概要
1988年、大阪府堺南警察署（堺南署）管轄の槙塚台派出所の巡査が拾得物の現金15万円を着服（ネコババ）した事件である。
これだけなら一警察官の不祥事事件だが、ここで問題となったのが、その警察官が所属している堺南署が警察官による不祥事をもみ消すべく、拾得物を届けた善良な市民に濡れ衣を着せて犯人に仕立てようとした悪質な組織ぐるみの不祥事事件であった。
市民を守るべき警察が、保身のために無実の市民を犯人に仕立てようとするという、警察の威信と信頼を著しく落とした一大不祥事である。
事件の経緯
事の発端
1988年2月6日午前11時40分頃、大阪府堺市のスーパー経営者の妻（妊婦）は、店内に15万円が入った封筒が落ちていたを発見し、近くの槙塚台派出所に届け出た。派出所に一人でいた巡査が対応し、巡査は「その封筒なら紛失届が出ている」と言い、封筒を受け取った。だが、この時、巡査は主婦の名前をメモに書いただけで「拾得物件預り書」（遺失物法に基づき作成が義務付けられている書類）を渡さず、主婦は不審に思ったが、深くは追及せず帰宅した。だが、巡査は届け出た現金15万円をそのまま着服（ネコババ）してしまう。
発覚
その後、いつまでたっても警察から落とし主に封筒を渡したとの連絡が来なかったので、主婦は不審に思い、堺南署に確認の電話をかけた。しかし、署員は「そんな封筒は受理していない」と答えたことで、15万円が何者かによって着服された事実が明らかとなった。堺南署は、偽警官による詐取の可能性を捜査する一方、主婦も事情聴取を受けることとなり、主婦はすぐに「シロ」と判明。
そして、すぐに派出所で応対した巡査が15万円を着服したと結論したが、堺南署の署長ら幹部達は所属する警察官による不祥事の発覚を恐れ、事実を隠蔽すべくあろうことは届け出た主婦を犯人に仕立て上げようと決める。
あるはずがない罪の自白強要
署長の指示の下、主婦を連日にわたって執拗な取り調べを行い、当時巡査は派出所にいなかったと嘘を言い、あるはずがない物的証拠やいるはずのない証人を次々と「発見」して自白を強要した。
善意で拾得物を届けた主婦は連日の取り調べによる身に覚えのない着服の自白の強要に心身ともに追い詰められてノイローゼとなっており、特に主婦は妊婦で安静にしていなければならない時期であり、ストレスで追い詰められている彼女は母子ともに危険な状態であった。
中々自白しようとしない主婦にしびれを切らした堺南署は証拠不十分にも関わらず逮捕に踏み切ろうと大阪地方裁判所に逮捕状を請求しようとする。しかし、検察庁からは明らかにおかしい（盗んだ犯人がわざわざ警察に電話をするはずがない、本当に巡査は無関係だったのか等）ため請求は却下された。
また、妊婦の主婦のかかりつけの産科医にも逮捕の許可を請うたが、産科医からも警察による過度な取り調べで母子ともに危険な状態であるために大反対された。後に主婦は「おなかの赤ちゃんが助けてくれた」と語っている。
露見
この事件を読売新聞の記者が嗅ぎ付け、事件の詳しい経緯を取材していた。それを知った堺南署は記者に電話し、「被疑者寄りの記事を出すな」で脅しめいた忠告をした。だが、その過剰な対応が却って疑いを強めてしまい、社会面に大きく特集記事を掲載した。
その後、事件のことを知った堺南署の上の立場にある大阪府警察が、捜査を堺南署から本部の捜査第二課に移管させ、改めて捜査を始めた。すると、彼らが発見したという証拠は何の信用性もなく、当時巡査が派出所にいた目撃証言も揃い、そしてその巡査を取り調べるとあっさりと着服を自供し、主婦の冤罪は晴らされ、堺南署の不祥事が露見した。
その後
善良な市民を犯人に仕立てようとした堺南署は日本中から大バッシングを受けることとなり、再捜査後の記者会見においても署長は「無関係の市民を容疑者と『誤認』し…」と犯人にしようとしたにも関わらず手違いだったような言い回しに、即座に記者たちから猛烈な抗議の声が上がり、隠ぺいする姿勢は改善していなかった。また、明らかに無実と知っていながら、逮捕状を請求したことに対しては「（警察関係者による）逮捕監禁未遂ではないのか？」との声も寄せられた。
その後、巡査や署長ら関わった幹部達はそれぞれ懲戒処分を受けることとなった。
主婦の家族は大阪府警を相手取り、慰謝料請求の民事訴訟を起こすと、詳しい事実関係が裁判で明らかになるのを恐れた大阪府警は、控訴せずあっさりと慰謝料200万円を支払った。そして、主婦はその200万円を全額冤罪防止運動団体に寄付した。
