頭上の架線に接触させ、車両側に電力を供給するためのもの。
或いは、自動車用ジャッキや昇降機などに用いられる、菱形を基調とした機械的機構の事も「パンタグラフ」と呼ぶが、語源は後述のとおり製図用具の「パンタグラフ」に由来するものである。
概要
架線からの集電装置には、他にも「トロリーポール」、「ビューゲル」などの種類があるが、日本においては、圧倒的にパンタグラフ方式である。
横から見ると菱形のものが、また2階建て車・ハイデッカー車など設置面積が狭い車両には下枠交差型パンタグラフが馴染み深い。最近の新車には、横から見ると「く」の字状の形をした、シングルアーム式パンタグラフの採用が増えている。
また、500系新幹線電車は空力騒音対策のため、編成短縮改造を行うまで翼型パンタグラフを搭載していた。
シングルアーム式パンタグラフや翼型パンタグラフは、厳密にはその機構からパンタグラフに分類されないが、高速走行する鉄道車両の集電装置としての用途からパンタグラフとして分類されている。
パンタグラフは、電車などの電気で動く鉄道車両の、外観上の大きな特徴とも言える。
パンタグラフが無い鉄道車両は、以下のいずれかである。
- 電気以外の動力で走るもの(気動車、蒸気機関車など)
- 牽引されることを前提としており駆動用の動力を持っていないもの(貨車、客車など)
- 第3軌条(サードレール)から集電する電車(東京メトロの銀座線、丸ノ内線など)
- 普通の鉄道ではない電車(モノレール、ゆりかもめ、リニモなど)
しかし一部では蒸気機関車(スイス国鉄E3/3形蒸気機関車)や客車(カニ22やスハ25(※「電源車」「24系25形」の記事を参照)、ヨーロッパの一部の食堂車では調理用電源供給用に装備したケースもあった。更に架線計測用装備を持った客車等)に集電装置を搭載した車両も存在した。
豆知識
- JR東日本のE233系電車やE655系電車のように、車両によってはパンタグラフの予備が装備されている事がある。そもそも整備や保線に著しい手落ちがない限り、そう簡単に予備を使う機会に遭うことはないと思われる。
- 元々国鉄151系以降の特急電車に2基載っているパンタグラフは、交流電気機関車のそれと同様、予備の予定であった。しかし実際に高速運転させてみると、1ユニット1基では不安定だったため直流区間については2基使うことを国鉄時代長く標準としていた。
- JRになってから余程の高速区間(北越急行や湖西線など)でのみ2基、あとは尽く1基としたが、これは地下鉄並みに離線対策のなされたシューに変わったからである。交流区間では、そもそも電圧がJR在来線でも直流区間の13.3倍あり(電流量は1/13.3=約7.5%)、しかも基本的に変電所の境ごとで交流電気の位相がずれる(波長は6000km(50Hz)または5000km(60Hz)。同じ発電所由来でも、僅かな経路差でも電位が変わってしまう。余程長い絶縁区間を挟まないとパンタグラフ~屋上バスバーを通じて2つの変電所を破壊しかねないため、2基上げているように見えてもJR在来線では片方を電気的に切り離している(つくばエクスプレスがその「余程長い絶縁区間」を用いて2基のパンタグラフを電気的に繋いだまま交流区間を走行している)。
- 走行時摩擦低減の観点からいえば、パンタグラフは少ないほうが越したことはない。近年は高圧電源の引き通しを整備することで徐々に編成内のパンタグラフの削減がはかられている。二次元で異常な数のパンタグラフが書かれてしまう背景には、アニメ・漫画関係者が西武新宿・池袋線にまとまって居住していることも関連するだろう。1970~80年代の西武電車は離線対策から屋上機器が異常に重装備で1両に2個パンタは当たり前であった時代があり、運用の都合でまれに401系だけで8連・10連を組む羽目になった場合はパンタグラフでもはや満艦飾状態であった(もっとも西武だけに限ったことではなく、関西私鉄も全部の電動車にパンタグラフが付いてる会社は珍しくなかったのだが)。90年代にはいると101系以降の高性能車だけになってくるのだが、今度は秩父線走行時の大電流に対応するためしばらく2パンタが維持された(ただし、MM'ユニット構成のため電動車2両のうち1両のみとなる)。……無論脳内解像度の低い人間には異常かそうでないかの識別はつかず、手癖で先人の安易な模倣をしてしまう。慣れとは恐ろしいものである。
- また、1両に1パンタグラフの車両による実在の4両編成をアニメにだしたら、機能を理解しないまま作画したのか全部のパンタグラフを降ろしたまま走っている姿が描かれた事も…
アニメーターの過酷な労働条件(そう言った細部まで勉強する余裕がない)を暗に物語ってもいる。
- 寒冷地では架線に霜や雪が付くことがあり、それにより集電に使うパンタグラフが離線して火花を散らし、それに伴って集電効率の低下、パンタグラフのすり板や架線の損傷が起こるため、進行方向前方のパンタグラフも上げてそれらを掻き落とすことがある。また、積雪による離線を防ぐために古い鉄道車両のパンタグラフを積雪面積の小さいシングルアーム式パンタグラフに換装することがよくある。1998年の大雪でよほど懲りたのか、菱枠・下枠交差含めて尽く電車のパンタグラフを交換した事業者が多かった一方、JRの国鉄型直流電気機関車で殆ど交換されなかったのは、機関車パンタの舟体を上げているのが、金属バネではなく、上昇シリンダー内の圧縮空気であったためと推測される(空気を追加で込めれば済むため)。交流機であるED78・EF71もその目的で両方のパンタグラフを上げることが可能であったが、その場合進行方向側に装備されたものは前述の理由から電気的に切り離されて使用されていた。
- 地方の鉄道事業者に改造され譲渡される車両では、上記の理由以外に同じ型のパンタグラフが既に入手不可能だったり改造の結果載せる場所が足りないために、一部のパンタグラフだけシングルアーム式パンタグラフになるといったどう見ても魔改造です本当に(ryな車両も存在する。
- 鉄道事業者が一般向けに公開している解説図などでは第3軌条用の集電器であるコレクターシュー(「集電靴」ともよばれる)や、モノレール、新交通システムなどの車両が集電器として使用しているコレクターもパンタグラフと書かれていることがよくある。この辺は鉄道に詳しい人だけが見るとは限らないので寛大な心で見守ってあげよう。…とはいえ、やはり許せないのも事実だよね…
- 黎明期はトロリーポールの影響があり、摩擦を減らす目的で集電部分を導体のローラーが転がっていくものが用いられたが、京浜線(現在の京浜東北線の東京以南)で実際に走らせてみるとまともに集電出来るものではないことが判明し、普通鉄道では今日のような潤滑をした摩擦体が擦っていくシュー式の集電舟に変更された。一方で、ローラー付きのパンタグラフは鉱山鉄道では広く用いられていた様子である。
元の意味
- かつて、製図に使われていた「パンタグラフ」という道具があった。「パンタグラフ」の語源はギリシャ語で「全てを(παντ-)描く物(γραφ)」を語源とし、元の図形をなぞり、拡大、縮小した図形を描く器具で、菱形の機構を持つ器具としては広く知られたものであった。現在はCADの登場によりほとんど使用されていないものの、本項に書かれたとおり集電装置や機械設計の分野でその名前が残っている。
関連イラスト
最近のトレンド、シングルアーム式パンタグラフ。
電車の絵を描く人は、参考にするといいかも。(車輛構造を理解してくると自然に理由がわかる。走行装置である台車と集電装置で回転軸が揃うのが力学上必然的に合理的だよね※)
- ※:実は現在の電車のほとんどがパンタグラフ取り付け位置は台車軸に対して車端部方向に300mmオフセットしている。これは、東武鉄道が8000系の冷房化の際、分散式クーラーの取り付けスペース確保のために編み出したものだったのだが、パンタグラフの摺板の中央部ばっか擦り減ることが少なくなったため、他社も倣い出した。現在の電車は集中式クーラーが主流のためスペース的な意味合いはなくなったが、この慣例は続いている。