概要
『うしおととら』・『からくりサーカス』に続く藤田和日郎の連載作品。『週刊少年サンデー』(小学館)にて2008年17号から2014年19号まで連載。単行本は全29巻。前段は一話完結から数話完結形式の構成。10巻-20巻で『アラビアンナイト』編、21巻-最終巻で『かぐや姫』編が繰り広げられる。
おとぎばなしを題材にした作品で、前作よりもグロテスクな表現は抑えられている(ただし物語終盤ではその限りではない)。
物語(とりわけ悲劇)の存在意義を問うメタフィクションに、スターシステムを絡めた構成、さらには失われていく物語を描き出す際の斬新な手法などが、漫画表現に新たな可能性を切り開いた作品としても知られている。
ストーリー
何十年かに一度、真っ青な月の光が地上に降り注ぐと「おとぎばなし」の世界がおかしくなる。
「おとぎばなし」の長老たちが「青き月光でねじれた『おとぎばなし』は猛き月光で正されねばならない」という条文の下、おかしくなった「おとぎばなし」を正すため制定した法律が「月光条例」である。
「おとぎばなし」がおかしくなると「月光条例」の使者である「鉢かづき姫(ハチカヅキ)」は「〈読み手〉」の世界に助けを求めやってくる。
偶然「月光条例」の極印が刻まれ執行者となった岩崎月光は、おかしくなってしまった「おとぎばなし」を正すための戦いを始めることになった。
登場人物
主要キャラクター
読み手界の住人
- 藤木裕美:「聞き耳ずきん」の事件で月光に助けられた女子高生。
- 高木天道:月光の悪友で、エンゲキブの元彼の一人。走り屋。
- 岩崎徳三:ラーメン屋を営む、月光の養父(養祖父)。妻・節子は月光が中学生の頃に亡くなっている。
おとぎばなしのキャラクター達
- 赤ずきん(月光条例)
- シンデレラ(月光条例)
- 一寸法師:姫君が月打された事件をきっかけに、月光たちと行動を共にすることになる。
- 桃太郎:自身が月打された日本一有名なキャラクター。以前の月打事件の際にハチカヅキに救われ、彼女を好きになる。
長老会
- はだかの王様
- 『白雪姫』の継母
- みにくいアヒルの子
- 花咲じじい
- 『三枚のお札』の和尚
- 親指姫
- 傘地蔵
- 『シンデレラ』の仙女
- 絵姿女房
月神(ツクヨミ)
- 平賀帯刀 / 斉天大聖そんごくう:月神を統括する本部長を務める。普段は眼鏡をかけた男性の姿になっている。
- イデヤ・ペロー 『長靴をはいた猫』:月神の一員であり、トショイインのパートナー。普段はイケメンアイドル「イデヤ」として活動している。
- 金太郎
- ラプンツェル
- 『三枚のお札』の小僧
- 『赤い靴』のカーレン
- 『ガリバー旅行記』のガリバー
- 『鶴の恩返し』のおつる
他多数
アラビアンナイト編の敵
- アラディン『アラジンと魔法のランプ』
- シンドバード『船乗りシンドバード』
- 空飛ぶじゅうたん3兄弟
その他のおとぎ話キャラクター
過去の時代の人達
???(ネタバレ)
用語
- 月打(ムーンストラック)
数十年に一度、月から降り注ぐ「青き光」によって、おとぎ話のキャラクターが狂い、ストーリーの筋にはない思想・行動を取る現象。月打されたキャラクターは本から飛び出して「読み手(ニンゲン)」の世界に現れ、超常的な破壊行動を取る。
特に強い青き光による月打は「最強月打(ムーンストラックスト)」と呼ばれ、これを受けたキャラクターは、通常のキャラクターでは知り得ないメタ的な知識(自分たちキャラクターや物語が〈作者〉によって生み出された、被創造物であることなど)を得る。
- 月光条例
定期的に起こる月打に対し、おとぎ話の住人たちが定めた法律。
その唯一の条文「青き月光でねじれた『おとぎばなし』は猛き月光で正されねばならない」に基づき、月打されたキャラクターを元に戻す〈極印〉を持つキャラクター〈使者〉と、使者に選ばれた読み手〈執行者〉によって、月打現象を解決する、というのが本作のベースである。
- 消滅(デスアピア)
主人公が月打され、その物語から主人公がいなくなってしまう状態が5日間続くと、物語自体が消えてしまう現象。
正確には、主人公が不在になると誰も読んでくれなくなり、読者が物語を読むことで物語に与えられる〈読み手パワァ〉が枯渇してしまうことで、消滅が起きる。
ハチカヅキは姉が代理を務めることで、一寸法師は姫君が打ち出の小槌で願うことで、〈消滅〉を免れている。
- 長老会
各おとぎ話の「長老」たちによって結成された、おとぎ話の世界の治安を維持するための連合。
「長老」は、おとぎ話の主人公自身が務めることもあれば、年長のサブキャラクターが務めることもある。
通常のキャラクターは知らない、月打と月光条例のことを知っている。
- 月神(ツクヨミ)
正確には、月と神は合わせて一つの漢字(実在しない字)。
月光条例を読み手界で支障なく執行するために、おとぎ話の長老会と、読み手界の公的機関によって結成された、秘密の公務員の団体。
かなり厳格なルールで運用されており、過去に何度も〈使者〉として活躍していたハチカヅキでさえ、今回の月打では長老会の混乱で正式な〈使者〉としての登録がされていなかったがために、長い間〈違法執行者〉として扱われていた。
- 月の客
月の向こう側から現れた、異世界の住人たち。
月打を引き起こす「青き月の光」は、彼らの世界の太陽の光が、世界同士をつなぐゲートを通じて漏れ出たものであり、月の客にとっては唯一の栄養源である。1000年前から、「光」は徐々に少なくなっている。
全員が、地球人を超える長大な寿命と戦闘能力、考えるだけで飛行する能力、おとぎばなしのキャラクターを消滅(デスアピア)させる力などを有する。また、基本的に「死」というものが存在しないが、「光」のエネルギーが枯渇するとあらゆる生命活動が停止する「止(シ)」が訪れる。だが、再び「光」を充てれば復活する(ただし、同じ月の客による攻撃を受けての「止」だと、復活できない)。
傲慢な王オオイミが支配する階級社会であり、王族を始めとする上級国民は「青き光」や水を好き放題に摂取しているが、下級国民は上級国民が許可した程度の光と水しか与えられず、「止」が近くなった下級国民は、まだ「止」んでいないにもかかわらず、上級国民の役人によって墓場へと捨てられてしまう。
過去に、嘘や虚偽によるいさかいから発展した戦争を経験しており、嘘や虚偽を許さない「正しい真実」という思想が根付いている。もし嘘をつけば、それがどんな小さい嘘であろうと、どんな幼い子どもであろうと、厳しい処罰が与えられる。
関連タグ
マッチ売りの少女:うしおととらのコミックス一巻の前書きによると、不幸な少女が不幸な最期を遂げるという話に激しい怒りを覚え、その怒りが藤田氏の漫画家としての原点らしい。作中にも主人公にとって重要な立ち位置の存在として少女が登場している。少女の父親が主人公に激しい怒りを籠めて機関銃で撃ち殺される場面にはそんな作者の様々な想いが籠められていると推測される。