概要
NVIDIA Tegraとは米NVIDIA社が開発しているモバイルプロセッサ(SoC)である。
モバイルSoCと言えば他にQualcommのSnapdragon(GalaxyやXperiaなどに搭載されている。)や、HisiliconのKirin(Huawei社の端末に搭載されている。)辺りが有名だが、TegraはPC向けグラフィックボード「GeForce」シリーズ等古くからGPUの開発を手掛けてきたNVIDIAのモバイルSoC故に、グラフィック性能や昨今のGPUが得意とする浮動小数点の演算能力に比重が置かれているのが特徴。
2008年頃に最初のTegraとして「Tegra APX」シリーズが発表。
2015年に発表された「Tegra X1」はFP16モードにてモバイルSoCで初めて1TFLOPSもの演算能力を実現したことで有名である。
製品
Tegra APX
CPUにARM11系プロセッサを搭載。GPUはモバイル向けにカスタマイズされた超省電力のGeforceアーキテクチャのコアを採用し、プログラマブルシェーダに対応している。動画再生は720pまで対応。
Tegra 6xx
Tegra APXシリーズとの大きな違いはないが新たに1080p/24fpsの出力に対応。
Tegra 2
CPUに2コアのARM Cortex-A9を採用。GPUはAPX・600シリーズからパワーアップした超省電力GeforceアーキテクチャのGPUを採用している。また、世界初のマルチコアARM Cortex-A9搭載を実現したSoCでもある。
かつてNintendo 3DSに採用されるとの噂が流れていたが電力効率の問題でお蔵入りになったというエピソードがある。
Tegra 3
メインのCPUは2と同じくARM Cortex-A9(4コア)を搭載し、それに追加するかたちで新たに省電力のコアを1つ搭載している。CPU負荷が軽い処理はこの省電力のコア一つで処理することでバッテリーを長持ちさせることができる(4-PLUS-1技術と呼ばれている。)とのこと。家庭用Androidゲーム機「OUYA」に採用された。
Tegra 4
CPUがARM Cortex-A15に、GPUのコア数が72コアに増量されるなど全体的なパワーアップが施された。3の4-PLUS-1技術も続投されている。NVIDIA自社製の携帯ゲーム機「NVIDIA Shield Portable」等に採用された。
Tegra 4i
デグレード版Tegra 4。CPUがA15からA9へ、GPUのコア数が72から60に減らされている。
Tegra K1
GPUがこれまでに採用された独自仕様の超省電力プロセッサから当時最新のGeforceに採用されたKeplerアーキテクチャのCUDAコアに変更された。(ただしモバイル向けにいくつか改良されている。)
「K1」の名の由来は上述した「Kepler」の頭文字より。モバイルSoCらしく電力効率が高く(GPUの性能だけ見れば)PS3/XBOX360を超える性能を持っておきながら僅か8Wで動作するとのこと。32bit版と64bit版が存在し、32bit版のCPUはこれまで通り4+1コア構成(Cortex-A15 R3)で、64bit版のCPUはNVIDIA自社製の「Denver」(ARM系のカスタマイズコア)を2コア搭載している。
採用例はAndroidゲーム機「NVIDIA Shield Tablet」、NVIDIA自社製の小型の開発キット「Jetson」等。
Tegra X1
CPUが4+1からCortex-A57(4コア)+Cortex-A53(4コア)のbig.LITTLE(高性能コアbigと省電力コアLITTLEの組み合わせ)構成になり、アーキテクチャも64bitのみになった。
GPUもMaxwell(第2世代)に変更され、DirectX 12やVulkan等最新のゲーム用APIも快適に動作させることが可能。
上述した通りFP16モードにてモバイルSoCでは初の1TFLOPSを実現したSoCである。
X1の名前の由来はGPUのMaxwellより。
ちなみに頭文字のMではなくXにした理由は「MよりXの方がカッコよかったから。」とのこと。
採用例は据え置き型動画ストリーミング機兼ゲーム機「SHIELD Android TV」、クレジットカード大の開発機「Jetson TX1」、自動運転支援システム「Drive CX & PX」等。
NX-SoC
任天堂のゲーム機Nintendo Switchに採用された「カスタマイズされたTegra」。
公式からの仕様は未公表だがある解析サイトによるとベースはTegra X1で、余分な機能を排除して消費電力を下げることで、携帯モード時の限られた電力でも安定してゲームの演算に集中出来るようなカスタマイズを施している。
上述したようにTegra X1は64bitアーキテクチャなので、ここから見ていくとSwitchは任天堂ハードとしてはNINTENDO64以来の64bitハードになる。(GCからWii Uまでは32bitだった。但しN64もほとんどのソフトが32bitで動いていたため事実上の64bitの任天堂ハードはSwitchが初になると思われる。)
携帯モードと据え置きモードでクロック周波数が変わる仕組みになっており、携帯モードの場合はバッテリーを持たせるためにおよそ4割程度のパワーになるという。
オリジナルのTegra X1と同じくDirectX 12世代のAPI(DirectX自体はゲーム機の中では実質Xbox専用なので非対応だと思われる。)やVulkan等に対応している。
Tegra X2
TITAN X等に搭載されているPascalアーキテクチャを積んだTegra。
PascalだがP1ではない。
Tegra初のFinFET技術を採用し、電力効率が大きく改善されている。PascalとFinFETの恩恵もあってX1とほぼ同じ消費電力で約1.5倍の性能を誇る。
採用例は「Jetson TX2」、自動運転支援システム「Drive PX2」等。
Xavier
最新のVoltaアーキテクチャのCUDAコアを512コア搭載しており、Xbox Oneに匹敵する1.3TFLOPSもの演算能力を誇るのが特徴。
次世代の自動運転システムや、組み込み用のスーパーコンピューター等に採用される模様。
余談
初めて1TFLOPSを実現したコンピューターは上記のTegra X1が発表される約15年前にできたスーパーコンピューターASCI Red。
ただし昔のスパコンゆえに1TFLOPSを実現するのに9298コアのプロセッサ、150平方メートルの敷地、500kWの消費電力を費やしている。ちなみにTegra X1はそれぞれ8+256コア、100円玉大、15W。