概要
国鉄が開発した自然振り子式直流特急形電車で、中央本線(中央西線区間)・篠ノ井線直流電化に合わせ、営業用としては日本初の車体傾斜装置搭載車両として1973年に登場した。
開発研究の結果、作動がスムーズなコロ式自然振り子システムを採用。曲線区間に進入すると超過遠心力によって最大5°まで車体を傾斜させる。このことにより、曲線が連続する区間では大幅なスピードアップが可能となった。ただし、この自然振り子は、カーブが少ない路線では揺れが激しく乗り心地が悪くなるという欠点も持っていたため、各座席にエチケット袋が用意されていたり、車掌が酔い止め薬を体調の悪くなった乗客のために持ち歩いて乗務していた程。このせいで「はくの」や「げろしお」に「はくも」「ゆったりはくも」なる揶揄をされたこともあるそうな。
結果自然振り子式の採用はこの形式のみに留まり、JR化後以降の車体傾斜式車両はカーブ直前から傾斜を始める「制御付自然振り子」「空気バネ式車体傾斜」採用が主流となった。
車体重心を下げるため、クーラー等の屋上機器はほとんどが床下に搭載。車体は軽量化のため、当時としては異例となるアルミ合金を採用した。
意外と思われがちであるが、車体傾斜式におけるアルミ車体採用は2000年885系登場まで暫く間が空くこととなる。
先頭車には当初他の特急電車同様貫通扉が装備されていたが、1978年からの増備車は非貫通式に変更され、クハは100番台に区別されている。
中央本線以外では紀勢本線、・[伯備線]]に新造投入され、キハ80系やキハ181系、485系を置換えて所要時間の短縮を実現した。
民営化後
車両はJR東海・JR西日本に継承。JR東海車は「しなの」で運用されていたが、後継383系投入に伴い、1996年に定期運用を離脱。僅かに残った波動用も2008年に廃車・全廃。
JR西日本でも2010年代以降廃車が進行。現在は「ゆったりやくも」用リニューアル工事施工済編成が10両残るのみ。
運用
中央本線系統(大阪・名古屋 - 長野)
1973年7月に運行開始。
1987年から6連化および先頭車化改造が開始され、制御グリーン車であるクロ381形が登場した。
国鉄分割民営化後の1988年にはパノラマタイプのクロ381形10番台が登場。この形式の改造部分は普通鋼製となっているが特徴。
1996年までに383系に置き換えられて撤退し、原型先頭車のクハ381-1とパノラマグリーン車クロ381-11の2両はリニア・鉄道館に収蔵されたが、2019年にクロ381-11は展示を終了し、解体された。
紀勢本線系統(京都・新大阪~白浜・新宮)
1978年10月から運行開始。
1986年に485系で運行されていた「くろしお」置き換えのため、後述する「やくも」から一部編成が転入している。
1989年に内外装をリニューアルしたスーパーくろしおが運行を開始し、東海と同じくパノラマグリーン車のクロ380が登場。但し車体形状は先の東海改造車と大幅に異なり、塗装も異なるため一見しただけでは改造車とは区別がつきにくい。
1998年から大半の編成でリニューアル工事が開始され、塗装も283系に準じたものに変更された。
2012年ダイヤ改正により列車名が「くろしお」に統一される。同時にパノラマ編成5本のみの運用になり、それ以外の編成は廃車解体若しくは福知山電車区に転出した。
287・289系に置換えられ、2015年10月30日に運行終了。一部車両は伯備線に転出、改造の上で「ゆったりやくも」運用に就いていた。
山陰本線/福知山線系統(京都・新大阪 - 城崎温泉館)
北近畿から改称した2011年3月から287系が完成するまで、上記くろしお用の日根野区の未更新編成が3ヶ月間貸出されて代走。この編成はそのまま廃車された。
一年後の2012年には正式に元くろしお用更新車が福知山電車区に転属され、運転を開始している。塗装は国鉄特急色に復元され、振り子機能は線路設備が対応していないことから使用を停止した。
2013年3月のダイヤ改正で元485系の183系を完全に置き換え、国鉄型で国鉄型を置き換えるというケースとなった。
2014年には、それまで使用停止していた振り子機能を福知山線規格に合わせて再使用するため、角度を3°に変更する改造が全車に施され、元車番に+1000された1000番台に改番された。ただし、既に置換が決定していたため、車番変更処理は簡略化され、元々の車番を塗り潰し、隣にステッカーで1000番台車番を貼るという前例がない手法がとられた。ちなみに、この改造は乗り心地向上を目的としたものであり、スピードは据置きであった。
「くろしお」と同時に289系に置換えられ、2015年10月30日に運行終了。これに伴い、関西地方から国鉄型特急車が消滅したばかりか、定期運行の国鉄特急色列車が全国から1度消滅した(後に「ゆったりやくも」で復活)。
伯備線系統(岡山 - 出雲市間)
1982年7月から運行開始。
当初は9両編成であったが、1986年11月改正で「くろしお」用に捻出するため、6両編成への短縮が実施。これに合わせて先頭車化改造車クモハ381形が登場した。
改造先頭車は貫通型となっており、クハ480形同様簡易式貫通扉が装備されている。
1994年に速達タイプ「スーパーやくも」が新設、これに併せてパノラマグリーン車がデビューしたが、2006年ダイヤ改正で「やくも」に統一されて消滅。
翌2007 - 2010年にかけて「ゆったりやくも」と称されるリニューアル工事を実施、グリーン車の位置を統一。2016年には近畿圏余剰車を集めて7両運行を開始。自由席車が4・5号車に統一された。
2022年3月、運行開始40周年を記念して国鉄特急色が復活。その後、2023年2月には「スーパーやくも」色、同年11月には「緑やくも」色が復活、一時期は歴代4色が出揃うこととなった。
2024年より後継273系が投入され、同年6月15日をもって定期運用を終了。その後は多客期の臨時「やくも」に就いているが、これも2024 - 25年年末年始が最後であり、以降は突発的な代走のみ使われることが告知されている。
過去には瀬戸大橋開通直後には臨時列車として高松まで乗入れていた他、大阪にも乗入れたことがある。
代走・臨時列車
- 「ちくま」(大阪 - 長野間):臨時列車化で381系担当となった。JR東海車を使用。
- 「くろよん」(大阪 - 信濃森上間):「ちくま」の兄弟列車。末期には381系が担当した。JR西日本車を使用。
- 「伊那路」(豊橋 - 飯田間):臨時列車81・82号で使用。「伊那路」としては最大の4両でグリーン車も連結されていた。ただ、飯田線自体が振り子方式に対応していないこともあり、スピードアップ化には貢献出来なかった。
- 「まほろば」(新大阪 - 奈良):平城遷都1300年祭に合わせて2010年4 - 6月にかけて運行された臨時特急。「くろしお」用未更新編成を使用。
- 「北近畿」(新大阪 - 城崎温泉):2010年末に485系(183系)代走として走る。1986年設定時には投入予定もあったが、予算が付かず断念。末期になって実現した。
「-やまとじライナー」・「はんわライナー」:それぞれ大和路線・阪和線の[ホームライナー]]。「くろしお」用編成を使用していた。2011年に廃止。
計画にあったが、中止となった特急列車
- 「(ワイドビュー)ひだ」
高山本線岐阜 - 高山間直流電化の際に投入するはずであったが、当時の高山方面需要が乏しいことや国鉄の経営が悪化していたため、1985年に直流電化計画自体が中止となった。当然ながら当形式は直流電化されていなければ走れないので、投入中止となった。
最後の国鉄形特急電車
2021年ダイヤ改正でJR東日本の踊り子」で使用されていた185系0・200番台定期運用が終了すると国鉄形特急電車を使用した定期列車は「やくも」のみとなり、その専属である本形式の注目度が高まった。
ここまで長く活躍したのは、伯備線線路形状の複雑さ故に非振り子式車両で置換えるのが現実的でなかったためと言われる。実際、同じ伯備の特急でも非振り子式「サンライズ出雲」とは所要時間が30分近くも異なる。
しかし、2024年4月からは老朽化のため、273系への代替が始まり、同年6月15日の「やくも」1号を最後に定期運用から撤退。これに伴い、輝かしいエル特急時代を駆け抜けた国鉄形特急電車を使用した定期列車は完全消滅した。
ちなみに
「最後の国鉄特急車」といわれることがあるが、これは厳密にいうと間違いである。
国鉄特急車(気動車も含む)という括りではJR四国/JR九州のキハ185系が2024年現在でも現役であり、置換計画も今のところはないため、こちらが「最後の定期運用を持つ国鉄特急車」となる。