211系は、日本国有鉄道(国鉄)が設計した近郊形電車である。
通勤型車両である205系に続いて、軽量ステンレス車体と界磁添加励磁制御という新機軸を採用。安価かつ省エネルギーや保守費低減にも配慮した優れた設計であり、民営化後もJR東日本とJR東海で大量に製造された他、JR西日本も僅かながら独自車を開発した。
概要
国鉄時代最終期からJR移行後にかけて、老朽化の進んだ113系・115系を置き換える目的で1986年から1991年まで製造が行われた。
取替対象が一括りなのは、本系列の持つ回生ブレーキ機構により抑速ブレーキをたやすく採用できたため、基本構造を分けずに一纏めに増備したからである。
国鉄時代は東海道本線東京口に85両(0番台6編成60両、2000番台5編成25両)が、高崎線および東北本線東京口(宇都宮線)に165両(1000番台11編成55両、3000番台22編成110両)が、東海道本線名古屋口には0番台8両が配置された。
国鉄時代の車両総数から見るともっとも大量に製造されたのは3000番台である。
民営化後の動きとしては東日本・東海ともにロングシート主体の車輌が投入された。
東日本は東海道本線向けに2000番台125両(基本8編成80両、付属9編成45両)、高崎・宇都宮線向けに3000番台(40編成200両)を、東海では東海道本線・中央本線(中央西線)・御殿場線の普通用電車として独自仕様の5000・6000番台242両を投入している。
その後、ダブルデッカーグリーン車やシングルアームパンタ装備車輌など、多様な車種が存在する。
JR西日本では他社のような113系等と同様の運用をもつ211系は導入されなかったが、瀬戸大橋線開業に合わせてジョイフルトレイン「スーパーサルーンゆめじ」用としてクモロ211-1・モロ210-1が登場しておりこれが西日本唯一の211系であったが、2010年に廃車になっている。
かつての213系「マリンライナー」用クロ213とほぼ同仕様であり、実質は213系の派生車両として扱われている。
現状
JR東日本
2006年の高崎・宇都宮線用3000番台へのグリーン車組み込みに伴い一部のサハ211が廃車になったが、これと同じ数のグリーン車が113系サロ124・125より改造されているためこの時点においては在籍両数は575両と変わっていない。
2024年現在、両毛線、信越本線などの高崎地区、中央本線の一部区間、大糸線、篠ノ井線で運用されている。
房総地区でも運用されていたが、オールロングシートであったこと、113系6両編成で運用されていた列車を211系5両編成に置き換えたことによって「積み残し」が多発したこと、4両編成分しかホーム有効長がない佐原駅0番線へ入線できず鹿島線で運用できないことなどが重なり、利用客や現場からの評判は良くなかった。
2009年10月から209系が先頭車のセミクロスシート化などの近郊型改造を受け転用されると2013年9月までに運用を失った。
離脱した同編成は余剰となる付随車を抜いて長野地区に転用され、2013年3月のダイヤ改正から運用を開始した。冬場-15℃程度はままある気候の土地で運行するため防寒用の大型袖仕切りも装備したが、室内はロングシートのままである。
東海道線では2012年5月まで運用されていたが、5月13日にラストランを行い全編成が運用離脱し撤退した。
宇都宮線上野〜宇都宮間では2013年3月までに撤退。高崎線・宇都宮線宇都宮〜黒磯間からも2014年3月までに撤退した。
これらはE233系3000番台および205系600番台により置き換えられ、余剰となったグリーン車は全て廃車された。
長野地区へ転属した車両は2014年3月のダイヤ改正から中央西線・飯田線への乗り入れ運用にも充当されたが、JR東海方の車両が転換クロスシートの213系・313系であることを考えると見劣りするのは否めない。なお2014年2月から9月にかけてセミクロスシート車の1000番台車も転属している。ここまではすべて3両編成のグループである。
2014年6月頃からはセミクロスシートの0番台やロングシートの2000番台から改造された6両固定編成も中央東線で運用を始めている。これら元暖地組も1000・3000番台と同様の袖仕切りと押しボタン式半自動ドアといった耐寒対策を施行したが、改番は行っていない。
そして、2014年12月に中央東線で運用されていた豊田車両センターのスカ色115系を置き換えるために3両編成車×11編成が追加で一斉に投入された。
高崎地区では以前より両毛線の運用に入っていたが、余剰となっていた3000番台の付随車1両または2両を抜いた上で、老朽化した115系と107系を2016年から2018年にかけて置き換えた。しかし國鐵髙﨑と呼ばれてきた状況は変わらず、それどころか国鉄型がJR型を置き換えたという事態が発生した(ただし、ここで言う「JR型」である107系の機器は国鉄型165系の流用、「国鉄型」である211系はJRになっても製造が続けられたというように細かいツッコミどころは存在する)。4両のA編成と3+3両のC編成が存在するが、C編成の中間に来る運転台は本線上での使用ができなくなっている。
また、高崎地区に配置されている車両に関しては下記の全廃されるJR東海のそれとは対照的に2024年度から「当面使用に伴う延命工事」として屋根上の補修およびベンチレーターの撤去などが施行されることになっている。ただ、延命に関しては不明確ではあるが長野地区の車両でベンチレーターの撤去が行われた編成が確認されている。
JR東海
0番台
1986年11月のダイヤ改正で不足する車両を補うために、4両×2編成が導入された。セミクロスシート車で、当時は新幹線のような青帯だった(1988年に湘南色に変更。)
当初は神領車両区に配置されたが、運用は東海道本線のみであった。1989年に大垣車両区に転属、2011年まで同線の新快速列車や普通列車で活躍した。以降は、再び神領車両区に戻り、関西本線で朝夕を中心に運用、2022年3月に315系と置き換わる形で引退した。
5000・5600・6000番台
民営化後の1988年に登場し、1991年までに77編成(242両)か製造された。
名古屋・静岡両都市圏の普通列車用として設計されているため、オールロングシート車で初期車はトイレが無い。1編成4~2両。フロントガラス助手席側が下方向に拡大され、213系と同じ顔つきになっている。0番台や他社の211系とは仕様が異なる。
1次車
1988年7月に4両×4編成と3両×6編成が神領車両区に配置され、中央西線で運用された。側面の行先表示器がLEDなのが特徴だが、縦16ドットと天地寸法が小さく、また橙と赤の2色しか表示できないため、視認性に難がある。トイレなしの5000番台。
2次車
1988年11月~翌年3月に4両×16編成と3両×11編成が神領車両区に、3両×11編成が大垣車両区に配置された。また、側面行先表示器が幕式にもどされた。トイレ無しの5000番台。
3次車
クモハが身延線対応の低屋根仕様の5600番台、クハがトイレつきの5300番台となった。また、側面行先表示器が縦に拡大され大きくなった。
1989年7月に3両×17編成が製造された。6編成が神領車両区に配置され、1・2次車と編成を組換え4両化、11編成は、クハを神領車両区の5000番台と交換し、静岡車両区へ配置された。このため静岡の211系はトイレなしとなった。
4次車
1990年3月に、3両×3編成が神領車両区に配置され、編成組換えをし4両化。4両編成を全てトイレつきにした。また、1990年3月~1991年3月に、2両編成仕様の6000番台を9編成、静岡車両区に配置した。
運用
0番台は前述の通り。大垣時代はC1、2編成、末期の神領時代はK51、52編成を名乗った。
神領車両区
4両がK編成、3両がK100編成を名乗った。1990年、1992年、1999年の3回に分けて、3両×9編成が大垣車両区へ転属している。また、1992年~1999年にサハ1両が大垣車両区で保留車となっていた。
中央西線の快速・普通列車と関西本線で活躍し、中央西線では313系を組み合わせた最大10両編成で運行を行った。また、愛知環状鉄道への乗り入れ運用もあり、2005年の愛・地球博ではエキスポシャトルとしても活躍。2022年より315系による置き換えが開始、2023年3月に運用を終了し、全車が廃車となった。
大垣車両区
前述の神領からの転属車を合わせてC11~20編成を名乗った。
基本的に東海道本線の普通列車として使用され、2006年に313系5000番台の導入に伴い運用から撤退、静岡車両区へ転属した。
静岡車両区
東海道本線の普通列車として活躍する他、一部列車が御殿場線、身延線に乗り入れている。
6000番台は御殿場線用として製造されたが、運用に適さず、すぐに東海道本線の増結用車両に用途変更された。
トイレの設備がなく、熱海〜浜松間、2時間37分トイレ無しという運用も存在し、長期間利用の旅客から不評だった。2006年からは、313系と連結してトイレなし運用を減らすようにしたが、それでも一部はトイレ無し運用として残った。
2007年より、LL編成(大垣からの転属車、5000番台3両)20編成、SS編成(5600番台3両)11編成、GG編成(6000番台2両)9編成が所属していたが、2022年より(315系に追い出された)神領車両区・大垣車両区の313系が静岡車両区に転属したことにより、廃車が開始。2024年6月からは、静岡への315系導入も開始されており、LL編成が7月23日に運用終了。残るSS編成とGG編成も同年度中に引退予定。
なお、一部車両は三岐鉄道へ譲渡された。(後述)
余談
6000番代の主回路構造は213系のそれであり、計画段階では「213系6000番代」と呼称されていた。
元々213系の750V主電動機による1M車単独ユニットは、民営化前、横須賀線にも211系を入れようとすると、動力車1両分の出力が足りないことから(15両で7M8Tが必要・従前の113系が8M7T)開発されたもので、国鉄時代の流儀であれば車体構造より主回路の相違を優先して形式が分かれるので213系になったはずのものである。
元々は全編成菱形のパンタグラフで登場しており、そのうちMc車車番5600番台・6000番台は低限界用C-PS24、その他がC-PS21である(C-と会社識別記号を持つものの別設計ではない)。現在は全てシングルアームパンタグラフ(同社形式C-PS27、PT71系列の一つと推測される)に取り替えられている。元の菱パンタが低限界対応だった車両は、単にパンタグラフが低くたためるだけでなく、わずか20mmながらパンタグラフ台座部分が屋根ごと切り下げられており、交換しただけの高屋根車は身延線限界に支障し入線できない。
C-PS27はJR東日本PS35系列の一部に見られるようなわざわざ折りたたみ高さを引き上げる台座は持っていないが、PS23のようなマークを全車に付けないのは、この識別が理由にあると推測される(2018年末時点では神領車には全て◆マークがある。但し半自動ドアのボタンは取り付けられていないため、どのみち中津川以東の木曽路区間に冬場入ることはあまり適切ではない状態のままである)。
前述の通り、5000番台1次車の方向幕には当時では稀有なLED式を採用していた。しかし縦16ドットと天地寸法が小さく、また橙と赤の2色しか表示できず快速の表示にも難があったからか、2次車以降は従来の幕式に戻され、その後は天地寸法も普通サイズとなっている。加えて編成の組み換えを初期は頻繁に行っていたので、中には同一編成でこれら3種類の仕様を有しているものもあった。
余談であるが、幕式に戻った後も0番台とは異なり種別と行先とが一体化した簡易的なものであった。
譲渡
静岡車両区のSS編成5本(SS2、3、7、8、11編成)および LL編成5本(LL1、9、11、14、16編成)が、三岐鉄道に譲渡され、2024年3月20日・22日、6月25日・26日に富田駅まで自力回送された。
JR西日本
ジョイフルトレイン「スーパーサルーンゆめじ」として2両(クモロ211、モロ210)が製造され、213系(クロ212-1001)と連結した3両編成を組む。通常の車体ではなく、マリンライナーのグリーン車と同じ構造の車体を持つ。重量増加のため211系(2M)となった。
1988年4月10日の瀬戸大橋線開業に合わせてデビューした。モロとクロを切り離し、間に通常の213系を挟んだ連結も可能。
瀬戸大橋線を中心に活躍したが、2010年3月7日をもってラストラン。同年6月30日に廃車された。
211系が与えた影響
211系の基本スタイル、とくに前面形状は国鉄・JRの近郊形電車に大きな影響を及ぼした。
国鉄時代には211系同様の車体・台車をもつ415系1500番台が登場しているし、民営化後においてもJR東日本では455系・475系の機器を流用した近郊形電車719系に、JR四国でも6000系電車では同様の前面形状を採用している。
JR東海の311系や313系も本系列を基本に設計されているが前面形状には独自のアレンジが施されている。特に313系は車体構造のみを踏襲した。
シンメトリーを好む関西私鉄の車両(特に阪急)や、デザインにかける予算がない第三セクターの車両の多くも、この系統のデザインをしているものが多い。
関連イラスト
関連項目
205系:同時期に開発。205系で採用された界磁添加励磁制御は、本来211系用に開発された。また日光線用改造車600番台は、抑速ブレーキを付けるなど211系に近い主回路になった。
213系:211系と関連性が深い系列であり、「211・213系」とひと括りにされる場合もある。違いは1M方式かつ2扉転換クロスシート装備というくらい。
311系・313系:211系を基本として設計したJR東海の近郊形電車。ただし313系は前述の通り車体構造のみ踏襲。
371系:JR東海の特急電車。ギア比を別にすると主回路構成としては211系の動力車を2組背中合わせにし、間に213系とトレーラーを挟んだ構図となっている。
221系:主回路は211系と213系がベース。車体は鋼製だが防食構造にはなっている。
JR四国6000系:前面形状は211系・213系が基本となっている。
719系:前面形状は211系・213系が基本となっている。