概要
2025年1月5日から放送中の通算64作目に当たるNHK大河ドラマ。
制作発表は2023年4月27日に行われ、主演を大河ドラマおよびNHKドラマ初出演となる横浜流星、脚本を『おんな城主直虎』(2017年)以来となる森下佳子がそれぞれ務めることなどが、併せて発表された。2024年夏にクランクイン。
なお、本作で主演を務める横浜は2021年の「青天を衝け」で主演を務めた吉沢亮以来史上2人目の平成生まれの俳優となる。
ナレーションは綾瀬はるかが担当。初回で「九郎助稲荷」であることが明かされており、綾瀬本人も九郎助稲荷が花魁に化けた姿として顔出し出演している。
本作では江戸時代中期、18世紀後半の江戸を物語の舞台とし、「江戸のメディア王」とも言うべき快男児・”蔦重”こと蔦屋重三郎の波乱万丈に満ちた生涯、そして笑いと涙と謎に満ちた痛快エンターテインメントドラマが志向される。本作の制作決定により、2024年度放送予定の『光る君へ』に続いて、いわゆる「文化人」を主人公に据えた大河ドラマが2年連続で放送される格好となる。また生涯純粋な民間人で過ごした史実の人物が主人公になるのは1985年の『春の波濤』の川上貞奴以来、40年ぶりのことである(翌1986年の『いのち』は架空の人物)。
また、蔦重が生きた18世紀後半は、既に60作を超える大河ドラマ史上でも今まで取り扱われることの殆どなかった時期でもあり、同時に大河ドラマとしては異例となる「戦のない時代」でもある。
脚本の森下はこの点について、「(前略)「戦」がなくなった時代だからこそ、いかに生きるかどう生きるか、己の価値、地位、富の有無、誇りのありどころ、そんなものが新たな「戦」としておもむろに頭をもたげだした(後略)」と語っており、その中で繰り広げられる蔦重や彼にまつわる錦絵の作者たちの生み出した作品の数々、それにその周辺を取り巻く文化・事件・政治などといった様々な事象を通して、この時代に対して強い興味を抱いたこと、そしてそんな時代に自分が夢中になったように視聴者にも夢中になってもらえるドラマを目指せばいいんだなと考えていると、本作に対する意気込みを明らかにしている。
登場人物
蔦重と周囲の人々
演:横浜流星
主人公。江戸時代中期に活躍した日本のポップカルチャーの先駆けとなる版元(出版人)。戯作や狂歌を作るときには「蔦唐丸(つたのからまる)」と号した。
通称「蔦重(つたじゅう)」「重三(じゅうざ)」。
養父が営む引手茶屋『駿河屋』が五十間道で経営する茶屋の『蔦屋』で働きつつ、その軒先を借り遊郭の遊び客や花魁を相手に貸本屋を営む。
第一話冒頭で「親なし、金なし、家もなし」と語られたように、かつて親に捨てられて、今の駿河屋夫婦に引き取られた過去がある。
頭の回転が早いが、せっかちかつ無鉄砲でもあり、それゆえ吉原遊郭の顔役を怒らせたり、養父の市右衛門からは「べらぼうめ!」と折檻されることも。
当初は吉原のために本作りを考案していたが、いつしか本作りその物の楽しさを感じるようになる。
源内から考案された『耕書堂』の名で版元になろうと意気込むが、老舗本屋から参入を阻まれ、鱗形屋孫兵衛の”改”の仕事を受けることになるが、鱗形屋の金儲けにも利用される。だが、鱗形屋が偽版の疑いで逮捕されると罪悪感に包まれながらも版元になるチャンスを掴むことになる。
名前的に連想しがちだが、TSUTAYAの店長…ではないけど、一応無関係とは言い切れない間柄の人。(詳しくはこちら)
演:染谷将太
浮世絵師。
- 花の井
演:小芝風花
主人公・重三郎の幼馴染で伝説の遊女。のちの五代目・瀬川。
第二話では吉原復興に奔走しながら、他人にそのことを話そうとしない蔦重を訝しみながらも、朝顔の死から自分も「吉原をどうにかしたい」と決心し、源内の言動から未だに亡くなった想い人『瀬川菊之丞』のことを忘れられないと推理し、1日のみ断絶していた『瀬川』の名跡を名乗り、男装して彼の相手を務めた。
- 唐丸
演:渡邉斗翔
第一話冒頭の大火事の際に重三郎が拾った身寄りのない少年。
記憶を失くしており、自分の名前も忘れていたため、蔦重の幼名である「唐丸」と名付けられた。
その後は茶屋の小僧として蔦重と共に寝起きしていたが、不意に現れた浪人に記憶を失くす前の悪事で脅され店の金を度々盗むように…。しかし、これ以上店と蔦重に迷惑は掛けられないと浪人を道連れに入水心中を謀る。浪人は水死体となって発見されたが唐丸は行方不明になる。
吉原遊郭関係者
- 駿河屋市右衛門
演:高橋克実
重三郎の義父。
吉原にやってきた客を遊女たちに案内する引手茶屋『駿河屋』の亭主。
副業である貸本屋経営どころか製本業・出版業に精を出している蔦重を苦々しく思っており、ことあるごとに暴力をふるっていた。だが、「かわいさ余って憎さ百倍」と語るなど、蔦重への情はきちんとあり、放蕩息子である次郎兵衛の代わりに駿河屋を継がせたいとさえ思っているなど、蔦重には期待するところもある様子。
また、蔦重の出版した『一目千本』を妻と一緒に嬉しそうに読む意外な一面を見せた。
勝手に本作りしたことに怒りが収まらず蔦重を蔦屋から追い出すが、『一目千本』の内容に感心してからは彼を「べらぼうめ!」と喜びながら呼び戻して本作りを容認。以降は良き理解者となる。
ちなみに、服の下にはバチバチに刺青を入れている...のだが、なかなか披露する機会がなく、演者の高橋はインタビューで悔しがっていた。
- ふじ
演:飯島直子
『駿河屋』の女将。市右衛門の妻で蔦重の義母。蔦重はじめ身寄りのない子どもたちを育てている。
- 駿河屋次郎兵衛
演:中村蒼
市右衛門とふじの長男で重三郎の義兄。
蔦重の寝起きしている、吉原へ向かう五十間道にある茶屋『蔦屋』の本来の店主…なのだが、本人は『駿河屋』を継ぐつもりでいるためか店番をするだけで仕事をほとんど蔦重に丸投げしている。また、物忘れも多い。本人もそのことを自覚している。
中村氏はよしながふみの『大奥』では徳川家斉を演じていた。
- 松葉屋半左衛門
演:正名僕蔵
花の井が務める女郎屋『松葉屋』の亭主。
- いね
演:水野美紀
女郎屋『松葉屋』の女将。ふてぶてしく、金勘定に厳しい性格をしているが女郎達の気持ちを強く理解している。
- 扇屋宇右衛門
演:山路和弘
女郎屋『扇屋』の亭主の一人。遊女たちの窮状を訴える蔦重に「あいにく、私らは忘八(※)なもんでね」と言い切った人。
吉原の裏側を象徴する人物の一人ではあるが、出版業にうつつを抜かす蔦重のことを「かわいさ余って憎さ百倍」とぼやく市兵衛に対して「可愛さ余って憎さ百倍なんて、お前さん、まるで人みてぇなこと言ってるよ。忘八のくせに」と言い放つなど、「忘八」であることに何かしらのプライドや美学持っているような雰囲気を醸している。
なお、そのかっこよさに、演者の奥様が放映後荒ぶっていらっしゃった
なお、第4話の猫自慢の会合では愛猫を抱えて「にゃお〜ん」と一緒に鳴く親バカっぷりを披露。ちなみに扇屋の愛猫を演じたのは、前年の大河『光る君へ』で登場した右大臣家の猫『小麻呂』を演じた猫ちゃんである。
- ※忘八: ( 仁義礼智忠信孝悌(てい)の八つの徳目を失った者の意から )① 放蕩にふけること。遊里で遊ぶこと。また、その者や、その者をののしることば。わんば。〔五雑俎‐人部四〕② 遊女屋。くるわ。また、女郎屋の主人。(『精選版 日本国語大辞典』より)
- 大文字屋市兵衛
演:伊藤淳史
女郎屋『大文字屋』の亭主。伊勢出身。女郎達を完全に見下しており、「女郎はどんどん死んだ方が入れ替わって客も喜ぶ」と発言するなど男尊女卑、劇中で語られる「忘八」を体現した人物。女郎達に安いかぼちゃばかり食べさせていたことから「かぼちゃ」と揶揄されている。
一方で、吉原以外の遊女を取り締まると、あぶれた遊女たちを吉原で面倒を見なければいけなくなるため、より一層吉原の財政が厳しくなる現実を蔦重に突きつけた。
- りつ
演:安達祐実
『大文字屋』の女将で吉原のまとめ役の一人。のちのち蔦重の人生に大きな影響を与えることになる。
- 半次郎
演:六平直政
蔦重の茶屋の近所にある「つるべ蕎麦」の店主。
強面な見た目に反して無鉄砲な蔦重を見守るいい人。
- きく
演:かたせ梨乃
『二文字屋』の女将。元は吉原の女郎だった。最下層の女郎生活を改善しようと励む蔦重に心動かされ協力的になる。
かたせ女史は五社英雄監督の『吉原炎上』では明治時代の女郎を演じていた。
- 朝顔
演:愛希れいか
『二文字屋』の元花魁で、蔦重にとっては憧れの人。
かつていじめられていた蔦重に、「楽しいことを想像すること」の楽しさ・大切さを説いた恩人。また、幼少期の花の井は朝顔の禿だった。
心優しい性格で蔦重含む多くの人からも「朝顔姐さん」と慕われていたが、優しすぎるあまり病気の自分への差し入れを飢えている他の遊女に渡してしまい、そのまま症状が悪化し第一話で亡くなってしまう。
彼女の死を知った蔦重は身包み剥がれて転がされていた彼女の遺体に着物を被せて、慟哭するのだった。そして、吉原復興のために奮闘することを決意したのだった。
「親兄弟がいなくなっても、吉原に行けば腹一杯飯を食える、って誘われて女たちは来る。でも実際は、遊女たちはろくに飯も食えずに死んでいく」という煌びやかな吉原の窮状と暗黒面を視聴者に突きつけた。
- うつせみ
演:小野花梨
『松葉屋』の女郎。
第二話で源内・新之助を接待するが、源内の「天女みてえな美しい女を連れてきてくんな」という要望を聞き、「わちきじゃあ、天女というにはなりまへんよねえ...」としょんぼり。しかし、新之助から「そのようなことはない!」と励まされる。源内曰く、その後新之助の「いい女」になったらしい。
- 鳥山検校
演:市原隼人
盲目の高利貸し。
「検校」というのは当時の盲目の人がつける最高職の名前。
市原氏は『おんな城主直虎』で傑山を演じている。
重三郎と関わりがある本屋・版元
- 西村屋与八
演:西村まさ彦
地元本屋『西村屋』の主人。蔦重にとっては商売敵のような存在。様々なアイディアを生み出す蔦重にあらゆる手で対抗する。
演者の西村は2017年に放映されたNHKドラマ『眩(くらら)〜北斎の娘〜』で葛飾北斎・応為父娘と関わりが深い同名の西村屋与八を演じているが、本作の与八とは世代が違っていると思われる(応為が絵師デビューしたのは蔦重の没後/史実では西村屋与八は三代続いている)。
演:片岡愛之助
本問屋『鱗形屋』の亭主。蔦重とは古くからの付き合いがある。
吉原のガイドブックである『吉原細見』を出版している版元でもある。
蔦重から『吉原細見』の改良を提案されるも、ほぼほぼ彼に任せる形で作り上げさせる。蔦重の才能を見抜くが、彼が本格的に出版業に参入すると、蔦重ごと吉原を抱き込まんと画策。蔦重を鱗形屋の”改”として抱き込めたのも束の間、大阪の版元『柏原屋』が出版していた『節用集』の偽板を出版していたことが露見し平蔵率いる奉行所に捕らえられてしまう。
- 鶴屋喜左衛門
演:風間俊介
地元本屋『鶴屋』の主人。
蔦重の出版事業参入を阻もうとする。
- 小泉屋忠五郎
演:芹澤興人
浅草の本屋『小泉屋』の主人。蔦重に対抗する西村屋と組み、新たな『吉原細見』を出版する。
- 岩戸屋源八
演:中井和哉
地元本屋『岩戸屋』の主人。
- 村田屋治郎兵衛
演:松田洋治
地元問屋『村田屋』の主人。
- 奥村屋源六
演:関智一
地元問屋『奥村屋』の主人。
- 松村屋弥兵衛
演:高木渉
地元問屋『松村屋』の主人。
- 須原屋市兵衛
演:里見浩太朗
書物問屋『須原屋』の主人。
杉田玄白や前野良沢らによる『解体新書』、林子平による『海国兵談』『三国通覧図説』といった話題作を出版することになる。里見氏によればスタジオ収録は初回から参加しているが初登場は7話からとのことらしい。(その後、5話にて初登場)
なお、市兵衛の開いた書店の系譜は断絶してしまっているが、市兵衛と同じく須原屋茂兵衛から暖簾分けした須原屋伊八の屋号を受け継いだ「須原屋書店」が埼玉県を中心に書店チェーンとして現在も展開している。
重三郎に見出される戯作者・浮世絵師
- 磯田湖龍斎
演:鉄拳
美人画を得意とする絵師。蔦重が『雛形若菜初模様』の作画を依頼した。
- 鳥山石燕
演:片岡鶴太郎
妖怪画で鳴らした浮世絵師。
史実では現在に繋がる妖怪のデザインの礎を築いたすごい人である。
歌麿の師匠。
- 北尾政演(山東京伝)
演:古川雄大
山東京伝の名義で知られる浮世絵師・戯作者。
- 滝沢馬琴
文人・学者
演:安田顕
「土用の丑」のキャッチコピーやエレキテルの修繕などで知られる江戸の文化人。
第一回ではまだ蔦重に身元を明かしておらず、クレジットでも「厠の男」表記。
なお、厠から出てくる直前に屁をこいていたが、演者の安田は地元北海道のローカル番組での「屁でさっぽろテレビ塔を登る」企画や「屁の音だけでベートーヴェンの『運命』を演奏する」企画など、屁にかかわる多彩なエピソードを持つため、「あの屁の音は『自前』か?」と一部のファンの間で話題になった。
第二話で吉原のガイドブック『吉原細見』の序文を名コピーライターたる源内に書いて欲しいと切望する蔦重と再会する。
自らの正体を知らないまま「源内に会わせてくれ!」と頼み込む蔦重にいたずら心が沸き、「自分は源内先生の仲間の山師、『銭内(ぜにない)』だ」と偽り、新之助と共に吉原の案内を受ける。
しかし、吉原を「古臭い」「岡場所や宿場よりも優れているところがない」「料理も味はしない」と酷評。しかも、自身は世に知られる男色家である(※史実)ため、なかなか筆が進まなかった。しかし、自らの「松葉屋にも『瀬川』はいないのか」という言葉の真意を読み、亡くなった想い人である瀬川菊之丞に扮した花の井の姿に感銘を受け、一夜にして蔦重の推していた『どんな客でもきっと好みの女がいる』という吉原の長所を盛り込んだ序文の草稿を書き上げた。
意次からの信頼も篤く、吉宗の遺訓偽造の際には一番の難関である文書の偽造をしてのけてみせた。
一方で、秩父では鉱山事業を行っていたが、10年かけても売り物になるような鉄ができず、火事まで発生して怪我人が出る事態となった。駆けつけて出資者達と話し合うが、「金はごみ屑」、「めでたく災難が起こった」など不用意な発言を連発したため、神経を逆撫でさせ相棒の東作が人質に取られ、千両の返金を要求されてしまう。鉄から炭に切り替えるべきと考えるようになり、炭を売りさばくために角屋の株を手に入れたいと蔦重たちに相談する。千両の返済、炭への商売替えの提案を経て出資者達を説得して東作は無事解放された。
- 小田新之助
演:井之脇海
源内と行動を共にする浪人。
元は御家人の三男坊らしいが訳あって出奔し、源内と同じ長屋に寝泊まりしている。
井之脇氏は『おんな城主直虎』で小野朝之(作中では亥之助、次いで万福)を演じている。また、局は違うが森下女史が脚本を務めたTBS系『義母と娘のブルース』にも出演している。
- 平秩東作
演:木村了
源内の仲間である山師であり、狂歌などにも通じる文化人。
秩父の鉱山事業失敗の際は激怒した出資者達に人質にされるが、源内によって事なきを得る。
- 平沢常富
演:尾美としのり
吉原通いをする出羽久保田藩の武士。「手柄岡持」という名義で狂歌師としても活動している。身分を隠していた源内に対して「源内先生」と言った人物である。度々登場しているが出番が少なく、X(旧:Twitter)では「今日も見つけられなかった」などと彼を探す視聴者が後を絶たない。
演:山中聡
蘭学者の医者。ご存知『解体新書』の編者の一人。
江戸幕府
徳川将軍家
演:眞島秀和
10代将軍。8代将軍徳川吉宗の孫で9代将軍徳川家重の長男。詰将棋の著書が有名な将棋の名手でもある。付け小姓として父・家重に仕えた田沼意次を深く信頼し、後に老中に任命する。意次に嫡男の家基が田沼の政治に批判的であり、家基が将軍になれば田沼家は排されると忠告する。
日光社参が借金に苦しむ大名・旗本をさらに苦しませることを知りながら、後ろ盾がなく立場が弱い意次に手柄をたてさせるため、あえて日光社参を行うことを決意する。
演:奥智哉
家治の嫡子。
意次のことを「将軍を操り、幕府を骨抜きにする成り上がりの奸賊」であると批判している。文武に優れており、時期将軍として大いに期待されていたが…。
- 豊千代→徳川家斉
一橋治済の長男。のちの11代将軍。
よしながふみの『大奥』では治郎兵衛役の中村蒼氏が演じているが、大河ドラマには登場したことがない将軍であり、彼の登場をもって大河ドラマシリーズに歴代徳川将軍15名が全員登場したことになった。
- 高岳
演:冨永愛
大奥総取締役。松平武元など老中と対等に接するほどの権力を持つ。
- 知保の方
演:高梨臨
家治の側室。意次から「欲深い女」と評される。
- 大崎
演:映美くらら
家斉の乳母。家斉の将軍就任後、大奥で絶大な権力を持ったといわれる。
徳川御三卿
演:生田斗真
一橋宗尹(吉宗の三男)の四男で家斉の父。一橋徳川家二代当主。演者ゆえか視聴者からはこの人の再来かそれ以上になるのではと言われている。
第二話で子供が産まれ、盛大な宴席を設ける。同じ御三卿の田安・清水と共に「我らのなすべきことは、子を成すこと」「万が一ということがあっては大変」と口にしつつも、どこか不気味な笑みを浮かべている。
演者の生田曰く「爽やか大河に、水を差しに来ました」とのこと(『まだ間に合う!大河「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」光る君へ出演者語るべらぼう』より)
演:落合モトキ
9代将軍・家重の次男。御三卿の一つ清水徳川家初代当主。
- 宝蓮院
演:花總まり
御三卿の一つ田安徳川家の初代当主・田安宗武(吉宗の次男)の正室。治察の実母で定信の養母。
花總女史は『おんな城主直虎』で佐名(瀬名の母)を演じている。
- 田安治察
演:入江甚儀
宗武の五男。母は宝蓮院。定信の異母兄。
田安家二代当主となっていたが、元から病弱であり、就寝中に急死する。
- 田安賢丸→松平定信
演:寺田心→???
宗武の七男。母は宗武側室の山村氏。久松松平家を継ぎ陸奥白河藩主となる。家治や治済と同じく吉宗の孫で意次の政敵。
第二話では一橋豊千代誕生の宴席で、「傀儡師にでもなろうか」と戯言を口にする豊千代の父・治済に「その体の血筋をなんと心得る」「武家はあくまで文武に励むべし」と激しく非難し、そのまま退席してしまった。意次は田安家の金の掛かる御三卿の立場から引きずり下ろすべく、白河藩が望んでいた賢丸との養子縁組を決める。病弱の兄・治察には後継無く、治察が死去した折は賢丸が田安家に戻れる約束であったが、治察が死去したにもかかわらず、意次が祖父・吉宗の遺言状を偽造したことにより反古とされたばかりか田安家は当主不在となる。かつての徳川忠長の駿府藩のような改易こそ免れたが田安家は事実上取り潰された。この一件で意次・意知父子に対して強い憎悪を抱くようになる。
歴史の授業でお馴染みの江戸の三大改革の一つ『寛政の改革』の断行者であり、蔦重の生涯最大のピンチをもたらす存在。
なお、BOOKOFFの店員…ではない。
幕閣・幕臣
演:渡辺謙
老中として徳川家重・家治父子の治政において実権を握る。重商主義的な政策を取り幕府財政の再建に乗り出す。
急激に出世した成り上がり者であることは自覚しているが、家基の「奸賊」という表現には怒りを顕にしている。
吉原の窮状を自身の屋敷まで押しかけ直談判してきた重三郎の覚悟を汲み取ったのか、厳しくも道理のある助言を与えた。
貨幣経済確立と困窮する武家・百姓が年貢米を買い叩かれるのを防ぐため、流通している貨幣の統一を試み銀貨の鋳造に力を入れているが、特に首座の武元から強く反対されている。
幼いながらも田安賢丸の才を警戒、並びに御三卿にかかる経費削減に伴う縮小のため、賢丸の兄・治察の病死を利用して八代将軍吉宗の遺言状を偽造、賢丸が養子縁組先である白河藩から帰還するのを妨害し田安家を事実上取り潰す。大物感溢れる存在感だが、度重なる武元との対立、彼からの嫌味を受けるなどかなりの苦労人でもある。
演:宮沢氷魚
意次の嫡男。若年寄となり父・意次からも将来を期待されている。
第一話では庭の片隅で女性(田沼家の女中?)相手に「若様、なりませぬ...」「良いではないか」といかがわしいことをしているように見せかけて、実際のところは腹を空かせている彼女たちに来客用の弁当をこっそり分け与えているという心優しい一面を見せたり、第3話では年始の挨拶にきた源内が懐から取り出した本を『吉原細見』であると見抜くほど世情への通じていることが明らかになったりと、単なるボンボンではないと描写されている。
- 松平武元
演:石坂浩二
老中首座、上野国館林藩主。6代将軍徳川家宣の弟松平清武を祖とする越智松平家三代当主で吉宗・家重・家治と三代の将軍に仕えてきた重鎮。それゆえに足軽の家から急速に出世している意次をこころよく思ってない。また、伝統と品格を重んじる保守的な思考を持ち、商業を重視する意次と度々対立する。誠実な賢丸に期待の目を向けており、「田沼が上様を自分の意のままに操っている」と吹き込む。
立派な眉毛の持ち主であり、意次からは「白眉毛」と悪態をつかれている。
失敗することは承知のうえで将軍の日光社参を老中総意として意次から家治に申し出させ、成功すればしきたりを知らない意次に恩を売るなど中々の狡猾さを見せる。
ちなみにあまりに眉毛が長すぎて、石坂氏曰く痒くて仕方ないらしい。
石坂氏は大河ドラマ常連として知られており、同じ江戸時代を舞台にした『元禄太平記』では柳沢吉保、『八代将軍吉宗』では間部詮房、『元禄繚乱』で吉良義央を演じている。
演:中村隼人
吉原に度々やってくる旗本。「明和の大火」の下手人を捕縛した平蔵宣雄の嫡男。
『鬼平犯科帳』の主人公「鬼の平蔵」もしくは「鬼平」として知られる人物であり同作でも青年時代は風来坊で「本所の銕(てつ)」と呼ばれ放蕩の限りを尽くしたとされている。『べらぼう』でも初期は吉原で遊興に耽っている。初登場時は荒れており、乱暴な言葉遣いをすることが多かった。
花魁道中をしている花の井に一目惚れし、なんとか自分に振り向かせようとあの手この手で気を引こうとするが、そのなりふり構わなさから、蔦重からは「物を知らない鴨」と見なされている。
花の井と対面したお座敷では、彼女の笑顔見たさに「紙花」(劇中では「今でいうチップ」と説明された)を盛大にばら撒く。
その後、二文字屋の窮状を救うべく策を立てた蔦重と花の井にターゲットにされた結果、五十両もの大金を搾り取られる羽目に。その結果、第三話において父の遺産を食い潰したため吉原通いが出来なくなった。
しかし、当の花の井からは、「五十両で吉原の河岸救った男なんて、粋の極みじゃないかい」と評されている。
その後は御書院番士に出世し、更なる出世を求めて鱗屋が販売した偽の版木の本(現在でいう海賊版的な本)取締案件に関与して鱗屋一行を連行する。その場に居合わせた蔦重のことは「そいつは吉原の茶屋のもんだ」と取りなした。その後は「上手くいくって堪えるものですね」と葛藤する蔦重に「武家はいつも潰しあっているから気にすることはない」と鼓舞する。気取ったような振る舞いをするのは相変わらずだが以前のような粗暴さは鳴りを潜め、立派に仕事をこなすようになっている。
中村隼人氏はかつて『龍馬伝』で14代将軍家茂役を演じており、本作とは対照的に気弱で温厚な将軍役であった。
- 松本秀持
演:吉沢悠
勘定吟味役。意次の腹心。
- 松平康福
演:相島一之
老中。劇中では武元の腰巾着のような描写だが、後に娘を意知に嫁がせる。
- 松平輝高
演:松下哲
老中。
- 三浦庄司
演:原田泰造
意次の側近。江戸城内で色々苦労する意次の愚痴をぶつけられることが多い。
お笑いトリオ「ネプチューン」の一人でもある原田氏は江戸時代を舞台にした大河ドラマへの出演が多く、『篤姫』では大久保利通、『龍馬伝』では近藤勇を演じた。
演:矢本悠馬
徳川家に使える旗本。ある出来事を起こしたことで世間から「世直し大明神」と呼ばれることになる人物。
田沼家を訪れ、かつて田沼家は佐野家の部下として支えていたため改竄していい代わりに高い地位を要求するのだが…。
矢本氏は『おんな城主直虎』で中野直之を演じている。
- 大田南畝
演:桐谷健太
幕府勘定方に務める御家人。『四方赤良(よものあから)』の名前で狂歌師としても活動する文化人。ちなみに有名な号である『蜀山人』を称したのは蔦重の死後。
その他
演:綾瀬はるか
吉原内に存在する稲荷神社の御祭神。本作のナレーションも務める。
吉原関係者たちからは「願いを叶えてくださる神様」として親しまれているようで、第一話冒頭の大火事では、花の井の御付の幼女「さくら」と「あやめ」が「神様が焼けちゃう」「願い事が叶わなくなっちゃう」となんとか運び出そうとその場から動こうとしない事態に発展した。また、幼少期の蔦重も悪童たちに天罰が下ることを願ってお参りしていた。
ナレーションのみならず、綾瀬はるか本人が演じる遊女に化けた人型形態も披露。その際は、吉原と江戸市中の位置関係を説明するためにスマホを操作してみせた。(電子機器を使用した大河登場人物としては、おそらく二例目。一人目はこの方)。本人が登場しない場合は「九郎助稲荷(語り)」と表記される。
綾瀬女史は『八重の桜』『いだてん〜東京オリムピック噺〜』に続く大河出演。また、森下女史が脚本を手掛けたドラマ『JIN-仁-』『義母と娘のブルース』『天国と地獄〜サイコな2人〜』(いずれもTBS系)などに出演している。
- 磯八、仙太
平蔵の腰巾着。視聴者からは『鬼平』における「相模の彦十」ポジではと言われている。
- 浪人
(演:高木勝也)
唐丸を脅して店の金を盗ませる。
- 船頭
(演:佐々木健介)
秩父・中津川鉱山で荷揚げをする船頭。
- 藤八
(演:徳井優)
鱗形屋の番頭。
- 四五六
(演:肥後克広)
蔦重が仕事を依頼する彫師。
余談
- 上記の通り意次が自身の屋敷に押しかけ直談判してきた重三郎に対して助言しているが、史実における重三郎と意次は直接的な接点はないという見解が主流であり、この場面は本作独自の解釈といえる。
- 初回から身ぐるみを剥がれて裸にされた女性の死体が映された(さすがに引きの画だが)ため、「NHKこんなんやって大丈夫か?」と放送コードを心配する声が相次いだ。
- その死体役を演じたのは遊女「朝顔」を演じた愛希れいか(元宝塚歌劇団月組トップ娘役)と現役AV女優の吉高寧々、藤かんな、与田りんの3人であり、後者に関してはAV女優が大河ドラマに出演するのは史上初の事態となる。
- 吉高曰く撮影には7時間もかかったようで、その間他の女優が自身の上に乗ってもなおずっとうつ伏せで我慢して待機していた愛希のプロ根性に驚かされたという。
- また、本作にはインティマシー・コーディネーターが帯同しており、撮影中は前貼りをつけることはもちろん、体を起こすたびに裸が見えないように数人のスタッフで囲いを作るなどの配慮が徹底されていた。
- とはいえ、完全に他キャストと分けられていた訳ではなく、出演者である子役の1人が横浜に対し「流星さん、いくら貰ったらこの裸の役やる?」と無知ゆえにかなり残酷な質問をぶつけていたようでさすがの吉高もそれを理解していてもなお「結構ショックだった」らしいが、横浜は「わからないなー。でもお芝居だったらどんな役でもちゃんとやるよね。」と返答しており、子役を諭しつつも死体役を演じた4人を尊重していたため、吉高も感動したそう。
- 前年の『光る君へ』に続き、2年連続で「文化系」の大河ということもあり、何気ないところに関連を見出すファンも多い。
- 蔦重の製本シーンでは、昨年の宮中での製本シーンに重ねる視聴者も見られた。
- また、NHKが2/11に放映した『まだ間に合う!大河「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」光る君へ出演者語るべらぼう』では藤原道兼役の玉置玲央氏とききょう(清少納言)役のファーストサマーウイカ氏が登場。前年に続く「文化系」大河に「戦とは違う、文化系の戦いもある」という玉置氏の言葉に、何度も頷くウイカ氏という一面も。
- ちなみに、源内の回想シーンに出てきた瀬川菊之丞を演じたのは、「光る君へ」で所作指導を担当した花柳寿楽氏(「べらぼう」でも所作指導を担当)。それを聞いた時は玉置氏もウイカ氏も「みたことある人がいる?!」とびっくりしていた
- また、製本の後に「夢ん中いるみてえだあ〜」と満足げに語る蔦重に、「それ徹夜ハイ!」とつっこむ視聴者も。
関連タグ
本作と比較されることの多い作品
大河ドラマ
- 八代将軍吉宗:1995年の大河ドラマ。本作と同様に江戸中期を舞台としているが、その範囲は本作開始時よりも40年〜50年ぐらい前の話で、物語終盤に端役として老中・松平武元が登場、香川照之が演じている。また、家重付きの小姓として田沼意次も登場する。
民放ドラマ
- 暴れん坊将軍、大岡越前:前者はテレビ朝日、後者はTBSで放送された時代劇。こちらも舞台は本作開始時よりも40年〜50年ぐらい前である。さらに前者の続編で『べらぼう』が放送開始する前日の2025年1月4日にテレ朝で放送されたスペシャル時代劇は本作開始時よりも約30年ぐらい前が舞台になっている。こちらに登場する小次郎(田安宗武)・小五郎(一橋宗尹)・徳川宗春は家治の治世初期まで存命しているが、本作開始時には故人となっている。また、賢丸を演じる寺田心が若き日の伊藤若冲役で、平秩東作を演じる木村了が大岡忠相の同族の忠光役でそれぞれ出演していた。なお、『大岡越前』は東山紀之、高橋克典が主役の忠相を演じることでNHKでリメイクされている。
- 大奥:2024年にフジテレビで放送された時代劇で家治が主人公。『べらぼう』で花の井を演じる小芝風花が家治の正室・五十宮倫子を、平賀源内を演じる安田顕が悪役としての田沼意次を演じた。
- 松平右近事件帳、長七郎江戸日記:市兵衛役の里見氏が主役を演じた日本テレビ系の時代劇。右近は家斉の実弟、長七郎はシリーズによっては市兵衛と同じ出版業である瓦版屋の居候という設定だった。
漫画・アニメ・小説
- 大奥(よしながふみ):よしながふみ作のパラレル時代劇漫画。2023年よりNHKにて放送されている同作の実写ドラマ版の脚本を、本作と同じく森下佳子が手掛けており、このうち同年秋期に放送された第2期は、本作とも舞台となる時代が同じ。
- 風雲児たち:みなもと太郎作の歴史ギャグ漫画。同作のうち江戸中後期が舞台である「田沼時代編」を原作とした単発のドラマが、2018年の正月にNHKにて放送された。
- 鬼平犯科帳:長谷川平蔵を主人公とする池波正太郎の小説で度々ドラマ化されさいとう・たかをによって漫画化された。平蔵の演者の隼人はTV版『鬼平』で三代目平蔵を演じた萬屋錦之介の大甥(錦之介の次兄・四代目中村時蔵の次男である二代目中村錦之助の長男)に当たり、『べらぼう』収録直前、2024年の映画版で平蔵を演じた十代目松本幸四郎に挨拶したという。また平沢常富を演じる尾美は二代目中村吉右衛門版に木村忠吾役で登場していた。
- 鬼滅の刃・遊郭編:吾峠呼世晴作のダークファンタジー漫画。『べらぼう』放送のおよそ3年前の2021年12月~2022年2月にかけてフジテレビ系列でアニメ版が放送された。こちらも吉原遊郭が舞台となっており(ただし、時代設定は大正時代)、吉原の貧困や格差が事件の発端の1つとなったことから、視聴者の中には本作を思い返した者も多かった模様。また、『べらぼう』では第1話冒頭で吉原が明和の大火で焼けるシーンがあるが、本作でも敵との戦いで吉原の街が火の海と化し、最後は街そのものが跡形もなく吹っ飛んで瓦礫の山と化してしまった。
- 銀魂・吉原炎上篇:空知英秋作の時代劇アクションコメディ漫画。吉原遊郭をモデルとした吉原桃源郷が舞台であり、主人公と行動を共にする少年など共通点も多い。「吉原炎上」というワードが出てきた際真っ先にこちらを連想したファンも続出した。