ひとまず概要を述べておく。
韓国にて90年代から数年間連載されていたアメコミやハリウッドのバイオレンス映画に根強い影響を受けている作品であり、日本でもエンターブレインより翻訳版が発売されていたが、余り人気を得られなかった為か、6巻を最後に打ち切りられてしまった。しかしながら、直線を主体とした荒々しいビジュアルや、激しい暴力描写が鮮烈なアクションシーン、そしてアメリカ建国当時を中心に、現代からなんと人類創生以前まで遡るとんでもなくスケールの大きいストーリー等、非常に魅力的な作品でもあり、日本人読者からも評価されるべき有望な作品であるもののイマイチ評価されずじまいであった。詳細は後述。他、西部開拓時代の米国を舞台としておきながら20世紀以降に製造されたハンドガンの描写もあり木に竹を次ぐかのような曖昧さも窺える世界観も特徴的である。
あと、どうでもいいような事だが日本語版には1巻~3巻まで縦にラメがあり、4巻~5巻は横にラメがあるのに対し最終巻の6巻のみラメの装飾がない。
これは、私の悪夢の記録だ…。(4巻~6巻までの内容より拝借)
一人の少年が資産家の家庭の養子として出向くこととなった。その少年はイワン、母の死によって人嫌いになったアイザック家の家庭の一人娘ことジェナの兄としてアイザック家に住みついたことになる物のジェナより2歳年上でありながら彼女よりも若干背が低くメイドからは年下の娘が来るとか言われてて楽しみにしていた模様。それもぬか喜びに終わってジェナもがっかりしたが次第に打ち明けていき次第に仲良くなっていく二人、信頼を超えた強い感情が、何時しか二人の間に生まれていた。二人で馬に揺られながら、イワンはジェナへの愛をはっきりと認識する。あくまでジェナの兄として、イワンを連れてきたつもりでいた父ヤコブは二人の関係を危惧し、イワンを教区のコンラッド大学へと送り出してしまう。イワンに反抗の余地は無かった。荷物をまとめ、旅立つイワンの胸に、ジェナの言葉が突き刺さった。
『意気地なし…あなたがいなくなれば、私はまた一人よ…』
9年の時を経て、神父としてオールドベリーに舞い戻ったイワンは、死んだ父の後を継ぎ、牧場を経営するジェナと対峙する。時の止まったかのような田舎町に、一人取り残された彼女の苦しみに心を痛めながらも、二人は久しぶりの再会を喜んでいた。しかしそれを噛み締める間もなく、一人の男の登場が、再び彼らを引き離すこととなる。
ラウル・ピエストロ。聖ベルティネス教区長を名乗るこの男を、イワンはどうしても信用することができなかった。聖ベルティネス教団、別名「ミカエルの剣」。教皇からの勅令によってのみ動き、独自の権力をもって異端者捜索を行う超法規集団。イワンは大学在籍中に書いたある論文を巡り、彼らの査問を受けていたのだ。あの話は終わったはずだと、論文の話題を蒸し返そうとするラウルにイワンは言うのだが。
『あなたはあの時何が問題だったのか未だに…よくお分かりになっていないようだ』
ラウルはイワンの書いた古代宗教に関する論文が極めて高いレベルにあり、カトリックと悪魔との関連性を指摘した推論が、一つ残らず的中していたのだと話す。その上でラウルは、イワンに協力を願い出る。彼らが現在直面している「信仰の試練」を、その知識で解き明かして欲しいのだと…
ストーンテイルという小さな金鉱村、そこの古い修道院内に、ドメス・フォラダと呼ばれる奇妙な石造の物体が存在する。神学者達による調査チームが結成され、その構造物の起源を調べる研究が始まったが、3年が経過した時点で、調査は停止を余儀なくされた。学者の一人が突如狂乱、他の学者たちを全員殺害した後、警告めいた言葉を残して自決したのだ。その犯人こそが、聖ベルティネス教団初代教区長、即ちラウルの師であった。ラウルは敬愛する師に何があったのか、その死の真相を知りたいと願っていたのだった。
ストーンテイル目指して、馬車の中で眠りにつくイワンは、夢の中で不思議なヴィジョンを目撃する。まだ見ぬドメス・フォラダの石柱の中から、何者かが彼を呼んでいる。黒衣の人物が白くやせ細った手を伸ばし、イワンに語りかける。
『来たれ…イワン・アイザック、鍵を握る者よ…』
続いて現れたのは、冷たく光る甲冑を身に着けた男。両の手に十字架を奉げ持ち、地獄のごとき戦場を疾駆する。彼に指揮された兵士たちは熱狂的に、十字を模した槍をもって異教の敵を屠ってゆく。いつの間にかイワンはその場におり、甲冑の男はイワンに向かって言葉を発していた。「時が満ちた」そう言って、ストーンテイルへ行くことを促したのだった…
ストーンテイルの修道院、そしてそこに安置されたドメス・フォラダの石柱は、イワンが夢に見たものと寸分違わぬ形をしていた。彼はその表面に書かれた未解読の文字を事も無げに読み解き、居合わせた学者たちを驚嘆させる。ドメス・フォラダに何か惹きつけられるものを感じた彼は、精力的に調査を進め、2年を費やしてある仮説に辿りつく。
『ドメス・フォラダに秘められた暗号は、ある種の象形文字を形作るための数式なのではないか?』
そんな折、彼は再びヴィジョンを見る。現れた黒衣の人物は、しかし2年前に見たものとは別人のようだった。彼はベシエル。彼は復讐に執り憑かれたイワンの未来を示し、ドメス・フォラダから手を引くように言う。
『汝が信仰を試そうとするなかれ……イワン・アイザックよ、呪われし己の未来を忌避せよ…』
目覚めたイワンに、ラウルが参考にと一冊の本を差し出す。中世の異端審問に関して記述された禁書。ラウルの、ドメス・フォラダに対する余りに強い執着を訝りつつも、彼はその本から大きなヒントを得る。中でも彼の興味を引き付けたのは、挿絵として描かれた魔法陣の図像だった。そこに描かれた宗教的な記号は、彼がビジョンで見たものと全く同じだったのだ。何者かの大きな意思が介在していることに恐れを抱きながらも、彼は自らの結論を、他の神父達に公表することを決意する。
『ドメス・フォラダは我々が考えていたような、単なる宗教的石造物ではないのです。ドメス・フォラダには…悪魔の霊魂が封じ込められている!』
そしてイワンは語りだす。800年前、古代ベラキアで起こった悲劇を…。
十字を背負い、あらゆる人々が死をも恐れず戦場に向かっていく…全ては聖地奪回のために。十字軍の軍勢の中、その男はいた。白金の鎧に身を包み、訓示を述べる彼は、自ら率先して激戦区に飛び込み、異教徒を血祭りに上げてゆく――
――彼の名はバスカー・ド・ギオン、後にテモザーレと呼ばれる男である――
バスカー・ド・ギオン公爵。十字軍最強と呼ばれる「十二星騎士団」団長にしてドルノアフ教区異端審問官。彼の強固な宗教的信念は指揮する軍団を無敵の刃に変え、その徹底的な殲滅力に、異教徒たちからは恐怖の象徴とまで目されるほどであった。彼にとって、自らの信仰する神こそが世界の全てだった。異教徒を殺し続けることが、神の威光を世界に知らしめ、繰り返される異教徒への勝利が、神からもたらされる恩恵だと信じていた。
しかしそんな彼に、”信仰の試練”が訪れる。本国よりもたらされた一通の書簡。そこに書かれていたのは、彼の妻マリアンヌが未確認の伝染病によって非業の死を遂げ、二人の娘も、二次感染予防のため街ごと焼き払われたという事実だった。彼の煩悶は誰の想像にもつきようが無かった。
『その日よりバスカー公爵の戦闘は宗教的使命を越えて…狂気に満ち、常軌を逸した…殺戮の行軍へと変貌したのです』
彼の軍団は大陸中を駆け回り、破壊と虐殺を繰り返した。他の十字軍が撤退した後も、血に塗れた十二星騎士団の旗は、唯一つ異教の地にはためき続けていたという。
彼らは暴走の果て、とある異教の禁忌の地へと踏み込む。まるで何かを封印するかのように建てられた巨石のモニュメントを倒し、その下に開いた小さな穴から地下へ。そこに広がる巨大な空間で彼らが見たものは、十三体の巨大な天使像。中心に立つ一際巨大な天使が、バスカー公爵に語りかける。
『見捨てられし神の僕よ…我は汝の憤怒を知るものなり…我が精霊の名は…テモザーレ…」
かつて世界が未だ混沌だった頃、テモザーレと12人の使徒達は、神に選ばれし栄光在る戦士であった。それは世界の創世記…ある大天使が反乱を起こし、天使同士の戦争が勃発した。テモザーレたちは勇敢に戦い、反逆した天使たちを業火と共に地下へ閉じ込め、遂に争いを終結させた。しかし神は、命を賭して戦った天使たちには目もくれず、自らが作り出した人間達にのみ祝福を与えた。人々は喜び、大いなる栄光の時を迎えたが、天使たちの心には疑念が浮かび始めていた。”果たして神は信ずるに値する存在なのか?”
彼らは神を試す積りで、人間たちの住む地上へと降り立った。わざと誤った教えを吹き込み、邪教に落ちていく人々を見ながら、神を仰ぎ見る。人間とはかくも愚かで、不完全な信仰の持ち主なのだ、こうして目にしてみれば、神もきっと、己の判断ミスを認めてくれる筈…。
しかし代わりに彼らにもたらされたものは、怒りに満ちた神の、稲妻の鉄槌であった。かつて倒した堕天使たちと同じく、地下へと叩き込まれたテモザーレと使徒。崩れ落ちる神殿を見ながら、彼らは理解した。彼らは、神を許すことができないと。
崇拝の褒章として与えられた慟哭。テモザーレはバスカーも同様だという。妻や娘たちも、神の意思によって奪われたのだと…。
『バスカー・ド・ギオン、真実に覚醒せし者よ!汝が肉体を我に奉げよ、共に神に奉げる復讐の旅程を往かん!』
バスカーは神に対する憎しみの言葉を吐き、その提案を喜んで受け入れた…。
かくして、テモザーレと化したバスカーと、その十二人の従者たちは、十字軍としての任務を終え、本国へと帰還する。そして出会うこととなる――この物語のもう一人の主人公、コルバトーレ修道会異端審問官、通称”断罪の聖者”――ベシエル・ガバールに。
バスカーの精神の変質は、教会の内外に大きな波紋を投げた。皮肉にも、かつての異端審問官にして、十字軍遠征の英雄が捕らえられ、異端審問にかけられるのだ。教会はその影響を考慮し、裁判を秘密裏に執り行うことを決定する。審問官として選ばれたのが、ベシエルであった。
ベシエルはバスカーと対峙する。バスカーはテモザーレと自らを名乗り、ベシエルの怒りを煽る。全ては彼の信仰心を揺らがせようとする計略だ。しかしながら、彼の信仰心はかつてのバスカーをも上回るほどであり、ベシエルはそんな彼に冷徹に判決を下す。連行されるバスカーは、去り際に意味深な一言を残していった…
『我が試練を…貴様に与える…』
ベシエルにはマテオという弟子がいた。無垢な魂を持ち、聖人マテアヌスの名を受け継いだこの少年を、血はつながってはいないものの、ベシエルは本当の息子のように愛していた。
『ベシエルはマテオを、自らの信仰心に対しての神からの贈物と思っていたのかも知れません。…しかし彼の試練こそ…他ならぬ、このマテオだったのです』
バスカーの裁判から数日も経たぬ頃、修道院内で事件が起こる。女給が殺害され、両腕と心臓が持ち去られていた。門を閉鎖し、修道院内の調査を始めたベシエルは、そこで修道院の石壁に、血のメッセージを書き続けるマテオの姿を認める。
マテオは夢の中で啓示を得ていた。聖マテアヌスは福音の聖者。神の福音を異端の地に伝え、そこで生を終えた。マテオは彼の使命を受け継ぎ、この地に福音を伝えるべきなのだと…
『天使様が、神の福音を僕に伝えて下さったの!僕、ひとつ残らず書き留めたんだよ!』
それは神を冒涜するメッセージ。動揺するベシエルに、バスカーの影が忍び寄る。自らの運命を受け入れよというバスカーにベシエルは激昂し、怒りのままにバスカーの首に手をかけ、渾身の力で握り締めた…
『そうだ、ベシエル…信仰ではなく、自らの憤怒に従い断罪を下せ…』
正気に返ったベシエルが見たものは、自らの手によって命を奪われた少年の亡骸であった。混乱と悲しみの中、ベシエルの獣のような絶叫が、院内に虚ろに響き渡った…。
マテオの死により信仰を大きく揺るがされたベシエルは、再び幽閉されたバスカー公爵、否、テモザーレに会いに行く。テモザーレはベシエルに語る。強い信仰心を持つもののみが、神への真の憎悪を抱きうる。使徒の一人として、この世に堕落の教えを広め、その上に神を凌駕する王国を打ち立てよと。
『貴様が苦悶するとき…神はそのそばにいたか?』
『そうだ……!私は強くなる……!もう神の力など今の私には不要だ!』そう言って十字架を捨て去ると、ベシエルは高らかに哄笑した。しかし…
『この心に渦巻く憤怒だけが…私の武器なのだ!テモザーレ…この武器を使い、貴様を断罪してくれよう!』
…留まるところを知らない彼の怒りは、神ではなく、彼から信仰心を奪い去ったテモザーレに向けられたのである…
彼は過去の文献を一つ残らず漁り、血を吐くような努力の末、遂にテモザーレを打倒する手段を見つけ出す。古代ベラキアにおいて使用された、魂の封印装置―ドメス・フォラダ。無数の石の小片とそれらを繋ぐ鎖から成る、極めて精密・複雑怪奇なその構造物を、彼はたった一人で一から作り上げる。最後の一片が完成したとき、禿頭だった彼の頭は、肩までかかるほどに長く、黒々とした毛髪に覆われていたという。
石の小片に囲まれた、極めて狭い空間にテモザーレは閉じ込められた。不完全な人間に作り出された封印で、我が魂を永遠に封じ込めることは出来ない…。そう彼は言う。彼の復活は、宇宙の法則により定められているのだと。
『ならばお前のその定めに、私も付き合おう…』
ベシエルが呪文を唱え始めると、石の小片は少しずつ動き出した。石と石との空間が埋まり、パズルのピースのように組み合わさっていく。テモザーレの姿が、石の間に挟まれ、あっという間に掻き消える。最後にはそれは、初めの大きさの3分の2程度までに縮まり、滑らかな六角柱と化して静止した。
こうして封印は完了した。しかしベシエルの脳裏には、テモザーレが封印される間際に遺した言葉が、何時までも響いていた。
『何者もその運命の定めからは、逃れられぬであろう…』
その後彼は消息を絶った。そして同時に、ドメス・フォラダもその姿を何処かにくらましてしまったという。
―イワンが語り終えると、聞いていた学者たちは口々に感想を述べた。あまりに異常な出来事に、誰もがそれを信じていいものか判断がつかなかった。イワンは、この発見は宗教の大きな転換点になるとし、研究の続行を望む。ラウルがそこに口ぞえをし、怖気づくほかの神父達を説得した。
イワンの研究は、彼自身が驚くほどのペースで進んでいた。このまま行けば、近いうちに全ての謎を解くことが出来ると思われた。そんな矢先、彼はまたしても夢を見る。ジェナと、彼女の背後に立つラウルの姿。そして黒衣の男。イワンには直感的にわかった。彼がベシエルだ。彼はイワンに対し、彼らの戦いに関与するなと言い、姿を消した。
しかし皮肉なことに、この言葉がイワンに、ドメス・フォラダの謎を解く最後のヒントを与えてしまう。イワンは、テモザーレと共に、ベシエルの魂もドメス・フォラダに封じ込まれていることを確信する。限界の在る肉体を捨て、魂だけの存在になって…。それが何を意味するか?ドメス・フォラダに掘り込まれた暗号は、全て内側から読めるように…鏡面文字になっていたのだ!寝ていたラウルを起こし、自らの発見を語るイワン。しかしラウルの強引な態度に疑問を持った他の神父達が計画の中止を進言、少なくともラウルの指令が本当に法王の勅命によるものなのか、それを確認するまでの間、計画は凍結されることになる。
次の朝、イワンは他の神父達が任を解かれ、自国へと戻されたことを知らされる。急な話に戸惑うイワン。遺された彼らの蔵書に血がついているのを発見し、遂にイワンの心にも、ラウルに対する疑念が顕在化し始める。ラウルに三人の行方を問い詰めると、彼は能面のような無表情で言った。
『知りたくはないか?神のもうひとつの顔を…』
突然、イワンは後頭部に鈍い痛みを感じた。いつの間にか背後に現れていたローブの集団に、棍棒で殴られたのだ。そう気付いた時、既に彼は意識を失っていた。
外では静かに異常事態が進行していた。野犬が吼え狂い、農夫が鍬を振り上げ、笑いながらその犬を殴り殺す。ある者は意味も無く嘆き、またある者は修道院に祈りを奉げる。誰もが感じ取っていた。大いなるものの復活を…
気絶から目覚めたイワンは、自らが椅子に縛られ、ドメス・フォラダの前に座らされていることを知る。ローブに身を包む信者たちに囲まれたラウルは、ドメス・フォラダの封印を解くことは、この世に再び神の御力を示し、信仰を忘れた人々に警鐘を鳴らすことになると説く。彼もまた夢に啓示を得た者の一人だった。純白の翼を背に負った大いなる影が、神の顕現のためドメス・フォラダを開けと…。
それは神の啓示ではない、イワンは言う。夢はまやかしであり、悪魔の誘いであると。対しラウルは、神の啓示を受け入れないことは神への冒涜に繋がると主張する。
『神の啓示を受け入れよ…イワン・アイザック!』
そして目の前に現れた光景に、イワンの思考は凍りついた。天井から鎖で下ろされてきたもの…それは、十字架に磔にされた、ジェナの姿だったのだ。
ジェナがここに現れたのは、ラウルの誘いによるものだ。彼はイワンが彼女を愛しており、司祭の道を捨て共に暮らしたがっていると吹込み、ここまで呼び寄せたのだった。
真の信仰を手に入れるために、神以外のものに対する全ての愛を捨てなくてはならない。ラウルはそう言うと、迷うことなくジェナの胸に、ナイフの切っ先を埋めた…
十字架からおろされたジェナの元に、解放されたイワンが駆け寄った。
『可哀想な人ね…あなたって…私…ずっと待ってたのに…』
息も絶え絶えになりながら、それでもジェナはイワンに語りかける。ジェナがかつて言っていたこと、イワンの腕の中で死にたいと。魂は最後に見たものを、けして忘れないから…
イワンの慟哭は、彼が未来に経験するあらゆる苦しみを、全て前もって体現したかのように見えた。
『お分かりですねイワン…彼女の死はあなたが自らの殻を破るため…神が求めたものなのです』
その時、イワンの心には何もなかった。唯一つの疑問を除いて。果たして神はどこにいて、彼に何を求めているのか?ドメス・フォラダの中に、神がいるというのなら?
イワンの口が動き、誰も知らない言葉が迸った。同時に、ドメス・フォラダを構成する石のパーツが少しずつ動き出し、宙に展開していく。彼は暗号を解いている!信じられない速度で、たった一人で。
村では馬が暴れ周り、十字架が音を立てて歪んだ。ラウルが叫ぶ。
『聖なる天使よ!神に比肩する唯一の存在…その偉大なる意思と共に今こそこの地に顕現せよ!』
―気がつくと、イワンは奇怪な光景の中にいた。見渡す限りの地平線、地面を構成するパズルのような石のブロック。空にぽつんと何かの影が見えた。二枚の石版に挟まれて浮かぶ、やせ細り、乾ききったミイラだ。
『イワン・アイザック…汝もまた今この時より、神に捨てられた者たちの逃走の運命を生きるのだ』
声は背後から聞こえた。振り向くと石版で構成された塔、その頂上に鎮座する黒い男―ベシエル。
この全ては、神の意思なのか?そう問うイワンに、ベシエルは神を忘れよという。神はただ傍観するだけの存在だと。
そして―
『礼を言うぞイワン・アイザック、秘密を知るものよ!』
突如、宙に浮かぶミイラの上空に台風のような渦が発生し、その体を取り込んでいく。そしてベシエルもまた、自らを塔に繋ぐ鎖を引きちぎり、渦へと飛び込んでいった…
完全に展開したドメス・フォラダ。ラウルは神の復活を確信するが、イワンは言う。全てが仕組まれていたと。悪魔がラウルを操り、ラウルはイワンを操った。そして神がその全てを傍観し、何の手も打たなかったことに、イワンは深く絶望する。
しかしラウルが反論するより早く、口を開けたドメス・フォラダの中から飛び出した二本の鎖に体を貫かれ、イワンの体は十字架に縫いとめられた。奇跡に驚愕するラウルとその信者たち。そして気がついた。ドメス・フォラダの前にいつの間にか小さな影が現れていたことに―
こうしてテモザーレはこの世に復活した。信者の一人が自ら身を投げ出し
『あなたの下僕がここにおります!』
しかしテモザーレは彼の頭を掴み上げると、ばらばらに吹き飛ばしてしまう。凍りつく一同。
次の瞬間、ラウルの背後に立つ男たちの頭が、次々とざくろのように弾け飛んだ―
(…とまぁ悪しからずもとあるブロガーの記事から拝借したので大体はこの辺で打ち止めにして置く)
何故、日本で不人気に終わる憂い目にあったのだ!!
何といっても人気コミックHELLSINGとの類似性が強いからだろう。HELLSINGは平野耕太作の吸血鬼ものバイオレンスアクションで、曲線的だがやはり荒々しいビジュアル、激しい暴力描写などの点で共通項がある。しかし中でも一見して分るのは両者の主人公の姿。「鍔広帽を被り、コートを纏った長身の男」というプリーストの主人公イワン・アイザックの設定は、HELLSINGの主人公アーカードにあまりに酷似していて、日本の読者にはパクリと映ったことも無理はない。しかも一巻目が共に、「主人公が銃を乱射してゾンビを殺しまくる」といった内容だったため、HELLSINGが先に出ていた日本では、プリーストは、HELLSINGを模倣した二流品というイメージを読者に与えてしまったのでは無いかと考えられる。更に韓国の作品は左向きに読む作品が多くプリーストも当然左読みであった事とハングルの効果音による表現や日本語版発売当時の2002年辺りは韓国も日本人社会からはマイナーな立場であることからイマイチ人気が出なかったと考えられる。