むこうぶち
むこうぶち
概要*
1980年代を舞台に、高レート賭麻雀の世界で人外の強さを誇る美青年・傀と、彼に挑み、敗れる者たちを描く群像劇。
物語の多くは傀の対局者や傍観者の視点から描かれ、傀は正体不明の強者として登場する。
傀が相手に決定打を与える際に発する「御無礼」の決め台詞で知られる。
2022年時点で近代麻雀に連載されている漫画では、最も歴史の古い作品となっている。
が、バブル時代の頂点である1989年に傀・水原裕太・巫藍子・江崎明彦による最強決定戦ともいうべき対局とその19年後(2008年)に50代になった多河巧典と記者が勝負を回想するという「事実上の最終回」が描かれ、いよいよ終わりが近づいてきたともっぱらの評判である。
主な登場人物
正体不明の麻雀打ち。人々が「人鬼」と呼ばれていたのが転じて「傀」となった。つまり本名ではないのだが、彼自身にも都合がいいのか「傀と呼ばれています」と名乗る。トップ画像のように喫煙者ではあるものの、飲食をしているところを一度も見せたことがなく、強さと合わせてファンや読者から「本当に人間なのか?」というところまで疑われていた。(これに関しては傀の記事を参照)
高レートのマンション麻雀や裏カジノ、代打ちなど非合法の賭場は当然として、一般的なレートのフリー雀荘で打つこともあれば、建設員の飯場や避難所、公園のホームレスでたまたま立った卓など、安いレートでも卓が立つ場所であれば何処にでも現れる。幽霊との対局にすらも現れる。そしてその全てに勝ち、誰も気づかぬうちに去っていく。彼と対戦して全て(命を含む)を失うものもあれば、何かを得る者もおり、勝負の駆け引き以外にもそうした人生哲学的な部分がこの作品の味となっている。
ローカルルール、特殊なハウスルールの麻雀(アンヘルの麻雀、横浜ブー麻雀など)、三人打ち、中国麻雀や台湾麻雀など様々な麻雀に精通する。
麻雀にかけては文字通りの「人の姿をした鬼」。信じられないような三倍満や役満でトドメを刺して完勝することもあれば、一度もトップを取れなくても2着キープでトータルで勝つこともあるなどとにかく無敵。それでいて場の空気を読み、気づきにくいお茶目やジョークをやらかす一面も。
初期は結構饒舌で、怒り・挑発なども頻繁に見せていたが、物語が進むにつれて雰囲気が柔和になり、口数も減った。
- 水原裕太
むこうぶちにおける「もう一人の主人公」と言える存在。
第一話で全雀連(全日本麻雀連合)のビッグタイトルを掴むもサラリーマンとの掛け持ちだった為「ラッキートップ」という陰口に激昂して暴力を振るってしまい、全雀連を追放される。その後会った傀の打ち筋に魅せられて表から足を洗い、会社も退職。各地を転々としながら裏の麻雀に興ずる。(麻雀で食っているため当然ながら現在は定職にはついていない)
最初は短髪でスーツを着て好青年風であったが、登場のたびにチャラくなっていき、今ではポニーテールが定番のスタイル。
傀とは何度も渡り合い、一半荘のみだが真っ向勝負で勝ったことがある。全国を旅回りして代打ち等で鍛えた実力には傀も感心したのか、2022年現在傀が唯一自分から名前を訪ねた対戦相手でもある。
- 安永萬
全雀連所属の六段のプロ雀士。その風貌は「ヒゲダルマ」と形容される。モデルは当初ストーリー制作に協力していたプロ雀士・安藤満氏。
おそらく傀と最も多く卓を囲んだ人物で、登場頻度は傀に次ぐ。初めての対戦で傀は「あなたは麻雀で沈む事はないでしょう」と彼の腕前を認めているが、この言葉が呪いのようになって2位キープ打法が身についてしまい、長らくプロ戦での優勝からは遠ざかっていた。
作中時間で昭和から平成に移ってすぐ、癌のため死去。
- 多河巧典
元暴走族で安永の後輩。中卒で漢字もロクに読めなかったが、マメで筋がいいとして安永の弟子となった。全雀連の若手プロが参加する勉強会「青龍會」のリーダーを務める。
最初は傀を「ツキだけで勝っている男」と思っていたが、傀の真の実力を理解するや以降は傀の大ファンとなる。最終的に敗れはしたものの、傀の「御無礼」によるラッシュを唯一はねのけたことのある雀士で、安永の弟子からライバルへと昇格した。普段は実家の中古車ディーラーを手伝っている。
- 及川勝依
大企業グループの会長にして自称「傀のタニマチ」。裏では政界のフィクサーとして政治を動かす大人物だが、傀を「儂のアイドル」と照れもなく言い切るキュートなお爺ちゃんの顔も持つ。
- 巫藍子
裏カジノのディーラーを務め、「キラークイーン」の異名をとる、車椅子のミステリアスな美女。実は及川の盟友である鉢黒剛毅が浮気相手の芸者に産ませた、いわゆる「妾の娘」。
その芸者は占い師でもあり、母の血を引き卓上の流れを読み切る異能力を持つ。安永から「女版傀」とも評される実力者だが、いつも傀には一歩及ばない。そんな彼に恋をしている。
- 劉(ラウ)
日本の中華人脈に多大な影響力を持つ大物華僑。高層マンションの最上階で数千万円単位の金が動く超高レートの場を立て、自身は振らず和了せずの見物麻雀に徹し、弱者が破滅する瞬間を見るのを楽しみにする。
左:後堂 右:江崎
- 江崎明彦
悪徳不動産屋。糸目が特徴。劉の自宅での裏麻雀で傀と戦い惨敗したが、借金返済のための海上での不法移民引き渡し業を3年続け再び陸に上がってきた。また、劉への借金とは別に会社の金を使い込んでおり、業務上横領罪で指名手配されている。
傀との再戦後は劉の下で代打ちや不動産管理などの仕事を請け負っている。華僑(中国人)組織の中では新参かつ外様の日本人ではあるが、それなりの地位にあるようで中国人の部下がついている。台湾語と上海語の違いを理解するレベルで中国語に堪能になっている。髪も長髪になった。彼の特徴的な口の「チィ!」はミーム化している。
卓上でのツキの無さを精度の高い捨て牌読みで補うその実力は傀にも匹敵する。
彼を主人公にしたスピンオフ漫画『むこうぶち外伝 EZAKI』も出版されている。
- 後堂
江崎と同じく事実上の劉の部下。髪の後退した頭に眼鏡の堅物。上海語に堪能。娘がいる。元々倉庫会社の秘書であり、傀・江崎に敗北するが実力を買われて引き抜かれた。
江崎と一緒に仕事をすることが多いものの、生真面目な性格ゆえに不真面目な江崎とはウマが合わない。pixivでは江崎と共に描かれているイラストが傀の次に多い。
- 三橋秀俊
通称「上野(ノガミ)の秀」。彼の顔芸は要チェック。赤牌入りの麻雀を得意とし、傀の領域に踏み込んだことのある数少ない人物の一人。表の顔はリサイクル業者の社長だが、裏の顔は倉庫破り・窃盗など生きるためなら何でもする小悪党。
妙な愛嬌があり、作中でも人気の高い人物。水原祐太とも交流を持った。平成に年号が移ってすぐ玄人業は引退、今は裕太を(妙に懐かれたためか)舎弟に抱えスナックのマスターに落ち着いている。
彼を主人公にしたスピンオフ漫画『レッドドッグ ノガミの秀』も出版されている。
- 日蔭
旅をしながら麻雀だけで生活している紳士風の男。徹底した確率論と聴牌効率判断、優れた山読みを身に着け、しかもそれらを一瞬で判断しノータイムで最善手を打てる、今でいうデジタル理論の実力者(ただし完全デジタル派という訳でもなく、ツキや流れの存在は否定していない)。
日陰の聴牌速度に追いつける者は少なく、基本面前で好形で聴牌したら即リーのため、対戦車はどんどん追い詰められていく。「俺はツモがいいんじゃない。捨て牌(選択)がいいのさ」は名言。
フィジカル、メンタルも強く、作中で「氷の男」と形容されていた。傀には一度冷静さを失い負けて全財産を失ったが、再起して以降は愚直な牌効率のみならず駆け引きも身に着け、水原祐太とも長時間対等に渡り合った。登場するたびに成長を見せているが、旅打ちを続けるために「トータルでマイナスにしない」というスタイルゆえ、中短期戦での弱さを指摘されている。
- 石川さん
発達障碍者の中年男性。常にぽや~っとしていて何を考えているか分からない。麻雀のルールも完全に把握しているわけではないが、相手の待ち牌をなぜかわかってしまうという超能力があり、放銃せずに出上がりで躱し続けるという独特の打ち筋で、傀からも和了を奪った。傀を傍から分かるレベルで驚かせ、動揺させた唯一の人物である。
映像化作品
2018年12月現在、アニメ化はされていないが、Vシネマが16作作られている。
全16作に共通して出演するのは袴田吉彦(傀)とガダルカナル・タカ(雀荘「東空紅」のマスター)の2人、他に高田延彦(1~8)、及川奈央(1~8と12)や宮内こずえと言った実際のプロ雀士も出演している。
スピンオフ作品
- むこうぶち外伝 EZAKI(全2巻)
(原作)天獅子悦也 (作画)玉置一平
江崎明彦を主人公としたスピンオフ作品。
- レッドドッグ ノガミの秀(既刊1巻 未完)
(原作)天獅子悦也 (作画)近藤和寿 (監修)坂口大学
三橋秀俊を主人公としたスピンオフ作品。