概要
「武と云うよりは舞 舞踊だな」
「しかし何故石や木を………?」
「なんだァ?てめェ……」(独歩、キレた!!)
漫画『グラップラー刃牙』シリーズ第4部『刃牙道』の1シーン。1・2コマ目で喋っている男性はクローン武蔵(剣豪宮本武蔵が、クローン技術と降霊術で現代に蘇ったという設定である)、オチの3コマ目でキレている隻眼の男性は愚地独歩(作中屈指の実力者である空手の達人)である。
なお、表記ゆれが起こりやすいが、「てめェ」の後は「…」(3点リーダ)2つ、が原作に沿っている。
原作
状況としては、日本の警察を完全に手玉に取った武蔵の強さをテレビ報道で知った独歩が、手合わせを所望して武蔵の保護者である徳川光成(2コマ目奥の老人)邸を訪れ、挨拶代わりにブロック割りやビール瓶切りなどの演武を披露したあとのセリフ。独歩の演武を天然気味に煽った武蔵の言動に対し、自身の空手を侮辱されたと感じた独歩がキレるというワンシーンである。「独歩、キレた!!」は週刊少年チャンピオン掲載時のアオリ文。
ちなみにこの後、独歩と武蔵は戦闘に突入。体術の勝負でも武蔵は独歩を完全に制するが、なお独歩は「アンタの最大のミスは真剣を持って立たなかったことだ」と武蔵を挑発。これを受けた武蔵は刀を取って独歩と立ち合い、顔面に刀をめりこませ、しかも刃を押し当てただけで一切引かず、斬り傷をつけずに刀を離すという離れ業(もしそのまま武蔵が刀を振り下ろしていれば独歩は一刀両断であり、手加減する余裕もあったということである)で独歩を圧倒した。極めつけに、呆然と仰向けになる独歩に対して「愚地さん あなたの手足は立派に刃だ」と敗者への称賛の言葉まで投げ、完全敗北させた。作中屈指の実力者のひとりとしてそれまで数々の名勝負を繰り広げてきた愚地独歩の完全敗北とあって、武蔵の途方もない強さを読者に印象付ける戦いであった。
パロディ
さてこのシーン、原作よりもむしろパロディ・コラージュ素材としての知名度の方が高い。
元のセリフ構成のままでも煽り性能の高いパロディ素材として使うことができるが、最も有名なパロディは、1コマ目では武蔵が二次元界隈で用いられる女性的な男子にまつわる様々な属性を列挙し、2コマ目では「結局のところ全部ホモでは…?」と乱暴にひとまとめにする。それに対し3コマ目で独歩がキレる、という以下のものである。
「結局のところ全部ホモでは…?」
「なんだァ?てめェ……」
このパロディを元にした再パロディ(三次創作)も盛んに行われている。つまり、「何やら細かく分類されているが、興味のない人間にはいまいち違いがよく分からないもの(しかし、ファンや愛好家にとっては歴とした違いがあり、細かく分類する必要があるもの)」を列挙して、「結局のところ全部○○では…?」と乱暴に総括して煽り、それに独歩(ファンの代弁者)がキレる、という図式である。雑誌連載時の「独歩、キレた!!」のアオリ文まで含めてパロディが行われる場合もある。
また、最後のセリフが「…なんでそんな事言うの…?」(独歩、泣いた!!)になり、独歩が涙を流しているパターンもある。
使用例
「今川焼き 回転焼き 太鼓焼き」「二重焼き あじまん 御座候」
「結局のところ全部大判焼きでは…?」
「なんだァ?てめェ……」
で、結局のところ全部ホモなの?
まず、この手の分類は定義に曖昧な部分もあり、人によって解釈が微妙に異なる場合もあり、また1人のキャラクターが複数の属性を有している場合もある。また、昨今はLGBTなどに関する議論なども盛んであるが、以下はあくまで二次元の創作界隈における大まかな定義であることを理解されたい。その上で、武蔵が列挙した用語にはそれぞれ違いがあり、それについて以下に概説する。
女装少年
女性物の衣服を着用した少年(男の子)。服装を重視した概念であり、中の少年が中性的・女性的な外見や性格をしているかは問わない。女装をしている理由は様々である。
- 単なるファッション
- 女性への変身願望
- 自分を女性だと信じているから(後述の「TS」も参照)
- 職業としての積極的な女装(ドラァグクイーン、マツコ・デラックスなどを想像されたい)
- 潜入捜査・任務などの都合で女を装う必要がある
- 一族の風習や迷信に基づくもの
- 女装することで性的に興奮するフェチの一種(トランスヴェスティズム)
このように多岐にわたり、男性同性愛者(武蔵の言う「ホモ」)とは限らない。たびたび女装姿(ローラ・ローラ)を披露したロラン・セアック(『∀ガンダム』)などの例もあるし、テキーラ娘(『JOJOの奇妙な冒険』)なども…まあ…年齢的には女装少年であることは間違いない。
なお、やや年齢の高い人物の場合は女装青年という呼称もある。骨太のおなご(ファイナルファンタジー7、当時21歳)などはこちらか。
男の娘
生殖上は完全に男の子であるが、顔立ち、髪型、体格、声、言動などの様々な要素によって、他人からは女の子(娘)のように見られる・勘違いされる男性。「娘」とつくくらいなので、娘と呼べる程度までの外見・年齢に限定される。本人の外見を重視した概念であり、着ている服が男物か女物かは問わない。
当の本人は、女と見られることを嫌っているタイプ、自分でも女だと思っているタイプ(後述の「TS」も参照)、女に見られることを面白がって上手に利用するタイプ……と様々である。
日本の男の娘ジャンルの古典としては江口寿史『ストップ!!ひばりくん!』(1981-83年週刊少年ジャンプ連載)が挙げられる。才色兼備の学園一の美少女として暮らしているが、実は男性であり暴力団の跡取り息子でもある大空ひばりを主人公としたギャグ漫画で、女装少年やTSの要素も併せ持っている。そもそも「男の娘」という言葉が存在すらしなかった1980年代初頭に同ジャンルで大人気を博したのは驚きと言うほかない。
また、2000年代ではゲーム『ギルティギア』シリーズのブリジットも多くのゲームプレイヤーを男の娘の道に引きずり込んだ存在である。ブリジットは2002年稼働開始の『ギルティギアXX』の新キャラとして先にキービジュアルが公開され、プレイヤーが皆女の子だと思い込んでいたところ、設定が公開されてみれば「一族の迷信により女の子として育てられた男の子」というもので、「嘘だ!こんな可愛い子が男の子のはずがない!」と大混乱を巻き起こした。……が、いざ稼働が始まってみればヨーヨーの設置を駆使した玄人好みの性能に、あざといモーションの数々、小西寛子女史による見事に中性的なCVなどから大いに好評を博した。しまいには当初の混乱が裏返って「こんな可愛い子が女の子のはずがない」という、現在まで男の娘界隈で通用する名言(迷言?)を生むこととなった。
TS
TransSexual・TransSexualism(トランスセクシュアル、~リズム)の略。
本来は、生物が一生の間にオスとメスの性別を変化させる「性転換」(クマノミなど)を指す言葉だが、二次元界隈ではもっと広く緩やかな概念として使われ、様々な方法で男性の肉体が女性に、女性の肉体が男性になってしまうフィクション作品・設定を指す。
また、肉体的な性別と精神的な性別が一致していない状態(トランスジェンダー、TG)を指すこともある。後者の場合、大まかに「身体は男で心は女」(MtF、Male-to-Female)と「身体は女で心は男」(FtM、Female-to-Male)に大別されるが、武蔵が指しているのは「身体は男で心は女」の状態であろう。
こちらは現実にもそれなりの割合で発現し、本人たちは「自分は女(男)のはずなのになぜ自分の身体は男(女)なんだろう」「どうして自分は女(男)なのに男(女)の服を着させられるんだ」などの苦悩が発生する。また、本人たちにとっては「自分は女(男)なんだから男(女)を好きになるのは普通のことじゃないか」と思っていても、他人からは性的指向としてのゲイやレズと混同して見られてしまうという悩みもある。(冨樫義博『レベルE』の1エピソードにはFtMの人物が登場し、このあたりの苦悩が描かれる)
フィクションでは現実の定義や実情とは関わりなく、TSF(TransSexual Fiction・Fantasy)は一大ジャンルを形成している。「男女の精神が入れ替わってしまい慣れない性別に苦労する」(『おれがあいつであいつがおれで』『君の名は。』など)、「魔法や呪いによって身体が別の性別に変えられてしまい、元に戻すために奔走する」(『らんま1/2』など)等が定番のプロットとなっている。また、ティエリア・アーデ(『機動戦士ガンダム00』)のように、「男性にも女性にも偏らない中性」と公式に設定されたキャラクターも存在する。
また、大きく遡ってみれば、すでに平安時代末期には『とりかへばや物語』がある。時の関白には、内気で女性的な男児と、快活で男性的な女児の2人の子がおり、父の関白は「この2人の性格を取り換えられたらなあ(とりかへばや)」と悩んだ末に、男児を女性として、女児を男性として育てることを決意する。2人の子はそれぞれ才覚を発揮して貴族社会の中でめきめきと出世していくが、結婚を迎える年齢になると元の性別を隠し切れなくなり……という物語。約800年前の成立である。日本人スゲエ。
女装子
「女装」+「男子」の短縮系。つまり女装した男子のことで、前述の女装少年に近似する概念だが、「少年」に年齢が限定される女装少年に対して特に年齢の縛りがない。もちろん、中身の男性が女性的であるか否かも問われない。従って、高田厚志(『魔法少女プリティ☆ベル』)などは立派な女装子であるし、広く捉えればおまえのようなババアがいるか(『北斗の拳』)もこの範疇といえる。
メスショタ
男の娘の近似概念であるが、「メス」「ショタ」というそれぞれの用語の使われ方から察せられる通り、R-18的な要素が強い。つまり、男性に(メス役とみなしての)性的興奮を覚えさせる外見のショタ、あるいは調教によって男娼としての性的快感に目覚めたショタ、といった存在である。
ふたなり
いわゆる半陰陽、インターセックス。誕生時の遺伝子異常などにより、先天的に男性と女性の両方の身体的特徴を持って生まれてきた人。ただしフィクションやR-18の二次創作では先天的とかそういうのはあまり関係がなく、怪しい薬や魔法などにより自在に性器を付けたり取ったりが行われている。二次元では大まかに、
- 「女性の股間に竿が生えている」(タマはついてるべきか、受精可能な精子が出せるか、女性器もついているのか等、いろいろ愛好家の間で派閥や議論がある)
- 「男性の股間に(肛門以外の)穴がついている」(これも妊娠できるのか、竿の方の機能は残ってるのか、乳は膨らむのか等派閥あり。やおい穴の概念も参照)
の2タイプに分けられる。
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