『ウォッチメン』(WATCHMEN)とは、アラン・ムーア原作、デイブ・ギボンズ作画によるアメリカンコミックス。
1986年から1987年まで、DCコミックから月刊誌として出版され(全12巻)、後にグラフィックノベルとして一冊にまとめられた。
概要
アメリカンコミックスを代表する傑作の一つ。
フランク・ミラーの『バットマン:ダークナイトリターンズ』とともに、それまで子供が読むものとされていたアメリカ漫画界への意識を変え、大人の読者を呼び戻した作品と言われている。
アメリカでもっとも権威ある漫画賞のカービー賞とアイズナー賞をともに受賞。
1988年、ヒューゴー賞特別部門を受賞。漫画作品としては唯一。
2005年、タイム誌の長編小説ベスト100に選出。
日本語版『WATCHMEN』は1998年にメディアワークスより発刊。
その後は絶版状態だったが、2009年2月28日に小学館プロダクションより再刊された
2008年、ザック・スナイダー監督による映画が制作。
全米公開は2009年3月6日、日本では3月28日に封切られた。
XBOX360用ゲーム『Watchmen The End Is Nigh』が存在する。
世界観
『ウォッチメン』の舞台は、スーパーヒーローの実在する近現代のアメリカである。
現実の歴史を色濃く反映しつつも、ヒーローの影響によって史実と異なっている部分があり、架空戦記としての側面を持つ。
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1938年、アメコミヒーロー黄金期。
現実のニューヨークで、フードをかぶった男が強盗を退治するという出来事が起こる。
彼はフーデッド・ジャスティスと呼ばれ、最初のヒーローとなった。
これを皮切りに、仮装した市民による自警活動が流行。ヒーローとして自警団を結成し、市民の治安を守っていた。
1959年、核物理学実験の事故により、DR.マンハッタンが誕生。
東西冷戦が続く中、マンハッタンはその超人的な能力により、"歩く核抑止力"として扱われる。
アメリカの国力は増大、同時にさまざまな科学技術をも発展させた。
1963年、ケネディ大統領が暗殺される。
裏ではヒーローの一人、コメディアンが暗躍していた。
1969年、ニクソンが大統領就任。
史実では1975年のウォーターゲート事件により辞任するが、作中でそれは起こらず、その後も任期をまっとうしている。
1971年、ベトナム戦争にDR.マンハッタンが介入。アメリカの勝利に終わる。
1977年、警察官たちが"ヒーローに仕事を荒らされる"と訴え、ストを敢行。ヒーローを危険視する世論が高まる。
無法地帯となった街では"But who will watch the watchmen?(しかし、誰が見張りを見張るのか?)"のスローガンを掲げた市民たちが暴動を起こした。
政府は自警活動を禁止するキーン条例を可決。それまで活動していたヒーローたちは引退に追い込まれた。
ある者は一般人としての生活に戻り、ある者は非合法の活動を続け、またある者は政府の諜報員となり暗躍した。
そして、1985年。
ニクソン大統領が五度目の任期を務めるアメリカは、アフガニスタン侵攻を進めるソ連と対立し、世界的な緊張が広まっている。
核戦争による世界滅亡を諦観する風潮が、国内を支配していた。
そんな中、一人の男が殺されるところから、この物語は始まる。
あらすじ
ニューヨークで一人の男が死んだ。
彼はエドワード・ブレイク。かつてコメディアンの名でヒーロー活動を行っていた人物だった。
キーン条例制定後も非合法の活動を続けていたロールシャッハは、これを何者かによる"ヒーロー狩り"と判断。
かつての仲間たちに警告して回る。
彼の予感が的中したかのように、DR.マンハッタンは社会的に抹殺され、オジマンディアスは暗殺者の襲撃を受ける。
そしてロールシャッハもまた、殺人の罪を着せられ、刑務所に投獄されてしまう。
東西冷戦の緊張下、世界終末時計の針は進む。
核戦争による世界滅亡の瞬間は、刻一刻と迫っていた。
登場人物
『ウォッチメン』の主要登場人物は、1980年代初頭のDCコミックスに登場したヒーローのパロディキャラクターになっている。
当初、原作者のムーアは既存のキャラクターをそのまま使うつもりでいたが、編集部の了解が得られなかったため、既存のヒーローを髣髴とさせるキャラクターを新たに創作した。
クライムバスターズ
1960年代、黄金期から見て第二世代のヒーローたちにより結成されたチーム。
原作ではキャプテン・メトロポリスが発起人となっている。
映画版では、そのまま「ウォッチメン」という名称に変更されている。
コメディアン/エドワード・モーガン・ブレイク
キーン条例制定後、政府の諜報員となることで活動を続けていたヒーロー。
ミニッツメンのころからヒーロー活動に参加していた、いわば"古株"でありながら、きわめて粗暴な人間で、ヒーローになった動機も自らの暴力衝動を満たすためであった。
太平洋戦争やベトナム戦争での活躍が認められ、政府に雇われるかたちで諜報員となった。
露悪的な振舞いが目立つ一方、神に許しを請う信心深さを持ち合わせる、二面性のある人物。
かつて初代シルクスペクター/サリーにレイプ未遂をしたことで、娘のローリーからは嫌われている。
諜報活動中、"笑えない冗談"を目撃してしまい、何者かに殺害される。
モデルとなったヒーローはピースメーカー。
ロールシャッハ/ウォルター・ジョゼフ・コバックス
キーン条例制定後、政府の警告を無視して非合法活動を続けているヒーロー。
本作の狂言回しで、主人公的存在。
"絶対に妥協しない"性格で、自らが悪と判断したものには情け容赦がない。尋問の際には相手の指を折るのが習慣。
それでもヒーローデビュー当時は比較的理性があり、ナイトオウル(二代目)とチームを組んで活動していたのだが、1975年に凶悪な誘拐犯と遭遇したことで完全にブチ切れてしまい、85年に至るまで周囲からは狂人と見られている。
普段は右翼系雑誌を愛読する無職の中年男。
娼婦の母親に育てられた幼少期の体験がトラウマになっており、性的なもの全般を嫌う一方、子供には優しく接する。
コメディアンの死の真相を追ううち、衝撃の真相にたどり着く。
モデルとなったヒーローはクエスチョン。
DR.マンハッタン/ジョナサン・オスターマン/"ジョン"
キーン条例制定後も、政府にその存在を認可されていた超人。
その正体は、核実験の偶然により変貌した科学者であり、『ウォッチメン』作中世界で超能力を持つ唯一の存在とされている。
あらゆる原子を操作でき、物体をワープさせるほか、自身も巨大化したり分身したり、過去・現在・未来を同時に見通すこともできたりと、とてつもない力を持つ。
国内からは"歩く核抑止力"と呼ばれる一方、ソ連からは"西の脅威"とみなされ、東西冷戦の緊張を加速させている。
マンハッタンと化してから、次第にジョンとしての人間性を消失しており、長年交際していた恋人をあっさり捨ててしまったりする。その後、ローリーと付き合い始めたものの、85年時点では破局しかかっている。
モデルとなったヒーローはキャプテンアトム。
ナイトオウル(二代目)/ダニエル・ドライバーグ/"ダン"
キーン条例制定後、ヒーローを引退した男。
初代ナイトオウルに憧れて弟子入りし、二代目を襲名。自らの発明した科学兵器で悪と戦った。その言動は自分の趣味に没頭するオタクそのものである。
ロールシャッハにとっては唯一の友人で、留守中に押し入って食べ物を強奪する程度には仲がいい。クライムバスターズ時代にはコンビでギャングを壊滅させるなど活躍したが、ロールシャッハの暴走とダンの引退により、道をたがえた。
昔使っていたヒーロースーツや飛行艇は地下倉庫で眠っている。
モデルとなったヒーローはブルービートル。
オジマンディアス/エイドリアン・ヴェイト
キーン条例が制定するよりも前に、市民に正体を明かし、実業家となった男。
"世界一かしこい"とまで言われる天才的な頭脳を持つ、エリート中のエリート。精神力の鍛錬によって、人類の持つ能力をフルに活用できる。
DR.マンハッタンの能力を応用してさまざまな新技術を開発、アメリカに売り出し、自らが運営するヴェイト社を世界的大企業にまで発展させた。
85年時点では、マンハッタンとともに無公害エネルギーの開発に着手。計画は南極基地で進んでいる。
尊敬する人物はラムセス二世で、ブバスティスというエジプト神話を模したペットを飼っていたり、基地がピラミッドの形状をしていたりと、随所に影響が見られる。
モデルとなったヒーローはサンダーボルト。
シルクスペクター(二代目)/ローレル・ジェーン・ジュスペクツィク/"ローリー"
キーン条例制定により引退した元スーパーヒロイン。
母親の初代シルクスペクター/サリーからヒロインとしての英才教育を受けていたが、当人は"親から押し付けられた"と感じており、引退を選んだのも自然の成り行きだった。
DR.マンハッタン/ジョンと同棲しているが、次第に人間性を喪失していくジョンに耐え切れず、仲は悪化。その後、気遣いのできるダンに心惹かれていく。
モデルはキャプテンアトムの恋人ナイトシェイド。
ミニッツメン
1939年に結成した世界初のヒーローチーム。
諸事情により、49年解散。
ナイトオウル(初代)/ホリス・メイソン
39年にデビューした第一世代のヒーロー。
もともと正義感の強い警察官であったが、フーデッド・ジャスティスに影響されてヒーローに転身した。
二代目ナイトオウルのデビューとともに引退。その後、自伝『仮面の下で』を出版している。
85年時点でも存命で、自動車整備工を営んでいる。二代目ナイトオウル/ダンやサリーと思い出を語らうのが、老後に残された趣味。
シルクスペクター(初代)/サリー・ジュピター
39年にデビューした第一世代のヒロイン。
セクシーな衣装は当時のアメリカのセックスシンボルとなり、以後も根強い人気がある。
47年、結婚を機に引退。娘のローリーに後を継がせようと、英才教育をほどこしたが、ローリー当人はこれに反発を抱えていた。
加えて、彼女を手篭めにしようとしたはずのコメディアン/ブレイクを"憎めない"と語っており、これを快く思わないローリーとの間に不和が生じ、母子の仲は芳しくない。
他のメンバーにフーデッド・ジャスティス、キャプテン・メトロポリス、ダラー・ビル、モスマン、シルエット、そしてコメディアンがいる。
その他
モーロック/エドガー・ウィリアム・ジャコビ
手品のトリックを使った派手な犯罪を巻き起こし、ミニッツメンの宿敵として幾度となく戦いを繰り広げた。
だが、やがて詐欺や売春の斡旋などを行う並の犯罪者になり、60年に逮捕。出所後は改心して、ピラミッド宅配社に勤務した。
85年時点では退職し、末期癌と戦いながら、小さなアパートで年金暮らしをしている。
コメディアンの関係者として聞き込みに来たロールシャッハに、意外な事実を語る。
ビッグフィギュア
かつて大物ギャングだった男。
65年にロールシャッハとナイトオウル(二代目)の活躍によって逮捕され、終身刑を言い渡される。
刑務所内でロールシャッハへの復讐の機会を虎視眈々と待っていた。
映画『ウォッチメン』
ザック・スナイダー監督。
ワーナーブラザーズ制作・配給。
2008年製作。
全米公開は2009年3月6日。
映倫によりR-15指定を受けている。
映像的には原作を忠実に再現しているが、設定には微妙な違いがある。
ハリウッド映画らしく、アクションシーンが多く追加されているのが特徴。
また、ラストの仕掛けが違ったものに変更されている。
役 | キャスト | 日本語吹き替え |
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コメディアン | ジェフリー・ディーン・モーガン | 土師孝也 |
ロールシャッハ | ジャッキー・アール・ヘイリー | 山路和弘 |
DR.マンハッタン | ビリー・クラダップ | 藤原啓治 |
ナイトオウル(二代目) | パトリック・ウィルソン | 咲野俊介 |
オジマンディアス | マシュー・グッド | 飛田展男 |
シルクスペクター(二代目) | マリン・アッカーマン | 甲斐田裕子 |
シルクスペクター(初代) | カーラ・グギノ | 高乃麗 |
アメリカではディレクターズカット版のブルーレイ/DVDが発売されているが、日本での発売予定はない。
ゲーム『Watchmen The End Is Nigh』
[nicovideo:sm6761068]
XBOX360用ソフト。日本では未発売。
クライムバスターズ時代のロールシャッハとナイトオウル(二代目)がウォーターゲート事件に迫る一作目と、キーン条例制定直前の両者の決別が描かれる"part2"が存在する。
日本のファンによりデモシーンの和訳が公開されている。
関連動画
勧善懲悪な全年齢向け『ウォッチメン』というジョークムービー。
もともと『ウォッチメン』の映画化権は20世紀FOXが握っていたのだが、制作が難航すると権利を売却。
権利はワーナーブラザーズの手に渡ったのだが、映画制作が進行すると20世紀FOXは参加を要請し、訴訟を起こした。
それに対し"20世紀FOXが制作していたらごらんの有様になっていただろうよ!"という皮肉を込めて公開されたのが、このアニメである。