パノラマDX
ぱのらまでらっくす
7000系列「パノラマカー」の後継、そして「観光特急」としての位置づけで1984年に登場した。日本の鉄道車両で初めて、運転席を1階に下げ客室をハイデッキ構造とした展望席を採用としたのが最大の特徴で、翌年の1985年に鉄道友の会からブルーリボン賞を受賞している。
パノラマカーの開発に関わった白井昭はその発展型「パノラマドームカー」の構想を策定した。中間に2階席のドームを設けて先頭部と異なる眺望を旅客に提供するというコンセプトで、検討用模型や2階席のモックアップも作られたが、当時の社長土川元夫の「時期尚早」という判断で実現しなかった。
1980年代に入り、行楽旅行の形態が変化して小グループでの旅行が増えていった。クルマ大国である中京圏で小グループの旅行に対応するにはマイカーに勝るゆとりとくつろぎが必要であると考えられ、個室様式の客室を有する新型特急が導入されることとなった。
先頭部の展望席は1列ごとに床面高さを高くしており、最後尾の床面高さ1950mmは近鉄30000系「ビスタカー(ビスタIII世→ビスタEX)」の2階席(1830mm)より高かった。
前寄りの扉を挟んで後方に2人用・4人用の区分室(セミコンパートメント)が3室設けられた。通路との間に仕切り(パーテーション)が設けられていたが、完全に仕切ると窮屈であるとしてすりガラスに沿線の観光地をイメージした図柄(桜(犬山城)、川の流れ(木曽川)、波と貝殻(南知多))をデザインした。
座席は2人用区分室がリクライニングシート、4人用区分室が固定ソファー。
後ろ寄り扉付近に6人用サロン席を設け、通路を挟んで3人掛けのソファーを配置した。
豊橋方先頭車の車端部に車掌室、岐阜方先頭車の車端部にサービスコーナーが置かれ、車内販売やおしぼりのサービスができるようになっていた。
主要な機器は余剰廃車となった「パノラマカー」7000系の流用である。
制御器は多段電動カム軸式パッケージ型制御装置の東芝MC-11C形。
モーターは東洋電機製造TDK-825/1A形。駆動方式は中空軸並行カルダン駆動。
ブレーキは発電ブレーキ併用HSC-D形電磁直通ブレーキ。
台車は住友金属工業製S型ミンデン空気ばね台車FS384形。廃車となった7000系はFS335形台車を装備していたため、それらを7700系などに交換したうえで流用している。
冷房装置はRPU-4002形。7000系が装備していた冷房装置は6600系に流用された。
- 1次車
1984年製造。2両編成2本。
- 2次車
1987年製造。2両編成2本。
内装がマイナーチェンジされており、展望席の最前部と2列目が親子3人で座れるよう幅広の座席になっていたほか、2人用区分室が廃止され回転可能な1人用の座席が置かれるようになり、6人用サロンも廃止され4人用区分室と4人用個室に変更された。
- 3次車
1989年製造。中間車サ8850形のみ4両。台車はS型ミンデン式空気ばね台車FS098形を新造。
海側に4人用区分室5室、山側に1人掛け座席9席を配置、ソファー10脚を備えたラウンジも設けられた。
豊橋方車端部にトイレと洗面所が備え付けられていた。
1984年12月15日運行開始。運行初日には犬山遊園駅と内海駅で出発式イベントが開催された。
1本が河和線・知多新線・犬山線で特急運用に就き、もう1本はイベント用として使用された。
通常の特急よりワンランク上の位置付けとなっており、通常の特急より停車駅が少なく料金も高い「DX特急」という専用の種別で運行された(座席指定料金250円に対しDX特急料金は500円)。
1985年には正月初詣輸送で豊川線に入線。パノラマカー白帯車との併結運転を行った。もちろんパノラマカーと座席指定料金は異なっていた。
同じく豊川線で団体列車として入線した際には、線路容量が不足していたことからツリカケ駆動のAL車を使用していた定期列車に併結して入線した。
本形式とAL車は総括制御ができないため、双方の運転士が警笛で合図をしながら協調運転を行った。
1989年に3両編成化した際に先頭車の座席モケット・絨毯を交換したほか、モーターの出力強化と耐雪ブレーキの追加などの改造が行われた。
これに前後する1988年に1000系「パノラマSuper」が登場し、さらに観光特急の需要減少に伴い1992年のダイヤ改正に合わせて用途変更が行われ、最終編成を除いた3編成については中間車の内装を2人がけ回転リクライニングシートへ改造、先頭車は1次車の仕様に合わせられた。最終編成は団体専用車運用に固定された。
同時にDX特急料金も廃止され、「パノラマDX」は支線直通特急としての運用がメインとなった。
2005年に中部国際空港が開港し、同年のダイヤ改正で特急が120km/h運転へ統一されることになり、7000系からの機器流用車で110km/h運転しかできない8800系はお役御免となり2005年3月に廃車となった。
現在はモ8803号の前頭部のみが舞木検車場に静態保存されているほか、モ8802のシートなどは名鉄資料館に保存された。
資料館の閉館後は名鉄グランドホテルの客室に移設され、「名鉄電車ルーム8802」と命名されている。