1979年に開始されて以降21世紀は平成を経て令和の初期まで、作者の実質上のライフワークと化していた。(ただし作者本人にその気があったかどうかは不明瞭)
古参のファンからしてみれば「完結が先か、先生の命が尽きるのが先か、あるいは我ら読者の命が尽きるのが先か」(せめて読者の目の黒いうちに完結してくれ)という(願う)レベルの超長期連載と化していたが、2020年より先生の御体調芳しくなく休載となる。
そして2021年8月7日、ついにみなもと先生がご逝去。先生の永眠とともに未完の作品となった。
作品概説
この漫画は1979年から潮出版社(創価学会系の文芸出版社)のコミック誌である『コミックトム』(当初は『少年ワールド』であったが1980年に雑誌名を改題。同じ雑誌に連載された作品に横山三国志、T・Pぼん、ブッダなどがある)に1998年まで連載された。外伝を除き全212話、30巻からなる。
(元々は治水事業のPR目的として描かれた経緯により外伝とされた第30巻の「宝暦治水伝」は、リイド社刊の幕末編では正伝としてしかるべき、3巻と4巻に納まっている)
続編として2001年にリイド社の『コミック乱』へと移籍して連載されている風雲児たち 幕末編がある。また主な外伝として同じく『コミックトム』に本作連載の後を受けて執筆された雲竜奔馬が存在する(ただしこれらも本編として含まれることもある)。
「土地と人柄は切り離せない」と言う主張に基づき、キャラクターは大体方言で喋っている。
2018年正月、NHKの特番枠「正月時代劇」枠において、本作「田沼時代編」をベースとした特番ドラマ『風雲児たち〜蘭学革命篇(らんがくれぼりうしへん)〜』が放送された。なんと連載開始から40年近い時が経っての初映像化・ドラマ化となる。脚本は、みなもと作品のファンとしても知られる三谷幸喜で、ナレーションは『真田丸』以来の有働由美子。みなもと自身も「平賀源内の戯作の原稿を受け取りに来た男」という役で登場した。
のち2019年6月にはドラマと同じく三谷演出による『三谷かぶき』として、本作の「大黒屋光太夫編」をベースとした新作歌舞伎『月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと)』が上演された。
連載の経緯
この漫画は連載当初の編集より「幕末を五稜郭の戦いあたりまで描いて貰えないか」という依頼から始まったとされる。
しかし作者は「幕末の動乱の芽は江戸幕府成立で既に蒔かれている」と言う考えに基づき関ヶ原の戦いからこのの物語は始まることになった。
この時点ではおそらく幕府時代はさらりと流すつもりだった(「全10巻の予定」だったと言っている)と思われるが、たとえば「吉田寅之助が松陰を名乗る」説明等のため高山彦九郎伝を描くなど、作者が資料を見て漫画を描いているうちに江戸時代の話がどんどん長くなり、表題が幕末を暗示しているにもかかわらずほぼ中身が江戸時代という恐ろしい物語となった。
結局「風雲児たち」は20年超えないところで雑誌側より強引に打ち切られる形となり、坂本龍馬が主人公となる「雲竜奔馬」と言う連載が始まる。風雲児たちの最終回は坂本龍馬が土佐を旅発つところで終わっている点はこの引継ぎを行うためと推測されている。
しかしこの「雲竜奔馬」は3年程度、単行本で5巻ほどで連載が終了し、しばらくして掲載されていた雑誌も休刊になった。
しかしリイド社(さいとう・たかをプロダクションの出版部門を基とする出版社)の雑誌で「風雲児たち 幕末編」と言う連載がスタートする事になり、今に至る。「風雲児たち 幕末編」において「雲竜奔馬」とエピソードがダブる部分は原稿の流用が行われている。
風雲児たち外伝
また外伝とされる同人誌も複数出版されている。これらは元は絶版してたり単行本にする見込みが無かったりした雑誌掲載作品を同人誌化したものだが、後に同人誌でその存在を知った出版社(イースト・プレスとか復刊ドットコムとか)より出版されたものも存在する。
この「風雲児たち外伝」とされるものには「本来は『風雲児たち』とは全く関係なく発表されたものだが、描かれた時代が近く背景に共通項があるために後付けで外伝として組み入れたもの(パターンA:ワイド版で本編に組み入れられた宝暦治水伝も本来はこちら)」と「最初から『風雲児たち』を意識して描かれたもの(パターンB)」2通りのパターンがある。
ちなみに冗談かリップサービスかは不明だが、大本の連載元(潮出版社)の母体の黎明期すらも『風雲児たち』から直接連結する外伝として執筆する構想もあったという。そうなると描かれる内容は戦後(太平洋戦争終了後、つまり昭和中期)までになるので、さらにとんでもない事になっていたかもしれない。(まぁ、そこまではどっちみち編集部が許さなかっただろうけれど)
パターンA
- 吉宗:もとは学研の『科学と学習(学習)』にて掲載された学習まんが。
- 冗談新選組:1972年に『週刊少年マガジン』にて連載された新選組モチーフのギャグ作品。三谷幸喜がファンである事を明かし『新選組!』のネタ元(いわゆる参考資料)のひとつと公言した事で知られる。
- 宝暦治水伝 波闘:河川環境管理財団の依頼で描かれた広報マンガだったが、のちに潮出版社から本編単行本の最終巻として外伝扱いで出され、リイド社版において本編として組み入れられた。
パターンB
- 挑戦者たち:雑誌『斬鬼』(少年画報社)に2000年から2002年にかけて執筆された作品。
- 風雲戦国伝 風雲児たち外伝:雑誌『歴史街道』(PHP研究所)および『コミック乱ツインズ』(リイド社)に連載・掲載された作品をまとめたもの。
- 松吉伝:『挑戦者たち』の後継連載で、みなもとの母方の祖父「漆原松吉」の生涯を扱った作品。『挑戦者たち』のさらなる外伝という体裁を取っており風雲児たち 外外伝と題され位置付けられている。
内容
この作品に関しては歴史ネタではあるが本質的にはギャグ漫画であるため、漫才師やコメディアンのネタ、時代劇、映画、テレビ、時事ネタなどのパロディを多用しているところがある。そのため、ネタが古くなっている点があり、新しい単行本化の際にはそのあたりの脚注(これをギャグ注としてある)としてまとめている。
また他者のマンガ・アニメの引用(ケン月影 アンパンマン、鬼灯の冷徹、赤ずきんチャチャ ドラえもん の中の人ネタ等)というネタもあり、由井正雪登場シーンを横山光輝の「伊賀の影丸・正雪編」を丸写しして担当に怒られると言う荒技ネタをやったり、「あっちの方は100ページのびのび使えるのに」と言うことを漫画の中でぼやいていたりする(この事は「もっと話を早く進めろ」と言う編集に対する嫌味と推測されている)。
ただしギャグではあるが歴史の内容に関しては史料を色々と検証した上で描かれており、独自の「みなもと史観」を楽しむマンガと言える。
例えば田沼意次は、教科書的なイメージである従来の「賄賂政治家」というイメージとは異なり、「改革者」的な捉え方をしており、その人物像から読者人気の高いキャラクターとなっている(最近では歴史研究家からもそういう意見が出始めている)。
また田沼が初登場時、通常の「賄賂で動く男」と言う描かれ方をしていると指摘するなど新たな資料の発見や推測などで記述して矛盾が出た場合、それを作中でギャグにする、資料を調べてそれでも不明な場合、キャラクターに「この辺はわからないのです」と言わせるということも行った。
ちなみに続編では水戸浪士達が「井伊大老暗殺計画」の際に魔法少女まどか☆マギカネタを連発して、一部の読者を驚かせた。(作者はそのアニメについて「大運動会以来はまった作品」と称し、さらに首はねられるキャラなので「オリジナルで」「キャラクター名の動詞化」をしたところ、すでにそのスラングができていたため思ったような反応がなかったと、…『増補版 冗談新選組』所収のインタヴューで、あの、その本所収の徳川慶喜の関係も表紙が明朝体で書かれる新世紀エヴァンゲリオンのパロディだし)
最近でも艦隊これくしょん(オリジナル艦娘が出る)、ガールズ&パンツァーネタが登場。(イラストは本人では無く岡昌平が手掛けた。)
みなもと史観について
基本的に、開明的な思想の人物・政策を善玉、守旧的な思想の人物・政策を悪玉とする二元論に基づいているのが特徴。
関連タグと登場人物、および元ネタ注
石田三成 大谷吉継(石田、大谷の二人は特別に外伝が存在する)
島津忠恒(本作では「島津家久」名義で登場する)
真田信繁 (真田幸村は杉浦茂作品のリスペクトでそういう造形)
山内一豊 史実にあるようなものは嫁がアレだからとそういうデザインをしていたが、後ドラマに当たって、彼の嫁は「私仲間由紀恵よー」と叫んでいる。
徳川光圀 (劇中では二十歳代のはずであるが、「イメージ」として老けた形で描かれる)
天草四郎 (劇中では首だけの姿で登場し、作者いわく「魔界転生」が元ネタだという)
由比正雪 (横山光輝の「伊賀の影丸」の由比正雪のデザインをトレース)
平賀源内 (昭和のギャグを先取りした面も強調される)
小田野直武(劇中では「小田野武助」名義で登場)
勝海舟 (勝麟太郎にかけた勝新太郎ボケをしていたが、のち「かつしんたろう」と言う誤記をされた資料が発見された)
西郷隆盛(西郷吉之助)
大久保利通(大久保一蔵)
坂本龍馬 (劇中では「坂本竜馬」表記)
関鉄之助のキャラ造形は、鉄人28号をモデルとして描かれている。
桂小五郎 (木戸孝允)
高杉晋作 の造形は当初、「中学生の時に似て」いたみなもとの自画像が使われていたが、作者は後、作品に頻出したため、造形を改めた。