概要
ホーカータイフーンとは、第二次世界大戦中にRAFが使用した戦闘機であり、戦闘爆撃機として成功した機種の一つとして語り継がれている。
本当は「戦闘爆撃機」にならないはずだった！
一般的に、ホーカータイフーンのイメージは、ドイツ陸軍の戦車を爆弾やロケット弾で果敢に攻撃する姿かもしれない。
しかし、タイフーンも開発時には戦闘爆撃機としての活躍は考えられていなかった。
そもそも、タイフーンはホーカーハリケーンを置き換える目的のために設計された。
設計段階にあった当時は未だに数が少なかったスピットファイアを代行できる機体としてイギリス空軍に一目を置かれ、実験部隊に配備された時には20mm機関砲4門の大火力と2000馬力のネイピア・セイバー・エンジンによる高速度で、RAFが手を焼いていたFw190に対抗できる新型機として期待されていた。
もう一度言うが、戦闘爆撃機になることは、設計段階では全く考慮になかったのである。
苦難の開発の道
だが、タイフーンの開発には苦難の連続が待っていた。
実はタイフーンの原型機(つまりはプロトタイプ機)による評価は、必ずしも著しいものとは言い難かった。
原型機は大出力エンジンを搭載したことにより飛行時に主翼の外皮が捲れるなどの弊害が発生した。他にもH型エンジンの不具合、高空性能の欠如等、トラブルは枚挙にきりがない。
また、テストを行なっていた時期が、ちょうどバトル・オブ・ブリテンに重なり、イギリスの空が戦場になっていたため「こんな（有事に）欠陥機に構ってられない！」と、一度はホーカーの技術陣が開発を投げ出し、その労力を、同じ会社で生産されているハリケーンの改良に注いだという逸話があるほどである。
それでもタイフーンが完成に漕ぎ付けたのは、一部の技術者が諦めることなく研究を続行し改良を図ったこと、バトル・オブ・ブリテンでイギリスが勝利したことが背景にあった。
パイロット&技官vs多発するトラブル
1942年、ドイツ空軍が新鋭機Fw190を戦場に投入しイギリス空軍主力のスピットファイアMk.Vを性能で圧倒したため、タイフーンが一部の部隊に試験的に投入された。
しかし、タイフーンは急降下に弱く尾部が折れるなどの事故が多発し、Fw190が相手では分が悪かった。
他にも、コックピット内に一酸化炭素を含んだエンジン排気が充満する、摂氏10度以下の環境下でエンジンの稼働率が落ちる（始動した途端に爆発した例もあった）、下から見ると機影がFw190に似ていたため高射砲の誤射を受けるといった欠陥があった。
スピットファイアも新型のMk.IXではFw190と互角に闘える事が確認され、これはタイフーンの開発が頓挫しかねない二度目の危機の到来であった。
だが、試験部隊の技官やパイロットたちがそのつど応急処置を施しつつ、着実に改善を重ねていった。
その改良の中には、「インベイジョンストライプ」という白黒のストライプを機体の底面に描いたことも含まれる。これによって誤射される危険性が大幅に減少した（後に連合軍機で一般化）。
戦闘爆撃機へと転職
1942年末、エンジンや機体に起因するトラブルに苦しめられつつも、タイフーンは散々打ちのめされてきたドイツ空軍戦闘機を相手に戦果を挙げるようになった。
だが、1943年に入ると、イギリス空軍は敗走するドイツ軍を追撃するために、迎撃機よりも攻撃機を必要とするようになってきた。ここでタイフーンに対して求められるようになったのは、戦闘爆撃機としての能力であった。
当初考慮されていなかった使用法であったが転換は容易で、タイフーンはロケット弾を8発装備しても最高速度の低下は24km/h程だった。
これで「タンクキラー」としてのタイフーンが誕生、と思われるかもしれないが、実はそう簡単な話ではない。
ロケット弾で戦車を破壊するには装甲の薄いエンジン部か履帯に命中させる必要があり、弾道を見越した照準には相当の技量を要した。
『史上最大の作戦』として知られるノルマンディー上陸作戦にはタイフーンを装備した26個飛行隊も駆り出されていた。タイフーンはノルマンディーに上陸した連合軍の歩兵部隊を上空から援護し、戦車に対する攻撃の有効性は低かったものの、ドイツ軍の輸送と通信手段、軽装甲車両、小型船艇などには甚大な被害を与えた。
パットン将軍のアメリカ第3軍に反撃するドイツの陸戦部隊への攻撃では、車両81台を破壊ないしは損傷させ、ヴィレで守勢に回ったイギリス陸軍への支援では、2000発以上のロケット弾、80トン近くの爆弾が使用された。
これらの戦果により、戦闘爆撃機としてのタイフーンのイメージが記憶されることになった。
テンペスト
1942年、トラブルの元だった分厚い主翼を層流翼に換えたタイフーン2は、ホーカーテンペストとなり、1943年より量産が開始された。
テンペストは中低空ではスピットファイアより優速で、機体も強固であり、引き続き戦闘爆撃機として敗走を繰り返すドイツ軍を追撃してトドメを刺すことになった。
対独戦終盤、自由フランス空軍のエースパイロット、ピエール・クロステルマン（ペリーヌ・クロステルマンの元ネタ）はテンペストを使用していた。
