概要
本名はアンドレイ・ロマノヴィチ・チカチーロ。ウクライナ生まれの連続殺人者。
ロストフの殺し屋、赤い切り裂き魔などの呼び名で知られる。
人並みの知性と性欲を持っていたが、重度の勃起不全に悩まされており、それから来る対人コミュニケーションの不得手さにより仕事、家庭生活ともに破綻状態にあった。パラノイアを募らせるなかで殺人を犯し、その過程で激しい暴行を加えながら殺すことで勃起、射精する異常性癖に気付いて以降惨殺行為に病み付きになってしまった。
チカチーロの犯行手順は極めてシンプルで、駅や列車などで声をかけ、おびき出して殺害、しばしば射精をし、犠牲者の肉をその場で切り取って食べたりすることもあったという。
このように現場に多くの証拠を残すようなことをしながらも犠牲者は52人、犯行期間は14年に及んだ。
というのも、当時ソ連では「社会主義に連続殺人は起きない」とされていたために捜査当局に連続殺人事件という概念がなく、一連の殺人事件を同一犯のものとみなすことがなかったためである。その上末端警官は捜査よりも日々悪化するばかりの経済状況下で食糧と賄賂の確保に精を出す体たらくぶりで、記録はほかの先進国がコンピューター管理を始めていたのに対しいまだにすべて手書きで、責任を恐れた担当者が簡単に隠蔽できる環境にあった。
また、彼の「トルカチ」という国営工場の資材調達部門の中級幹部職である上級技師というソ連全土を往来するという仕事柄、ソ連全土を何の疑いも持たれず行き来できるために、犯行がソ連全土を舞台に長期間にわたって行われることになる。
加えて、チカチーロは極めて運にも恵まれていた。彼は精液と血液の方が一致しない100万人に1人の男で、当時の科学では常識外の体質の持ち主であったために不審者として勾留されても、血液検査によりシロと出てすぐに釈放されたのである。
しかし、チカチーロがモスクワ近郊で起こした殺人事件をまるで解決できない警察の無能ぶりに業を煮やしたKGBが捜査に介入してから状況は一変した。女性職員に娼婦や浮浪者の格好をさせて張り込みさせるなどの大規模な捜査のかいもあり、チカチーロの出張履歴と殺人事件の日時と現場がどれも一致したことから逮捕にこぎつけることに成功したのである。
逮捕後法廷では頑丈な鉄格子に入れられていたが、これは彼が暴れだすのを止めるためではなく、家族を手にかけられた遺族から彼を守るための措置だった。
実際法廷は罵声と怒号が飛び交い、精神異常を装って刑を逃れようとするチカチーロ、犯行内容を聴いて気絶しそうになり医師の介助で気を取り直す遺族、チカチーロを殺害しようと襲う男性と取り押さえようとする警備員、男性を守ろうとする聴衆者による激しいやり取りが連日起きていた。
無論そのような茶番でチカチーロに下された死刑は覆ることはなく、銃殺刑に処された。不幸なことに、息子は父の幻影から逃れることができず父同様殺人を犯して刑務所に服役したことがある。