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概要編集

雑誌「メロディ」にて連載。全十九巻。

「徳川将軍が女で、大奥が男の園」という、男女逆転設定のパラレル時代劇漫画。

江戸時代「若い男のみがかかる伝染病」により男の数が激減し、三代将軍徳川家光以降より女性になった将軍達と、彼女らにかかわる大奥の男とのドラマを描く。

史実や俗説からネタを拾いつつ、女将軍ならではの苦悩なども描かれている。

男女の社会的役割が逆転している分ジェンダーについて考えさせる描写もある。


2022年には第42回日本SF大賞を受賞した。


実写映画化された事があり、2010年10月と2012年12月に公開された。また、この2つの映画版をつなぐストーリーとしてテレビドラマ化もなされており、2012年10月から12月にかけてTBS系列局の金曜ドラマ枠で放送されている。

さらに2023年にはテレビドラマとしてリメイクされており、1月から3月にかけてNHK総合で放送されている。ただし、全てのエピソードをドラマ化したいとしており、10月からSeason2が放送されている。

なお、このNHKドラマ版ではセンシティブなシーンの撮影における助言・調整を行なうインティマシー・コーディネーターがスタッフとして参加しているが、原作のトラウマシーンの数々が再現されており、たしかに、そのような役割のスタッフが必要なのも納得の内容だった。

同じく2023年にはNetflix配信によるアニメ化が行なわれる事も発表された。同年6月から配信されている。全10話。



本作の設定編集

  • 徳川将軍は3代家光までは史実通り男であったが、上記の伝染病(作中では「赤面疱瘡」という架空の病気が設定されている)により男の家光が死亡、彼の隠し子である娘・千恵が家光を名乗って将軍につき、以後将軍は女性が継ぐ事となる(例外あり)。
  • 男性の数が女性の4分の1ほどしかいない世のため、世の中の多くの仕事が男から女に取って代わられた。そのため史実では男性である大名達も女性である。
    • ちなみに史実では江戸時代の江戸の町は女性が少ない時期が長く続いたが、当然ながら、この物語では史実とは逆に女性ばかりの町となっている。
  • もともと千恵が父の影であった経緯もあり、武家などの家督を継ぐ女性は本来の女性としての名前の他に「男名」(これが史実の将軍や大名と同じ名前になっている)を持ち、公の場はもちろん家族相手でもその名で呼ばれる。
  • 男は子種を持つ宝とされ仕事も家事も育児もせずに済む一方、種馬扱いで金銭で貸し出されたりもする。
  • 夫を持てるのは身分や金のある女性だけで、庶民の多くは種買い(遊郭もしくは未婚の男子がいる家に直接交渉)や夜這いで子供を作る。ゆえに数百~数千の男性を囲う大奥は将軍の威光の証とされる。
  • 鎖国の理由は男性の数が極端に少ないことを他国に隠すためで蘭学やオランダ語も男性しか学ぶことを許されない。国民もほとんどがこの社会の異常さを知らない。
  • 四代将軍の頃には、若い世代にとっては「男と女がほぼ同数」の時代は自分達が生まれる前の昔話と化し、庶民の中には「男女同数の社会」は神話の時代平安時代の事だと思う者も出始めている。そして、六代将軍の頃には、三十代以上で侍などの教養が有る者の中にも、芝居などの「男が女を買う」場面は理解不能な絵空事のように思う者も出て来る。
  • 11代家斉の政策で赤面疱瘡撲滅後は、旧来通り男子相続に改めさせた。庶民も力があり若死にする心配のない男性に仕事を任せるようになり「男女再逆転」の世になった。これ以降「現実に似た世界の架空の歴史」「現実で起きていたが後世に抹消された歴史」の両方の解釈が可能な展開となっていく。
    • 幕末期の「写真が残っている」人物に関しては、1人を除いて現実世界での性別と同じ性別になっている。
  • なお、撲滅したと言ってもそれは幕末期の医療レベル視点であり、厳密には基礎の予防技術の確立によって、今まで女子の四分の一しか生き残れなかった男子の生存率が向上したに過ぎず、赤面疱瘡そのものの発生原理を解明しきれていない(熊の病が人に罹患した、という理解レベル)。沖田総司が罹患した結核に有効な治療薬が1900年代後半になるまで存在しなかったように、赤面疱瘡に有効な治療薬が幕末期に存在する事は医学的に不可能に近い。
    • 状況から、家斉以降の男児は、大奥由来の赤面疱瘡予防接種(正式名称不明)を必ず受ける必要があり、アレルギー反応等で一定数が必ず犠牲になっている。そして接種提供が途絶えると、赤面疱瘡の大量感染が再発生するリスクを未だ抱えており、しかも開国によって赤面疱瘡ウイルスを国外に出してしまう為、このまま何もしなければ、スペイン風邪のような世界的大流行を引き起こす可能性があるなど、よくよく考えると幕末以降にも続きが描ける余地を残している。

主な登場人物編集

並び順は時代順だが、作品の登場順とは異なる。

徳川将軍編集

男女逆転前の最後の男性将軍で三代将軍。将軍職や男色家でありながら世継ぎ作りを迫られる重圧から歪み、行きずりの女性を強姦して千恵を儲ける。赤面疱瘡で若くして死亡。


上記の家光の暴行により出来た家光の実娘。父の死後、春日局に男装させられ徳川の血を繋ぐための器に祭り上げられた。当初は荒れていたが、有功との出会いで立ち直り女将軍として父の名代を名乗る。最愛の有功との間に子はできなかったが、男側室達との間に3人の娘をもうけ27歳で波乱の生涯を閉じる。

強姦により処女を失なった事がトラウマとなり「未婚の女将軍の『初めての男』は、将軍の体を傷付けた大罪人として秘かに処刑されねばならない」と云うとんでもないしきたりを作る。(ただし、吉宗の時代に廃止され、既に正室・側室が居た状態で将軍になった者や、幼くして死んだ将軍が連続した為、このしきたりのせいで処刑された男は1人だけ)。


千恵の長女で四代将軍(実際は五代目)。政に関心が無く「左様せい」で何でも片付ける。父代わりである有功に想いを寄せるようになるが…。跡取りができないまま死去。


千恵の三女、家綱の異父妹で五代将軍(実際は六代目)。童顔で色気たっぷり。跡取り娘の松姫が幼くして死んだことで世継ぎ作りに追われ精神的なバランスを崩していく。


綱吉の姪(千恵の次女の娘)で六代将軍(実際は七代目)。控えめな人格者だが病弱。名君とたたえられるも将軍就任後数年で死去する。


家宣の娘で七代将軍(実際は八代目)。母の死去に伴い幼くして将軍になるが母同様病弱で数年で死去する。


紀州徳川家出身の八代将軍(実際は九代目)。質素と合理性を好む。

自分の好みで男を選ぶことなく、若くて見目麗しい男はどんどん暇を出し(大奥の予算削減の為)、どの側室とも大体同じ回数寝るように心掛けるなど性交においても非常に合理的。

彼女の代には既に女が日本社会を支配するのが当然になっていたが、あるときその経緯に疑問を抱き真実を知ることからこの物語が始まる。

真実を知った後は赤面疱瘡を撲滅するため数々の対策を立ち上げる。

「中興の祖」として後の世代にも讃えられている。


吉宗の長女で九代将軍。不器量な容姿と言葉と排尿の障害から、知的障害者と家来には思われて馬鹿にされているが実際は正常な知能の持ち主(史実の徳川家重も障害者である)。吉宗からは認められているが、その偉大な母の影に脅えている。

長年に渡り、家臣や妹から軽んじられてきた事による自己肯定感の低さや、下手に頭が良いせいで、若くして「政治とは万人を幸せにする事が出来ない虚しい行為」だと気付いてしまった為に、酒色に溺れた無能な将軍として歴史に名を残してしまう。

なお、母である吉宗に「私は今までそなたを馬鹿だと思うた事は一度も無いぞ」「長い間苦しませて済まなかった」「そなたが次の将軍じゃ、家重」と告げられる一見すると感動シーンでは「…九代将軍家重は将軍の座に就いた後も酒色に溺れ無能な将軍として、その一生を終えた」というミもフタも血も涙もないナレーションが入っている。


家重の長女で十代将軍。美女で利発だが調子がいい。娘の千代姫(のちの徳川家基)を設けるも、娘に先立たれた挙句、息子の将軍就任を企む徳川治済の策略によって砒素中毒で亡くなる。


一橋徳川家出身の十一代将軍。作中において三代家光(父)以来の男性将軍。しかし政治の実権は母・治済に握られており、治済に精神的に支配されている。だが、御台所の茂姫の訴えによりこのままではいけないと思うようになり、読者にとっても作中の人物にとっても想定外の行動に出る。

原作では、55人もの子供を作りながら、怪物のような母親と、それに立ち向かう為とは言え正室と1人の側室が自分を騙し続けてきた事を知ったせいで、女性不信に陥った後半生を送る。

ある理由から、公的な記録には、自分の事を「女色に溺れて幕府の財政を悪化させた無能な将軍」として記すように遺言を残す。


父に続く男性の十二代将軍。将軍でありながら、表では父の傀儡にされ奥では側室たちが毒を盛りあう様から鬱屈し、実娘の祥子を凌辱するようになる。(しかも「娘も悦んでいた」「娘も自分を愛している」と本気で思い込んでいるなど、性犯罪常習者のような思考パターンに陥っている)

義理の母(父親の正室)である広大院には「祖母である治済の忌しい血を受け継いでしまった」と嘆かれるが、狼狽したり冷静さを失なうシーンも多く、祖母・徳川治済が人間離れした作中有数の怪物とするなら「小悪党だから逆にタチが悪い」人物と言える。

なお、原作では彼を将軍の世継に決めたのは父・徳川家慶だが、彼を選んだ理由は「大御所として政務を行なうに当って操り易そうだから」という酷いもの。

当然の如く、父が死ぬと本性を現わして、上記のおぞましい行為を行なう。

なお、原作では死因は「黒船が来た事による恐怖で錯乱」という最期の最期まで「やってる事はおぞましいのに、根はしょうもない小悪党」であり続けた。

なお、2023年のNHKドラマ版では治済が寝た切りになり、赤面疱瘡が克服され、男女再逆転の時代が訪れた回の最後に登場し「実の娘を強姦する」という鬼畜の所業をやらかしたので、視聴者を「怪物が倒されたと思ったら別の怪物が現われた」「地獄が終ったと思ったら別の地獄が始まった」という絶望のどん底に突き落した。

また、NHKドラマ版の当該シーンでは「単に父親が実の娘を強姦するだけでなく、娘役の俳優が10代前半」という前代未聞の状況だった為、「撮影時には、スタッフは暴力・性暴力に関する単語は禁句にする」「家慶役・家定役のどちからしか写っていないカットを撮影する際は、もう1人の俳優を同席させない」「長回しで撮影すると俳優が『役に入り込み過ぎる』危険が有る為、なるべく細かいカット割りにして、各カット間の撮影は時間を空けて行なう」などの徹底した配慮が行なわれた。要は「製作現場では徹底したポリコレ配慮が行なわれたからこそ、鬼畜極まりない展開の場面が名シーンとなった」という逆説的な事態が起きた訳である。


男女再逆転後の時代ながら、金銭事情や男子の適役不在により十三代将軍に。実父から長年性的虐待を受け、解放された後も御台所ともども毒を盛られるが表向きは不遜に振舞う。3人目の御台所・胤篤を当初は警戒するが心の通った夫婦になる。


  • 徳川家茂/福子(とみこ)(ドラマ版:志田彩良(NHK))

紀州徳川家出身。慶喜と水戸徳川家を嫌う家定と井伊直弼の意向により十四代将軍に。聡明な人格者で臣下や和宮、帝の心までも開いていく。


水戸徳川家から一橋徳川家の養子に。十四代将軍の座を家茂と争った。英才な美男子だが人への思いやりが無く家茂に見限られる。

家茂の死後十五代将軍になるが、激動と混乱の世にあっても自分本意な行動しかとらない。

かつて将軍位を争い先代将軍でもある家茂が、彼女にとっての正しい事を行なっているだけなのに、あらゆる言動が結果的に他者からの信頼を勝ち取る事に繋ってしまう作中有数の天性の人たらしであるのに対し、頭は良い方なのにあらゆる言動が他者からの信頼を失う事に繋がってしまう。人に嫌われる事に関しては天才的な人物と言える。


徳川の家臣達編集

春日局の息子で家光(父)の側近。家光(父)の死後は彼及び千恵の影武者となり、謁見の際は代役を務める。

綱吉に少女時代から仕える重臣。

家宣の甲府藩主時代からの重臣。元は猿楽師であり、身分の低い出から取り立てられたため、家宣への忠義は尋常ではない(若い頃には「家宣に中々子供が出来ないのは、彼女が『夜の相手』をしているせい」と云う噂を立てられるほど)。

この作品に登場する「女性の主君に同性愛的な感情を持っている事が明確に描写されているか、その可能性が匂わさている女性キャラ」であっても、一応は男性の夫が居る場合がほとんどだが、彼女だけは生涯独身だった。

吉宗に幼い時から仕える重臣。温和そうなふっくら顔に似合わず主君のために汚れ仕事も辞さない。

少女時代に家重の小姓に。家重の苦悩を知って以降は忠誠を尽くし大御所である吉宗とのパイプ役も果たす。美女だがシビアな政治感覚、貨幣経済を重視する先進的思考を持つ。吉宗から赤面疱瘡撲滅を託され、青沼を呼び寄せ蘭学研究を支援する。

吉宗、家重、家治と三代に渡って絶大な信頼を寄せられているが、足軽身分からの大出世や先進的思考への反発から一部の家臣たちからは疎まれている。

田安徳川家(後に松平家の養子に)。吉宗の次女の娘。祖母を尊敬しているが質素倹約など自分の好む面しかみていない。治済の策で将軍候補から外されるが、田沼のせいだと思い込み、彼女を憎むように。

従姉妹の治済を信頼していたが、治済の専横に振り回され老中の職を解かれた時にようやく彼女の正体が「何の志も持たぬ、徳川の世を滅ぼしかねない欲望だけの怪物」だと気付く。

ただし、彼女自身も老中時代は「志は有るが、政治に関しては偉大なる祖母の真似をする以外の発想が浮かばない」ような、いわば「人情や倫理観こそ有るが、空虚な人間という点では治済と共通している治済の悪い意味でのネガ」と言うべき人物だった。

一橋徳川家。吉宗の三女の娘。権力掌握のため多くの人間を陥れ、退屈しのぎに母姉から実孫まで毒殺した怪物

「本来は男が政治を行なっており、今の状況は、最初は一時的な措置だったものが、たまたま何世代も続いてしまったに過ぎない」「だが、今、実際に政治を行なっているのは女」と云う2つの主張を、その場その場で都合良く使い分ける事で、息子を将軍に就任させると同時に、息子を政治に関わらせずに、お飾りの将軍の背後に居る黒幕として権力を握る。

頭は良い方だが、何の理想・思想も持っておらず、自分の知力・権力・立場・部下などを欲望・快楽の為にのみ使用する傾向が有る「トチ狂った浅薄な目的の為に深慮遠謀を巡らせる」と云うサイコパス的な人物。

生まれ付き普通の人間よりも「喜び」や「楽しさ」を感じにくい性格らしく、権力の頂点に立った快感もさほど持続せず、次々と行なう殺人すら「容易すぎる」と退屈し、極悪非道な所業を繰り返しながら「つまらぬ」「生きるとは、何とむなしい事…」と嘯くような正真正銘の化物。

最後は操り支配していたと思っていた相手から逆襲を受け、悲惨な晩年を送る事になる。

しかし、彼女の犠牲者達もいつしか「怪物」と化したり、大奥や幕臣達に「邪魔者は毒殺すれば良い」「自分を邪魔者と思っている誰かに毒殺されるかも知れない」と云う考えを植え付けてしまうなど、様々な禍根を残す。

なお、彼女の時代に赤面疱瘡の予防方法が確立し、物語はひとつのピークに達したのだが、ぶっちゃけ、赤面疱瘡撲滅に奔走した者達より、彼女の方がキャラが濃いので、この時代のエピソードでは彼女の事ばかりが印象に残ると云う読者視点・メタ視点からしても傍迷惑な人物。彼女のせいでカステラがトラウマになった読者も少なくないのでは……。

ちなみに、ある喫茶店が本作とのコラボをやった際のメニューは、治済が毒殺に使った菓子のオンパレードだった。

初代将軍である徳川家康が、まだ幼少の頃に今川家に人質として送られた際に「遊び相手」として同行した阿部正勝の子孫。なお、本作では阿部正勝は「いざと言う時に家康の身代わりとなるように親に言い含められて送られた」事になっており、代々、阿部正勝の子孫の嫡流は「いざと言う時には身命を捨てて将軍を守れ」を家訓としてきたという設定。

男女再逆転後の世では希少な女性の幕臣。

兄が居るが、その兄は男女再逆転の新しい時代に適応出来ず「『男は女に比べて病弱なのだから家で大人しくしているものだ』と教育され、そう信じ続けてきた自分が藩主や幕臣としての役目を果たせる筈がない」と思い込んでいる気弱な人物であった為、彼女が阿部家の家督を継ぐ事になった。

家定を家慶から守り、開国後の日本のために奔走するが、若くして病死する。

正弘から才を買われ海軍に。家茂の人格に魅せられ幕府と開国のために働く。

家茂が亡くなり、幕府への不信が募るなかでも家茂への忠誠から幕府に尽くし続けた。


大奥の人間編集

家光(父)の乳母。大奥を作った女性。戦の無い世と溺愛する家光の血を繋ぐことへの執着が強く、そのためには血生臭い手段も選ばない。

公家出身の元僧侶で無理矢理還俗させられ千恵の側室となるが、やがて彼女と惹かれ合い立ち直らせる役目を果たす。大奥総取締として大奥の基礎組織や催事を作り上げた。後の世代でも伝説として大奥内で語り継がれる。

大奥に入って以降は、基本的に侍言葉を使うが、感情的になった時や玉栄の前では公家言葉になる。

彼が大奥総取締就任時に着た流水紋の裃は、後の時代において「お万好み」と呼ばれるようになり、様々なエピソードで重要な役割を果たした者達が着用する事になる。

有功付きの小僧だったが、共に還俗して小姓に、後に有功の懇願から家光の側室になり綱吉を設ける。娘を女名で呼び続け溺愛しているが(いわば、彼自身の娘であるだけでなく、彼が最も愛した有功の名代として、有功が最も愛した女性との間に作った子供なので「自分と家光の子」であると同時に「有功と家光の子」と見做しているフシあり)、彼女に自分の考えを押し付け、道を踏み外していく。

「僧侶→大奥→出家→大奥」と云う女性に接する機会が少ない経歴のせいで、老年になっても女性の体についての知識は乏しく、既に閉経を迎えた高齢の娘にも懐妊のチャンスがあると信じている。その結果「綱吉の不妊は、自分の若い頃の殺生のせいだ」と思い込み、生類憐れみの令の発布を綱吉に進言してしまう。

子供の頃から年老いるまで有功を慕い続けている。……が、ある意味で、その事が彼自身と娘の人生を歪めてしまう一因となっている。

雅なものを好む万小路有功に対して、派手で豪快なものを好む傾向が有り、史実でもある「山王祭・神田祭では江戸城内に祭礼行列が入る事が出来た」理由は、この物語中では「大奥の男達の無聊を慰める為に提案」となっている。

有功の世話係だが実は春日局からの監視役。後に御右筆に命ぜられ大奥の日記『没日録』を執筆。『没日録』は彼の没後も御右筆頭が代々執筆を引き継ぎ、男女逆転や大奥の歴史を記した希少な書として後々にも取り上げられる。

なお、「没日録」の題は、男女逆転の世になる事が決定的になった時、春日局が、日本の滅亡は避けられぬと考え「日本が滅ぶまでの記録」の意味で付けられたが、春日局の予想に反し、日本社会はその後も存続する事になる。

公家出身で有功に面影が似ている。綱吉の下で大奥総取締を勤め桂昌院と対立する。世継ぎの責務に押し潰される綱吉に男女の愛を説き彼女と結ばれる(映画版では少々設定が異なる)。

右衛門佐の部屋子で、彼の死後は総取締を継ぐ。かつて実妹との間に娘をもうけたが、妹への愛を諦められず他の女と結婚させられないために大奥入りしていた。よしなが漫画定番の眼鏡キャラ。

  • 勝田左京/左京の方/月光院

武家の出ながら異常な母に支配されやさぐれていたが間部詮房との出会いで脱出、家宣の側室となり家継を設ける。間部に想いを寄せているが、当の間部は清々しいまでに、彼を「主君の世継ぎを作る為の種馬」としか考えておらず、「同じ主君に仕えた同志」と見做す事は有っても、恋愛の対象として見ると云う発想さえ浮かべる事は無かった。

  • 江島/江島慎三郎

家宣将軍就任後の大奥総取締。人格は優れているが、不器量で毛深い容貌から女性たちから避けられコンプレックスを抱いている。

1巻の主人公。作中当時の男子では珍しく武術に優れた働き者。吉宗の御内証の方を務めたが、後に彼女のはからいにより町人として幼馴染みと念願かなって結ばれる。

大奥での水野のよき先輩。最下級の御家人出身だが、吉宗に信頼され男女の仲はなかったものの娘達の父親がわりとなる。

オランダ人と丸山遊女の混血児で見かけは金髪碧眼のオランダ人そのもの。若いながらも優れた蘭方医。田沼の命で大奥内での蘭方医学の講師と赤面疱瘡の研究を任される。

  • 黒木/黒木順太郎/黒木良順(ドラマ版:玉置玲央(NHK))

大奥の御右筆助で青沼の補佐役で蘭方医学の弟子。田沼が失脚し大奥を追放される。後に家斉の支援を受け仲間と共に幕府の蘭学者として赤面疱瘡の予防の普及に努める。

男女再逆転となった大奥で久方ぶりの女性の御台所となった、家斉の正室。本来は優しい性格で側室やその子供たちとも仲良くしていたが自分が産んだ子の敦之介を治済に殺され、表面上は正気を失ったふりをしてお志賀と水面下で共謀して治済の殺害計画を進めていた。復讐を果たしたもののお志賀を失い、長年欺いていた夫とも気まずくなるが、家斉の晩年に和解。家斉の死後は落飾して大奥の正常化に努め、家慶が祥子に手を出していたことを知ると阿部正弘と組んで家慶を引き離して救う。

家斉の側室で、かつては娘の総姫を産んでおり茂姫とも仲が良かった。しかし総姫が治済に殺されたため復讐に燃え、茂姫と表面上不仲になったふりをして治済に取り入り女性初の大奥総取締兼治済の毒見役になり、密かに治済の食事に毒を盛り続けていた。しかし人一倍丈夫で太っている治済に致死量の毒を疑われずに盛るために自分も毒を摂取し続けなければならず、治済を再起不能に追い込んだものの自分も相打ちで死亡した。

武家出身の美男子だったが母が起こした事件のため没落し陰間になっていた。料理茶屋で知り合った正弘からその聡明さを買われて身請けされ武士に戻り、大奥総取締として家定を守る役目を任される。大奥に次々舞い込んでくる問題に振り回される苦労人。

  • 近衛胤篤/(今和泉)島津忠敬/天璋院(ドラマ版:福士蒼汰(NHK))

家定の3人目の御台所。義父・斉彬から次期将軍に慶喜を擁立する命を受け降嫁。だが家定と心を通わせるうちに考えを改める。

家定の命に従い、彼女の死後も出家せず大奥を守り続ける。明治維新後は洋行に加わり、同じ船に乗っていた津田梅子に抹消された女将軍の歴史を密かに伝えた。

家茂の御台所。実は男装の女性で江戸行きを拒絶した弟の代わりとして降嫁。

生まれつき左手が欠損した障害があったため母に隠されて会いにきてもらえない幼少期を過ごしたため、母を独占しようと「弟の代わりに降嫁し、母を随行の家来と偽って江戸に連れて行く」計画を実行したが母の愛を得ることはできず落胆する。しかし家茂の優しさに触れ家族と慕うようになり「上さん」「宮様」と呼び合う仲となった。

男装・身代わり・高貴の血筋だが世間的には存在していない人間といった設定は家光(娘)に通じるものがある。

家茂の死後も男装を解かず、幕府の終焉にあたって西郷隆盛(ドラマ版:原田泰造(NHK))と渡り合い「女性が将軍であった歴史を消す代わりに慶喜の命を助けて無血開城する」ことを導き、大政奉還後に女性の姿に戻る。


その他編集

  • 神原さと

家光(娘)と同年代の少女で本百姓家の長女。男手の減った村を支えるべく奮闘する。彼女を中心として農村の男女逆転に至る図が描写されている。

この世界における元禄赤穂事件の経緯は、この物語の「男女逆転した江戸時代」という設定をふまえたもの、それも「古い考えに囚われた若い男性と新しい時代に適応した老女の対立」という一捻りしたものとなっている。

水野祐之進の幼馴染で、裕福な薬種問屋「田嶋屋」の跡取り娘。祐之進とは両想いだったが身分の違いの壁もあって彼を気遣いながらも別離することになってしまう。その後も祐之進を忘れられず見合い話も断っていたが、「進吉」となって帰ってきた彼を迎え入れ結婚する。田嶋屋は後に青沼の弟子で大奥を追い出された僖助を婿に迎えるが、おそらく二人の娘か孫娘の世代と思われる。

男装でレズビアンの女性学者。赤面疱瘡の解明のため諸国を漫遊し田沼、青沼たちの手助けをするも、治済の策により梅毒をうつされる。自由な言動から人気者だが敵を作りやすい。ちなみに現実の平賀源内も同性愛者またはバイセクシャルだった事はほぼ確実である

親子の弟で、彼が本当の和宮。足が不自由だが母親には溺愛されている。江戸へ行くのを嫌がったため、姉の計画に乗り自害したふりをして出家したが、若くして亡くなる。

  • 観行院/庭田(ドラマ版:平岩紙(NHK))

親子と和宮の母で、仁孝天皇の側室。自分の宮中での世間体のため、障害のある娘をないものとして隠し乳母らに任せ、後に生まれた息子を溺愛する。一旦は親子と共に江戸に赴くが、息子しか心にないあまり気鬱を病んでしまい、京に返される。





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