SAA
しんぐるあくしょんあーみー
概要
1872年に米国Colt's Manufacturing Companyより開発され、
翌年から米軍に採用された金属薬莢式ソリッドフレームリボルバーの呼称である
「シングル・アクション・アーミー」の略称。
別名として、開発当時の民間ディストリビュータが名づけた「ピースメーカー」が有名。
人々を平等にする力(装置)としての意を込めて「イコライザー」、構造と装弾数をもじって「シックスシューター」や「シングルシックス」と言われることもある。
開発ヒストリー
リボルバーの基本形態こそ他に先駆けて形にしたものの、強度面に於いてレミントンの後塵を拝し、金属薬莢専用設計に於いてはS&Wの後塵を拝する形だった状況を挽回すべく、1871年にC・B・リチャードとW・メイスンがデザインした。
ローディングゲート、エジェクター機構を中心とするメタルケース・コンバージョン関連パテントを基に開発されている。
金属薬莢に対応した設計自体はコルト社自身、1860年代の段階でほぼ出来上がっていたものの、S&WがNo.1拳銃の開発の折で独占した前後貫通シリンダー※のパテントが障害となり、構造的に不完全且つ特殊な形態(ボートテイル状)の前装薬莢を代用としながら、パテントが失効する1869年まで待たなければならなかった。
外形デザイン
レミントン系リボルバーの強固なフレームデザインに習い、パーカッション時代のオープントップ・前後分離型のフレームを廃止し、背骨となるフレームトップを有する銃身と機関部が一体のソリッドフレームとされ、機関部強度が大幅に向上している。
構造概念はオープントップモデルの最終形態であるモデル1872を踏襲したデザインであるものの、金属薬莢専用設計に改めるにあたり、外観の一体感が図られたデザインへと進化している。
グリップフレームのデザインはドラグーンの系譜を継承した形であり、角丸長方形ラウンドタイプのトリガーガードが付属する。
機関部の構造とデザイン
撃発機構に関連した機関部のデザインはウォーカー・ドラグーン時代とほぼ同一のレイアウトで、ハンマーがセンターファイアに対応した撃針の付属した形態になっている。寸法の類似する1851NAVY以降のパーカッションリボルバーの場合、スプリングなどの一部部品が流用できることもある。
前から見た銃身左下にはエジェクター・ロッドが備えられており、ハンマーをハーフコック・ポジションにすることでローディングゲートよりエジェクター・ロッドで空薬莢を押し出して排莢する構造となっている。
ハンマースクリューを延長することでグリップにストックを取り付けるモデルや、バックストラップ自体をストックに置き換えたカービンモデルも少数存在する。
欠点
シリンダーがフレームに固定され、装填・排莢口が一つしかない為に、一度撃ち尽くすと再装填に時間がかかるという大きな欠点が有る。
初期のSAAはシリンダーの軸(ベースピン)がネジで固定されており、迅速な排莢はほぼ不可能であった。
無煙火薬が一般化しつつある1890年前期に、ベースピンストップスクリューを押しボタン構造の横配置にして、工具を使わずにシリンダーが着脱できるものが製造されたものの、戦闘用としてみた場合、シリンダーをはずしての再装填は非現実的な物であった。
時代の終わりとその後
COLT社自身が1889年にW・メイスンのパテントを利用したModel1889.38口径スウィングアウトリボルバーを実用化したため、登場から20年を待たずして構造の陳腐化が顕在化してしまう。
米西戦争のフィリピン出兵時、薬物を使用した興奮状態の現住民族に対してSAAの大口径威力が重用されるという事例もあったが、連発銃の進化が著しい当時に於いて構造的な時代遅れを払拭するには至らず、前述のスイングアウト構造リボルバーで大口径弾薬の発射できるS&W製リボルバーの登場や、自動拳銃の軍事用途レベルでの信頼性を獲得したM1911の採用が決定打となって、軍用・警察用としての命運は完全に絶たれることとなる。
しかし、1910年代以降もホビー用・コレクション用として細々と生産は行われ、1950年代のウエスタンブームで大流行した早撃ち等のカウボーイ・シューティングの確立によって一定の固定市場を獲得することとなり、現代でもスポット生産でコレクター向けの生産が行われている。
照準器
サイト(照準器)はフロントが背の高いブレード、リアが1st前中期でVノッチ、それ以降がスクウェアノッチであるが、特注品や軍再生品等のイレギュラーも多数存在する為、明確に区切るのは不可能といわれている。
後年の照準期と比べると粗末な作りではあるが、オープントップ時代のリアサイトがハンマーに設けられたVノッチであることと比較するならば、大きな進歩と言える。
銃身バリエーション
口径は主な物で45LCのほか、44-40、38と40種類近くのバリエーションが有る。
銃身長で様々な呼称があるが、当初製造(1873年)は7 1/2インチ軍用モデルのみであり、当時より現存しているSAAの大半も7 1/2インチや軍再生品の5 1/2インチが多い。
アーティラリー(5 1/2)と言った銃身バリエーションは民間での発売(1875年)以降作られた物であり、有名なシビリアン(4 1/2) は1879年から製造されている。
因みにアーティラリー、キャバルリー、シビリアンと付けられた呼称は、後から付けられた便宜的な呼称であり、アメリカ本国では上手く伝わらないこともある。
創作におけるSAA
1950〜1960年代のマカロニウエスタンがブームが火付け役となって、ゲーム漫画アニメ等で「伝説的に」引き合いに出されることが多く、西部劇題材のものではほぼ必ず出てくるアイテムだが、考証に拘った作品以外では西部開拓終了以降製造2nd〜4thモデルのシビリアン(4 1/2)が使われることが多い。
2nd以降のSAAモデルガンが一般的な日本国内の作品では特にそれが顕著で、明確に時代背景を銘打った物でも20世紀以降生産のものが用いられていたりする。
実際のワイルドウエストに於いては、貧乏な一般市民や開拓者の間では高価なSAAよりも、広く出回った旧型のパーカッションを金属薬莢仕様にコンバージョンしたものや、パーカッションリボルバーをそのまま使用することも多かったとも言われている。
他社による現代派生型と大口径での復活
マカロニウエスタンが人気を博したことで、本家よりも安価なSAAコピーが人気を集めている。
品質と低価格を両立したイタリアのウベルティやUSファイアアームズ等が有名。
また、SAAのソリッドフレーム設計は強力な拳銃弾薬に最適なプラットホームでもある。
COLTのパテントが失効した現代に於いては、ほぼ同じデザインの大口径モデルが多く製造されて人気を博している。
現代モデルはPL法の手前、トランスファーハンマー等で安全性を高めた物が多い。
その中でも有名な物が以下となる。
Sturm,Ruger製品
SAAの基本デザインを元に357マグナム仕様に改設計したソリッドフレームリボルバー。
SAAよりもフレームが肉厚であり、必要以上のエキストラ強度を持つ。
スーパーブラックホーク:
ブラックホークをスケールアップして44マグナム仕様にしたもの。
レトロなスクウェアトリガーガードが特徴となり、大きな人気を呼んだ。
ブラックホークと同じく大変頑丈では有るがユーザーの不注意に起因した暴発事故により、製造者責任裁判を起こされて敗訴、現代ソリッドフレームリボルバーの多くにトランスファーハンマーが導入される契機にもなった。
バケロ:
上記のモデルを元祖SAAの形態にシェイプしたSAA復刻モデル。
英語読みでバッケェロやバッキャロ、バクエロなどと呼ばれることもある。
本家と同じくいずれも口径バリエーションが多く、記念モデルも多く作られている。
Freedom Arms製品
Model83:
454 Casullのリボルバーで一躍有名になったFreedom Armsの看板商品。
最大.500WE口径から最小.22LR迄の口径バリエーションが存在。
スーパーブラックホークよりも更に頑丈になるよう設計されている。
フレーム各部を極限まで肉厚にし、40以上の口径モデルではシリンダー弾数を5発に減らすことで、シリンダーの肉厚を稼いでいる為、ブラックホーク以上の強靭さを持っている。
Model97:
.45LC〜.17HMRまでの口径バリエーション上位機種モデル。
※貫通シリンダーのパテントは元々コルトの技術者の開発した物ではあるが、パーカッションリボルバー全盛の当時、サミュエル・コルトによって「使えないもの」として却下されていたという皮肉な話がある。