概要
アメリカ軍は9mm弾の威力に問題を感じ威力の高い.45ACP弾を使うサブマシンガン開発計画が軍内部で持ち上がった。
しかし.45ACP弾による高い反動の問題が発生、そこでスイスに本拠をおくTDI社とピカティニー造兵廠の共同開発が始まり、そこで誕生したのがKriss Super V Systemという反動吸収システムである。
そしてその反動吸収システムを組み込んで誕生したのがTDI ヴェクターである。
銃本体はMAGPULにより設計。
グリップ部などにマグプル製品の特徴が残っており、グリップ内に収める工具やバッテリーを入れるケースなど、MIADやMOE用オプションの一部の流用が可能。
固定ストックモデルではストックをアダプタへと変更することでAR-15用のストックを用いたものも登場しており、マグプルのUBRストックを搭載したものもある。
SDPモデルは短銃身モデルを拳銃扱いとするためにストック部分がスリングアダプタのみが付いた部品へと変更されているが、一部の地域ではスタビライジング・ブレース(腕を固定して支えるための部品)を付ける事で拳銃扱いのままAR-15用ストック取り付け用アダプタが付いたSDPモデルが売られている。
使用弾は.45ACPなど。
.45ACP口径モデルではマガジンはグロック21の物が使えるとあって便利となっている。
既に.45ACP用のマガジンがあるのなら延長用の部品を取り付けることでロングマガジンへの変更も可能。
延長用部品を用いることで既存のハンドガン用マガジンをロングマガジンへと変更できるというのはグロックを採用済みの公的機関においてはわざわざヴェクター用にマガジンを買う必要はないため、調達費の削減にも寄与する。
Gen2では9mmx19モデルが登場、ロアフレームを入れ替えることで旧モデルも口径への変更が可能。
9mm口径モデルではマガジンはグロック17の9mm用ミドルサイズ以上のマガジンが使用できる為、マグプル等が販売する互換マガジンやグロック18向けのロングマガジン、ドラムマガジン等の使用が出来る。
これ以降も10mmAutoや.40S&W、.357SIG、9x21mmといった弾が使用できるバリエーションが増えており、マガジンもそれぞれグロックの20、22、31、17のものが流用できる。
また、ポリマー外装であることを活かし、黒以外の白やタン、ODなどのカラーバリエーションも登場している。
TDI社がクリスアームズに名を改め、現在のKRISS VECTORという名称になった。
2012年末に発売したガスブローバックモデルのエアソフトガンは図面提供を受けたオフィシャルモデルであり、日本ではKSCが、アメリカではKWAが、それ以外の地域ではクリスアームズがトレーニング用ウエポンとして販売を行っていた。
2013年4月、クリスアームズとKWAとの排他的商標のライセンス契約は終了し、エアソフトガン版ヴェクターの販売は終了した。
2015年末にはクリスアームズのエアソフトガン及びトレーニング部門であるKRYTACから電動モデルが登場、日本ではKRYTACの代理店であるライラクスから販売。こちらはガスブローバック版とは異なりGen2モデルとなっている。
トミーテックから発売されるリトルアーモリー LA029 クリスベクターSMG、LA035 クリスベクターCRBはライラクス経由でライセンスを取得した模型となっており、2017年1月にラスベガスで行なわれたショットショーではLA029のサンプル品が展示された。
ライトやレーザーサイトなどを内蔵する部分がレールとなり、外装の簡略化と軽量化がされているK10が現在開発中。
また.22LRモデルの開発も進められている。
Kriss Super V System
一般的な機関部・薬室配置の銃砲は銃身やボルトなど反動の発生位置が手より高いところにあり、またそれらが後方に向かって力を加えるため、グリップや手首を支点にして銃身の跳ね上がりが起きる。
Kriss Super V System(以下KSVS)と呼ばれる独自の装填機構はボルトが斜め後に沈み込むように後退し、これに押されてリコイルスプリングガイドとボルトロックを兼ねたウェイトが下方向へと稼働して、銃身の跳ね上がりを打ち消すような「反動」を生む。
これは後方への力が支持位置との捩れによって銃口を上向きにさせる通常の反動と比べて、純粋に下方向に引く力であるため制御がしやすい。
ベクターはさらに銃身位置を下げて力点を支点(グリップ)と同線上に置くことで徹底的に跳ね上がりを押さえる構造となっている。
なお、従来の機関配置では反動と銃身の跳ね上がりは密接に関連していたためこれらは混同され、「反動抑制には効果がない」とも言われるが、少なくともクリス・ベクターに関してはKSVSが通常の射撃感覚における「反動」に対してこれを抑制するように働くことはない。(強いて言えばボルトの一部が下向きに動く分だけ後方への反動が減っている)
KSVSを前方にウェイトを稼働させて反動抑制に用いる設計とした「KARD」という拳銃もクリス社において開発されてはいたが、最初期モデルの発表以後影を潜めており、純粋な反動抑制機構としての期待は薄い模様。(なおKSVS搭載と銘打ってはいるが、構造は発想を同じくする程度のもの)
またボルトの後退方向を任意に変えられるため銃の全長を短縮することも出来、こちらの面でも期待されている。こういった面ではKSVSはSMGのような歩兵火器だけでなく機関砲のような搭載用重火器にも恩恵があるため、重火器へのシステムの搭載研究も行なわれている。(小銃弾等の大口径モデルの開発は中止となっている)
ちなみに真偽は不明だが、「Kriss Super V System」の「V」はこの独特なボルト動作によって起きる排莢不良を解決するために用いた板バネの形状からだと言われている。
データ(KRISS Vector Gen1 SMG .45ACP)
全長 | 406mm(617mm) |
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銃身長 | 140mm |
重量 | 2.54kg |
口径 | .45ACP |
装弾数 | 13/17/30+1発 |
バリエーション
- Vector CRB .45ACP:セミオートオンリー長銃身の民間向けカービンモデル
- Vector SBR .45ACP:クラス3ライセンスが必要な短銃身の民間向けカービンモデル
- Vector SDP .45ACP:ストックレス、短銃身モデル
- Vector SMG .45ACP:セレクティブファイア搭載のSMGモデル
- KWA(KSC) Vector SMG:トレーニングウェポン用エアソフトガン
- Gen2:基本的な構造は変わっていないが、口径の追加、バレル上部のライトマウントの除去、ストックの取り外しを容易にするなどの変更が加えられた。