所属楼
幻曄館
人物像
フルネームは臥待・田右衛門(ふしまち・でんえもん)。狗津原きっての高級男娼館・幻曄館の遣手として勤めている、ウサギ種族の老獣人。普段は物腰柔らかな老人そのもので、子獣夫たちからも好かれている。特に働き手の幻曄ブラザーズを気にかけ、心配しつつも成長を見守っている。またその抜きんでた営業力で客との交渉事を見事に成立させる。しかし時折、質の悪い楼客などにはヤクザ顔負けの迫力を見せつけ、一部の働き手たちの間では決して怒らせてはいけない上役だ、と言われている。関西弁で軽快に話すその様は、ナニワの爺ちゃんという感じである。
生い立ち
大店の一人息子として生を受ける。名はそのまま田右衛門である。20代のころ、女房を娶りそのまま店を継ぐはずであったが、独身最後の夜として遊び半分で立ち寄ったとある男娼館の獣夫、十六夜(いざよい)と出会い、その後の運命が大きく変わってしまった。
実家と縁を切り、たった独りで一から暮らし始め、稼いだ金で十六夜の元へと通う日々が続いた。実は田右衛門の関西弁は十六夜の故郷の訛りを真似たもので、田右衛門自身は元は標準語を喋っていた。十六夜の元へ通い続けるうちに、いつしか二人は本当に愛し合うようになり、将来を誓う。しかし十六夜の年季明けももうすぐという時に、二人の関係に嫉妬した別の馴染み客が逆上し、二人の行為の最中に乱入、田右衛門の背中に重傷を負わせ、身動きの取れない田右衛門の目の前で十六夜の首を斬り、自害してしまう。何もかも失った田右衛門は、唯一十六夜とのつながりである”関西弁”を受け継ぎ、十六夜の分まで生きることを決意する。時折十六夜が見せた寂しげな顔の意味を知るため、十六夜がどう生きてきたのかを知るために、田右衛門もまた、獣夫として生きる道を選ぶ。(20代後半)
中梅楼で獣夫として働き始めた田右衛門は、そこで初めての源氏名、日暮(ひぐらし)を冠し、十六夜のための生を始める。虚勢を張るようになり、喧嘩っ早い性格となる。そんな時に、同じ中梅楼の獣夫、白磁と出会う。二人は喧嘩ばかりしていたが、いつしか打ち解け、酒を酌みか合わすような仲になる。その生活が何年か続いたある日、白磁が顔を間夫に焼かれ、楼を追い出されるという事件が発生。日暮の成す術もなく、白磁とはその日以来会えなくなった。
白磁太夫を失った中梅楼も、その後徐々に廃れていき、廃業となる。散り散りになった獣夫たちを、幻曄館の楼主であるシン・ラオシュウが雇い入れ、日暮もまたその功績から、上役である遣手として幻曄館に招き入れられ、日暮の名を捨て、田右衛門へと立ち返る。しかしそれでも、関西弁を捨てることはなかった。
田右衛門にまつわる用語・人物名など
* 十六夜
田右衛門が生涯愛し続けている獣夫。関西弁で話す、ウサギ獣人である。自身は関西弁を嫌っていた。自分を売った両親と同じ話し方だからである。しかし田右衛門に「その話し方は暖かくて好きだ」と言われ、心が救われた。田右衛門と将来を誓い合ったが、別の馴染み客の嫉妬を買い、その命を奪われた。
* 白磁
田右衛門が獣夫として勤めていた中梅楼の高級太夫。白い毛並みを持つ美しい獣夫であったが、口が悪く喧嘩っ早い。当時の田右衛門とは衝突が絶えなかった。現在は哮月楼の遣手として、楼を守っている。名を勘兵衛。
*遣手
楼客との交渉役。どの獣夫がいいのか、部屋はどうするか、食事はいるか、朝までいるのか、などのすべての算段をし、値段を決める。言ってみれば、楼の収入の根幹に関わる役職である。ほとんどの場合は、現役を引退した獣夫が勤める場合が多い。