概要
客車列車として運転されていた寝台特急「瀬戸」「出雲」のアコモデーション改善と、夜行列車の出発・到着時間帯が都市部のラッシュ時に重なるため電車の走行性能を要求され、設計開発された。愛称はサンライズエクスプレス。
1998年(平成10年)に「サンライズ瀬戸」「サンライズ出雲」として運転開始。
愛称のサンライズは夜明けを意味し、それを連想する赤とベージュを纏う。
個室主体の豪華な設備が多いが、寝台料金不要のノビノビ座席もあり幅広いニーズに応えている。
JR東海が関わっている割に発表時に本社でもある名古屋(客車時代では下りの停車)には通過となった為に在名政経界やマスコミからは第二の「名古屋飛ばし」と呼ばれた。
2014年からリニューアル工事が順次行われ、内装の更新が行われたほか、外観的にはパンタグラフが増設されたのが大きな特徴。
パンタグラフに関しては設計時から想定されており、元々準備工事はされていた。
尚、当時は多数存在した寝台列車の中で「瀬戸」と「出雲」が選ばれたのは、他の列車が利用率の低迷に苦しむ中で、この2列車は利用率が高く好調だったため。
583系の後継者として
1972年の583系製造終了後もはや二度と登場しないと思われていた寝台電車として実に26年ぶりに登場した寝台電車が本系列である。
ただ、581系・583系の開発コンセプトが昼夜兼行の可能な両用電車であったのに対し、285系は夜行特化であり昼行運用は基本的に考慮していない。この為285系は583系の正統な後継車ではないとする意見もある。
だが、そもそも工業製品において583系のようなエポックメイカーがそのコンセプトを次代に完全に引き継がせた例の方が極めて稀有である。まして1967年の581系以来30年ぶりの新設計に当たって583系では生かし切れなかった、あるいは時流に合わないとされた部分をオミットしたのは当然と言えよう。
そもそも285系は「1系列で座席からA寝台までの多改装サービスを実現させる」というコンセプトで開発されているが、それは紛れもなくサロネ581形登場後の583系の姿であり、「きたぐに」という583系が特化することに成功した例からの発展である。285系は立派に583系の後を継いだと言える。
区分
0番台
JR西日本所有。後藤総合車両所出雲支所所属。3編成在籍。
3000番台
JR東海所有。大垣車両区所属。2編成在籍。
車両管理はJR西日本に委託しており、所属区である大垣車両区に帰ることは基本的にない。全般検査も後藤総合車両所本所で行っている。
共通運用のため番台区分による内外装の区別は無く、唯一の識別点は側面ナンバーの書体である。
(0番台はゴナ、3000番台は国鉄伝統のスミ丸ゴシック)
定期列車
多客時に高松~松山間延長運転の実績あり(1999年~2009年)。
- サンライズ出雲(東京~出雲市)
上記2列車は東京~岡山間併結運転。前述通り客車時代では下りのみ名古屋に停車していたが、電車化後は通過となった。
臨時列車
1998年~2008年に運行。事実上あさかぜの増発便であった。
- サンライズ出雲91号・92号(東京~出雲市)
サンライズ出雲の増発便。長期連休の時期に運行される。
これらの列車は予備編成として残る1本を使用。
設備
車両は7両編成。分割併合列車で運用されるため2本併結しての運用が行われ(もちろん単独運行区間では1本での運用が行われる)、両先頭車には貫通扉が設けられている。
車内には5タイプの個室寝台(シングルデラックス・シングルツイン・シングル・ソロ及びサンライズツイン)とノビノビ座席によって構成される客席と、ミニラウンジ、シャワー室、自動販売機、トイレ洗面所などの付帯設備が各所供えられている。
いずれの個室も設計が90年代後半から2000年代初頭、平成10年代の時期のため、今時の列車では当たり前の装備になりつつあるコンセントは車内清掃を前提として取り付けられたものしかなく、モバイル端末全盛の令和の時代にはやや時代遅れな配置となっている。
客室については以下の通り。
シングルデラックス
A寝台一人用個室。4(11)号車2階のみ。同種の名前を持つもので最大の室内空間を持ち、シャワー室を除いた24系「ロイヤル」に匹敵するほど。洗面設備を個室内に備える同車唯一の個室。かつては小型テレビも存在したが利用や保守整備に難があり撤去された。1編成6室のみ、「出雲」「瀬戸」の併結時も最大で12室のみである。A寝台のため独自のアメニティセットが利用時に提供され、4(11)号車のA寝台専用シャワーを利用できる(B寝台客が有償で購入するシャワーカードを利用する場合3(10)号車のものを利用する)。
サンライズツイン
B寝台二人用個室。4(11)号車1階のみ。上記シングルデラックスとは室内空間がほぼ同じ大きさ(ただしサンライズツインは上階のシングルデラックスへの分岐通路の階段が出っ張っている)で、メイン通路(中2階に平屋構造で設置)を共有し、上下それぞれの部屋に行くための分岐通路を互い違いに配備する形で客室を設置している。
ただしシングルデラックスの2階と異なり、1階は台車が干渉するためスペースが狭くなり、4室限定の設置である(4号車を見れば分かるが、2階のシングルデラックスは両端2室が台車上まではみ出して設置しており、ツインより2室多くなっている)。ベッドがツイン構造で設置してあり、階段の出っ張りを除けば室内で立つことも可能。このため従来の客車寝台の二人用個室「デュエット」より格段に広くなった。
「ツイン」の名は「トワイライトエクスプレス」などに導入している個室に採用されていたため、オリジナルの個室名称を採用。「サンライズ」がつく個室はここだけである。
シングルツイン
B寝台一人用個室。ただしベッドが二段構造となっており、あらかじめ上段ベッドの使用を予約すれば二人での利用も出来る個室。名前の由来も「シングルでもツインでも利用可能」という意。上段ベッドは補助ベッドの扱いであり、折りたたむことが出来る。1・2・6・7(8・9・13・14)号車の平屋部の一部に限定して設置。また2(9)号車の1室は車椅子対応個室である。
天井高は他のどの個室よりも高い。また、シングルと異なり下段寝台を折りたたむことが出来、座席化することが出来る。その際テーブルも設置可能。なお、テーブルを畳む際は心棒をずらして畳むが、コツを掴まないといつまで経っても片付けることが出来ず難儀する羽目になるので注意。
この構造の寝台は「トワイライトエクスプレス」はじめ他のいくつかの寝台列車に先行して採用されていたため、名称もそのまま引き継いでいる。
シングル
B寝台一人用個室。「サンライズ」の基本とも言える個室で、1編成中5両に設置され、うち4両でメインの個室。5(12)号車のみ車端の平屋室のみの設置。ベッド・固定テーブル(ベッドに干渉しないよう最低限の設置)・コントロールパネルにコンセントと、上記の寝台群にも大抵設置してある基本的な設備のみを備えたシンプルな個室。
客室は2階建ての2階、1階と台車上の平屋階の3タイプに分かれる。平屋階はシングルデラックスと似た箇所に設置され数が少ない。また付帯設備はどれも同じだが、スペースの都合上2階建て構造の部屋では部屋の一部が内側に湾曲している。平屋階にはそのような構造が無いが、台車上のため揺れやすいことに注意。
これまでの個室寝台(ソロ)と異なり、2階建て構造をフルに活用したために天井高さの不満がある程度解消されている。285系の真骨頂を拝める、ある意味象徴的な寝台とも言えるだろう。
ソロ
7両編成を動かすに当たって少なくとも2両の電動車が必要になるため、このうち3(10)号車には寝台個室「ソロ」が設置されている。平屋構造(天井高は寝台車特有の高屋根構造)に上下二段式で客室を設置してあり、二階建て構造のシングルとは設置方式が異なる。パンタグラフや冷房のある車端はミニラウンジやトイレが設置している。
電動車故に床下にモーター機器を積んでいるため、2階建て構造特有の船底構造により台車の横まで客室空間を伸ばすという手法が採用出来ない。このため、車体の床下はフラットな構造となっており、その分上下寸法は狭くなる。それ故に従来の客車に設置されていた「ソロ」をこの車両のみ採用したということである
前述の通り床下分の高さが不足するために客室は「シングル」より狭く、また元が平屋のため上段は客室内に階段を設置している(余談だが、屋根自体が昼行列車より高いため、冷房設備の下に設置された「シングルツイン」や「シングル」平屋部よりこの階段の一番下の方が高くはなる)。そのほか、コントロールパネルの設備のうちこの寝台のみラジオを聴くためにイヤホンなどが必要(他はツマミを調節することでスピーカーから流れる)。
価格が「シングル」より安いことや1両20室のみの設置であるからか、設備が劣るにもかかわらず「シングル」より先に満席になることも多い。
ノビノビ座席
5(12)号車のみのカーペットタイプの雑魚寝席(ただし一区画ごとに区切られ、ある程度のプライバシーを保てる)。この車両も電動車であり、ソロ用の3(11)号車同様、床下フラットの平屋構造であることからこのタイプの座席を設置することとなった。
座席(指定席)扱いのため、他の寝台よりかなり価格は抑えられている。これまでの客車列車の開放B寝台と異なり、上段への階段(はしご)は通路すぐに設置され、中間通路が存在しない構造となっている(このため、はしご設置部分のみ僅かに客席カーペットが抉れる形)。このため空間内は座席が敷き詰められ、無駄を出来るだけ排除するようにしている。
ラジオなどのコントロールパネルは無く、天井から吹き出る冷房をつまみで調整する(自動車やバスの冷房調節と同じ要領)ことが出来るのみ。暖房の調節機能は無い。
主要機器
基本的には先に登場したJR西日本の223系1000番台をベースとしている。
が、寝台列車への運用・伯備線の走行を考慮した設計がなされている。
VVVF装置は223系と同じ、電動機制御と補助電源の双方に対応したものであるが、室内灯や各部屋のラジオ・コンセント等で電力消費が大きいため、通常の電動機制御用4台+補助電源用1台の他、補助電源専用にもう1台を増設している。
主電動機は、223系1000番台と同じWMT102A型。歯車比は17:96=1:5.65。
架線電圧の上昇しやすい夜間でも電気制動を使用するため、発電ブレーキ用抵抗器とチョッパ装置を装備する。チョッパ装置の採用により、効率的なブレーキ制御が可能。
電動車比率が2M5Tと低いものの、定員乗車が原則のため特に問題はない。
空気圧縮機はうるさいレシプロ式ではなく、静かなスクロール式。
ちなみに、VVVF装置には三菱製と東芝製の2種類があり、それぞれ磁励音が異なる。
床が薄いためか、電動車における騒音は比較的大きめ。特に車両端の個室は台車の真上なので、乗車する際は注意すること。
余談
車両の内装設計に住宅メーカーであるミサワホームも参加している。
(個室を組み上げる際にパネル工法を採用したため)
3000番台はJR東海の電車で唯一ミュージックホーンを装備している。
試運転ではあるが、関門トンネルを越えて九州上陸の実績がある。とされているが、実際は九州に乗り入れていない。なお機関車牽引を想定した試運転は実施されており、1998年の5月に下関運転所のEF65が電源車のカニ24と無動力状態の285系7両編成を牽引して宮原操車場から岡山駅まで走行している。この様子は雑誌鉄道ジャーナル1998年10月号に掲載されている。
今のところ一度も使用されていないが、「あさかぜ」の方向幕も用意されている。逆に、運行区間が重複した先述の「サンライズゆめ」の方向幕はなく、運行時には「特急」と表示していた。