概要
TBSの特番『SASUKE』に出場していた選手。
北海道出身の指圧師にして初代SASUKE完全制覇者。元毛ガニ漁師だったことから「毛ガニの秋山」と呼ばれていた時期がある。
初登場は第2回。この時は2ndでタイムアップ。
第3回も同じところで苦汁をなめるも、第4回でバク宙さえしなければ高速タイムの速さで2ndをクリアし、3rd、FINALを立て続けにねじ伏せ、前人未到の完全制覇を達成した。
元々先天性の弱視を患っており、そのハンデを乗り越えての大偉業に当時全国のお茶の間が仰天したという。
その後の「ジャンプハング」や「メタルスピン」といったいわゆるジャンプ系の難関は、秋山対策だったのではという説もあったらしい。
第28回をもってSASUKE引退を表明。その後はしばらく出場が途絶えていたが、第38回・第39回で霜降り明星・せいやが秋山の格好(本人曰く「リスペクト蟹」)で出場したことを受け、2022年の40回記念大会に10年振りに出場を果たした。それまでお笑いをあまり見なかった秋山は、この一件以降は霜降り明星が出演する番組を片っ端から録画して見ているという。
40回記念大会出場への思いを語った動画
長野誠が第17回大会で完全制覇するまでは唯一の完全制覇者だった。また、森本裕介が完全制覇するまでは当時26歳で最年少記録だった。
20世紀に放送された『SASUKE』では唯一の完全制覇者でもある。
栄光と屈辱、そして復活
今やsasukeを知る人がまず知らないことは無いであろう初代完全制覇者の栄光を持つ秋山であるが、そこに至るまでには数えきれない苦難があった。
元々秋山は自衛隊員を志しており、身体能力は目を見張るものを持っていたのだが、上記の通り弱視を患っていたために惜しまれながらも除隊。その後トレードマークともなっていた毛ガニ漁師として再出発を図るも、これも弱視のために業務に支障が出て辞職せざるを得なくなってしまった。
そんな彼が抱いていた夢は、どんな形でも良い、一番を獲りたいというものであった。
弱視のハンデを決して言い訳にせず、盲学校に通って鍼灸師の免許取得と鍼灸院開設に邁進する最中、秋山は自身の鍛え上げた身体を披露できる筋肉番付の名物企画「クイックマッスル」に出場。後にsasukeの盟友となる山田勝己としのぎを削り、脅威の成績を叩き出したその姿は古舘伊知郎氏も認めており、sasukeに登場した際には実況にも力が入るほどであった。
だが筋肉番付の数々の企画に挑んで好成績を叩き出しても、秋山の顔は満足していなかった。いくら好成績といっても、自身の目指す一番ではなかったからである。
しかし初挑戦から2回の敗北を経てからの第4回sasuke。
過去の自分を踏み越えるかのように苦しめられた2ndをバク宙する余裕を持って突破するや、難関と化した3rd、更にはたった一人の挑戦となったFINALすらも危なげなくクリア。
初めてsasukeの放送でファンファーレが流れたのである。
古舘「のべ400人目という事になります。初めての制覇!その頂上はどんな気分ですか?」
秋山「やっぱり気分良いですよね。ずっと一番になりたかったし、スタッフのみなさんに何度もチャンスをもらってたのに結果にできなくて悔しくもあったので…」
あの寡黙ですらあった秋山が、拍手で讃える仲間達に笑顔で返すフィナーレ。
長年の夢が形になった瞬間だった。
だが……
史上唯一の完全制覇から1年。
大幅リニューアルによって驚異的な難易度となったsasukeは一気に人間の限界に迫るかのような苦行の様相を呈しており、その難しさは1stで97人が脱落したという結果からもありありと窺い知れるものとなっていた。
しかしそんな絶望的な第5回の記憶も新しい中で迎えた第6回sasuke。
そこには唯一無二の完全制覇者という肩書を引っ提げたチャンピオン、秋山和彦の姿があった。
ゼッケン番号は当然大トリの100番。
チャンピオンに相応しいテーマ曲まで編集され、名実ともにsasukeの大本命選手に上り詰めていた。
最早クリアできるかどうかより、何秒残してクリア出来るのかに誰もが注目していた。
だが誰もが、そして秋山自身が信じられない瞬間が訪れた
古舘「どうしたんだ秋山!? ジャンプに失敗!! なんという事だ完全制覇の秋山が、ここで潰えてしまった!!」
新設されていたジャンプハング。
トランポリンの中心をしっかり踏み込んで跳ばないとネットに掴まれない構造のこのエリアは、まさしく弱視の秋山にとっては初見殺しに等しいエリアであった。
sasukeの一番の実力者としての安心感が、一瞬にして崩れ去った。
やっと掴んだ自身のアイデンティティが崩れたショックが凄まじかったのだろう。
秋山はその場をうずくまり、山田に促されるまで泣く事しか出来なかった。
一部始終を目の当たりにした誰もが、秋山ですら不覚を取りかねないsasukeの難しさを痛感し、同時に弱視を患う秋山にはこれ以上の挑戦は難しいのではないかという疑念が生まれてしまったのは疑いようのない事実だった。
だが、秋山は諦めなかった。
何と鍼灸院の敷地内に本番さながらのジャンプハングを設置し、暇を見つけては過酷なまでの練習を重ねた。
設置費用は驚愕の70万円超。
もう一度sasukeの一番を目指す秋山の執念がうかがえる。
それでも第7回は片手が掴み損ね、第8回では反動で手が外れてリタイア。
第9回では雨の影響で5段跳びで滑ってつま先が着水してしまう不運に見舞われてリタイアが続き、この頃には完全制覇者の肩書きも徐々に過去の栄光のように扱われ始めた第10回。
この頃には最早目に頼らずとも飛び移れるよう、目を閉じてネットを掴む練習を重ねていた秋山は見事ジャンプハングを攻略。完全制覇者秋山和彦が復活したと誰もがそう確信した。
しかしここで更なる壁が秋山を阻んだ。初挑戦だったそり立つ壁である。
気づけばあの完全制覇から3年半。
完全制覇者という名前こそ動かぬものの、既に選手としての期待値は低いと認めざるを得ない状況の中、秋山の表情は険しかった。
半年間、今度はそり立つ壁を自作してトレーニングしていたのだが、オーバーワークが祟って膝を故障。
1ヶ月しかリハビリが出来ていないという絶不調の中で本番を迎える事になってしまった。
秋山に勝算はあるのか…?
ナレーションさえ、そう疑わざるを得ない現状の中、秋山の挑戦が始まった。
古舘「さあジャンプハングとタイマン勝負だ毛ガニ!!」
過去の失敗を踏まえて確実に、されど迅速にジャンプハングにたどり着いた秋山。
ここは練習が功を奏し、前回同様クリアできた。
だが問題はこの後のそり立つ壁だった。
何故ならこの短い練習期間の間、秋山は自宅のそり立つ壁を一度も登れなかったからである。
古舘「あー、あともうちょっと! あー、まだ手が届かない!!」
やはり前回同様登りきれない。寧ろ前回よりコンディションは最悪だ。
今回もダメか…
誰もがそう思った時だった。
古舘「行った!遂に手をかけた!そり立つ壁をクリア致しました!」
一気に声援が熱を帯びた。
最後のターザンロープは一番奥さえ掴めばこれまで慣れ親しんできたエリア。
しかし今回は既に10秒程しか残っていない。
それまで2〜4回は余裕すら見せていた秋山の時間との戦い。
古舘「さあターザンロープ!ターザンロープ!ここで稼いでおきたい残り10秒!これを切った!」
反動でショートカットして奥のロープを掴むも無情に鳴り響く警告音。
古舘「5秒!4秒!3秒!もうちょっと!!」
ペース的には間に合わない。
ここまで迫ってダメなのか。
古舘「毛ガニーーーっ!!」
無念を代弁するかのような古舘氏の絶叫とタイムアップ音が重なる。
見守っていたオールスターズも顔を歪め、長野は思わず目を背ける。
その時だった。
古舘「行ったぁぁぁーーーっ!!」
何と秋山の手はギリギリでゴールボタンに届いていた。
残り時間0.03秒。
最後の一瞬で身を乗り出してボタンを押した事が勝負を分けた。
完全制覇から実に3年半。
トランポリンが見えなくても、足を故障していても、諦めなければ辿り着ける。
いくつもの逆境を不屈の精神で乗り越えてきた秋山は、その後28回で引退を表明するまで、sasukeオールスターズの一員として活躍し続けた。