鉄道車両の系列の一つであり、pixiv内においては主にJR東海が運用するJR東海キハ85系気動車を指している。
東海旅客鉄道キハ85系
JR東海が国鉄から民営化された直後の時期に、当時老朽化が進んでいたキハ80系で運行していた特急「ひだ」(高山本線、註1)及び(紀勢本線、伊勢鉄道などを経由する特急)「南紀」両系統の新造取替および高速化を目的として設計・新製した特急形気動車。1989年2月より特急「ひだ」で営業運転を開始。「南紀」は少し遅れる形で1992年に運転を開始している。同社が新製した初の在来線車両でもある。
(註1)元々高山線は国鉄時代末期に電化・381系投入による高速化が目指されたが、国鉄の財務状況悪化のため架線柱の建設のみで中止に。その目的を気動車の性能向上で果たすことになった。
民営化のイメージアップを図った事もあり、軽量ステンレス車体の採用、「ワイドビュー」の呼称の元でもある客室窓の大型化、戦後国鉄・JR用気動車としては初の舶来品(米・カミンズ社。工場は英国所在)ディーゼルエンジンの搭載等、それまでの所謂国鉄型車両の枠を超える形で、鉄道車両として様々な試みが行われている。
なおこのカミンズ社エンジンは当時、鉄道車両用としてはJR東海に採用される前には大井川鐡道井川線のDLで採用されていた実績がある。またJR東海はカミンズエンジンをかなり気に入ったらしく、後年のキハ11、キハ75などを始めとする通勤型気動車や当面の継続使用を決めていたキハ40系の載せ替え用に引き続きこの系列のエンジンを採用、搭載している。
非電化区間の特急列車である「ひだ」「南紀」両列車を中心に運用、また毎年の鈴鹿サーキット輸送用の臨時特急「鈴鹿グランプリ」や式年遷宮に伴う伊勢神宮輸送用の臨時急行「いせ」、そしてお召し列車としての運用実績も存在する。
車種
先頭車は85、中間車は84の番号を使用。番台区分は定員の違いによるもの。
- キロ85形:全室グリーン席の先頭車。非貫通型。グリーン席は3列シート。
- キハ85形0番台:全室普通席の先頭車。非貫通型。
- キハ85形1100番台:全室普通席の先頭車。貫通型。
- キハ85形200・1200番台:全室普通席の先頭車。貫通型。
- キロハ84形:グリーン席・普通席の合造中間車。グリーン席は4列シート。
- キハ84形0番台:全室普通席の中間車。
- キハ84形200番台:全室普通席の中間車。
- キハ84形300番台:全室普通席の中間車。
構造
軽量ステンレス車体+ボルスタレス台車+高出力機関という組み合わせは国鉄末期登場のキハ185系に類似するが、機関出力を更に上げると(250PS→350PS/基)同時に変速機を変更、電車のようにノッチアップするだけで操作が完結するプログラマブル・コントローラを使用する。
また、台車は一見キハ185系用のものにヨーダンパを足しただけに見えるが、変速機を流用品(元は旧型気動車のもので吸収出力が250PSまで、変速のみで逆転は台車の最終減速機による)で済ませたキハ185と異なり逆転機がない(変速1段+直結2段で逆転機内蔵の変速機使用)。また牽引装置が積層ゴム式からZリンク式に変わっており(JR東海増備分の211系と同じ)、形式は分かれている。
ブレーキは電気指令式ブレーキになっている。
連結器は密着自動連結器を引き続き使用。電気連結器を付けずジャンパ栓により結線するため分割併合時に人手がかかるが、国鉄時代の気動車と同様に前後を反転して(車庫である名古屋車両区構内に転車台がある)併結することもザラなため、電気連結器を付けないこの構造のほうがキハ85系としては合理的であった。
ATSはSTとPT(非常のみ動作)。東海道本線の米原から先のJR西日本区間はP形であるがSW併設なので問題なく乗り入れている。
余談
- 通常運用で東海道線名古屋地区や関西線紀勢本線新宮〜紀伊勝浦間や(1往復のみ)東海道本線(琵琶湖線/JR京都線)岐阜〜大阪間など電化された区間を走行する。最短2両編成から1両単位で増結可能という編成自由度の高さから、団体列車やホームライナーなどで電化区間しか走らない列車への充当経験も多々ある。
- 入線経験のある路線は定期運用のある各線区以外には飯田線、身延線、JR東日本飯山線の他、大垣駅で接続する樽見鉄道へも1991年に入線している。ただし入線はこの試運転で一度限りであり、団体・臨時列車などの乗客を乗せた営業運転は現在に至るまで行われていない。
- 配属路線(主に紀勢本線)の線路内に鹿などの動物が迷い込んできて汽笛を鳴らしても逃げていかず、しかも非常ブレーキをかけても距離が近すぎるため衝突してしまい、車両の損傷やそれに伴う列車の遅延などの事故が増えつつある。そのため線路に近づかないような対策を立てているものの中々効果がないため、ごついクッションのような物を排障器に取り付け鹿を車両下に巻き込まないように撥ね除けてなおかつ車両の損傷も防ぐ「鹿よけバンパー」が装着されることとなり、試しに付けたところ成績が優秀であったためこのバンパーは本採用され、現在「南紀」に運用されている全ての先頭車両に装着されている。
- 上記にもあるがJR東海在来線区間のお召列車に幾度も使用されており、皇族がお乗りになる車両(※まだ廃車されていないため番号非公開)は「窓ガラスなどが防弾仕様に改装されている」といわれる。(公表されていない)。
退役・廃車
2003年に客室内のバリアフリー化改造が行われたものの、大規模なリニューアル工事を受けないまま製造から30年を経過したことから、2022年度を目途にハイブリッド方式を採用した新型特急車両・HC85系への本格的な取替が計画され、2019年には試作車の製造に着手された。詳細は同項参照。
一方で、インバウントによる高山方面への外国人観光客の大幅な増加の影響もあり、置き換えを待たず車内へのフリーWi-Fiの設置と和式トイレの洋式トイレへの改造が行われた。Wi-Fi機器は再利用できるとしてもトイレについては部品の減価償却が間に合うのだろうか…。なお自動放送も同時期に開始されたが、専用の装置は搭載せず乗務員のICレコーダーから流す半自動タイプであった。
2022年7月にHC85系がデビューした直後、事故車(註2)を除いた初の廃車が発生。廃車回送時の編成は営業運転では存在しない、変態連結なし貫通8連(営業運転の貫通編成最長は5連)という類を見ない美しい組成で、中間に先頭車を組み込まない貫通編成としてはこれが最長となった。この回送で実際に廃車されたのは中間車6両で、両端の先頭車は名古屋へ返却回送された。
(註2)1996年12月に発生した高山本線内での落石衝突事故により、キハ85-107が大破し廃車になっている。
2023年3月のダイヤ改正をもって、特急「ひだ」での定期列車での営業運転を終了。追って「南紀」での定期運用も6月限りでピリオドを打ち、7月9日のラストランを以て34年に亘る活躍に有終の美を飾った。
なお定期運用離脱後、一部車両は名古屋車両区から美濃太田車両区に疎開回送されている。疎開された車両のうち、非貫通先頭車のキハ85-1が同車両区で長年保存されている車両群の横に留置された。(正式発表はないが、民営化後初の特急車両として保存を期待する声が鉄道ファンから上がっている。)
ラストランイベント
JR東海ツアーズの旅行商品として発売。途中駅での乗降は出来ない。乗務員によるおもてなしイベントの開催や、限定駅弁・ノベルティがお土産として付く。
『ありがとうキハ85系南紀』号
2023年6月24日・25日運転。名古屋駅~新宮駅を各日1往復。
編成は以下の通り。
<キロ85-4 | キハ84-204 | キハ84-303 | キハ85-1209> | キハ84-203 | キロ85-3> |
『さよならキハ85系』号
2023年7月8日に名古屋駅→高山駅の片道、7月9日に同区間を1往復。下り列車は、名古屋駅~岐阜駅間を稲沢線経由で運行。
編成は以下の通り。
(←岐阜/高山・名古屋→)
往路
<キハ85-1209 | <キハ85-1117 | <キハ85-208 | キハ84-302 | キロ85-4> | 2023年7月8日運転 |
<キロ85-3 | キハ84-305 | キハ85-205> | キハ85-1110> | キハ85-1109>(鹿) | 2023年7月9日運転 |
復路
<キロ85-3 | キハ84-305 | キハ85-205> | キハ85-1110> | キハ85-1109> | <キハ85-1209 | <キハ85-1117 | <キハ85-208 | キハ84-302 | キロ85-4> | 7月9日運転 |
キハ85系の他社移籍
北近畿タンゴ鉄道KTR8500形。京都丹後鉄道こと「WILLER TRAINS」(※2)では、北近畿タンゴ鉄道が保有するKTR001形気動車の状態が思わしくなく、2022年5月に発表された『安全報告書2021』内にて中古車2両の導入計画が公表されていた。
ステンレス車で比較的状態の良いキハ85系4両が譲渡され(営業運転に使われない部品取り車2両も含む)、早ければ2023年度中に特急「たんごリレー」などで線内運用を始める見通し(参照)。なお、KTR001形気動車の代替車両であるため、KTR8000形気動車の予備車という立ち位置。
- キハ85-12 → KTR8501
- キハ85-3 → KTR8502
- キハ85-6 → KTR8503(部品取り車)
- キハ85-7 → KTR8504(部品取り車)
まずキハ85-3、12の非貫通先頭車2両については、特急「ひだ」にまつわる企画の一環として2023年2月23日~3月5日の間京都鉄道博物館にて展示、その後JR東海区間へは戻ること無く自走で京都丹後鉄道の西舞鶴運転区へ向けて譲渡回送された。また同年3月24日にキハ85-6、7が同じく自走で譲渡回送され、4両とも各種整備が行われた。
(※2)車両や施設は北近畿タンゴ鉄道が保有、列車の運行はWILLER TRAINSが担当する上下分離方式。
模型化
JR世代として初の特急型気動車という事もあり、KATO(Nゲージ)とエンドウ(HOゲージ)からそれぞれ模型化されている。この他Bトレインショーティー(プラモデル)も発売されたことがある。
関連イラスト
関連タグ・外部リンク
前任:キハ80系
後継:HC85系
JR東海公式(削除済み、アーカイブ):車両のご案内
名鉄キハ8500系
詳しい概要はキハ8500系の記事を参照。
簡単に述べると、名鉄も、かつてキハ85系に準じた性能の特急型気動車キハ8500系を5両導入、「北アルプス」として運行し、美濃太田駅でキハ85系「ひだ」と連結して高山まで運行されていた。後に「北アルプス」は廃止され、キハ8500系は会津鉄道に渡る事となったが、運用の違いにより寿命が早まり平成23年に遂に全廃となってしまった(その後2両は那珂川清流鉄道保存会(外部リンク)にて動態保存、2両は福島県にて静態保存の後、2015年にマレーシアへ輸出)。
マイクロエース、鉄道コレクション(ともにNゲージ)、エンドウ(HOゲージ)にて模型化された。
その他のキハ85
かつて特定地方交通線であった大畑線を引き受けた下北交通が3両のキハ22を譲り受け、トイレ撤去およびワンマン化したものにこの車番をつけた(1985年に導入した形式のため)。平成13年に下北交通大畑線は廃線されたが、有志の手で3両全て動態保存された。なお現在では2両は静態保存に移行、1両が国鉄色に戻され動態保存状態にある。下北交通仕様ではあるが稼働状態にあるキハ22としてかなり貴重な存在。
こちらの方はTOMIX(Nゲージ)で模型化されている。