JR東海
じぇいあーるとうかい
正式名称は「東海旅客鉄道株式会社」。
英語表記は“Central Japan Railway Company”。コーポレートカラーはオレンジ(日本語をJR風に直訳すると中日本旅客鉄道【後述】)。
そして、JR東海を語るうえで何と言っても欠かせないのが東海道新幹線の存在である。
代表取締役兼名誉会長であった葛西敬之は、JR東海は「東海道新幹線会社」だとしており、国鉄民営化による誕生以降、徹底して東海道新幹線の改良に経営リソースを注いできた。
仕様の異なる山陽・九州新幹線用の車両は1本たりとも東海道新幹線内に乗り入れさせていない。そうした姿勢は、しばしば「俺様」などと揶揄されたりもする。
その東海道新幹線は、同社の収益の8割以上を占める生命線でもある。設計が古い事に加え、将来的に「南海トラフ巨大地震」の発生も危惧されている事から、設備の補修には余念が無い。仮に東海道新幹線が倒壊すれば、冗談抜きにJR東海が倒壊しかねない。
JR規模の鉄道会社では唯一例外的に、本業にして正業である運輸業で経営が成り立つという驚異的な経営条件の良さが、強みでもあり弱みでもである。
そして、東海道新幹線の潤沢な利益は地方路線の維持に大きな役割を果たしている。普通の事業者なら廃線を視野に入れるレベルの深刻な災害を受けても、防災対策工事を行った上で早かれ遅かれ復旧させてくるため、事業者としての評価は非常に高い。
また、リニア・中央新幹線の建設に際しては、国の動きの鈍さを尻目に新幹線建設としては例のない全額自社負担での推進を打ち出した。こうした有言実行ぶりはただの俺様と侮れないものがある。
会計方針は当初よりマッチョで、減価償却方法は当初負担が大きめとなる「定率法」を使っている(大多数の会社は負担の平準化を優先するので「定額法」)。
一方、接客面での評価は賛否両論である。良く言えば質実剛健、悪く言えば無味乾燥で、何事もとにかく簡素に日々の保守管理を最優先にデザインする傾向がある。
塗装一つとっても新幹線は白地に青帯、在来線は湘南色ないしオレンジの帯でほぼ全ての車両を統一しており、路線や用途によって色分けするという発想すら根付いていない(一応例外はあったが・・・)。むしろ、車両の方を1本であらゆる用途に対応できるようにし始めたくらいである。それだけの技術力を持っているということでもあるが。
一度投入した車両のリニューアル等をほとんどしない(バリアフリーに関わるものくらいで、小手先の改装をするくらいならいっそ新車に置き換えるという傾向が強い)点も、変わり映えがせず殿様商売に見えてしまう一因である。一応Wi-Fiの整備など、目に見えない部分の改修はしているのだが。
もっとも、それが高じて長大ローカル線や車高制限のあるローカル線にハイテク電車を新車投入したり、その電車とほとんど変わらない構造のハイテクディーゼルカーを地方路線に投入しまくったことで、ローカル線へのサービス向上を齎すという格差縮小を成し遂げた。
ひとたび新車を入れれば同世代の他社車両よりも上等な出来になることが多く、そのあたりの完成度にも定評がある。2022年のダイヤ改正では、JRグループ最速で国鉄製旅客車両を一掃するという行動力を見せている。
なまじ東海道新幹線のビジネス利用のみで経営が成り立ちかねないだけに、それ以外の需要への関心そのものが低い事は確かである。
コストのかかる観光列車の設定には消極的で、JRグループで唯一観光列車専用の車両を保有しておらず、2013年に廃車した「トレイン117」が最後である。
扱いが特殊で乗務員の養成も必要な機関車の排除も早く、2009年をもって全廃。同年の「富士・はやぶさ」廃止以降、貨物列車を除き他社からの機関車列車の乗り入れを認めていない。「サンライズエクスプレス」もJR西日本が電車で企画していなかったら存在していないと言われる。線路の保守点検も専用に造ったディーゼルカーで行っている。
ミュージックホーンや乗車メロディーといった音楽面までも味気なく、そうした設備を持つJR西日本、(豊橋付近で線路を共用する)名古屋鉄道、(三島駅の構内を共用する)伊豆箱根鉄道相手であっても、自社線内での使用は禁止しているほどである。
ただ、これらについては1995年に新幹線三島駅で駆け込み乗車による新幹線初の死亡事故が起きてしまい、その再発防止策という側面がある。なお発車メロディーに関しては2008年より東京駅で、2021年より三島駅(伊豆箱根鉄道の昼間帯発着便のみ)で解禁している。
乗車券に関しては主な需要層である首都圏と関西圏を管轄する会社が別で、こういった別管内の移動の場合JR東海が手数料を払わなければならないということもあり、自社運営で「エクスプレス予約」を立ち上げオンラインで予約可能として乗車券の利益を総取りできる仕組みを作った。
一方で在来線特急のオンライン予約サービスには著しく消極的で、2023年現在も自社管内完結の場合は駅でしか購入できない。
また、これに関連してか「みどりの窓口」を「JR全線きっぷうりば」に言い換えるようになった。売り場の看板が緑色ではないため、遠方からの乗客は注意したい。
交通系ICカードであるTOICAも、対応エリアが他社よりも狭く、記名式やポイント付与サービスが充実していない等の理由で、名古屋地区では後発のmanacaにシェアを大きく開けられている。
中でも不満度が高いのは静岡県とされ、東海道新幹線は時代を下るごとに「のぞみ」偏重のダイヤへと変質してきたが、その「のぞみ」は県内に1本も停車しない(もっとも「のぞみ」は一時期JR東海の本社がある愛知県にさえ停車していなかったが)。「ひかり」も基本的に毎時一本しか停車しない。
在来線には新車投入こそ盛んであるものの、わざわざ専用設計(一時期はトイレまで無くなっていた)にしてまで投入して詰め込みを図り、減便や減車を強行してきた事から、やはりサービスは低下傾向にある。
静岡県地域は名鉄や近鉄との競争が存在する名古屋圏や飛行機や高速バス、近鉄特急との熾烈な競争に晒されている新幹線と異なり、明確な競争相手が清水〜静岡間の静岡鉄道ぐらいしかなく独占的立場にあるのが一因か。
そうした状況から、静岡県も明確に不快感を抱いており、のぞみから通行料を徴収するという意見が県議会レベルで持ち上がったほどである。中央新幹線を巡る対立の遠因とも噂される。
ただし、「『新快速』のような高速のクロスシート車が無くて云々」といった話は話半分に聞いておく必要がある。他ならぬ地元の静岡新聞の調査で「静岡県の通勤通学利用者は短距離移動が多く、ロングシート車が望ましい」という結果が出ており、この手の主張はいわゆる「18きっぱー」を始めとした、住民でもなければ観光客ですらない、単なる通過利用者が代弁しているだけの可能性が極めて高いからである。
ついでにダイヤにしても、国鉄末期~民営化初期にかけて優等生とされた広島や仙台といった地方都市圏で続々と減便や減車が進んでおり、結果的に静岡がマシな方になってきた。先述のトイレ問題と絡んで、トイレ無しの編成をトイレ付きの編成と原則常時連結するようにした結果、かえって増車になった列車すらある。
超が付くほどの合理主義を貫いてきた以上、明らかな失策や不祥事はめったに起こらず、事業計画の精度はJRグループの中でも群を抜いて高い事もまた事実である。
上記の静岡にしても、実際にそれでJR東海の収益が低下したという話は聞かない。
「JR東海には面白みが無い」という評価がなされる事は少なくないが、それは「全てが順調に行き過ぎて語れる事が何も無い」という事の裏返しでもあるのである。
JR各社が独自の書体を導入する中、車番や駅名標に国鉄書体を使い続け、また最後まで「L特急」という名称を使用していたなど、「国鉄の正統進化形」として好意的に捉える鉄道ファンも当然いる。
↑国鉄書体が使われ続ける駅名標。国鉄時代から引き続き、都道府県と市町村を併記し続けている。
以上の方針は冒頭の葛西敬之の意向も大きかったようで、国鉄新潟鉄道管理局(現・JR東日本新潟支社)出身の柘植康英が社長に就任した2014年頃からは、徐々にビジネス以外の乗客確保にも取り組み始めている。
閑散時における車両の有効活用という趣が強いものの、観光用の臨時列車の設定も増加している。
また駅から観光名所や飲食店等を徒歩で回るといった「さわやかウォーキング」や、廃車となった新幹線の部品や乗務員が実際に使用していた備品等を販売する「JR東海鉄道倶楽部」を立ち上げている(なお多くの品が数分で売切れた模様で、特に運転席はその筋では知られたRECARO製ということもあり、最も高額にもかかわらず完売)。
そんなJR東海でも、2011年頃からは閑散地区を中心とした無人化、2021年頃からは駅構内の時刻表を撤去するなど、ある種単純で目に見える形のコスト削減が進んでいる。
そうした取り組み自体は他社でも行われ始めているものの、質実剛健を極めたこの事業者までもが追従したあたりに鉄道業界全体の苦境を感じさせる。
余談だが、海外展開にも意欲的な姿に反して、自社の中古車を直接流通させた事はほとんど無く、特に海外へはJRグループで唯一輸出経験が無い状態が長らくの間続いていた。入念な整備と新車投入ペースの速さから、廃車時まで良好な状態を保っていた車両も多く、「それを口実に極端な高額をふっかけているから成立する商談も成立しない」といった陰謀論じみた話がまことしやかに語られていたほどである。
しかし、発足から28年目を迎えた2015年にキハ11とキハ40系をミャンマーに譲渡。これによりようやく疑念を晴らしている。
JR東海のコーポレートカラーは「オレンジ」。マンセル値は「2.2YR 6.5/13.3」とされているが、印刷媒体用としてDIC-120(2.6YR 6.7/15.2)および東洋インキCF10145(1.2YR 6.6/16.1)も使用される。
コーポレートカラーがオレンジ色である理由は国鉄時代にまでさかのぼり、発足時にJR東海が引き継いだ新幹線電車100系のデザイン案に、フランスのTGVを模した「白地にグレーとオレンジ」のカラーリングがあったことに由来している。
国鉄末期には名古屋近郊に青色の電車が多く集められており、そのまま「青20号」などとする案もあったそうだが、青はJR西日本がコーポレートカラーとしたためオレンジを採用する運びとなったらしい。
なお、在来線車両の帯に使われているオレンジ色はコーポレートカラーのそれよりも赤みの強い「ストロングオレンジ」(マンセル値1YR 5.4/14.4)という色である。
英語名称がCentral Japan Railway Company (=中日本旅客鉄道)である理由は「とうかい」をローマ字転写しても欧米圏で「トーカイ」と呼ばれることは期待できず「トカイ」か「トゥカイ」と読まれるのがせいぜいであるためで、分割案が固まった時点の仮称ともつながる地理的位置を前に出した「セントラル」を用いている。
切符の地紋と在来線車両の部品に冠される会社識別記号はC(C-DT57など部品にはハイフンが付く)、新幹線車両の部品には“Trunk Line(幹線)”の頭文字Tが(ハイフンなしで)冠される。線路使用料の関係で距離比に準じて持ち合っているだけの285系はJR西日本の形式による。一方車両形式は気動車こそ2桁に戻ったが国鉄の体系に概ね準じていて、JR東日本のように形式数字の前にアルファベットをさらに追加するなどはしていない。
この内在来線のものは国鉄形式の後ろに(台車で言えばC-DT56〜、キハ185系のDT55の次から)続番となるように組まれたが、新幹線のそれは国鉄継承の0系・100系のものを内包するように300系用主電動機がTMT3から始まるなど、全くの別体型で特異なものとなっている。
他にも長期間同形式を全線区共通仕様として投入する嫌いがあるため、在来線通勤型電車は国鉄型をアレンジした210系列か自社制作の310系列に留まる。
在来線特急列車・急行列車は普通列車への充当を想定したものは下2桁に7が付き、専用車は概ね8が使用される。
- 先述の通り、現存する保有車両全てがJR化後の車両である。
- 新幹線車両は全てVVVF車となっている。
- 在来線でも315系の投入完了をもって、自社製の通勤型電車は全てVVVF車に統一される。
在来線
在来線電車の電気連結器の線番号は国鉄時代の211系がベースで、多少の特性差はあるにせよ、営業運転でまず連結することのない車両同士を併結した試運転も行っている。実際にそれを牽引車にした回送(383系-211系:383系先行車試運転、313系-373系-313系:身延線復旧時の検査切れ373系の回送)の実施経験もあり、仕様統一の賜物と言える。
全車に共通するのが、床下機器をグレーで統一している点である。かつては国鉄からの継承車も例外ではなく、国鉄原色にグレー床下というファンからすれば違和感のある仕様が散見された(EF58など一部例外あり)。理由は床下機器の異常を見つけやすくするためと言われており、この流れは後にJR西日本やJR四国にも波及した。
引退済み
質実剛健らしく2010年代前半までは、アニメやゲーム等への出演にも一切許可を出してこない状況が長く続いていたが、これも2014年の柘植康英の社長就任あたりから『A列車で行こう』に「JR東海パック」として許可を出すなど軟化の兆しが見え始めた。
この流れは2018年に第6代社長の金子慎が就任すると決定的になり、2019年に沼津駅で『ラブライブ!サンシャイン!!』ポスタージャックを敢行したり、2020年に身延線で『ゆるキャン△』とのコラボ列車「ゆるキャン△梨っ子号」を運行するなど目に見えて増えている。
遊び要素も一度取り組めば全力でやりに行く所もこの会社らしいと言うべきか。
2023年に第7代社長の丹羽俊介が就任するとさらに加速し、『桃太郎電鉄』とコラボしてのスマホゲームの開発・製作や『ステーションメモリーズ!』との3段階に亘るコラボなどが相次いで決定している。
これにはコロナ禍による収入減を補う意味もあるようで、本格的にビジネス客以外の取り込みに乗り出してきた。
『ラブライブ!』とのコラボ列車を走らせた際には、車内アナウンスにAqoursの声優を起用したり、新幹線のポスターを作るなど社を挙げて広報した結果、わずか1分で指定席が完売したという。
現在は「推し旅」を掲げて定期的に何かしらのイベントを開くまでになっており、ホロライブや緑黄色社会など、コラボ相手もより多様化している。
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