概要
シンデレラとは、ヨーロッパに伝わる民話、およびその物語の主人公の少女のことである。シンデレラ(英:Cinderella)とは『灰かぶり』を意味し、彼女の生い立ちから名付けられたあだ名とされる。
この民話の起源は諸説あり、古くは古代エジプトの「ロドピスの靴」や古代ギリシャにまで遡ることができるとも言われる。また類似する物語は世界中で見られ、日本にも『鉢かづき』や『落窪物語』などがある。そのため、中国にルーツがあるとみる人もいるらしい。
現在よく知られている『シンデレラ』の物語は、ペロー童話の『サンドリヨン(仏: Cendrillon)』物語が、ディズニー映画などの影響を受けてさらにアレンジされたものである。一方、グリム兄弟による童話はペローより100年以上も後のものだが、グリム兄弟は地元ドイツの古い民話に物語を採集しており、むしろこちらのほうが原典により近い形だとされている。
後世への影響
- 「虐げられたけなげな少女が、最後に王子様と結ばれて幸福な人生を手に入れる」という筋立ては、平凡な女性が玉の輿や特別な引き立てによって幸福を手に入れることを指す「シンデレラガール」という言葉を生んだ。また、ガラスの靴はその象徴として用いられるようになった。
- 夜中の12時を過ぎると、魔法が解けて元の姿に戻ってしまうというギミックは「時限装置付きの幸福」という一つの形式を成立させた。
ペロー版とグリム版の違い
ペローはルイ14世お抱えの作家であったため、サンドリヨンもフランス貴族の子女に向けた説話として脚色を加えたと言われている。サンドリヨンは不幸にも耐え忍び、困窮しても作法や礼儀を忘れず、優しさを失うことのない理想的な貴族女性である。
対してグリム兄弟がアシェンプテル(シンデレラ)の物語を編纂した当時、ドイツはフランスの占領下にあり、国家主義の機運が高まっていた。そのためアシェンプテルは自ら行動して幸福を勝ち取る、美しくもたくましい女性として描かれている。
ペロー版の物語(サンドリヨン)
あるところにサンドリヨンと呼ばれる少女(シンデレラ)がいた。彼女は裕福な家庭に生まれたが、実の母親を亡くし、そのあとに来た継母や彼女についてきた義理の2人の姉にいじめられ、召使いのようにこき使わる辛い日々を送っていた。少女は寒く日の差さない屋根裏へ追いやられ、仕事を済ませた後は暖炉のそばで灰にまみれることでようやく暖を取ることができたため、彼女はサンドリヨン=灰かぶりと呼ばれていたのである。
ある日、国王が上流階級を招いての舞踏会を開くことを決め、ブルジョワであるサンドリヨンの家も招待を受けた。継母たちは宝石だドレスだと浮かれ、サンドリヨンに着付けやメイクを手伝わせた挙句、留守番を言いつけるといそいそと出かけて行った。
取り残されたサンドリヨンが惨めな思いで泣いていると、彼女の名付け親である婦人が通りがかって理由を尋ねた。実はこの夫人は魔力を持つ妖女であって、事情を知って憤慨し、サンドリヨンに裏庭で栽培されていたカボチャと、じょうろの裏に隠れていた7匹のトカゲ、台所の捕獲機に捕まっていた7匹のハツカネズミを持ってこさせる。妖女が魔力をふるうと、カボチャは豪華な馬車に、トカゲは立派なお仕着せを着た従者に、ハツカネズミは御者と6頭の馬に姿を変えた。さらに妖女はサンドリヨンの服を美しいドレスに変えたうえ、ガラスの靴を一足与えた。ただし、魔力で整えたものはすべて、夜中の12時を過ぎると元の姿に戻ってしまうから、それまでに必ず家に戻るよう、サンドリヨンに言い聞かせる。
美しい姫君となったサンドリヨンは、舞踏会で注目の的となる。王子もサンドリヨンに夢中になり、上席に招いて果物を勧めながらあれこれ話しかける。そのうちサンドリヨンは継母たちを見つけて話しかけ、王子に貰った果物をおすそ分けして様子をうかがうが、あまりの変わりように継母たちは彼女だと気が付かなかった。
サンドリヨンは12時になる前に無事帰宅、待っていた妖女に礼を言いつつ、王子に是非にと望まれたため、明日もう一日だけ舞踏会へ行かせてほしいと願う。妖女は快く請け合い、翌晩サンドリヨンはさらに立派に着飾って王子の前に現れる。王子が彼女を返すまいとして話し続けたので、サンドリヨンは危うく帰宅時間を逃すところだったが、なんとか正体が露見する前に逃げることができた。しかし慌てたためにガラスの靴を片方落としてしまい、王子はこれを手掛かりとして愛しい姫を探すことを決意する。
王子がガラスの靴にぴったりとあう足を持った娘を妻にするとふれを出したため、サンドリヨンの継母も娘たちに何とか靴を履かせようとするが、小さすぎて全く足に合わなかった。最後にサンドリヨンが試してみると、靴は当然ぴったりと合い、またサンドリヨンはもう片方の靴を差し出して見せた。さらに妖女がタイミングよく現れて例の魔法をかけたので、誰もが謎の姫の正体として納得した。
サンドリヨンはこうして王子と結ばれ、継母たちも許して幸福に暮らしたという。
グリム版のあらすじ
富裕な家庭に生まれたアシェンプテル(シンデレラ)だが、生みの母はまだ幼い彼女を残して早世してしまう。父は後妻を迎えるが、アシェンプテルの義母となった女とその娘たちは厚かましく強欲で、先妻の娘であるアシェンプテルに辛く当たり、下女のように扱った。
あるとき義母とその娘たちは、父に高価な宝石やドレスをねだるが、アシェンプテルはハシバミの枝が欲しいと望む。アシェンプテルがハシバミの枝を実母の墓に植えると、枝は見る見るうちに成長して大木となった。アシェンプテルがハシバミの木に「舞踏会に行くための衣装が欲しい」と願うと、ハトが飛んできて金銀のドレスや靴を運んでくる。
衣装を整えたアシェンプテルは、さっそく宮廷で3日間催される舞踏会に出かけていく。アシェンプテルと踊った王子は、見知らぬ美しい姫君にすっかり魅了され、彼女が何者かを尋ねるが、アシェンプテルは上手にはぐらかして王子を焦らす。
舞踏会の後、王子は帰宅するアシェンプテルの後をつけて正体を突き止めようとするが、アシェンプテルは一日目はハト小屋に逃げ込み、2日目は木に登って姿を隠し追及を逃れた。そこで最終日となる3日目、王子は階段にタールを塗らせてアシェンプテルの足止めを試みる。アシェンプテルはそれでも逃げて姿を隠したが、金の靴の片方がタールにからめとられて残っていた。
王子はそれまでの情報からアシェンプテルの家を割り出し、確証を得るべく靴を携えて訪れる。アシェンプテルの義母は、なんとか自分の娘たちを売り込もうとするが、娘たちには物証である靴が小さすぎ、履くことができなかったため失敗に終わる。
この家にはまだ娘がいるはずだ、と言う王子の言葉に、義母も渋々折れてアシェンプテルを呼び出す。金の靴は彼女の足にぴったりと合い、アシェンプテルは王子の妻となって幸福を手に入れる。
グリム版の解説
ハシバミの枝について
ハシバミの枝は不動産の譲渡式に用いられたアイテムで、これを渡すことは財産分与を、土に挿す行為はその完了を意味するという。グリム兄弟の地元ドイツでは、母親の財産は娘に受け継がれるという慣習があった。つまりアシェンプテルがハシバミの枝を欲しがったのは、父が預かっていた実母の遺産を要求したということであり、母の墓に植えたハシバミが大木となって恵みをもたらすのは、アシェンプテルが母の財産を運用してより大きなものにしたということを表しているという。こうしてアシェンプテルは宮廷に出る格を整えたのである。
恋の駆け引き
アシェンプテルはその美貌に加え、あえて正体を知らせないことで相手の興味を掻き立て、追えば逃げるという焦らしのテクニックで王子の心を掴む。さらに、ハト小屋や木によじ登って姿を隠すという行為は、王家の跡取りをどんどん産めますという健康度をアピールするものとされる。
R-18G
グリム童話には版によって展開に違いがあり、その中には義母が娘たちに靴を履かせるため足をナイフで切らせる、義母と娘たちがハトに目をつつかれて盲目にされるなど、強欲ゆえの報いを受ける残酷描写を含むものがある。これらの描写は道徳観の変化よりカットされたが、現代に至り『本当は怖いグリム童話』などとして紹介されることもある。
二次創作での扱い
「一般的に知られた物語のバージョンに裏がある」という二次創作もある。シンデレラが魔法使いから声をかけられたのは、シンデレラこそが魔に属する邪悪な存在だったからで、だからこそ義母や姉たちはシンデレラを遠ざけていた。王子がシンデレラに目をつけたのも、贅沢三昧の生活で上流階級の女性に飽きており、もっと美貌を持つ女性を手中に収めたいと考えた為、という理由付けである。
他にも「シンデレラの本名はエラである」とする二次創作も存在する。これは「Cinderella」という綴りを「Cinder(灰)」と「ella」に分け、「エラが灰を被ったためこの2つをくっつけてシンデレラと呼ばれた」という説によるものである。ただし、本来この「ella」というのは「小さい」という事を強調するために単語に付ける指小辞であり、日本語で表すと「~ちゃん」あるいは「小娘」というようなニュアンスとなる。
シンデレラに関する作品・キャラクター
アニメ
- シンデレラ物語
- 1996年にNHK教育で放映されたアニメ。
- シンデレラ(ディズニー)
- ウォルト・ディズニーのアニメ映画版で後世のシンデレラ作品に大きな影響を与えた。
- 吉永サリー
- 勇者特急マイトガインの登場人物。中学生ながらも、病気の父の代わりに幾つものアルバイトを掛け持ちして父の入院費や家計を支えている。主人公で、世界一の大富豪「旋風寺コンツェルン」の総帥・旋風寺舞人と惹かれ合い、最終決戦後に舞人と結婚した。『勇者シリーズメモリアルブック超勇者伝承』では「勇者シリーズのシンデレラガール」と称されている。
- 超時空シンデレラ
- 星空みゆき
- 六ノ瀬ツンデレラ
- あはれ!名作くんの登場人物で本作に憧れている。こちらは魔法ではなくメイクで姿(と性格)が変わる。
- 魔法つかいプリキュア!
- 本編29話がシンデレラのパロディ。→ モフデレラ
- ガルパ☆ピコ
- 第3期(「ふぃーばー!」)第19話がシンデレラのパロディ。→ ガルパ名作劇場〜たえデレラ〜
- おとぎ銃士赤ずきん
- シンデレラが「サンドリヨン」名義で敵として登場する。
- 世にも恐ろしいグリム童話
- R指定作品で非常にグロテスク描写がありダークな作風だが、これでも他の作品よりかは原作に近い。
漫画
- シンデレラボーイ
- モンキー・パンチの作品。
- 本当は恐ろしいグリム童話
- グリム童話の二次創作集。
- シンデレラ(月光条例)/月光条例
- 辻彩/シンデレラ(ジョジョの奇妙な冒険)
- ジョジョの奇妙な冒険第4部「ダイヤモンドは砕けない」の登場人物。彼女のスタンドが「シンデレラ」という名称である。
- ヴィンランド・サガ
- 主要人物であるアシェラッドの名前が、ノルド語で「灰かぶり」を意味しており、シンデレラと同じ名前である。
ライトノベル
- サンドリヨン(とある魔術の禁書目録)
- シンデレラの力(王子の前では失敗しない、初めてのダンスを周りを感心させるレベルで踊る)にあやかり、高い能力を身につけたフランスの魔術師。自分の足とは違うサイズの足の指を切り落とすことも出来る。
- わたしの幸せな結婚
- キャッチコピーで「和風シンデレラストーリー」と銘打たれている。
ゲーム
- アイドルマスターシンデレラガールズ
- 安積はぐむ
- マギアレコードの登場人物で、魔法少女ストーリーにて自身と周囲の人物をシンデレラに例えている。
- アシェン・ブレイデル
- 無限のフロンティアの登場人物で、名前の由来がシンデレラのドイツ名である『Aschenbroedel(アシェンプテル/アッシェンブレーデル)』。作中でもハーケン・ブロウニングに「シンデレラ」と呼ばれるシーンが有る。
- ポケットモンスター ソード・シールド:
- Fate/GrandOrder
- 登場人物の一人であるエリザベート・バートリーがシナリオで灰かぶりと呼ばれており、2021年のハロウィンではシンデレラエリザというライダークラスの英霊として実装されている。
- 神獄塔メアリスケルター
- シンデレラが作中に味方の一人として登場する。
- 蒼ざめた月の光
- ヒロインとして実父亡き後義母と義姉に使用人扱いされているセレネ・カッターランドが登場する。
- オトギフロンティア
- 初期キャラとして参戦。基本的には灰かぶり時代がベース…なのだが、飲兵衛という設定になっており、ファンからは『姐さん』の称号を戴いた。
- 蒼き雷霆ガンヴォルト爪
- 敵キャラとしてシンデレラをモチーフとした水晶靴の舞踏派ガウリが登場…だが男なんだYO!
- ペルソナ5ザ・ロイヤル
- 勝利の女神:NIKKE
- 1周年記念の過去ストーリーにおいてシンデレラが言及され、敵キャラのアナキオールと化して登場。本編ストーリーにも登場し、その後2周年記念のキャラクターとしてシンデレラが実装。
特撮
- 轟轟戦隊ボウケンジャー
- キーアイテムとしてガラスの靴が登場。シンデレラのモデルになったという設定。
音楽
- シンデレラ・エクスプレス
- Cendrillon:初音ミク・KAITOのオリジナル曲。
- ロミオとシンデレラ:初音ミクオリジナル曲。
- 毒林檎とシンデレラ:巡音ルカの歌うボカロ曲。
- シンデレラシンドローム:鏡音リンオリジナル曲。
- 紫苑ヨワ
- 多数のUTAU音源の中で埋もれていたが、UTAUの作者飴屋氏の紹介で一気に脚光を浴びUTAUシンデレラガールと呼ばれた。
- DECO*27の楽曲名。 → YouTube(外部リンク)
メディアミックス
- リルぷりっ
- メンバーの1人高城レイラのモチーフ、及びプリンセスとしての姿はシンデレラであり、彼女自身もシンデレラのお話が大好き。また星空みゆきと同じく劇中でもシンデレラを演じている。
- バトルスピリッツ
- 「グリムの天使シンデレラ」として登場。ギタリストのような風貌をしているが、イラストレーターがしもがさ美穂さんなので、メガネコにそっくりである。
関連タグ
プリンセス シンデレラストーリー シンデレラガール シンデレラバスト
ツンデレラ:本作の派生パロディ。
外部リンク
- ペロー / 灰だらけ姫 またの名「ガラスの上ぐつ」(青空文庫)
- グリム / アッシェンプッテル ―灰かぶり姫のものがたり―(青空文庫)