解説
アジやトビウオ等を用いた干物の一種。魚を開いて『くさや液』と呼ばれる発酵液に8〜20時間ほど浸した後、真水で洗ってから1~2日程天日干しにすることで作られる。
伊豆諸島の特産品として知られ、関東地方では古くから食べられてきた。
くさやに似た郷土料理として福井県嶺南地方で食される干物の燻製料理にはへしこがあり、こっちは糠漬けのために臭みは糠に吸収されているので、塩辛いものの鼻を刺すような臭さは全くない。
とにかく臭い!!
くさやという名前は「臭い」から付けられたもの。それでも焼く前なら納豆だの鮒寿司だのとほぼ同レベル(むしろそれらより低い)なのだが、焼くことで本領を発揮するのがくさやの特徴。
納豆&焼く前のくさやの「臭さレベル」が約450(鮒寿司は486)なのに対し、焼きたては1267と約2.8倍に跳ね上がり、日本食トップに躍り出るのだ。その臭さは茶色いアレだのヘソのゴマ(ヘソに溜まる垢)の臭いとすら例えられるほど強烈なため、現在では臭いが漏れないよう真空パック・瓶詰め等にして販売されている製品も多い。
ちなみにくさやより臭いのはあのシュールストレミング、エイヒレを使う韓国料理の「ホンオフェ(シュールストレミングに次いで臭い)」の二大巨頭の他、缶詰チーズ」エピキュアーチーズ、キビヤックと続く。
名前からして臭そうな臭豆腐、ピータンだのドリアンだのといったものはこれらよりはマシなようだ。
くさや液
この液体は元々干物を作る用の単なる塩水なのだが、継ぎ足しはしても取り替えることはせず、繰り返し使われ続けてきた(理由は後述)。
その結果浸し込んできた魚や除去した魚のハラワタ等の成分が蓄積され、これに微生物の発酵作用が加わって魚醤に近い風味を持つ発酵液となったのだ。
ちなみにこの微生物は乳酸菌の一種であるコリネバクテリウム・クサヤ(通称:くさや菌)。これが酢酸、プロピオン酸などいくつかの有機酸とエステル類が特徴的な香りを醸し出すというわけ。
古いものほど旨味が出るとされ、くさや生産業者の中にはなんと300年も前から続くくさや液を使っているものもある。
ただし、くさや液自体は別段特別な製法を用いるわけではないので、やろうと思えば家庭でもでもくさや液を作る事は可能。成功率が高いのは塩水にくさやの一部を入れて微生物を繁殖させる手法。
だが、熟成を維持させるのは難しく、微生物のエサになる魚のアラを定期的に与えたりする必要がある。
この他、上述したようにくさや液の製法・風味が魚醤と共通点を持つことから、漫画家・エッセイストの東海林さだおなどは、既製品の干物にニョクマムやナンプラーといった魚醤を塗って火で炙って作る『インスタントくさや』なるものを自著で紹介している。
正確な発祥は不明だが、伊豆諸島では新島を元祖とする説が有力視されている。
この諸島は古くから塩が特産品であったため、江戸時代には幕府に納める年貢として、米ではなく塩が指定されていた。しかし島民総出で製塩に励んでやっと追いつくほどの膨大な量を納めねばならなかったので、島民達が自分で使える塩はほんの僅かしか残らず、大変な貴重品となってしまった。
そして魚を保存しておくには塩漬けにして干物にするのが一番であったが、貴重な塩を大量に使うわけにはいかない。そこで試行錯誤の末、魚を塩水に浸し、塩水が減ったら減った分だけ継ぎ足すという手法が編み出され、そうして出来た干物がくさやの原型となったと言われている。
製法の詳細こそ違えど、大切な塩をケチったがゆえに生まれたのはシュールストレミングと同じである。
食べ方
食する際には通常の干物のように火で炙ったりして食べるのだが、熱を通すことで猛烈な臭気が拡散するため十分に注意する必要がある。海外で日本から取り寄せたくさやを焼いてたら、その匂いを「人間の死体を焼いている」と近隣の住民に誤解され、警察に通報されたなんて逸話もあったりする。
一部の製品では家庭で調理する必要の無いようにあらかじめ火を通して身をほぐしたパック詰め製品もある。
味は塩辛いながらもまろやかで深みがあり、飲める人なら焼酎や日本酒の肴としてうってつけ。特に熱燗の供には最高。
関連タグ
日常(あらゐけいいち):長野原よしのがくさやジャムを作り、妹のみおが食べて悶絶したりするやり取りがある。
シュールストレミング:だいたい同じ経緯で生まれたスウェーデンの発酵食品。