概要
北方の狩猟民族・エスキモー(イヌイット・ユピック・カラーリット民族の総称)に伝わる保存食。
シュールストレミングやくさやと並び、世界で最も臭い食べ物と呼ばれている。
どれほど臭いかと言うと、「絶対食べたくないもの」と生銀杏それぞれの臭気を混ぜ合わせたような凄まじい代物である、との証言もあるくらいなのでその悪臭ぶりが推測出来るだろう。
ただし、肝心の味については、その悪臭ぶりに反してなかなかの美味であり、地元の人々の中には後述のどろどろに溶けた内臓部をパンに塗って食べる剛の者もいるくらいである。
栄養価の方もかなりのもので、発酵によってビタミン類が豊富になっているため、寒冷地在住故に野菜がなかなか摂れないエスキモーの人々の貴重なビタミン源になっている。
作り方
1.アザラシの腹を裂き、皮下脂肪のみ残して内臓と肉をすべて取り出す
2.袋状になったアザラシの内部に海鳥(ウミツバメやツノメドリなど)を数十羽程詰め込む。詰め込む際、羽は毟らない。
3.アザラシの腹を縫い合わせる。
4.地面に掘った穴に埋め、キツネなどに盗られないよう重石をしっかりと乗せて、2ヶ月から数年間放置・熟成する。
食べる時は肛門から(熟成でどろどろに溶けた)内臓を吸い出し、それから羽を毟って肉を食べる。
その様子はかなりグロい。
キビヤックと植村直己
冒険家・植村直己の伝記の中にもキビヤックが登場する。植村氏は最初抵抗があったものの、すぐ病みつきになったらしい。
(植村も)最初は薄気味悪く、尻込みしたが、すぐに(キビヤックが)大好物になった。「エスキモーの食生活の中では最高」のものといい、「どうしてうまいかというと、だんだん腐りかけてくると、アザラシの皮下脂肪がアパリアスの体のなかに徐々に溶けこんでいくからだと思います。それで独特の臭いと味がつくんですね。」
(中略)
キビヤック紛失を、基地から無線で聞いた植村は、傍目には異様なほど紛失事件にこだわった。
北極点を目ざす植村は、出発直後から乱氷帯に突入し、1日2、3キロしか進めない。まさに悪戦苦闘していた。
キビヤックどころではないはずなのに、基地と交信のたびに、キビヤックがどうなったか、盗んだ犯人は誰だったのか、しつこくたずねてきた。
サポート隊員たちは植村の固執ぶりに驚きつつ対応したが、結局犯人の名前まではわからずしまい。
このキビヤックをめぐる無線でのやりとりは1週間もつづいた。