遠くから、かすかに聞こえてくる。自分の指が、筐体のボタンを連打する音。
角川書店・電撃文庫より刊行されているタイトル。作者は岩沢藍。文庫版のイラストはMikaPikazoが、特集サイトに掲載されている紹介4コマはきんぎんが担当している。第23回電撃小説大賞・銀賞受賞作。
自身も女児向けアイドルアーケードゲームに親しむ作者によって描かれる、男子高校生と女子小学生の、「可愛い」に懸ける情熱が迸る一風変わった激レアラブコメ。
ストーリー
『キラプリ』――それはアイドルを志す少女たちの、友情の軌跡を描いた女児向けのメディアミックス作品。アニメと連動する形で稼働しているアーケードゲームもその一環であり、可愛らしいアバターに、豊富なアイテムを自由にコーディネートできる充実のファッション要素、隠し難易度が仕込まれたリズムゲームとしてのやり込み甲斐など、その在り様はユーザーとして想定されている女児のみならず、多くの年長者までも虜にする。特に、ファンシーな筐体に似つかわしくない男性プレイヤーたちは、いつしか「キラプリおじさん」と称されるようになった。一方で、世間から白眼視されることに自覚的な紳士的キラプリおじさんたちの間では、本来のユーザーであるところの女児を、「幼女先輩」の敬称を以って尊重することが是とされるようになる。
アーケード版『キラプリ』稼働開始より約9ヶ月、とある若きキラプリおじさんがうっかり無礼を働いてしまったのは、そのように呼ぶには少し大人びた、小学生の幼女先輩だった。
第1巻
山口県は本州最西端の街・下関の某所。田畑に囲まれた大型スーパー「マルワ」の一角を占めるゲームコーナー「わくわくらんど」に設置されているたった一台の筐体で、市内トップランカーとして君臨していたキラプリおじさんの一人、高校生の黒崎翔吾はある日、自分のハイスコアが、おそろしく可愛いアバターによって塗り替えられているのを目の当たりにする。
首位奪還のため筐体にかじりつく彼の前に現れたのは、東京から引っ越してきた幼女先輩――アバターの主であるキラプリ廃人・新島千鶴だった。折合いの悪いソロプレイヤー二人が筐体を巡って対立する中、クリスマスシーズンの到来に伴って始まったゲーム内イベントは、さらなる苦難を突きつける。
『おともだちときょうりょくして、げんていコーデをゲットしてね!』
現実の友人関係を疎かにしてきた翔吾と、移住してきたばかりの千鶴をまとめて突き放すかのような協力プレイの導入。イベント終了まで3日、二人に勝機はあるのか――。
登場人物
黒崎翔吾 (くろさき しょうご)
キラプリ歴半年の高校2年生。熱中するもののない中で出会ったキラプリに不思議と惹きつけられ、努力の分だけ可愛くなっていくアイドルの姿に魅了されていく。現在では女性ファッション誌を読み漁り、暇さえあればリズム感覚を鍛える日々を送っており、プレイ費用のために港で荷下ろしのバイトに精を出している。腕立て100回×3セットと運指練習2時間が日課。小1から中3まで剣道をやっていたため、フィジカル面はそこそこ優秀。少々口下手なため、気持ちを伝えるのが苦手で、大事な話を性急に進めようとする癖も。
田舎ゆえのプレイ人口の少なさに慣れきっていたため、地域トップの座を奪われるという事態は青天の霹靂であり、首位奪還に目が眩んで複数回の連コインに及んだことから、順番待ちをしていた千鶴の怒りを買ってしまう。
メインアバターは〈みゆ〉。アイドルレベルは89、全国ハイスコアランキング52位。初心を貫き〈みゆ〉に「似合う」コーディネートを追求した結果、主力に選んだ低レアリティのアイテムを上限いっぱいまで強化し、タイプ統一によるボーナスを得ている他、楽曲中に存在する連打ゾーンでは痙攣連打を用いてスコアを稼いでいる。
新島千鶴 (にいじま ちづる)
はるばる大都会・東京から下関へと引っ越してきた、私立小に通う5年生。かなりの人見知りで、普段なら初対面の相手とは会話にも苦労する……のだが、初めて会った翔吾の眼前でのマナー違反に業を煮やして以降、豊富な語彙や防犯ブザーを駆使して不敵かつ高圧的な態度をとり続けている。店舗首位から蹴落とした翔吾を「2位」呼ばわりしつつ、不本意ながらも彼から『キラプリ』過疎地での生き方を学ぶことに。邸宅住まいで、家庭環境は訳ありらしい。
ゲーム版『キラプリ』が月に一度開催するイベントを第1回から経験している筋金入りのプレイヤーであり、当たり前のように隠し難易度を完走する廃人。目指すところは全国1位。獲得したアイテムカードを納めたデッキケースは鈍器と化している。初めて触る筐体の前に座ると、とりあえずランキングを塗り替えたがる好戦的な性質を覗かせるドS。
メインアバターは〈ちづる〉。アイドルレベルは92、全国ハイスコアランキングは21位と、(限定的に)尊大な態度に見合った実力者。膨大な数のカードと、アイテムタイプに囚われない抜群のセンスで変幻自在に〈ちづる〉を彩り、度外視しているスコア効率を補って余りある精密機械のような指捌きと必殺のピアノ連打で安定した高スコアを叩き出す化け物。リズム感の鬼だが、リコーダーはド下手。
行橋夏希 (ゆくはし なつき)
近所の剣道場に毎日通っている快活な少女。翔吾と同い年で、家が隣の幼馴染み。半年の間にすっかり女児向けのゲームを生活の軸に据えてしまった翔吾に構い倒す数少ない友達。元気に振る舞う裏では、同級生の名前もろくに覚えていない翔吾を心底案じており、彼がクラスに馴染む機会があれば甲斐甲斐しく気を回している。雑誌といったら『剣道時代>』一択だが、翔吾がキラプリ特訓用に改造した納屋に襲来してファッション誌を検閲したりもする。伊達に鍛えておらず、華奢な体に馬鹿力を秘めた健康優良児。ぬいぐるみとパンダが好き。
客観的に見ればじゅうぶん美人の部類で、異性から告白されたことも一度や二度ではない。
白川芽衣 (しらかわ めい)
クラスの引っ込み思案な女子で、夏希の親友。休み時間には文庫本を開いている。席の近い翔吾もよく「読書」している様子に興味を抱いたことから、腹を括った翔吾に『キラプリ』の件をカミングアウトされた最初のクラスメイト。
清盛 (きよもり)
博多のアイドルグループに入れあげている、爆発アフロのハイテンションなクラスメイト。「ゆみりん」推し。電車賃を浮かせるために博多までの道程を自転車で走破する猛者。ある一件から翔吾に恩を感じ、『キラプリ』のプレイにも意欲を見せるようになる。
會田夕美 (かいだ ゆみ)
店を半ば私物化しているわくわくらんどのバイト従業員。間延びした口調で話す、スタイル抜群のゆるふわな19歳。「1000年に二人目の美少女」のキャッチコピーを引っ提げ、関門海峡の向こうの博多でアイドルグループの一員として活動中。バイト先が地味なせいかファンの一人もやって来ない。可愛い女の子が大好きで、初対面の千鶴に速攻でセクハラをかますツワモノ。
関連タグ
キラキラ☆プリキュアアラモード / 言わずと知れた日曜朝の伝説の戦士(12代目)。略称として「キラプリ」が浸透しているため、本作については「おじさん」ないし「幼女先輩」等の語を併用して検索するとよい。