人物
神奈川県座間市出身。大橋ボクシングジム所属。ホリプロとマネジメント契約。
父・真吾は元アマチュア選手の指導者でアマチュア時代は父が経営していた井上ボクシングジムで練習していた。プロ転向後父も専属トレーナーとして大橋ジムに入る。
弟の元WBC世界バンタム級暫定王者で2023年にWBA世界バンタム級王者獲得した井上拓真、いとこの元日本スーパーライト級及び元WBOアジアパシフィックスーパーライト級王者・井上浩樹も同じ大橋ジム所属のプロボクサーである。
(さらに弟・拓真もホリプロとマネジメント契約している。)
入場曲はWham!の「Freedom」、BIGBANGの「BIGBANG」を経て現在は佐藤直紀の「Departure」(TBS系ドラマ・日曜劇場「GOOD LUCK!!」サウンドトラックに収録)。
2015年には結婚もしている。(2017年に長男が誕生。)
プロ転向と同時に「怪物(モンスター)」という異名は大橋ジムの大橋秀行(元WBA・WBC世界ミニマム級王者)会長によって付けられた。
来歴
アマ時代
小学1年からボクシングを始め、高校1年でインターハイ・国体・選抜の三冠を達成し、国際大会でも3年の時、インドネシア大統領杯で初の国際大会金メダルを獲得。国内ではインターハイに加え、全日本選手権でも優勝するなど高校生初のアマチュア7冠を達成した。
2012年にはロンドンオリンピック予選会を兼ねたアジア選手権に出場し、ライトフライ級で決勝まで進むが判定で敗れ出場を逃す。同年、大橋ボクシングジムに入門。
衝撃のプロデビュー、無敗街道へ
プロテストはスーパーバンタム級でB級ライセンスを受験したが、実技試験で当時の日本ライトフライ級王者を圧倒して合格、デビュー戦は2012年10月2日にクリソン・オマヤオ〈フィリピン〉と49キロ契約8回戦で対戦した。(A級でのデビューは1987年の赤城武幸以来25年ぶり7人目で10代は初。)
結果は4回2分4秒KOで勝利、プロ転向からわずか3か月でOPBF東洋太平洋ライトフライ級10位、日本ライトフライ級6位にランクされた。
2013年8月日本ライトフライ級王者の田口良一(ワタナベ)と対戦。試合は3-0(97-94、98-93、98-92)の判定勝ちで、辰𠮷𠀋一郎以来23年ぶりに国内最短タイ記録となる4戦目での日本王座を獲得(後にヘビー級の但馬ミツロがデビュー2戦目で日本王座を獲得し記録更新。)。
2013年12月6日、OPBF東洋太平洋ライトフライ級王座決定戦で、OPBF東洋太平洋ライトフライ級2位のヘルソン・マンシオに5回2分51秒TKO勝ちで王座獲得。
”怪物”、世界へ
2014年4月6日、大田区総合体育館にてWBC世界ライトフライ級王者アドリアン・エルナンデス(メキシコ)に挑戦、6回2分54秒TKO勝ちを収め日本人男子最速となるプロ入り6戦目での世界王座獲得に成功した(後に元WBO世界ライトフライ級王者田中恒成がデビュー5戦目で王座獲得し記録更新。世界記録はセンサク・ムアンスリンとワシル・ロマチェンコが3戦目で世界王座奪取)
2014年9月、WBC13位のサマートレック・ゴーキャットジム〈タイ〉と対戦。11回1分8秒TKO勝ちで初防衛。試合後に王座を返上し、階級を上げることを表明。
スーパーフライ級
2014年12月30日、東京体育館でWBO世界スーパーフライ級王者オマール・ナルバエス(アルゼンチン)に挑戦。2回3分1秒KO勝ちを収め8戦目での飛び級での2階級制覇。試合後に右拳が脱臼していたことが判明した為、手術を行った。
2015年12月、ワーリト・パレナス〈フィリピン、日本で『ウォーズ・カツマタ』の名で活動〉に2回1分20秒でKO勝利。
2016年5月、デビッド・カルモナ〈メキシコ〉に12R3-0で判定勝利。
2016年9月、ペッバーンボーン・ゴーキャットジム〈タイ〉に10R3:03でKO勝利。
(ここまでWBO世界スーパーフライ級1位の選手と対戦。)
2016年12月、元WBA世界スーパーフライ級王者でWBO10位の河野公平(ワタナベ)と対戦し、6回1分1秒TKO勝ち。
2017年5月、WBO2位のリカルド・ロドリゲス〈アメリカ〉と対戦し、3回59秒でTKO勝ち。
2017年9月、カリフォルニア州カーソンでWBO世界スーパーフライ級7位のアントニオ・ニエベス(アメリカ)と対戦し、ニエベスの6回終了時棄権によりTKO勝利。
2017年12月、WBO世界スーパーフライ級6位のヨアン・ボワイヨ〈フランス〉と対戦し、3回1分40秒TKO勝ち。7度防衛に成功した。
バンタム級
2018年5月、階級を一階級上げてWBA世界バンタム級王者ジェイミー・マクドネル〈イギリス〉に挑戦することが3月6日に都内で行われた記者会見で発表された。(WBOの王座は2月28日付で返上。)
同年5月25日、東京でマクドネルと対戦、減量苦の王者から初回1分52秒にTKO勝利、WBA世界バンタム級王者獲得により日本人歴代最速となる16戦目での世界3階級制覇を達成。
WBSSの死闘
マクドネル戦後「ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)バンタム級トーナメント」のオファーが正式に届いて、出場すると宣言した。
後に参戦が正式発表され、初戦は元WBA 世界同級スーパー王者の同級4位フアン・カルロス・パヤノ〈ドミニカ共和国〉と10月に対戦、初回1分10秒でKO勝利する。
2019年5月18日、イギリス・グラスゴーでIBF世界バンタム級王者エマヌエル・ロドリゲス〈プエルトリコ〉とWBSS準決勝を行う。この試合はWBAタイトルはスーパー王者としてライアン・バーネット〈イギリス〉から奪取したノニト・ドネア〈フィリピン〉がいる為、レギュラー王座の井上は賭けられない。それでも井上はロドリゲスから3度のダウンを奪い2R1分19秒TKOで勝利。IBF王座、米国で最も権威ある専門誌「ザ・リング」認定ベルトを獲得し、WBA王座の2度目防衛に成功。
一方のノニト・ドネアは準決勝でミーシャ・アロイヤン〈ロシア〉を破ったゾラニ・テテ〈南アフリカ、WBO世界バンタム級王者〉と対戦予定だったが直前の4月に肩の故障により欠場、代わってWBA5位のステフォン・ヤング〈アメリカ〉と対戦し勝利をおさめたことから、決勝は井上対ドネアとなった。
2019年11月7日、さいたまスーパーアリーナでWBAスーパー王者のノニト・ドネアとのWBSS決勝戦(WBAスーパー・IBF世界バンタム級統一戦)が行われた。
試合は2回にドネアの強烈な左フックを貰い、プロになって初めて右目上部をカット。右目が使えない中で試合の主導権を握るも9回に右ストレートがカウンターで直撃しボクシング人生で最大のピンチに陥る。しかし11回に左ボディでドネアからダウンを奪うなどして、12回3-0(116-111、117-109、114-113)の判定勝ち。WBSSバンタム級初代王者に就いた。
試合後、会見で、米プロモート大手のトップランク社と複数年契約を結んだ事、自身のwitterで右目眼窩底と鼻を骨折したこと、手術はせずに保存治療をすることを発表した。
コロナ禍での活躍
2020年4月25日にWBO王者のジョンリル・カシメロ(フィリピン)とラスベガスで3団体統一戦を行う予定だったが、新型コロナウイルスの影響で延期、後に中止が発表された。
2020年10月31日(日本時間11月1日)、米ラスベガスのMGMグラウンドにてWBA世界バンタム級3位、WBC・IBF4位、WBO1位のジェイソン・モロニーと無観客試合で対戦。終始井上が試合のペースを握り、6回に左フックのカウンターでダウンを奪うと、続く7回終盤に右ストレートのカウンターで再びダウンを奪い、7回2分59秒でKO勝利を収めた。WBA王座4度目、IBF王座2度目の防衛に成功した。
2021年5月、IBF1位(WBA8位)の指名挑戦者マイケル・ダスマリナス(フィリピン)とラスベガスで対戦することが発表され6月19日に行われた。2回にダウンを、3回にボディブローで2度ダウンを奪って3回2分45秒TKO勝ち。その後も同年12月に両国国技館でIBF5位、WBA8位のアラン・ディパエンと対戦。結果は8R2分34秒でTKO勝ちを収めた。
ドネアとの再戦
2022年3月30日、WBSS決勝で対戦したWBC同級王者ノニト・ドネア(フィリピン)と6月7日に、さいたまスーパーアリーナで再戦することが発表された。
この試合に勝てばWBO同級王者ポール・バトラーとの王座統一戦に臨むものと思われた。
迎えた試合は、ドネアが開始早々左フックを振り回し、これを軽く被弾。そこでスイッチが入ったと語る井上は、1回終了間際、右ストレートのカウンターでダウンを奪うと、2回も終始有利に進め、最後は左フックで大の字にして、ダメージを重く見たレフェリーは試合を止め、2回1分24秒TKO勝ち。
日本人初の世界3団体統一王者となった。試合後のインタビューで、相手がいなくなった場合スーパーバンタム級に階級を上げる事も示唆した。そして、彼はライトフライ級以来8年振りにWBCのベルトを獲得した。
この試合は日本ではAmazonのプライムビデオが独占配信した。
ドネアの名誉のために言うが、彼は世界5階級制覇(フライ級、スーパーフライ級、バンタム級、スーパーバンタム級、フェザー級)を成し遂げている偉大なボクサーである。
また、アメリカのボクシング専門雑誌「ザ・リング」誌の集計した、パウンド・フォー・パウンド(PFP全ボクサーを同体格と仮定したランキング)で日本人初の1位となった。トップ10入りは、彼自身の他に山中慎介(元WBC世界バンタム級王者)などがいるが、1位は初めてである。
怪物、バンタム級を完全統一
そして2022年12月13日、WBO世界バンタム級王者ポール・バトラー(イギリス)と有明アリーナでバンタム級の主要4団体王座を賭けて対戦。
試合では井上が終始圧倒し、手を出さずガードに徹するバトラーをノーガードで煽るなど余裕を見せつつ11回1分4秒TKO勝ち。
世界史上9人目、アジア人・バンタム級では初となる4団体統一王者となった。
スーパーバンタム級への挑戦
2023年1月、「今の階級には戦いたい相手もいない」とし4本のベルトをすべて返上。階級をスーパーバンタム級に上げることを表明した(返上したベルトのうち、WBAバンタム級王座は2023年4月8日に弟・井上拓真が決定戦で勝利し奪取した。)
同年5月7日に横浜アリーナで、21戦21勝(8KO)のWBC・WBO 世界スーパーバンタム級王者スティーブン・フルトン(アメリカ)と対戦予定だったが井上が練習中に拳を痛めたことにより7月25日に延期され、会場も有明アリーナへと変更となった。
試合本番では序盤から押し込む井上に対し、フルトンも要所で勇敢な反撃を見せるなどハイレベルな攻防が続く。5回辺りからフルトンが井上の動きに適応したかのように攻め込む場面が見られたが、8回で井上の右ストレートが炸裂。さらに追撃の左フックでダウンを奪う。
何とか立ち上がるフルトンだったが目に見えてグロッキー。再開直後に井上がラッシュで飲み込みかけたところで審判が試合を止め、8回1分14秒TKO勝ちを収めた。
日本人としては2人目の4階級制覇、史上5人目の無敗のまま4階級制覇、史上初のKO勝利での4階級制覇で2団体王者につく。
フルトン戦の勝利インタビューで、観戦に訪れていたもう1人の2団体(WBA・IBF)王者マーロン・タパレスと年内に対戦することが決定した。
2023年12月26日に行われた4団体統一戦では、第4Rで幸先良くダウンを奪う。ガードごと吹き飛ばしてロープに押し付ける等早期の決着も期待される展開だったが、その後はタパレスの強固なディフェンスを攻めあぐねる場面が目立つようになる。
さらにはサウスポーから繰り出される鋭いパンチを時折被弾し、試合は混戦模様となる。
一進一退で迎えた第10R、井上の強打がタパレスをガードの上からグラつかせた。
それを見逃さず繰り出された右ストレートがガードを突き破り、タパレスのテンプルを直撃。この試合2度目のダウンを奪う。
驚異のタフネスと執念で立ち上がろうともがくタパレスだったが、試合を通して蓄積され続けたダメージは大きく無念のカウントアウト。
史上2人目の2階級4団体統一王者が誕生した瞬間であった。
ファイトスタイル
「打たせずに打つ」という基本を極限まで煮詰めたスタイルで相手を圧倒する。
精密なステップで距離を支配し、ジャブを上下に散らして相手の手足を縫い止め、ガードが空いたところに重い一撃を叩きこむ。
体格的にはバンタム級で見ても決して大きくないが、井上に敗れたモロニーは「井上に勝つには全ラウンドの1秒1秒を全て完璧にこなさねばならないが、井上は1秒だけ完璧であれば良い」と評している。
現役のバンタム級世界王者をしてこう言わしめる井上のパワーは、フェザー級(スーパーバンタム級のさらに1つ上)でも十分に通用するのではと言われている。
事実、フェザー級に近い体格を持つフルトンすら井上の右ストレートが直撃した際には半ば失神するダメージを受けていた。
今戦っている階級では文字通り「規格外」の拳である。
この破壊力に目を奪われがちだが、卓越した防御技術も見逃せない。
常に相手の反撃を予測して素早いブロッキング、巧みなボディワーク、軽快なステップ等で華麗に捌き、触れさせない。世界戦でも綺麗な顔のまま勝利インタビューに応じることが殆ど。実際にダウンも2024年5月6日に行われたルイス・ネリ戦まで1度もなかった。
この堅い防御で攻め手を潰し、手詰まりになった相手に破壊力を押し付けていくのが典型的な勝ちパターンとなる。
窮地に陥ること自体ほぼ無いが精神面も強く、直撃を貰って効いたとしても気迫で打ち返して決定打を打たせない闘争心を持っている。
要するに全部強いから強いのである。
弱点
そんな彼にも弱点は存在する。
それは股間である。
2018年の大晦日、日本テレビの笑ってはいけないシリーズのひとつ、笑ってはいけないトレジャーハンターのワンコーナー、捕まってはいけないトレジャーハンターにて松本人志の代役で登場。
追いかけてくる黒鬼は、チャンプである彼にも容赦なく襲いかかり、様々な罰の餌食に。
なかでも「一番捕まりたくなかった」と言っていたチ○コマシーンの黒鬼に捕まってしまう。
そのあと執行されるのだが、股下が短い関係で股間を打つムチを装着する部分の棒が丁度股間に直撃してしまい、まさかのダウン!!しばらく悶絶してしまった。
側から見ていた松本人志は「ローブローや、ローブロー」とコメントしていた。
…まぁ彼に限らず股間は男の弱点だが…
ボクシングの技術面に関するところでは、クリンチがド下手。ドネア1戦目で初めて見せたクリンチを自ら下手だったと振り返っている。
クリンチとは対戦相手にしがみついて時間を稼ぐ技術で、パンチを効かされ劣勢に陥った際に多く用いられる。アマチュア時代から殆ど窮地に立たされなかった怪物には、使う機会がなかったのかもしれない。
ちなみに仕掛けるのは下手だがクリンチをかわす、振りほどく技術は素晴らしく、フルトンのクリンチを何度も拒否してKOに繋げている。
またアスリートとしての身体能力的には際立ったものはない事も弱点と言えば弱点と言える。しかし、前述の基本を極限まで煮詰めたスタイルと相手の一瞬のスキを見抜く力でカバーしていると言っても良い。
余談
ライトフライ級の日本王者となった際、キャリアの浅い井上は世界的には全く認知されていなかった。そのせいで対戦相手の田口良一が、WBA世界ランク3位→15位圏外まで降格されるという憂き目に遭っている。
後に4階級制覇、2階級で4団体統一を成し遂げる怪物とフルラウンド勇敢に打ち合った挙句、世界ランク圏外まで叩き落とされた田口の心境や如何に…。
なお田口は後にライトフライ級のWBA・IBF統一王者にまで上り詰める本物の実力者であり、2023年12月現在で井上が唯一試合中にダウンを奪えなかった男でもある。
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大谷翔平・羽生結弦・藤井聡太:彼と共に創作物顔負けの大活躍をしたorし続けている日本の若者。そのチート染みた才能から、畑違いながらもしばしば「漫画の主人公みたいだ」を通り越して「漫画にも描けないレベル」と対比されることも。ちなみに、大谷と羽生とはほぼ同世代である(厳密には井上の方が一歳年上)。
アサヒ飲料…2021年、「ウィルキンソン タンサン」のCMに起用された。