概要
ショウ・タッカーとは、荒川弘の漫画『鋼の錬金術師』の登場人物である。
『君のような勘のいいガキは嫌いだよ』のセリフはあまりにも有名。
人物
原作第5話(単行本2巻)に登場。
合成獣(キメラ)の権威として有名な国家錬金術師で、銘は『綴命(ていめい)』。
列車ジャック事件を解決したことで、エドワードがマスタングに見返りとして、生体錬成に詳しい錬金術師の紹介を頼んだ際に、タッカーが紹介されることとなった。
容姿は痩せ気味でやや小柄、温和で優しそうな顔をしており、性格も気弱そうながら真面目で控えめである。
あまり甲斐性のある方ではなく、登場時点から2年前に妻に逃げられ、娘のニーナと大型犬のアレキサンダーと暮らしていた。
2年前に『人語を理解する合成獣』を錬成し、国家資格を取得。その後はなかなか研究成果が振るわず、翌年の査定では厳しい結果に終わり、早くも資格剥奪の瀬戸際に立たされる。
エルリック兄弟に自身の研究室にある蔵書を公開し、兄弟も蔵書の閲覧と、その息抜きにニーナとアレキサンダーの相手をしていた。
その後、再び『人語を理解する合成獣』の錬成に成功。成果を兄弟たちに披露するも、その正体に兄弟が気付き、二人を激怒させることになる。更に妻にも逃げられたのではなく、妻を合成獣に錬成して国家資格を得たことも芋づる式に見抜かれてしまった。
人道に有るまじき行為(更に言うなら倫理的観点を抜きにして見ても、人+獣である以上「話せて当然」であるし、材料でいうなら単に人と獣を劣化させているだけであるため何の役にも立たず、功績としても無価値)として資格を剥奪され、自宅に拘留されていたが、国家錬金術師への報復に回っていた指名手配犯によって殺害された。
死ぬ直前には、「どうして誰も分かってくれないのかな…」と寂しげに呟く様子が描かれており、
その根底にあるのは錬金術師として誰もが持ち合わせている探求心でありながら、誰からも理解されない孤独感を抱えていたようである(理解できる筈もないが)。
アニメFAではアルを怒らせるシーンがカットされ、オリジナル描写としてエドに殴られた後に銀時計(国家錬金術師の証)を蹴り飛ばされそれを這い進んで拾い上げるタッカーの姿が描かれ、国家錬金術師の権威に執着し続けて人としての道徳を失っていた部分を強調されている。
やらかした行動こそ外道そのものだが、後になればなるほどより高度かつ非人道的な技術で作られた合成獣が沢山登場する(しかも時系列で考えればタッカーが資格を取得するより前)ことを考えると、彼でさえ作中の世界観では小悪党止まりの人物であった。
むしろ、獣の知能向上目的の合成獣の技術はタッカー程度が最先端というカモフラージュのために仕立て上げられた可能性の方が高い(恐らくニーナとアレキサンダーの件も「約束の日が近い」ため「カモフラージュが要らなくなった」事による切り捨てが遠因と考察できる)。
実際公式のファンブックの中でエドとマスタングが読者からの質問に答える形でこの件に触れていて、タッカーの存在がカモフラージュだった可能性についても言及していることから公式の裏設定と考えても差し支えないと思われる。
実際、ホムンクルス側からも「雑魚」「放っておいてもいい」などと言われ、顧みる者はいなかった。
また2017年12月に公開された実写映画版の入場者特典として観客に配布される「0巻」では、国家資格を取得する前の彼が登場している。実は資格を取得する以前にも何度か試験を受験していたことが判明するが、いずれも不合格の結果に終わっていた。そんな中、不遇な彼を励ますために妻が言った「なんでも言ってね、力になるから」という何の気無しにかけた言葉を、歪んだ形で捉えてしまうという、彼が狂気に目覚めるまでの経緯が描かれた。
2003年テレビアニメ版
序盤の展開はシャッフルされており、エドが国家錬金術師試験を受験する前(リオール大暴動事件の2年前)にタッカー邸で研究資料を閲覧し、勉強していたことになっている。
また、査定の評価が芳しくなかったのに国家錬金術師の資格を剥奪されていないことについて原作ではなんの説明もなかったが、本作では後見人のバスク・グラン准将が手を回して査定を通したと説明されている。
序盤での行動は殆ど原作と同じだと言えるが、原作と違って本作ではエドが国家錬金術師となるまでの間は彼の家に住み、ニーナ共々家族ぐるみで親しくしていた事から、彼のした行動はエドとアルに原作以上のショックを与える事となった。
また、エドに全てを見抜かれた際にアルに「ニーナとの生活を守るために査定を通らなければならなかったのではないのか」と聞かれた際は、「合成獣を作るのに理由などない、そこに可能性があったから試した」と平然と発言し、ニーナを元に戻そうとしたエドに「母親のようにしないようになっ!」と憎々しげに吐き捨てるなど、半ば精神的に追い詰められ狂気に駆られるままに家族を犠牲にした原作に比べ、明確な意思を以て家族を犠牲にしているのでより性質が悪くなっている。ただし、本作の場合は彼が本格的に狂気に走るのはこれからである。
最後は合成獣になってしまった娘と共にアメストリス軍に連行され、その後は軍内で処刑されたとの事(但し、ニーナはエドの錬金術で脱出した後に、スカーによって殺害される)。
しかし後に処刑されたと見せかけて、実は第5研究所で顔面が逆さまになった合成獣に変身した上で生存し、グランの監督下で引き続き合成獣の研究をしていた事が判明する。前述の姿も合成獣研究の過程で失敗してそうなったとの事。
第5研究所の設備をフルに使った為か、こちらでは何と自我と人格を持った戦闘用の合成獣の開発等にも成功しており、原作と違って合成獣研究における能力の高さを遺憾なく見せつけ、更に第5研究所ではホムンクルス達やその裏にいた黒幕とも接触していたり等、原作とは比較にならない程に物語において重要なキャラクターとなっている。
途中でグリードの手引きで一度第5研究所を抜け出すが、後にキンブリーと共にフランク・アーチャーの勧誘で軍に戻り、以降はアーチャーの下で再び合成獣研究に従事する。
彼がそこまでして合成獣に拘る理由は、合成獣の技術を使って娘のニーナを復活させる為。
前述した通り、明確な悪意でニーナを犠牲にした彼だが、やはり良心の呵責には耐えられなかったのか、ニーナの肉体を合成獣の技術で作り出して復活させる事に固執し、その為に原作ともまた違った狂気に駆られて彷徨う事になる。
最終的には、賢者の石と化したアルを利用する事でニーナの肉体は作り出せたものの、魂の入ってない人形同然だった為に精神崩壊。以後はそのまま姿を消し、最終的にはニーナの身体を抱いたまま彷徨い続けている様子が描かれている。
このように原作・FAにおいては序盤で退場するが、2003年アニメ版では物語の最後まで生存している。
実写版
2016年5月24日に実写版映画製作が発表され、配役が明かされる。当初タッカー役はほぼそのままなくらいそっくりな矢柴俊博氏が筆頭候補とされていたが、実際にはよりによって大泉洋氏に決定。それを受けて(当時放映中だったドラマにて大泉氏の役ほぼ番組中の彼そのままだったこともあって)早速某所で例の番組と絡めた大喜利が始まってしまった。結果エド役となった山田涼介氏.他キャストの配役に対する不満や、実写化反対の声は収束を迎えた……。なんてことにはならず、むしろ大喜利が完全に脱線どころか暴走を始め、ハガレンのキャラや場面に番組出演者のセリフや企画をあてはめたもの(例えば「ケツの肉が取れる夢をみた」というセリフにエドが腕を失ったシーンを掛け合わせ「ケツの肉をもってかれた」など)から、番組がきっかけで一躍有名となった局のマスコットonちゃんをアルフォンスのようにアクターの魂を憑依させたものやキメラ扱いしたもの、終いには「アルのアクターはヤスケンにやらせよう」「キメラの代わりにマズい珍妙な料理を作って相手にお見舞いする」「ミスターやD陣の出番はまだか」と最早「ハガレン実写化」ではなく「どうでしょうとのタイアップ展開」扱いされるようになってしまった(ちなみに何の因果かハガレン原作者の荒川弘氏もれっきとした道民である)。
肝心の映画本編では主な行動は前半は原作・FAや旧アニメ版と変わらないものの、アルフォンスに「自分は作られた存在ではないか」という疑問を吹き込んだり、終盤ではエドに賢者の石に関する残酷な秘密を教えたあとで彼をアルとウィンリィと共に殺害しようとするなど、原作以上の外道として描かれている。
そのためかちゃっかりポスターにも載っているのだが、上記のようにタッカーがそもそもそこまで重要なキャラでないことを抜きにしても他のメンバーに比べ衣装が然程世界観に馴染んでおらず、またウィッグなども特にないため大泉氏のもじゃもじゃパーマヘアがほぼそのままになっており、役者の個性が全面に押し出されているのに対しキャラの要素が辛うじて眼鏡くらいしかない状態になっている。そうした周囲とのギャップの強さもあって「他の面々が無理して痛いコスプレしてる中完全にプライベートの私服状態」「雑コラ感丸出し」と言われるほどに良くも悪くも浮いてしまっており、終いには「大泉洋が大泉洋の役で出てる」とまで言われている。
そんなこともあって、一部のファンからは「大泉洋にするくらいなら矢柴俊博氏を起用した方が良かったのではないのか」といった指摘もある。(実際、矢柴氏は普段の風貌そのものがショウ・タッカーに酷似している。)
余談
単行本カバー裏の背表紙ではその巻に収録されているエピソードで死亡した人間や生物が天に昇るような図が描いてあるが、こいつだけは地獄に落ちている※(ホムンクルスやキンブリー、殺人狂の地下研究所番人トリオのような悪人ですら成仏しているにも拘わらず、である)。
※ただし、最終巻の27巻ではネタバレ防止のため、本来描かれるはずのグリード、お父様、ホーエンハイムが描かれていない(お父様については真理に取り込まれて消えるという最期だったので、そもそも厳密に死んだと定義していいのかが微妙である)。また、第9巻では死亡したと思われていたマリア・ロスは昇天させられていたが、生存が判明した第10巻では地上に戻されているので、あくまでネタに過ぎない事は留意されたし。
おまけ4コマ「もしエドの方が肉体を失っていたら」では鎧(オーガヘッド)になったエドに「タッカーテメーコノヤロー」とフルボッコにされ、手足が機械鎧になったアルがマジ泣きしながら止めに入っている。
またネット界隈では、劇中のエドとのやり取り「○○○どこいった?」→「……君のような勘のいいガキは嫌いだよ」が、一種のテンプレネタとしてネットミーム化している。
なお大泉氏は「どうでしょう」にて「君のような~」をほぼそのまま使用しており、これが採用の決め手になったのではないかとも言われている。ただしこの件について「映画本編では原作のシリアスな雰囲気と展開に合わせてまじめに決めようとせずいつも通りボヤくようなノリでやってほしい」と間違った方向と意味で期待され、そして図らずも大泉がそれに応えているような状態だったこともあり、上記の「大泉洋役の大泉洋」を始め変なウケをとっている(ついでに言うと劇中拳銃を持つシーンもあるが、これにかつて「ピストル大泉」と言い間違えたことを混ぜ合わせネタにされている)。
関連タグ
マジハール-2003年版テレビアニメの第4話に登場したゲストキャラ。タッカーと同様に愛する者に似せた理想の人間を作ろうと目論んでいた。
ジュドウ-こちらは善良な錬金術師であるが、ある意味2003年版テレビアニメのタッカーと似たような末路を辿っていた。