概要
藤田和日郎による2冊目の短編集で、「瞬撃の虚空」他3編を収録している。
収録作品
瞬撃の虚空
-本当に…戦うというのは
日々を生きてゆくことだ
退屈と戦うことだ。
働き学ぶことだ。-
[pixivimage:noimage]
「週刊ヤングサンデー 平成8年51号〜52号」初出。
毎日を退屈でくだらない日常と感じながら過ごしていた淳一の家にある日、アメリカ陸軍中尉のローリー・タナーが訪れ、淳一の祖父に合衆国の機密行動への参加を依頼する。祖父は淳一を同行させるという不可解な条件を付けるものの依頼に同意し、淳一は訳も分からぬまま祖父と共に核ミサイル格納施設へと連れて行かれる事になる。
一方その頃、目標の核ミサイル格納施設ではアメリカ軍の准将による身代金目的の乗っ取り事件が発生しており、淳一の祖父はその事件をたった一人で解決し得る唯一の人間として呼ばれたのだった。
やがて一行は現地に到着し、どう見ても老いた小柄な日本人にしか見えない彼を皆が半信半疑で見守る中、気合の一声と共に銃弾を躱しながら敵を次々と素手で打ち倒してゆく。実は彼はかつてアメリカ軍の超人兵士プロジェクト、「モーメント・アタッカー計画」のモデルとなった旧日本軍の柔術の達人・サキサカケンジロウだった。
そして事件の真の首謀者であるトマス・レーベンフック少佐はケンジロウのデータを元に投薬や改造手術によって生み出された最高のモーメント・アタッカーであり、最早レーベンフックを倒せるのはオリジナルであるケンジロウしかいなかった。
米ソの冷戦のさなかに生み出されたレーベンフックは己の力を振るう敵を求め、同じく冷戦の象徴である核ミサイル施設にケンジロウを誘き出したのだった。
余談
藤田和日郎と親交の深い島本和彦の「吼えろペン」12巻に収録の第48話「その統計はちょっと待った!」には、藤田をモチーフとした漫画家「富士鷹ジュビロ」の漫画の一コマとして、序盤の銃弾を避けるレーベンフックが登場する。
空に羽が…
- こんな僕でもね…
こっそり…やってみたいコトがあるんだよ…
一人っきりでさ…他に誰もいない部屋でね…
僕はちょっと…胸をはってみたいんだよ。 -
[pixivimage:noimage]
「週刊少年サンデー 平成9年21・22合併号」初出。
幾つもの山々の頂に町が一つずつある国 - そこは女王が支配する恐怖の国であった。女王に逆らいし町は「天の火」によって滅ぼされるのだ。
とある町のはずれの丘の上に住む「虫目」と呼ばれる青年は町の者達に疎まれながら門のような機械を作って暮らしていた。そんな虫目を見張るように言いつけられたゾナハという少女は彼と親交を深めていく。
ある日、虫目達の町に打倒・女王を掲げ各地を巡っていたサンテ・キリーロフ一行が訪れ女王の「天の火」を防ぐ結晶壁を授けるが、虫目はそれでは「天の火」は防げない、「天の火」を生み出す元を絶たねばと反論するが、町の者たちは虫目の戯言だと思い耳を貸さず、結晶壁によって町は安全になったと思い込み歓喜の声を上げるのだった。
キリーロフらが女王の城に突入したその日、虫目はずっと作り続けてきた門の装置を起動する。実は虫目は「天の火」が空に存在する見えない機械によって放たれる物だと推測し、その機械を壊すために門の装置を作っていたのだった。
虫目は反動によって満身創痍になりながらも「天の火」の機械を壊し、町には平和が訪れたが、町の者たちが虫目の功績を知る事は無かった。
ゲメル宇宙武器店
- ひょほー!いつ見てもアルミニュームは深い輝きですこと。 -
[pixivimage:noimage]
いきなりだけど、我らが地球にピンチがやってきた!コンクリートだけを食べる宇宙怪獣「ツアトーグア」がやってきたのだ!
いきなりすぎてアンパンとビンに貯めた1円玉しか持ち出せなかった主人公オカノ・コースケは、これもまたいきなりやってきた強欲な宇宙の武器商人・ゲメルに半ば無理やり怪獣退治に駆り出されるのだった!
次々と高価な武器を売りつけられるコースケ!果たして1円玉しか持っていない彼が買えるものなのか⁉︎心配するな!1円玉の材料であるアルミニュームは実は宇宙では非常に高価な貴金属で、9円分もあれば宇宙戦艦すら買えてしまうのだ!
さあ戦えオカノ・コースケ!地球の未来は君に委ねられた!
余談
藤田作品の中でも(バカバカしさで)一際異彩を放つ短編だが、登場する数々の(間の抜けた名前の)兵器は、当時「モンキーターン」を連載していた河合克敏、「俺たちのフィールド」の村枝賢一、元アシスタントで烈火の炎の作者の安西信行、そして当時アシスタントだった井上和郎や片山ユキオなど(無駄に)そうそうたるメンバーがデザインしている。
美食王(ガストキング)の到着
- うむ、美味であった! -
「週刊少年サンデー 平成15年2月増刊号」初出。
舞台はアラビアンナイトの世界にも似た魔法の存在する世界、ガリグール国の国王シャクシャワ・ガリグール4世は切ったものを何でも美味い料理に変えてしまう魔法の包丁をもって国中の食べ物を食い漁る暴君であった。しかも王の食べるものは普通の食べ物だけではない。国中の若い女をもその包丁で料理して食べていたのだ。
かつて王に姉を喰われた少女イーズーンは復讐のため占い師の老婆の助言に従い身体中に毒を染み込ませた毒娘となる。毒に満ちた自分を王に食べさせる事で王を毒殺しようと目論んだのだ。
そして彼女が城に呼ばれたその日、ガリグール王は「美食王(ガストキング)」と呼ばれる変な顔の男をもてなしていた。
自身の美食家ぶりを美食王に認めさせたいガリグール王は様々な贅を尽くした料理を出すが、どれも気に入らない様子の美食王に痺れを切らし、自身にとって究極の美食である「若い女」を美食王に出すため魔法の包丁でイーズーンを調理する。
しかしイーズーンが毒娘である事を見抜いていた美食王はガリグール王に先にイーズーンを食べさせ、その上で王の出す料理を、民の苦しみを考えない「不味い料理」料理であり「人の食い物」ではないとこき下ろした。
怒りに震え魔包丁で美食王を切ろうとするガリグール王だったが、美食王の持つもう一本の「食べた料理を全部もとの食材にもどす」包丁で返り討ちにされ、イーズーンの毒で苦しみながら今まで食べてきた全ての人や食べ物を吐き出す。実はガリグール王の持っていた包丁も元は美食王が魔神に貰った2本の魔包丁の片割れだったのだ。
全ては元に戻り、民は飢える事がなくなった。生き返ったイーズーンは王に感謝し、自分の料理を王に食べてもらおうと誓うのだった。
余談
作中に登場する占い師の老婆は「からくりサーカス」に登場するアルメンドラにそっくりである。また、美食王は「月光条例」の「アリババと40人の盗賊」の盗賊としてスターシステムで登場する。
関連タグ
藤田和日郎短編集夜の歌…藤田和日郎の1冊目の短編集