アーサー・リンチ
あーさーりんち
概要
元自由惑星同盟の軍人で、ヤン・ウェンリーの上司でもあった人物。
イゼルローン回廊に近い同盟領・エル・ファシルに駐留していた部隊の指揮官で、当時、少将。
軍事的才能も水準以上の能力があり、人望もあった軍人だったが、侵攻してきた帝国の大軍を迎え撃つことなく逃亡、多くの民間人と一部の軍人はエル・ファシルに取り残されることとなった。
しかし、リンチの逃亡はむしろ帝国軍を同盟の逃亡軍へと呼び寄せることとなり、取り残された民間人たちに逃亡のチャンスを与えることとなった。このとき、逃亡の指揮を執ったのが彼が見捨てた士官の一人でそれによって名声を浴びることになった『エル・ファシルの英雄』ヤン・ウェンリー(当時中尉)である。
結果、リンチは銀河帝国に囚われた上にその醜態が同盟にも知れ渡って妻子は世間から白い目で見られ、事実上の離婚となる。捕虜収容所でも他の捕虜達から「民間人を見捨てた」と白い目で見られることとなり、Die Neue Theseでは『エル・ファシルの英雄』と呼ばれる様になったヤンとは対照的にその醜態を指して帝国軍にさえも『エル・ファシルの卑怯者』とまで呼ばれて侮蔑されていた。
帝国暦488年、リップシュタット戦役直前に行われた捕虜交換まで留め置かれた。捕虜交換前、リンチは帝国軍宇宙艦隊司令長官・ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥と会見、門閥貴族との戦いを念頭に置くラインハルトは同盟が漁夫の利を得ないよう、同盟にクーデターを起こさせることを画策、”帝国軍少将”の位を恩賞として与えることを約束すると、作戦計画書をリンチに渡した。落ちぶれ、自暴自棄になって酒浸りになった上、自分達を囮にして逃亡したヤンを逆恨みするという底なし沼に陥ったリンチはラインハルトからこの期に及んで命を惜しむ醜態を「その時は死んでしまえ」と吐き捨てた。それに触発され、リンチは自分の醜態を認めて最後まで徹底的に恥知らずに生きると決めて、ラインハルトの案に乗った。
惑星ハイネセン帰還後、リンチは腐敗したトリューニヒト政権に不満をもつ軍部と接触、査閲部長ドワイト・グリーンヒル大将、第11艦隊司令ルグランジュ中将、アンドリュー・フォーク准将、エバンス大佐、クリスチアン大佐らの賛同を得、「救国軍事会議」を結成、前述のラインハルトの計画書に基づいたクーデター計画のおぜん立てを行った。
クーデターは統合作戦本部長クブルスリー大将をフォークが暗殺未遂したことに始まり、叛乱軍はイゼルローン要塞以外の同盟の要衝を次々に攻略、全権をほぼ掌握した。
この間、「救国軍事会議」に反対する集会がジェシカ・エドワーズの主導により開かれると、当初は静観していた叛乱軍も激高したクリスチアンがジェシカを撲殺、これが契機となって叛乱軍は市民を武力鎮圧、「救国軍事会議」の求心力は失われることとなる。
一方、門閥貴族に手を貸して共倒れにすることを考えていたヤンは、クーデター発生後にバグダッシュの身柄を拘束し「救国軍事会議」に反対することを表明、惑星ハイネセンに向かって侵攻をはじめた。「救国軍事会議」は唯一の機動戦力である第11艦隊を派遣するが、ドーリア星域海戦でヤン艦隊に敗れる。
唯一の実働部隊を失い、スタジアムの虐殺事件で求心力を失った「救国軍事会議」は敗北を受けいれることを決断した。ここでクーデター勃発後ただ静観していたリンチが、クーデターの黒幕が「帝国の野心家(ラインハルト)」であることを暴露、「自分たちが正しいと思っていたおまえたちが、帝国の野心家の手のひらで滑稽に踊っているだけだと知らしめて、破滅するのを見たかった」と言い放った。
事実を知らされたグリーンヒル大将は激高するがリンチにより射殺、その直後、リンチは「救国軍事会議」のメンバーたちによって射殺された。
「わからんのか。俺はグリーンヒルの名誉を守ったのだぞ…」
死の間際、リンチはこう語っている。
ラインハルトが用意した作戦計画書は「救国軍事会議」メンバーの手によって焼却されたという。
「救国軍事会議」の敗北後、軍部はトリューヒト閥が牛耳るようになり、反トリューニヒト閥に属するクブルスリーは現役復帰後まもなく退役、僻地の司令官であるヤン・ウェンリーもクーデターを防ぐことができなかった宇宙艦隊司令長官・アレクサンドル・ビュコック大将も著しく発言力を減退させることとなった。