概要
初出はニコニコ動画にある迷列車で行こうシリーズの『通勤電車103系 新たなる伝説【迷列車列伝#08】』という動画。「既存の資源を有効活用すべく、旧型車両に延命工事を施してさらなる活躍の場を与えよう」、つまり「既存車両を補修しながら長く使おう」という意味・計画を表す鉄道ファン用語。
一例
※「更新車」の記事でも延命工事の一例が紹介されている。
JR西日本の場合
- JR西日本は経営基盤が弱い一面もあり、規模の割に大規模な車両更新には及び腰である。
- しかし、私鉄王国関西で生き残るためには画一的で陳腐化が激しい国鉄車両では競争力に欠ける。
- 良し、競争が激しい路線には新型車両を投入しよう!ある程度利用者が見込める路線にはリフォームした国鉄車両を走らせれば良いや!
- これは良い!採用だ!
…延命工事内容であるが、
…等、実に多彩である。
この計画の発動例
JRグループ
- EF65・DD51・DE10形等の国鉄型機関車
- JR東海を除く各社で発動。現在の旅客鉄道においては機関車自体の需要が極端に低く、工事やイベント列車のためだけに新造する必要がないため、国鉄時代の旧型機関車を補修しながら長く使っている。JR貨物でも少数ながら国鉄型機関車が今尚活躍している。
- 現在は車齢40年を超えるのが当たり前となっており、20年足らずでの廃車が珍しくなかった国鉄時代とは比べ物とならない程長寿命化している。
- JR貨物所属機は塗装変更・主要部品交換等により、長寿命化を図った「機関車更新工事」が施工されている他、JR西日本においても塗装はそのままとしつつもJR貨物同様の更新工事を行っている。
東武鉄道
- 8000系
- リニューアル工事で新車の様になったが、現在は廃車が進む。
東急電鉄
- 7000系列(引退済)
- 比較的車両置換スピードが早いとされる東急であるが、1962年から製造されたこの7000系列は例外的に長期的運用が成された。そればかりではなく、VVVF化され、7700系に改造された車両の他、一部を置換える際に社長直々に「1両たりとも解体させるな」と指令が下ったらしく、多くの地方私鉄に譲渡され、東急から離れても解体されなかった。
- この状況が崩れたのが2000年、譲渡先・秩父鉄道では18m車体で小さい同車に不足感を抱き、他社から譲渡された20m車導入に伴い、廃車されてしまった。さらに20年以上経った現在では、グループの上田交通始め、幾つかの会社で同車1000系譲渡で玉突きで置換えられ、東急本体からも2018年に引退した。
- ただし、今でも多くの譲渡先で活躍が続いている他、大井川鐵道や養老鉄道等、近年となって新たに譲渡先となった所もある。
大井川鐵道
- 全車両
- 東急・南海・近鉄の他、かつては京阪や西武、小田急等、多種多様な会社から中古車をとっかえひっかえ導入してはボロボロになるまで使い倒すことで有名な会社。ただし、余り大切にしているとはいえないのかもしれない。また、近年は財政状況のためか、近江鉄道と並んで廃車体を購入してから実際に走らせるまで非常に長い時間が掛かることで有名。ちなみに、元東急車は十和田観光電鉄(廃線)からの再譲渡車である。
- 電車のみならず、SLやEL、客車も他所から中古で導入している。特に旧型客車は戦前から活躍しているものや、戦後直ぐに国鉄幹線特急用に投入されたものの成れ果てが存在する。SLは主に観光用であるが、たまにピンチヒッターで入換作業を行うなど実用的な運用をされたりもする。
- 千頭から先の山岳区間を走行する井川線用車両はその全てが生え抜きであるが、中には前身の中部電力専用鉄道時代から70年に渡って使い続けている車両も存在する。
養老鉄道
- 歴代全ての車両
- 元々近鉄から分離した会社であり、分離時点で殆どが近鉄の他路線から掻き集められた古参車で占められていた。養老線に属した時点で車齢30年以上という老朽車をさらに数十年使い倒すという有様で、口さがない鉄道ファンからは路線名をもじって「近鉄の養老院」などと揶揄されたこともある。最古参は60年前に製造された元南大阪線6800系606F。
- そんな現状を打破すべく置換用車両として選定されたのは何と導入時点で車齢52 - 55年の東急7700系。VVVF化されている他、ステンレス製で長持ちするという理由からであった(なお、置換対象600系の方が一部若いものも存在する)。ちなみに、これは一時的な繋ぎかと思いきや今後30年程度は使用を見込むそうである。
- なお、元々発足時から中古車両だらけの路線であり、初代養老鉄道(現在の会社とは法人が異なり、養老線を創設した企業)は中古客車を掻き集めて創業した。揖斐川電気と合併後に唯一新造車を導入したが、この車両は養老線で50年近く使い倒される等、正に古い車両を末永く大切にを実践し続ける会社といえる。
京阪電鉄
南海電鉄
小田急箱根
- モハ1形
阪堺電軌
- モ161形
- 軌道線用車両としては日本最古。1928年登場。通常の営業運行を行う車両としては日本最古の存在であり(※一部解釈によっては後述する広電582号の方が古いという説がある、上述した箱根登山車はじめ幾つかの車両は車体載せ換えのためここではカウントしない)、1度も所属路線を変えていない旅客電車としても琴電1000・3000形引退後は最古の存在となる。
- モ351・モ501形
- 上記161形には劣るが、こちらも製造から60年以上が経って今なお殆どが現役。モ501形のカルダン駆動は、その当時に製造された路面電車としては希少な生き残り(殆どの車両は路線廃線と運命を共にする・整備面から既存車と同じ吊り掛け駆動に変更・早期廃車の何れか)。一部部品代替製造が困難なため3Dプリンターを使って複製品を作っている。
能勢電鉄
- 全車両
- 阪急子会社であるために戦後はほぼ全て同社からの譲渡車で占められている。だが、その阪急車両置換ペースが近年極めて鈍っており、そのために中古車を供出先の能勢電車両置換も停滞した。最古参車の車齢は60年を越える。
- 2014年に阪急から譲渡された5100系はその時点で車齢39 - 43年の高齢車両である。その後上記5100系より7 - 15年程若い7200系に譲渡元を変更、多少は車齢が若返った。
高松琴平電気鉄道
上毛電鉄
- デハ100型101号
- 1928年の直流電化時以来在籍中の生抜き車両。動態保存車。
広電
- 650形
- 570形
- 神戸市電からの移入車。582号1両のみが現役であるが、製造は1924年という驚異的な古さ。ただし車体外板の総張替えや扉構造の変更など、骨格を除いての大規模な車体更新により1960年頃新造の扱いである。この点で阪堺のモ161とどっちが本当に古いのかで争われることがある(後述する長崎電軌168号は通常営業を行わない)。
- その他
- 上記570形以外にも広電には多くの他社(福岡・北九州・京都・大阪・神戸)からの中古車が導入されており(広電を語る上で欠かせない出来事である西部警察で電車を爆破したロケで劇用車として提供された車も大阪市電から中古導入)、「動く電車の博物館」と呼ばれた時期もある。その後多くの車両が新型に置換えられて引退したものの、近年まで生き残った車両は各型式1両ずつ動態保存され、現在も走っている。例外的に元京都市電1900形のみは使い勝手の良さから譲渡された15両全車が現役である。イベント走行に限られるが、海外製200形(元ハノーバー市電KSW型・1928年製)等も存在する。
- また、自社発注車でも150形(1925年製・車体載せ替え)・350形(1958年製)・3100形(1961年製)など超長期間に渡る運用車が存在する。
長崎電軌
- 160形168号
- 1911年製動態保存車。現役稼働年数は100年を超えており、車籍を有する動態車としては日本最古の木造ボギー車。安全基準に厳しい木造車の上、ワンマン運転に対応していないため、通常営業は行わず、路面電車の日や会社の創立記念日等年に3日程特別に運用される。
- その他
- 稼働年数が60年を越える車両がゴロゴロいる。一部車両は70年を超えて通常営業に要される。他社からの中古車もいくつかあったが、現役のものは元熊本市電車600形のみ。また、超低床車導入までは2000形(軽快電車)を除き、吊掛駆動旧型車のみが導入されていた。なお、これらの古豪を差し置いて2000形は制御装置等メンテナンスの複雑さから早期(※)引退を余儀なくされている(※早期といっても30年以上活躍している)。
その他中小私鉄
- 各地の中小私鉄では、大手私鉄からの中古車が長らく使われることは珍しくない。自社製の新車であってもこの傾向は変わらず、必然的に「古い車両を大切に末長く使いましょう」状態となっている。
- 特に路面電車は上述した会社以外にも古い車両が残り続けていることはザラである。2020年代ともなれば、高知のとさでん交通(1950年製200形を筆頭に、延べ50両近い車両が製造60年に達している)を始め、多くの会社が限界以上に使い倒した車両置換に苦慮している。
- 2025年現在、所属車両が全て平成以降の車両で占められる路面電車は東急世田谷線・宇都宮ライトレールのみである。
英国
- HST
- 日本の新幹線に触発された英国国鉄(現在はやはり民営化)が開発したプッシュ・プル式高速ディーゼル列車。後継車に不具合があったりなどして、業を煮やした同国の鉄道各社が発動。非電化運転で世界初の200km/hを成し遂げた栄光の車両を使い続けたいという面もあるのかも知れない。
- 最近は日立製の新車に置換えられて撤退する線区が出ているが、余剰車が出ると「おっ、使わないんならウチにくれよ」という会社が多く、廃車は進んでいない。
アルゼンチン
- ブエノスアイレス地下鉄に丸ノ内線で走行していた営団300・500・900形電車が、同地下鉄の線路軌道が同じであることから譲渡され、出入り口の隙間を埋めるステップを追加されるなど一部改修をされた以外はほぼそのままの車両で走行していた。2015年頃から老朽化による故障が多発し、路線延長による車両不足もあってスペインの払下げ車両と交代し、補修点検された上で東京メトロの社員教育のための走る教材として2017年に帰国した。
東南アジア
- インドネシアKRLジャボタベックでは日本の中古車特に205系が人気。技術が譲渡元から継承されるようになり、運用面での信頼性が高まった。
- ミャンマーでは日本の中古気動車がヤンゴン環状線を走っている。しかしインドネシアと違って整備技術に難のあるミャンマーでは、使えなくなると放置状態になって朽ち果てる車両も…
余談
この話、何も鉄道業界に限った話ではない。
航空分野では中古機を買いあさる時価総額全米1位の航空会社が存在し、軍事分野に関しては百年現役フラグのたった8発機や本当に100年目に到達しそうな傑作等がある。
かつては新型車両を投入するとワンマン運転対応・取扱が異なること・メンテナンスフリー化が進み、乗務員や検査整備部門のリストラを恐れて労働組合から強硬な反発があったが、余りにもボロ過ぎたり保守部品が枯渇したり労働環境が劣悪であると逆に早期の新製配置要求が出て来ることがある。