きばねスプリングシステム)を採用
- サスペンションの変更に併せて履帯も従来より幅が広い新型(42cm→58cm)に変更。M4中戦車は登場以来の改良による重量増で徐々に走行性能が低下していたが、これらの変更により不整地走行性能は大きく回復した。
- 新型砲塔と76mm砲 - 砲塔はM4A1で先に導入されていた76mm砲を搭載する新型砲塔を使用した。76mm砲は従来の75mm砲よりも対戦車能力が大幅に向上しており、(貴重資源であるタングステンを使用しない)通常の徹甲弾のみでも近距離からであればティーガーやパンターを正面撃破できるほどの装甲貫徹力を持っていたが、低威力の榴弾しか使用できないという短所もあった。
- そのほかに湿式弾薬庫や新型の車体前面形状の採用など、初期のM4中戦車から改良されている点もあるが、これらはM4A3E8が登場した時点では既に事実上の標準仕様として普及していたので割愛
「フォード製エンジン」「新型の走行装置(HVSS)」「新型砲塔と76mm砲」はM4中戦車の生産途中に改良仕様として別個に現れたもので、その量産車への適用は量産を阻害しないように各工場の判断で逐次的に行われており、公式には「フォード製エンジン搭載車はM4A3に分類する」ということが定められたぐらいで共通仕様は策定されていなかった。しかし第二次世界大戦後期には各工場で仕様適用が進んだ結果、上記3点はM4中戦車の実質的な標準仕様となっていた。これらの特徴を備えたM4中戦車は同様の特徴を盛り込んだ試作車M4A3E8に由来して非公式の通称としてM4A3E8と呼ばれるようになった。当時の米軍では仕様の組み合わせによって量産型のM4に特別なモデル名を与えることはしておらず、「M4A3E8」の名は公式なものではなく、戦場の兵士や生産工場が勝手につけた通称であった。M4A3E8は公式には「76mm砲とHVSSを備えた『M4A3』」に過ぎないが、この呼び方は冗長で面倒であったため、76mm砲およとHVSSを搭載したM4A3を指して「M4A3E8」の通称が現場では使われ始めた。なおM4A3の主生産工場であったデトロイト工廠では「M4A3」→「M4A3 (76mm砲型)」→「M4A3(76砲+HVSS型)」の順で改良仕様を逐次適用し、1944年後半からM4A3E8仕様のシャーマンを量産している
→ M4シャーマン