パノラマSuperは、名古屋鉄道(名鉄)の特急形電車の愛称である。
名鉄社内での略号も愛称の頭文字を取った「PS」であり、駅での停止位置目標も「PS6」、「PS8」と表記されている。
運用略号は編成両数ごとに「B○」。1000系全車特別車編成は「B4」、1000系-1200系・1030系-1230系は「B6」、1800系・1850系は「B2」と称される。
以下の車両が存在する(した)。
1000系
1988年から1997年にかけて導入された特急形電車。
7000系「パノラマカー」の後継として開発され、名古屋本線全通40周年にあたる1988年に営業運転を開始した。
車両概観
車体設計コンセプトは「ハイ・アメニティ・エキスプレス」。
パノラマカー以来の伝統であった名鉄スカーレット単色塗装から、スピード感を意識して白を基調に赤帯を配し、裾部分をベージュに塗り分けた塗装を採用した。
先頭部に展望席を配置し、運転台の床を台枠下と面一にしたうえで展望席を中2階に配置するという8800系「パノラマDX」の流れを汲むハイデッカー構造だが、前面形態は丸みを帯びた流線形でより洗練された印象になった。
客用扉は内開きの折り畳み式ドアであり、7700系引退後は名鉄は数少ない客用扉が両開きではない形式である。
警笛は複音式(デュアルトーン)で、ミュージックホーンはビブラートを加えたものになっている。
※ JR東海との共用区間である飯田線豊橋駅 - 平井信号場間では、JRの規定によりミュージックホーンが警笛として扱われないため使用されない。
製造当初は側面の行先表示器に定期特急の運用が無かった「豊田市」や「刈谷」・「碧南」などの表示もあった。
ただし三河線自体は臨時列車で入線したことがある。
2005年に側面行先表示器を方向幕式からオーロラビジョンR-STAYに変更した。
機器類
制御方式はGTO界磁チョッパ制御、モーターは定格出力150kWの直流複巻電動機TDK8225A形であり、これは5700系と同様である。
ブレーキを強化したことで120km/h運転も可能になった。
ブレーキシステムが同一のためSR車および6000系列、8800系との総括運転が可能であるが、歯車比の違いから営業運転で6000系と併結したことはなく、また8800系とも併結されることはなかった。
補助電源装置はDC-DCコンバータ。
内装
全車両が回転リクライニングシートで、非常に柔らかい仕様となっている。自動でも回転可能であり終着駅での折り返しの際に使用される。
車内はデッキで区切られ、騒音は少ない。
前述のように展望席はハイデッカー構造であり、高い位置からの目線で旅のひと時を過ごせる。
ただし、展望席へは狭い階段を登って入る構造のため、車椅子での展望席利用は難しい。
展望席はリクライニングは可能だが座席の回転は出来ない。
登場時はカーテンは赤とクリーム色の縦縞ツートン、客室妻面の化粧板は白色だった。座席のヘッドレストについている脱着式の枕は青色のもので露出していた。
名鉄で初めてLED式情報表示器を搭載し、駅名案内のほか速度計なども表示する。
速度計は8800系で採用したプラズマディスプレイ式のものと同様に、速度が上昇するにつれて1000系のイラストが右から左へ伸びていきレールのアニメーションも速くなっていく。
登場時はカード式公衆電話と清涼飲料水の自動販売機が設置されていたが、いずれも撤去され荷物置き場に転用された。
後述のように全車特別車編成が全廃(快特と特急は一部特別車に統一)されたため、現在は岐阜/新鵜沼→名古屋→豊橋/太田川方面側のみ展望席を利用できる。
2015年度からリニューアル工事を開始。ライト間に付いていたパノラマSUPERの行灯を撤去しLEDによる行先表示器を装備。
回転式リクライニングシートは交換され、展望席も座席のモケットが変更された。
改善点として2号車については車椅子用座席スペースが設置され、内B編成となるモ1150形の化粧室は洋式便器に変更された事は勿論、1号車について展望席への階段については足元注意喚起として黄線で記された。
同時にLED式情報表示器はフルカラーLCDのものに交換された。パノラマSuperの愛称がなくなったわけではなく、このLCDに(英語のみ)愛称が表示されるようになっている。
リニューアル車からは編成全体の呼称が1200系に変更された。
形式
製造時は豊橋方から以下のように組成された。
- ク1000
豊橋方先頭車。補助電源装置とコンプレッサーを備える。
1200系に組成変更された車両はコンプレッサーが撤去された。
- モ1050
中間電動車。車端部に車掌室を、屋根上にパンタグラフを備える。制御装置を搭載。
- モ1150
中間電動車。車端部にトイレを、屋根上にパンタグラフを備える。
- ク1100
岐阜方先頭車。補助電源装置とコンプレッサーを備える。
1200系に組成変更された車両はコンプレッサーが撤去された。
製造時ごとの変遷
- 1次車
1988年6月製造。4両編成9本(1001~1009F)。
- 2次車
1989年9月製造。4両編成3本(1010~1012F)。
座席の置き枕がカバー付きに変更された。
1010F以外の2本が1200系に組成変更された。
- 3次車
1990年7~8月製造。4両編成4本(1013~1016F)。
全編成が1200系に組成変更された。
- 4次車
1994年6~7月製造。4両編成3本(1017~1019F)。
台車をボルスタレス台車に変更しユニットブレーキを装着した。
製造時より客室妻面の化粧板が濃ベージュ色。
- 5次車
1997年4月製造。4両編成2本(1020・1021F)。
編成
当初は全車指定席車(現:特別車)の単独4両編成で1990年より5300系・5700系SR車および7000系パノラマカーなど一般席車(現:一般車)と連結する形で運行されていた(南海電気鉄道の特急サザンと同じ方式)。
しかし、誤乗車の際に乗客が一般車へ移動できないのは問題であると運輸局より指摘を受け、1991年より一部の4両編成を2両ずつに分割して一般車1200系4両を岐阜側に連結し固定編成化、1000系2両(特別車)+1200系(一般車)の編成で運用を開始した。
車掌室とトイレの位置によりA編成・B編成の2種類がある。
その後、2009年10月3日のダイヤ改正をもって名鉄は全車特別車特急をミュースカイを除き全廃することを発表、全車特別車4両編成は全車が廃車され、機器類は5000系に流用されることになった。唯一1001Fだけは5000系に機器流用されず、部品取り車として解体された。
これにより、現在は一部特別車編成に運用が統一され、更には2018年度末で全ての車両がリニューアル車での運用となった。
1200系
※この画像はリニューアル後
前述のように1000系は当初単独で編成を組んでいたが、JR東海との競合のため1990年から運行を開始した一部指定席車(現:特別車)特急において、指定席車4両に対し一般席車が2両(5300系・7100系など)になることも多く、さらに車両同士の通り抜けができないため誤乗が絶えなかったこと、最高速度が110km/hであり単独組成と比べ低下すること(性能上は5700系と併結した場合は120km/h運転は可能だったが実際には行われなかった)から、1991年から新たに1000系と固定編成を組む一般席車として製造されたのが本形式である。
車両概観
基本設計は1000系と同様であり、車体塗装のほか側面窓の形状、前照灯の配置、ライト間のパノラマSUPERの行灯も踏襲している。
通勤需要を考慮して片側3扉で、前面形態は6500系後期車の流れを汲む大きな前面窓が特徴だが、前面展望を意識した曲面ガラスになっている。
内装
内装は転換クロスシートになっている。ドア脇部にはラッシュ時を考慮し補助席が設置されている。
補助席は当初自動で収納されない仕様になっていたが、後に自動で収納されるように改造された。
また1000系と同様のLED式情報表示器を搭載し、このデザインが3500系などに踏襲された。
座席モケットは紫系で、後に7000系・5700系などの転換クロスシートにも波及した。
機器類
1000系と同様のものを搭載しているが、MT比が2:2だった1000系全車特別車に対し4:2で編成出力が高く、起動加速度2.3km/h/sと若干高くなっている。高速域の加速力は3500系と同様。
台車はボルスタレス台車のSS126(電動台車)・SS026(付随台車)。1995年からヨーダンパが追加され、2004年からは電動台車をより強度を増したSS165系列に交換した。
形式
併結する1000系の内装の相違からA編成・B編成が存在する。
1号車・2号車は特別車(1000系)。
A編成
- モ1250形
3号車。車端部にトイレを、屋根上にパンタグラフを備える。
- サ1200形
4号車。補助電源装置とコンプレッサーを備える。
- モ1450形
5号車。制御装置と屋根上にパンタグラフを備える。
- モ1400形
6号車(岐阜方先頭車)。補助電源装置とコンプレッサーを備える。
B編成
- モ1350形
3号車。車端部に車掌室を、屋根上にパンタグラフを備える。制御装置を搭載。
- サ1300形
4号車。補助電源装置とコンプレッサーを備える。
- モ1550形
5号車。制御装置と屋根上にパンタグラフを備える。
- モ1500形
6号車(岐阜方先頭車)。補助電源装置とコンプレッサーを備える。
製造時期ごとの変遷
- 1次車
1991年8月製造。A編成・B編成各4本(1013~1016F・1113~1116F)。
- 2次車
1992年10月製造。A編成・B編成各2本(1011・1012・1111・1112F)。
乗務員室直後のロングシートのうち運転台側が撤去され、代わりに車椅子スペースが設置された。
運用
長らく名古屋本線専属で運用に就いたが、一部特別車特急の運行区間拡大に伴い2005年からは常滑線・空港線、2007年からは犬山線・広見線・河和線・知多新線、2008年からは西尾線にも入線している。
当初は自動放送装置が英語音声に対応していなかったため1700系の就役に伴い常滑線・空港線運用から外されたが、リニューアル後は英語音声にも対応している。定期運用での常滑線・空港線乗り入れはないが2021年のイベントで常滑線・空港線運用に就いたことがある。
2015年より1000系と同様リニューアル工事が行われた。
こちらは座席モケットが300系と同様のものに交換され、情報表示器をLCD化、前面のパノラマSUPERの行灯撤去・床の化粧板交換を実施。
3号車豊橋方の転換クロスシートを撤去し車椅子スペースとした。
A編成は特別車(1000系側)利用者専用の化粧室の車椅子対応化に伴い2号車-3号車デッキ扉が移設された。
1800系
名古屋本線で運用されていた一部特別車特急のラッシュ時における増結車として1200系と同時期に製造された。
日中は竹鼻線などのローカル線で通勤車両として単独編成運用を行うことが多いほか、平日日中に2編成を繋いで名古屋↔太田川方面系統の全車一般車特急の運用もあった。この運用はのちに3R通勤形に置き換えられて消滅した。
1991年9月に1次車5本、1996年4月に2次車4本が製造された。
車体概観
基本設計は1200系とほぼ同様だが、前面の行灯は当初より装備されていない。
ミュージックホーンも搭載しておらず、ドア開閉時の自動放送や2か国語対応自動放送装置も搭載していない。
内装はリニューアル前後共に1200系と共通である。
機器類
制御方式は界磁添加励磁制御。6800系と同様の方式で、歯車比を1000系に合わせて120km/h走行を可能にしている。
補助電源装置はSIVを搭載している。
形式
- ク1800形
豊橋方先頭車。SIVとコンプレッサーを備える。
- モ1850形
岐阜方先頭車。制御装置と屋根上にパンタグラフを備える。
1030・1230系
パノラマカー7500系の機器流用車。特急施策の変更により一部指定席(現:一部特別車)特急の不足を補うため、7500系の特別整備を中断し、車体を新製して1992年より登場した。1030系・1230系はB編成仕様のみ製造。6両編成4本が製造された。
車体構造や内装は1000系・1200系と同様だが、特別車の台車がボルスタレス台車であること、海側の抵抗器の厚さが薄いこと、パンタグラフの位置が異なること、1030・1230系がすべて電動車であることなどが特徴となっている。
実は全くの機器流用車ではなく、1030系は補助電源装置が電動発電機から1000系と同様のDC-DCコンバータに変更され、制御装置も界磁チョッパ制御となっている。
元々が設計最高速度180km/hだった7500系の機器を流用したため120km/h運転も可能であるが、低床構造ではないことと増圧ブレーキ・ユニットブレーキの仕様上設計最高速度は130km/hとなっている。
2002年9月26日8:30頃に1134Fが奥田駅~大里駅間で軌道上を暴走していた普通乗用車と衝突し先頭の特別車2両が大破。2003年12月に特別車は廃車となり、一般車4両は1380系に改造された(後述)。
旧来の設計機器と現在の設計機器の混在編成で故障が多いため、2200系の2210F~2213Fに(内1編成は本来の衝突事故車両から)置換えられる形で2015年7月に1133Fが、2016年7月に1132Fが廃車となった。
1131Fのみが1000・1200系リニューアル工事に伴う予備編成として細々と生き残っていたが、1850系の後を追うように2019年3月にリニューアル工事完了の関係で残る1131Fが廃車となり形式消滅。同編成がパノラマSuper非リニューアル車最後の編成だった。
1850系
「パノラマカー」7500系の機器流用車。登場経緯は1030系・1230系と同じ。1992年に2両編成3本が製造された。
制御方式は1230系と同じ他励界磁制御。全電動車で補助電源装置はMGと1800系と仕様は異なるものの、外観上の相違はほとんどなく車番や車内の床下点検蓋の数くらいである。
1030系・1230系と同様、旧来の車両機器流用で故障が多く、1853Fは岐南駅で車両電源が喪失して300mのオーバーランを起こし笠松方のポイントを破損して停車した。
原因は電気連結器のカバーが閉まっていなかったため雨水でショートしたためとされており、電源が喪失すると常用ブレーキが利かなくなり、非常ブレーキを使用して停車した。
当該編成は2015年度内の廃車予定だったが、国土交通省中部運輸局から保全命令が出されたことで、犬山検車場新川支区で休車状態になっていた。
3150系3167F~3169Fの製造に伴い2016年に1852Fと1853Fが、2019年に1851Fが廃車となり形式消滅した。
1600系
指定席車のグレードを統一せよとの運輸省からの通達を受け、1999年に7000系白帯車置換用に導入された新型特急(当時)。1600系の投入により7000系列は特急運用から撤退し、指定席車は特別車に名称が改められた。
開発段階より中部国際空港への旅客輸送も考慮されていたとされ、全車バリアフリー対応の観点を含めてその後の空港アクセス対応車両の原型となったとする意見もある。
詳細は名鉄1600系を参照。
1380系(事故復旧車)
2002年の衝突事故で廃車となった1030系の特別車2両を切り離し、中間車モ1380の豊橋方連結部に運転席ユニットを設置した車両。形式は1380系に変更、フロントの行灯が埋め込まれ、塗装も名鉄スカーレット一色に改められた。一般運用に入る4両編成1本(1384F)のみの変り種。
先述の1030系と同様、機器流用車であるため機器の老朽化が進行し、3300系に置き換えられる形で2015年に廃車・形式消滅した。
詳細は1380系を参照。