概要
『T・Pぼん』は、藤子・F・不二雄によるマンガである。
1978年に潮出版社系列で連載開始されたが、作者が逝去したため明確な完結のないままとなっている。
ひょんなきっかけでT・P(タイムパトロール)の隊員となった平凡な少年「並平凡」が、歴史を(大筋で)変えないようにしながらも、不幸な人々を救う活躍を描いた物語。
この作品でのタイムパトロールは(『ドラえもん』で登場するTPのような)警察的な存在というよりレスキュー隊のような位置付けであり、様々な時代で不幸な災難で命を落とした人間たちを助けることを目的としている。
ただしそれは「歴史を変えない範囲」でのみ許されることであり、歴史に少しでも関わるような人物を助けてはならないという非情の掟があり、それゆえの苦悩も描かれている
また、歴史を変えないようにするため、おおっぴらに便利な未来の道具を使うことはできず、いかに自然に「思われる」形で人々を助けるかに創意工夫を凝らす展開が見どころである。
また、残酷・大人向け・グロなどの描写が目立ち、主人公ふくめメインキャラクターは皆最低一回は任務中に死んでいる。
第3部は長らく未収録が続いていたが、藤子・F・不二雄大全集でめでたく全エピソードが単行本化された。
1989年にはアニメスペシャルとして日本テレビ系でテレビ放映された。
エピソードの中では、当時の大河ドラマで話題だった春日局が登場した。
あらすじ
武蔵野のとある共働き家庭で育つ中学生・並平凡は、ある日友達と喧嘩して誤ってベランダから突き落として殺害してしまう。あまりのショックに呆然となる凡だったが、謎の少女の干渉により時間が逆戻りし、友人は生還。ノイローゼになったと思い込んだ凡は友人宅を後にし近所の野原に向かう。
そこで不思議な乗り物を目にした凡は、テキトーにいじったせいで鎌倉時代までタイムスリップしてしまう。謎の少女・リームに助けられて現代に戻った凡だったが、T・Pの秘密を知ったことで過去を改変され消滅させられるハメに。必死で抵抗する凡だったが、そこにT・P本部からの通達により、凡は(間接的に)人類史上最大の偉人の命を救うことが判明し、処分は中止となった。
かくして口封じ代わりにT・Pの新米隊員に選ばれた凡は、リームと共に不幸な死に方をした人々を救うため、古今東西のあらゆる時空間を旅することになったのだった…。
主要登場人物
エピソード
話数 | サブタイトル | 舞台 | 背景 |
---|---|---|---|
1 | 消されてたまるか | 鎌倉時代の武蔵野 | 元寇襲来 |
2 | 見習いT・P | 終戦直後の東京 | 昭和22年カスリーン台風 |
3 | ピラミッドの謎 | エジプト古王朝時代 | ジェセル王の階段ピラミッド |
4 | 古代人太平洋を行く | 紀元前のフィリピン沖 | 渡来人 |
5 | 魔女狩り | 17世紀南フランス | 魔女裁判 |
6 | 白龍の吠える谷 | 唐王朝時代のシルクロード | 玄奘三蔵法師の旅路。パラレル西遊記に非ず |
7 | 暗黒の大迷宮 | 古代ギリシャクレタ島 | クノッソス宮殿のミノタウロス伝説 |
8 | 戦場の美少女 | 太平洋戦争末期の沖縄 | 神風特攻隊 |
9 | 妖狐那須高原に死す | 平安時代 | 九尾伝説の犠牲となった玉藻前の真実 |
10 | バカンスは恐竜に載って | ジュラ紀前期 | 三畳紀とジュラ紀の古生物たち |
11 | OK牧場の近所の決闘 | 西部開拓時代 | アメリカ黄金狂時代 |
12 | マラトン大合戦 | 紀元前5世紀ギリシャ | ペルシア戦争 |
13 | シンドバッド最後の航海 | アッバース朝時代のオリエント | 千夜一夜物語。ドラビアンナイトに非ず |
14 | 超時空の漂流者 | 人類滅亡後の遠い未来 | 神隠し |
15 | 通り魔殺人事件 | 現代の武蔵野 | 新ヒロイン登場 |
16 | チャク・モールのいけにえ | 古代マヤ | 太陽王伝説に非ず |
17 | 平家の落人 | 平安時代末期の長州 | 壇ノ浦の戦い |
18 | ドラキュラの館 | 15世紀ワラキア | 串刺し公ヴラド・ツェペシュ |
19 | 最初のアメリカ人 | 氷河期のベーリング海 | モンゴロイドとネイティブアメリカン |
20 | シュメールの少年 | シュメール王朝 | 楔形文字と車輪の発明 |
21 | 武蔵野の先人たち | 古墳時代の武蔵野 | 大和朝廷ができるまで |
22 | T・P隊員の犯罪 | 18世紀イギリス沖 | 捕鯨の歴史(参照) |
23 | 魔獣デルブ | 石器時代のフランス | 旧石器時代の暮らし |
24 | 奴隷狩り | 18世紀アメリカ | 南北戦争 |
25 | トロイが滅びた日 | トロイア王国 | トロイア戦争 |
26 | 浦島太郎即日帰郷 | 古墳時代の北九州 | 浦島太郎伝説 |
27 | 誰が箱舟を作ったか | 7千年前のメソポタミア | ギルガメシュ叙事詩 |
28 | 死神の行列 | 14世紀フランス | 黒死病の大流行 |
29 | 鉄の町の秘密 | 紀元前オリエント | 鉄の国ヒッタイト |
30 | 古代の大病院 | 紀元前トルコ | 古代の医療 |
31 | 十字軍の少年騎士 | 12世紀末期エルサレム | 十字軍遠征 |
32 | 神の怒り | ローマ帝政時代の地中海 | ローマ帝国によるキリスト教弾圧 |
33 | ローマの軍道 | 紀元前4世紀ローマ | 共和制ローマ |
34 | 王妃ネフェルティティ | エジプト新王朝 | アメンホテプ4世 |
35 | 翡翠玉の謎 | 現代アメリカ | 翡翠美術 |
TPの装備
- 制服……簡易的なバリヤーが張られ、温度・気圧・水圧の変化から守ってくれる。作中では水中での活動を可能にしたり、煮えたぎる熱湯に入っても何ともない…などの描写があったが、第1話でリームが溺れたり、矢が刺さってT・P隊員が倒れる描写もあり、防御効果がどのように、どれだけあるのかは不明瞭。第2部で支給されたユミ子の制服はぼんやリームのものとはデザインが異なっており、第3部からはぼんの制服もリニューアルされた。
- ヘルメット…核爆発にも耐えられる(ただしヘルメットは核爆発に耐えられても制服は耐えられるのかは不明)。またヘルメット自体についても、ヘルメットの上から槍で叩かれて倒れる描写がある。リニューアルされた制服ではヘアバンド状の装備品に変更され、ヘルメットはなくなった。アニメでは登場しない。
- ブーツ……踵部分が「引き出し超空間」になっていてタイムコントローラーなどの多くのものが入る。
- タイムシーバー……バッジ状の通信機。時間を超えた通信が出来る。通信可能な時間範囲は設定上では前後14時間前後に限られるとなっているのだが、作中の描写ではリームが2016年からぼんに連絡している描写があり、正確な通信可能な時間範囲は不明。呼び出し音が腹を壊したときの音に似ているらしく、呼び出し音を聞いた周りの人がぼんの健康を気遣って、彼が席をはずすのを容認するくだりが何度かある。『ドラえもん』でもトランシーバー型の同名の道具が登場している。
- タイムコントローラー……正隊員にのみ支給されるステッキ型タイムマシン。本人や世界の時間の流れを変えることができる。要するにジョジョのラスボス。周囲の時間を遅くさせる「スローモーション」、逆に加速させる「コマ落とし」、一時停止させる「タイムロック」(限度は30分)、時間を逆転させる「巻き戻し」などの操作を行うことができる。なお、これらのうち「巻き戻し」の機能はタイムボートでも使用可能だが、いずれでの使用も時空間に綻びを生じさせる原因となる為、気軽に使用することは推奨されない。実際に本編中ではメインキャラクターが死亡した時位しか使われなかった。
- ホログラム……未来技術によって臨場感たっぷりに作られた立体映像。TP隊員の依頼に応じて作成される。「自動反応装置」によって、周りで起こった物理現象に自動で合わせる(ホログラムの怪物が、打ち込まれた矢に合わせて倒れる、など)こともできる。現場の文化圏で信仰されている神格の映像を使って、救助対象を助けるための「神託」を演出するという使い方が多いが、リーム曰く「大抵の人間は『自分の信じたいことだけ信じる』ため、めったに効果はない」とのこと。
- フォゲッター……TPが着用する腕時計型装置。スイッチをオンにするだけで、周囲の人間から自身に関する記憶を風化させることができる。要するにMIBのニューラライザー。もちろん写真や動画を撮られた場合は「証拠」として残ってしまう為効果が無い。TPが活動中は、この装置を必ず起動させておく規則になっているが、任務達成に現地の人間の協力が必須な場合は敢えてフォゲッターのスイッチを押さないこともある(その場合は現地人に変装し、未来人だとバレないようにする必要がある)。ぼんやリームは「スイッチを押し忘れる」というドジを踏むことが頻繁にあり、そのおかげでトラブルに巻き込まれることも多い。逆に「スイッチを切り忘れた」ため、協力を取り付けた現地人がその記憶をなくしてしまい任務達成の計画に狂いが生じたこともある。
- 生体コントローラー……拳銃型の機械で、動物に電極を打ち込むことで、自分の脳からの指令を相手の筋肉に伝え、行動をコントロールする。動物を乗り物として利用したり、「困っている人を動物が助ける」という状況を演出するのに使われる。フォゲッターは記憶は消せても記録や痕跡までは消せない為、T・Pの隊員は自身の存在の秘匿のために『救助対象に対して隊員が直接干渉をせずに救助すること』が求められる。その手段の一つに『近場にいる動物を操って救助対象を助ける』選択肢がある。(なお当然ながら操る動物自体も未来の歴史に関与している可能性が有るため、コントローラーを使う前にチェックカードで確かめる必要がある。)
- チェックカード……「安全カード」と呼ばれることもある。対象物にかざすと、歴史に影響を与える存在であれば光って知らせる。光の強さは対象の歴史に対する重要度に比例し変化する。TP隊員が本来の救助対象以外の人物を救助するとき、あるいは生体コントローラーなどで相手を利用するときは、このカードで相手が歴史上影響がない存在かを必ず確認しなければならない。当然光らなければ相手は歴史に影響を与えない人間ということになるので接触しても大丈夫ということになる。逆に強く光った場合は極力干渉してはならない。
- エイシャ錠……老化を防ぐ薬。特定の時代に長期間とどまって任務を行う際に飲む。ただし飲み過ぎると赤ん坊になってしまうので適量を定期的に飲まなければならない。
- ルーツ探知機……2つのプラグを1人1つずつ握ると、その2人の共通の祖先がわかる。
- 系類ガス……小さな球状の物体で、投げて当てると破裂してガスが出て、その煙を浴びた人同士はマインドコントロールされてお互いを肉親だと思い込む。(ただし相手からは若干不自然に思われる)。TPが任務中の時代の人物になりすます必要があるとき、現地で肉親を作るために使用される。ただし効果は両方に及ぶ為、効き目が切れるまではTPの方もその人に対し家族への情を感じてしまうと言う難点がある。
- ねむくならない薬……夜間任務などの際に眠くならないように飲む薬。
- 時空ガン……タイムトリッパーを追跡する際に標識を打ち込む。標識はタキオンが放射されているため、センサーで探りながら対象者を自動追跡(オート)に設定したタイムボートで追いかける。
余談
「並平凡がある事件にかかわる役割を果たす」というアイデアがそのまんま「ドラえもんTVスペシャル」で使われる。また、大山ドラ1998年には本作のエピソード「バカンスは恐竜に乗って」をリメイクしたと思われる「ジュラ紀でドラミが大ピンチ」という中編が公開されている。
新ドラえもん(いわゆるわさび版ドラ)ではアニメ本編に他の藤子キャラ(パーマンやウメ星デンカ等)に混じり登場。台詞はなく1,2秒程度の出演だった。
また、映画「新・のび太の日本誕生」にてリーム・ストリーム、並平凡、安川ユミ子をモデルとした人物(若しくは本人)がタイムパトロールとしてして登場している。僅かな描写ながら性格はほぼ同じであることが窺えるが、T・Pぼんとドラえもんとではタイムパトロールの活動や設定に違いがあるのでドラえもんと同じ世界観ではない可能性が高い(単に違う部署なのかもしれないが)。