概要
札沼線札幌~北海道医療大学間の輸送力増強を目的に、札幌圏の普通列車の電車化で余剰になった50系客車(オハフ51形)を改造して、1990年に登場した、いわゆる「PDC」。この手の形式で唯一成功したと言える存在。種車であるオハフ51形の車掌室スペースを運転台に改造、前面はキハ54形に似た顔つきをしている。座席はセミクロスシートだが、同線の通勤通学輸送に鑑み、ロングシートの延長とクロスシートの3列化(2列+1列)が行われている。
2012年に札沼線の電化により撤退。大半は廃車ないしミャンマーに譲渡、一部は室蘭本線に転用されたほか、JR東日本で2013年秋に復活するC58形239号機蒸気機関車牽引のSL列車「SL銀河」の動力アシスト付客車として使用されるため4両が譲渡された。
2023年5月20日、室蘭本線での運用が737系電車に置き換えられて終了した。
形式別解説
キハ141形
札沼線での札幌方先頭車で、トイレ付きセミクロスシート車。機関は250PSのDMF13HSを1基搭載、台車はキハ56系の廃車発生品を流用し、動力台車はDT22A、付随台車はTR51Aを使用している。最高速度は95km/h。
キハ142形
0番台
キハ141とペアを組む、石狩当別方先頭車。基本的な設備はキハ141と共通だが、こちらはDMF13HSを2基搭載・台車は両方DT22A・トイレなしという違いがある。
試作的要素が強かったキハ141-1、キハ142-1は一足先に2005年に廃車されている。
100・200番台
100番台は1995年に14の再改造で、200番台は新たに改造によって登場。0番台との違いは、後述のキハ143・キサハ144との編成組成時に両形式が装備する半自動ドアの制御装置が装備されたこと。特にキハ142-201は、下記キハ143よりも後に製作されているにもかかわらず、非冷房のこちらの仕様で落成したという謎の車両であった。
上記2形式は2012年の撤退後、大半は廃車。一部はミャンマーに、キハ142-201がJR東日本に譲渡された。
キハ143形
1995年に、同期のキハ150形の性能を反映させて登場したパワーアップバージョン。室蘭/札幌方150番台はトイレ付き、苫小牧/石狩当別方100番台はトイレなしという違いがある。(ただし、157だけは苫小牧/石狩当別向きとなっている)どちらも機関は450PSのN-DMF13HZDを1基ずつ装備し、最高速度は110km/hに上昇。台車はキハ150のものをベースに本形式用に改良したN-DT150A/N-TR150A形ボルスタレス台車となった。客室設備ではラッシュ対策としてデッキが無くなり、新たに客扉が半自動化された。1996年改造の156・157は当初から冷房を備え、のちキハ143・キサハ144全車に設置されている。
2012年からワンマン対応改造が行われ、側面にLED表示機・転落防止幌設置、車内に運賃箱・LCDディスプレイ設置などが行われた。2012年に札沼線撤退後、苫小牧運転所に転属し、前述のとおり2023年5月まで室蘭本線で使用された。改造が行われなかった155はJR東日本に譲渡された。
キサハ144形
キハ143とコンビを組んだ中間付随車で、運転台はない。キハ143よりも早い1994年に落成し、当初は全車非冷房で、キハ141、142と編成を組んでいた。中間車なのになぜか同車もオハフ51の改造車。そしてなぜかキハ56の発生品TR51形台車を履いていた。2001年に電源供給用のサブエンジンを搭載し全車冷房化された。当初はトイレ付きの150番台も1両存在していたが、1995年にトイレが撤去されキサハ144-104となった。札沼線撤退後、-101と-103はJR東日本に譲渡、ほかは廃車となった。
700番台「SL銀河」用客車(JR東日本)
上記の通り、「キハ142-201、キハ143-155、キサハ144-101・103」はJR東日本に譲渡され、2014年1月に全車がジョイフルトレインに用いられる「700番台」として出場した。車両デザインは宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』をコンセプトとし、奥山清行が担当した。
キハ141系の牽引機関車であるC58蒸気機関車が釜石線での上り勾配での走行が困難であるため、被牽引車両であるキハ141系4両が補機として推進運転を行う。客車の扱いではあるものの気動車でもあるため、自走可能というユニークな客車となっている。
本番台は釜石線にて運行されるSL銀河の他、臨時列車「みちのくギャラクシー号」としてD51蒸気機関車に牽引され、上野駅に入線した実績を持つ。
700番台化改造ではキハ142-701(元・キハ142-201)はDMF13HZE形(300PS)2基に、キハ143-701(元・キハ143-155)はDMF13HZD形(450PS)1基に交換、変速機もJR東日本標準タイプ(DW14A-B形)に両者交換されている。また、JR北海道時代に非冷房だった車両については冷房化改造が行われた。
JR東日本では700番台用の部品調達が難しくなったとして、2023年6月で「SL銀河」の運行を終了した。
数奇な運命
自走客車という分類ではあるが気動車であるため、蒸気機関車と気動車の協調運転という絶対にあり得ないはずの組み合わせが実現してしまった。(電車と気動車による協調運転は国鉄時代から研究されており、JR九州のあそぼーい!は気動車からも動力を得る完全協調運転を実現した元オランダ村特急であり、現在でもJR北海道のキハ201系と731系がそれに該当するペアである。)
気動車は本来蒸気機関車を駆逐するための存在であり、しかも電車と違って線路さえあればどこへでも行けるため、蒸気機関車の手助けは必要としない。まあ、例外もいるが…。さらに、電化開業した学園都市線の電化率を引き上げるためキハ143はかつて追い出された電車を追い出すという、相当変わったことをしている。なお、この手の改造車のお約束として、種車よりも改造車として走った期間の方が長いのは言うまでもない。
「赤い星」・「青い星」
2023年5月で営業運行を終了したキハ143形のうち、8両を全道周遊型の豪華観光列車「赤い星」・「青い星」(いずれも仮称)に改造し、2026年4月から運行開始する予定。2025年度限りで運行終了する「くしろ湿原ノロッコ号」・「富良野・美瑛ノロッコ号」の後継として導入される。
列車はいずれも4両編成だが、価格設定や設備面で差異がある。車両デザインは水戸岡鋭治が担当する。
「赤い星」(釧路湿原編成)は定員100人程度で、高価格帯となるグリーン席以上の位置付け。個室や展望席のほか、ラウンジ車両に厨房を設けて本格的な食事を提供し、茶室で乗客をもてなす。夏から秋にかけて道内を周遊するクルーズトレインとして、冬から春にかけては釧網本線を中心に運行する。
「青い星」(富良野・美瑛編成)は定員200人程度で、グレードは普通席並み。4人がけボックス席や展望席を設け、主に短距離で利用しやすい列車を想定する。夏は富良野線を中心に、それ以外は道内各地で運行する。
関連タグ
JR北海道 JR東日本 気動車 ディーゼルカー PDC クルーズトレイン