解説
『月光条例』の最終章における最大の敵。
月の向こう側にあるとされる異世界「月の王国」(つきのししゃ、月の客とも言われる)の王。
月の王国は、絶対的な身分制度と、小さな嘘でさえ重罪となる「正しい真実」主義の国であり、オオイミはその頂点に君臨する。
約千年前、カグヤ・スズアカ・アナニエという下級民の少女を見初めて婚約者に選ぶが、彼女が両親の命を救うために小さな嘘をついたことから、「王の婚約者といえど、平等に扱わねば」と、刑期千年の流刑に処した。
流刑地は、地球の日本。
そこでカグヤは、赤ん坊として竹から出現し、現地住民に育てられ、一定の年齢に達するとまた赤ん坊として竹から出現するという輪廻転生を繰り返すようになった。
現代における最後の転生にて、カグヤはエンゲキブと呼ばれる少女となった。
オオイミは千年間、異世界と現実世界(地球のある世界)を繋ぐトンネルから、彼女を監視していた。
やがて千年の刑期が終わろうとする現代、オオイミは部下の「ナナツルギ」を派遣し、エンゲキブを連れ戻す準備をする。
だが、月光たちは、ひそかに月の王国に侵入。そこで、エンゲキブの本当の両親に出会い、エンゲキブが処刑された理由とその真の目的を知る。
その真の目的とは、枯渇しつつある「青い月の光」(月の民にとって唯一の栄養源であり、月打を引き起こす青い光そのもの)の代わりに、エンゲキブに千年間太陽の光を浴びさせてエネルギーを蓄積させたのち、彼女を物言わぬ「電池」として月の民の栄養源にさせようというものであった。まさに外道。
さらに、エンゲキブが流刑中に別の女性を婚約者→妃にしており、エンゲキブとの婚約は勝手に解消されていた。
加えて、地球のおとぎばなしに愛着を持っていたエンゲキブに対し、素直に月に帰ればおとぎばなしに干渉しないという約束をしていたが、そんな約束はさらさら守る気はなかった。
なぜなら、おとぎばなしとは、月の王国が禁忌とする「嘘」であるとともに、読み手〈ニンゲン〉が月打を受けて〈作者〉となって作った、いわば月の王国の副産物であり、月の王国にとっては汚点とも言うべき存在だからである。
刑期が終わる日、オオイミは大軍隊を連れて地球へ襲来。
目的は2つ。
1つはエンゲキブの奪還。
もう1つは全「おとぎばなし」の消滅。
オオイミはおとぎばなし消滅を優先したが、月光の奇策によりキャラクターたちは雪の結晶に変えられ、北極に無理やり避難させられていた。
怒ったオオイミは標的を、おとぎばなし以外の物語--小説、漫画、アニメ、ゲーム、ドラマ、映画に変更した。
それを知ったおとぎばなしのキャラクターたちは、北極を無理やり夜にし、月の民が通ってきたゲートから降り注ぐ青き月の光を浴びて、自ら月打された。
物語の世界で部下たちがキャラクターに敗北したことで、目的をエンゲキブ奪還に一本化。
そして、部隊の中心にいる自分のもとへ、月光を自ら招き入れた。
オオイミは、嘘を禁忌とする月の王にもかかわらず、実は物語に憧れを抱いていた。
特に、ヒーローが悪を倒す勧善懲悪ものに傾倒しており、自らをヒロイン(=エンゲキブ)を守るヒーロー、月光をヒロインを奪おうとするヴィランに見立て、彼を打倒しようとしていた。
月光と相対したオオイミは、地球の物語のヒーローの必殺技の名前を叫びながら攻撃(なお、ポーズや効果は原作準拠ではない)。
さらに月光に対して、お前もヒーローのように行動するが、最終的にはヒロインを助けられないデクノボーだと罵る。
だが、デクノボーという言葉は月光にとって罵倒ではなく、かつて自分を導いてくれた恩人が自分を指して言った、いわば「ヒーローの称号」である。
恩人から学んだこと、ハチカヅキの助力、エンゲキブへの想いを背負った月光に、ついにオオイミは敗北する。
最後の悪あがきとして、オオイミはエンゲキブを連れて月に帰ろうとするが、月光がエンゲキブを奪い返して地球に投げ、月と地球を繋ぐゲートが閉じたため、それは叶わなかった。
性格
地球人やおとぎばなしを格下扱いする月の民の王らしく、およそ人の心と言うものを持ち合わせていない、傲慢な人物。
加えて、嘘を禁忌とする国の王でありながら、エンゲキブに対して「おとぎばなし」を滅ぼさないと、平気で嘘をつく。
生まれながらに王族としてどんなことも叶えてもらってきたため、命やものの大切さがわからない上、「自分は頂点に立つ存在」という驕りがあり、エンゲキブを始めとする部下は自分の所有物でどのように扱っても良いと考えており、進言した部下に対して、「不敬」として、躊躇いなく殺害する冷徹さもある。
月光との「ヒーローごっこ」に加勢しようとした部下に対しては、「ヒーローは一人で戦うものだ」として、即座に首をはねた。
先述の通り、地球の物語のヒーローに憧れを抱いており、月光が現れたことで、自分もヒーローになったと嬉しがった。
だが、ヒーローは敵を倒すからヒーローなのではなく、大切な人や守るべき人々を守ることが必要なことは全く理解しなかった。
一方で、エンゲキブを流刑にした後に結婚したお妃に対しては愛情を注いでいたようで、科学者が提案する人工の「青い月光」を却下してエンゲキブを奪還することに固執したのも、エンゲキブを「電池」として使わなければ、彼女を失ってしまうからというのもあったようだ。