名古屋鉄道時代
名古屋鉄道が1965年から運行していた国鉄・JR高山本線直通優等列車「北アルプス」に使用していたキハ8000系気動車の老朽化が激しく、車内設備も1990年台の水準から見てかなり陳腐化していた。
しかも走行性能はキハ58系と同等で高速化する時代の流れに合わなくなってきた。そこで名鉄ではJR発足後まもなくJR東海へ北アルプスの新型車両への置き換えをすると提言し、社内で仕様について検討を行った。社内での検討過程において、犬山線でのダイヤの構成上は高速性能の向上が望ましく、加速度毎秒3km/h、最高速度120km/hという当時の気動車から見れば破格の高性能を実現するには「搭載するエンジンについてはカミンズ製以外の選択肢はない」と結論付けられた(なお日本国内での鉄道車両へのカミンズ製エンジンの搭載はこれが初めてではなく、大井川鐵道DD20形がカミンズ製エンジンを搭載して登場している)。
JR東海も名鉄に負けじと1990年3月までに特急ひだの全列車をキハ85系に置き換え、いよいよ猶予が無くなるという状況に追い込まれたが、名鉄にとって幸いだったのはキハ85系も名鉄が搭載を検討していたカミンズ製の高出力エンジンを搭載しているということだった。
仕様
先頭車4両、中間車1両を製造。
車体長20.8m、車体幅は2.74mで先代のキハ8000系より若干拡大されている。
床や窓ガラスはエンジンからの騒音をシャットアウトするため二重構造となっており、快適な車内を実現している。
座席は2人がけリクライニングシートを1000mmピッチで配置している。便洗面所、車内LED表示器はパノラマSuperと共通のものを採用した。
走行性能はキハ85系と同じで運転台機器配置も揃えられている。
名鉄での運用
3両編成での運行を基本としていたが、多客期の増結のほか、美濃太田〜高山間で「ひだ」との連結が行われることもあった。電車並みの高加速性能を持っていることが評価され、名鉄線内で完結する特急列車への充当も行われた。
しかし時代の変化により北アルプスの利用者は減少。2000年から名鉄自社のバス部門が名古屋と高山を結ぶ高速バスの運行を開始し、存在意義を失った北アルプスは2001年9月をもって廃止された。
会津鉄道へ
福島県を走る第三セクター鉄道会社会津鉄道は、その時名鉄での運用を終えて車庫の肥やしとなっていたキハ8500系に着目し、譲渡を申し入れた。結果在籍していた5両全てが譲渡されることとなり、名古屋から遠く離れた会津の地へ甲種輸送された。なお会津鉄道が譲渡を受ける決め手となったのは、会津鉄道がJR東日本只見線へ乗り入れ運転をしており、JRへの直通運転に対応している事がある。会津鉄道譲渡後、塗装などが変更される予定だったが、特急北アルプスへの愛着を感じるファンの要望などによりそのままとされた。
こうして会津鉄道でデビューしたキハ8500系は快速「AIZUマウントエクスプレス」として運行を開始。名鉄時代は特急料金を支払わないと乗れなかったが会津鉄道では特別料金不要の快速列車として運行されたため好評を博した。
キハ8500系は高速運転には強いものの、快速列車や普通列車のようにこまめに加減速を繰り返し、速度制限のかかる箇所をいくつも通過する運用はカミンズ製エンジンに負担をかけ、老朽化を早めていた。特に、キハ85系同様のプログラマブル・コントローラと高速用のギア比が弱点となった。
50~65km/hなど中途半端に制限速度が低い箇所が点在する路線で、直結1段で運転すべき区間でも否応なく変速段で走行するなど、構造上どうしようもない制約がついて回った(エンジン側の高回転が連続するため、変速機油の温度が上がりすぎブルカン継手ダンパーゴムが劣化する)。最終減速比と変速プログラムを変更するのが手ではあるが、費用がかかりすぎた。このため2010年5月を以って後継のAT-700・AT-750に役目を譲って引退。その後、8502号と8503号はマレーシアへ移動、8501号と8504号は動態保存となっている。残り1両(8555号)は中間車で、他車より早く廃車解体され部品取りとなった。