概要
ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの小説『クトゥルフの呼び声』やそれに関連する小説群『クトゥルフ神話』の世界観を基礎としたTRPG。この世界は、人間の与り知らぬ所で強大な邪神たちによって支配されており、彼らにとって人間は塵芥同然の存在であるが故に運良く見逃されているにすぎない、とされている。
ただの一般人が、精神をすり減らしながら、どうしようもない「宇宙的恐怖」に晒される、というのが基本コンセプトであり、怪物を退治するのではなく、怪物に恐怖するというホラー作品になっている。そのため、プレイヤーキャラクターの死亡率が非常に高く、ハラハラしながら「恐怖を楽しむ」ことが目的である。
システム
ゲームマスターのことは『キーパー』(KP)、プレイヤーキャラクターの事は『探索者』と呼ぶ。『ベーシック・ロールプレイング』と呼ばれるシステムが採用されており、それに基づく能力や技能の項目が設定されている。探索者の作成は、6面ダイスによる能力値の決定に加え、シナリオの舞台に合わせた職業の選択と、それに適する技能の習得によって行われる。
主な項目は以下の通り。能力値の幅は基本的に3〜18だが、INTとSIZは8〜18、EDUは6〜21となっている。
- STR:Strength(筋力) 力の強さ。主に力を使う場面や技能に影響。高ければ戦闘にダメージボーナスが付き、逆に低ければペナルティーが付く。
- DEX:Dexterity(敏捷) 器用さ、素早さ。繊細な作業や、逃走、追跡、戦闘時の順番などに影響。
- INT:Intelligence(知性) 聡明さ。習得できる技能に影響。また、高ければ様々な情報に気付きやすいが、このゲームに限っては、その世界観故に『気付いてはいけない』ことも多く、メリットだけではない。
- CON:Constitution(体力) タフさや健康状態。キャラクターの持久力に関わる。また、窒息したり、毒に侵されたときなどの抵抗力にも影響。
- APP:Appearance(外見) 見た目や印象の良さ。低くてもゲーム進行にそれほど影響はないが、キャラの設定やロールプレイに影響する。
- POW:Power(精神) 精神の強さ、魔術的な素養。このゲームにおいては最も重要な能力値の一つ。運やSAN値、MPの算出などに使われ、低いと非常に不利になる。
- SIZ:Size(体格) 身長や体重。高ければ戦闘にダメージボーナスが付き、逆に低ければペナルティーが付く。ロールプレイや設定にも影響。
- EDU:Education(教養) 教養の高さ、および学歴。基本的には就学年数を表す。技能習得に影響する。
- 年収・財産 文字通りキャラの年収と財産。主に探索者の職業選択やロールプレイに影響するが、場合によってはゲームの進行に関わることもある。ただし、職業学生の場合は別ルールがある。
これらの数値を基に、以下の能力も算出される。
- SAN:Sanity(正気) 本作最大の特徴。精神状態や正気の度合いを示す。POW×5で算出。ただしこれはあくまで初期値で、上限は99。いわば心の耐久値で、衝撃的な出来事や恐怖などを体験すると減少。0になればそのキャラは発狂し、ゲームオーバーとなる。短期間に大量に失えば、更なるデメリットが課される。しかし、回復手段は少ないため、基本的には減る一方である。通称SAN値。
- 耐久値 キャラクターの耐久値。CONとSIZの平均で算出。肉体的なダメージを受けると減少し、治療行為で回復する。上限の半分以上減少すれば気絶するかの判定が入り、残り2以下になると自動気絶。0以下で死亡し、ゲームオーバーとなる(ただし、その直後に1以上に回復させられれば助かる)。
- アイデア 直感力や理解力。INT×5で算出。高いと情報収集に有利でヒントを得やすいが、『どうしようもない事実に気付いてしまう』事によSAN値が減少する可能性もある。
- 幸運 運の良さ。POW×5で算出。高ければ思いがけない幸運に出会いやすくなる。シナリオや展開によっては、生死やクリアに関わる重要な数値である。
- MP:Magic Point(マジックポイント) ゲーム中で習得する魔術の使用に消費される。数値はPOWそのまま。SAN値やHPと異なり、時間経過で回復する。
- DB:Damage Bonus(ダメージボーナス) 戦闘時の追加ダメージ。STRとSIZの合計値を基に、専用の表から算出。合計値が高いほどボーナスが付くが、逆に低い場合はマイナスもあり得る。基本的に肉体が直接関係する近接技に影響。
INTとEDUの数字を基に技能値を決め、習得したい技能にポイントを振る。以下は特徴的な技能。
- 図書館
情報収集技能。図書館のような広大な情報量がある場所の中から必要なものを収集・処理できるかに関わる。このゲームでは最も重要な技能の一つ。
- 目星/聞き耳
両者共に探索に関する技能。成功すれば、周囲の異変やちょっとした変化、細かい仕掛けなどを「目星」は視覚的に、「聞き耳」は聴覚的に知覚し、正しく理解できる。
- 心理学
相手の心理状態を見抜く技能。成功すれば対象の心理状態、性格、発言の虚実などが分かる。ただし、ダイスはKPが振り、その結果は隠されたまま情報が渡されるため、PLには成否が分からない。そのため、中途半端に習得していると(=成否が予想しづらい状態だと)かえって混乱を招いてしまう。
- クトゥルフ神話
文字通りクトゥルフ神話に関する技能で、成功すれば超常現象や魔術、神話生物などの情報を、収集の過程を飛ばして簡単に手に入れることができる。非常に便利な反面、取得した分だけSAN値の上限が下がるというデメリットがある。キャラ作成時に習得する事は出来ず、シナリオ内の経験を通して上がっていく。
- 精神分析
精神状態を改善させる技能。狂気に陥った者の精神状態を回復させ、一時的に正気に戻す事が出来る。唯一SAN値を回復できる技能だが、回復量や使用できる条件には制限がある。
主な特徴
- プレイヤーは多少専門的な知識を持っている場合があるが、それでもあくまで一般人である。
- 一部を除き、基本的に正攻法で敵を倒す事は出来ない。その代わり、生き残るための何らかの対抗策や予防策は用意されており、いかにその情報を集め、正しく推測するかが重要になる。
- ルールに曖昧な部分が多く、ゲーム進行役であるKPの裁量権が大きい。
- 状況によっては、耐久値やSAN値以外の基本能力値が減少する場合がある。その場合、能力値のどれか1つでも0になると死亡する。
- とにかくキャラが死にやすいので、KPやシナリオによって程度の違いはあれ、軽率な行動をするとあっさり死亡する。
- 情報を正しく収集・処理し、用意された対処法が実行出来れば生き残る事は可能だが、だからといってハッピーエンドになるとは限らない。事件の黒幕が分からないままだったり、状況が全く解決しないまま終わったり、そもそもの結末に救いが全くなかったり、とクリアしたのにバッドエンドというケースも少なくない。