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解体新書

かいたいしんしょ

解体新書とは、日本の医学書の一つ。18世紀後半、西洋の医学書を底本として日本語に翻訳したものであり、本邦におけるヨーロッパ語からの本格的な翻訳書の走りでもある。
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概要編集

安永3年(1774年)に刊行された解剖学書の一つ。著者は前野良沢杉田玄白

日本に輸入された、複数の西洋の医学書の内容を翻訳・再構成したものであり、当時の日本に飛躍的な医療技術の進歩をもたらすと共に、西洋の学問即ち「蘭学」を理解する下地をも培うという、2つの意味で重要な役割を果たした。

本書の成立に際して生み出された「神経」「十二指腸」などといった医療用語が、今日でも広く使われていることからもその影響の大きさが窺い知れよう。


刊行までの経緯編集

底本として用いられた書物の中でも、特に本書の成立において重要な一冊となったのが『ターヘル・アナトミア』である。これはドイツ発の解剖学書を、さらにオランダ語に訳したものであり、それぞれ別の経緯でこれを入手した良沢・玄白の両名は、西洋画の技法で描かれた精密な解剖図に多大な衝撃と感銘を受けることとなる。

明和8年(1771年)、良沢と玄白、そして中川淳庵らは小塚原の刑場にて、罪人の腑分け(解剖)に立ち会った。この腑分けによる検証で、『ターヘル・アナトミア』の内容が従前までの医学書・解剖書と比べて正確なものである(※1)と再認識させられた玄白は、その内容を日本語に翻訳しようと良沢に提案。良沢もこれに賛同し翌日から翻訳作業が始まることとなる。


とはいえ、玄白と淳庵はオランダ語には明るくなく、オランダ語を学んだ経験を持つ良沢もまた、翻訳という点において豊富な語彙を持ち合わせていた訳ではなかった。鎖国中の日本では通訳はキリシタンの疑いがかかることを恐れ、オランダ語も秘伝とされており、辞書などというものも当然存在しないため、後に玄白が「櫂や舵の無い船で大海に乗り出したよう」と振り返ったように、翻訳作業は困難を極めた。

それでも、桂川甫三・甫周の父子や、石川玄常らの協力も得る形で安永2年(1773年)にはようやく翻訳の目処が立ち、同年には出版に先駆けてその内容の一部を抜粋した『解体約図』を、一種の観測気球的な意味合いで刊行している。本文の翻訳はほぼ完成を見たものの、解剖図の挿絵も西洋画の技法であったことから絵師選びにも難航したが、平賀源内からの紹介で小田野直武がこれを担当。西洋の画法にも通じていた彼の図版を得る形で、本書も刊行の運びに至った。


(※1 この当時、漢方医学が主流であった日本では、未だ人体について正確な知識が広く知られているとは言い難い状況であり、18世紀中頃に山脇東洋が著した『蔵志』が、本邦における解剖書として存在する程度であった)


重訂解体新書編集

前述の通り日本の医学・蘭学の発展において重要な役割を果たした本書であるが、それでもその内容については未だ訳に不完全な部分もあり(※2)、後に玄白も高弟の大槻玄沢らに本書の改訂を命じ、本書の刊行から20年あまり後の寛政10年(1798年)に『重訂解体新書』として結実することとなる。

もっとも、諸般の事情から同書の刊行は大幅に遅れ、刊行に至った文政9年(1826年)の時点で、良沢や玄白ら本書の執筆・刊行に携わった面々の多くは既に世を去った後でもあった。


(※2 これについては、学究肌で訳文の完成度を重視していた良沢と、一刻も早い上梓を目指していた玄白との間で見解の相違があったとされ、それもあってか本書の中に著者として良沢の名は記されていなかったりもする)


その他の用法編集

人体の構造を解説するという本書の性質から、後世では医学の枠を飛び越して、「何らかの事柄について解説した本」という意味合いで「(◯◯)解体新書」という語句が使用されるケースも散見される。

さらにそれを捩る形で、過去には『解体真書』(ベントスタッフ著)という同音異字のゲーム攻略本シリーズも、KADOKAWAより刊行されていた(ベントスタッフ 公式サイト内作品一覧(リストの中に解体真書シリーズがある))。


関連タグ編集

医学 蘭学 学術書

解剖 内部図解 人体模型

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