概要
貨物を輸送するための列車(貨物列車)に用いられる鉄道車両。基本的には動力を持たず機関車等により牽引される(電動貨車やJR貨物M250系電車「スーパーレールカーゴ」等の例外もある)。
屋根の有無により有蓋車(有蓋貨車)、無蓋車(無蓋貨車)とその他の貨車(タンク車、ホッパ車等)に大別される。
また、運搬する貨物や用途等によって様々な種類がある。
かつては様々な貨物や用途によって貨車が用意され、種類が沢山あったが、コンテナ貨物への統一や、高速道路網の充実でトラックによる自動車輸送の繁栄、技術進歩による輸送体形の変化などで様々な貨車が用途を失い、消滅した。現在の日本における貨物列車はコンテナ輸送用のコンテナ車により編成されたものが多数を占めており、その他はタンク車やホッパ車などがわずかに残るばかりである。
以下では主に国鉄・JRでの分類について解説するが、私鉄や海外ではそれとは異なる分類・記号の場合がある。また、明治や大正などの古い時代もこれに当てはまらない場合があることを留意されたい。
※荷物車は、乗客の荷物を輸送する性質上、客車に含まれる。
形状・積荷での分類
有蓋車
- 有蓋車(ゆうがいしゃ)
屋根のある汎用貨車。国鉄での記号はワゴン(Wagon)の「ワ」
雨に濡れてはならない様々な貨物を輸送できる。
- 鉄側有蓋車(てつがわゆうがいしゃ・てつそくゆうがいしゃ)
昔の有蓋車の車体は木造であったために普通の有蓋車と区別された。
ただ、内張りが無かったため、夏は日差しを受けて荷室が灼熱地獄となり、湿気の多い季節は結露がひどかったそうである。
現在は秩父鉄道に救援車としてスム3000形が在籍している。
- 鉄製有蓋車
当初は木造有蓋車の内張りが鉄でできた車両で、灯油などの可燃物を輸送するために使われた。後に生石灰輸送用に車体本体や内張りを含めた全鋼製の有蓋車も現れた。これは生石灰が水と触れると発熱し、内張りに引火することが考えられたからである。
現在は上信電鉄にテム1形の1両が在籍するのみであり、その1両も貨物輸送には使用されていない。
- 通風車
有蓋車は太陽で暖められた熱が車内でこもり、温度が上がってしまうため、温度が上がらないように通風口を設けた。野菜など生鮮物を輸送するために用いられた。
また、通風口を閉じることで普通の有蓋車として用いることができる形式もあった。
現在は使用されていない。
- 陶器車
現在は使用されていない。
- 家畜車
家畜を運ぶために家畜を繋いでおく棒を設置したり、風通しを良くした貨車。
輸送の際は家畜の世話をする人が同乗した。
ただし、馬は外が見えると興奮して暴れるため、家畜車では輸送されなかった。
家畜は当時牧場から都市部へ生きたまま運ばれ、都市に着いてから屠殺されたが、次第に牧場で屠殺して肉にしてから都市へ運ばれるようになったため、用途がなくなった。また、牧場間での輸送など生きたままの家畜を輸送するものもトラックでの輸送に置き換えられた。そのため現在は使用されていない。
- 豚積車(とんせきしゃ・ぶたつみしゃ)
小型家畜用であり、高さが必要ないため、2階建て構造にすることで収容力を高めている。
また、家畜車は家畜の世話をする人に部屋が無かったが、この豚積車には付添人室がある。
家畜車と同じ理由で消滅したため、現在は使用されていない。
- 家禽車(かきんしゃ)
車内には棚が設けられており、多数の鳥籠を置くことができる。
この車両は日本国内に全部で45両しかない希少車種であった。
現在は使用されていない。
- 活魚車(かつぎょしゃ)
車軸が回る力でポンプを動かし、水を循環させることができる。しかし、車軸の回らない停車中は、同乗する付添人が手動でポンプを動かさなければならなかった。
稚魚を各地の河川へ放流するための稚魚輸送や、高級魚を新鮮さを保ちつつ輸送するのに使用された。
この車両は日本国内に全部で11両しかいない、家禽車以上の希少車種であった。
現在は使用されていない。
断熱構造で、保冷性を高めた貨車。国鉄での記号はれいぞう(冷蔵)の「レ」
鮮魚、精肉、牛乳、冷凍品など、常温で輸送できない物品を輸送するための貨車。
初期のころは冷蔵と言っても今の冷蔵庫のように電気を使って内部を冷やすのではなく、氷を搭載して保冷する氷室のような構造になっていた。また、氷は貨物(魚など)と一緒に箱詰めする事を前提に冷却用の氷を搭載せずただ断熱性を高めただけの車両もいた。
冷蔵コンテナに取って代わられたため現在は使用されていない。
- 車運車
大正天皇や昭和天皇が即位する際に使用する馬車を輸送するために用いられた。
無蓋車にも車運車があるが、これは自動車を輸送するためのもので、これとは異なる。
現在は使用されていない。
無蓋車
- 無蓋車(むがいしゃ)
無蓋車も参照
屋根のない汎用貨車。国鉄での記号はトロッコの「ト」
鉱石や砕石など、風雨にさらされてもよいような貨物を輸送する際に用いられる貨車。
たいていは側面がアオリ戸になっており、開閉が可能。
- 土運車(どうんしゃ)
日本の鉄道開業時からある歴史の長い貨車であったが、国鉄では1985年までに消滅した。
- 長物車(ながものしゃ)
主に材木やレールなど長尺物を運ぶための貨車。床と積荷の落下防止用の柵柱があるのみで側板はない。国鉄での記号は、チンバー(timber、英語で材木の意)の「チ」
平板が張ってあるのみで側板などがないため、自衛隊車両などの輸送にも用いられる事がある。
昔はコンテナ車(後述)もこの区分であった。
- 車運車
自動車工場で完成した新車を各地へ輸送するものと、トラックを載せて走るピギーバック輸送用のものがある。
現在は使用されていない。
- コンテナ車
現在の日本では最もメジャーな貨車。枠組みに台車がついているだけのもので、その上にコンテナを積むことができるようになっている。国鉄での記号はコンテナの「コ」
コンテナ車のメリットはコンテナを載せ替えることで様々な貨物を輸送することができることである。例えば、行きは冷蔵コンテナを積んで生鮮食品を輸送し、帰りはタンクコンテナを積んで化学薬品を輸送するといったことが可能である。
また、コンテナはトラックにも載せることができ、貨物駅でのトラックから貨車への積替えが不要ということも大きなメリットである。そのため、コンテナ車と比べて不便な点の多い従来の貨車は数を減らし、日本の鉄道貨物のほとんどがコンテナ貨車で輸送される事となった。
タンク車
石油や液化ガスなどの液体類、セメントなどの粉体類などを運ぶための貨車。国鉄での記号はタンクの「タ」
その名の通りタンクが載っており、耐圧構造になっていたり、耐腐食構造になっていたりとその車両の積載物によって様々な構造になっている
かわった積載物として、酒を運ぶものや、1両のみであったが醤油を運ぶものも過去には存在した。
- 水運車
水道の普及する以前の地域に飲料水を届けたほか、蒸気機関車に給水するための水なども輸送していた。
現在は使用されていない。
ホッパ車
上部のから貨物を積み入れ、積み出す際は下部を開き、底から落として荷降ろしする貨車。国鉄での記号はホッパの「ホ」
有蓋ホッパ車と無蓋ホッパ車があり、前者は雨に濡れては困るセメントや小麦などの粉体類を主に積載し、後者は石灰石や砕石、石炭などを主に積載する。
かつては北海道や九州などの炭鉱の多い地域で盛んに使用されたが、国内の炭鉱が減っていくにつれて数を減らした。
2019年春まで北海道釧路市の太平洋石炭販売輸送という貨物鉄道でセキ6000形が運行されていたが、廃線となったため、石炭車を使用している鉄道は国内では無くなった。
その後も、分類上石炭車の「セ」ではなくホッパ車の「ホ」ではあるもののホキ10000形が石炭専用車として秩父鉄道やJR線で使用されていた。しかしこちらも2020年3月に石炭輸送が廃止されたことで廃車となった。
大物車
- 大物車も参照
通常の貨車で運べない巨大なものを輸送するための貨車。国鉄での記号はじゅうりょうひん(重量品)の「シ」
貨物を載せる部分の床が低くなっている「低床式」(A梁)、貨物を前後の車両(前後セットで1両)で挟み込む「吊り掛け式」(B梁)、床に穴が空いていてそこに貨物を落とし込む「落し込み式」(C梁)、前後の貨車と低床部分が分割されている「分割低床式」(D梁)などがある。
重量物を積むものは車軸が多く、狭軌鉄道で最大の荷重を誇った280トン積みのシキ700形は28軸もの軸があった。
その一方で、重量物を輸送しないものは通常の貨車かそれ以下の荷重しか無いものもあり、シ1形は10トンしか積めず、軸数も普通の貨車や客車と同じ4軸であった。
事業用車
事業用車も参照
貨物や荷物、郵便、旅客などの輸送を行わず、機関車でもない車両。
- 車掌車
貨物列車のうち車掌が乗務する列車に連結された車両。緩急車やブレーキ車とも呼ばれる。国鉄での記号はしゃしょう(車掌)の「ヨ」
かつては全ての貨物列車に車掌が乗務していた。そのため、車掌の乗務スペースが必要であった。そのために作られたのが車掌車である。
また、一部の貨車には荷室と車掌室が同じ貨車にある合造車があり、こちらは上記の貨車の記号にブレーキの「フ」をつけた。例:ワフ(車掌室付き有蓋車)
現在はほとんどの貨物列車が車掌省略で機関士のみでの運行であるため、特殊な貨物(大物車を用いた特大貨物など)をのぞいて使用されることがない。
現在はヨ8000形のみ在籍し、既に合造車は消滅している。
事故復旧用、橋梁架設用、レール積卸用の3種類があった。
現在は使用されていない。
- 雪かき車(除雪車)
線路上の雪かきに使用される車両。国鉄での記号はゆき(雪)の「キ」
雪かきの方法や担当によって様々な車両がいる。
ラッセル車
線路上の雪を線路外へ押しのける車両。車両横の翼で5メートルほどの幅を除雪することができる。
単線用は両側に雪を押しやるが、複線用は対向線路のない左側にだけ雪を押しのける。
ジョルダン車
ラッセル車は5メートルほどしか除雪できないが、このジョルダン車は翼が大型で、7メートルの広い幅を除雪することができる。
マックレー車
豪雪時にラッセル車を使うと線路上に雪が積み上がる。その積みあがった雪で線路脇に壁ができてしまう。
そのため、雪の壁を崩して遠くへ放り投げる必要がでた。
その雪を切り崩す役割を担うのがマックレー車である。幅8メートルほどにある雪をかき寄せる事ができる。
ロータリー車
前面に大きな羽根車が付いており、それが回転することで前方の雪を切り崩し、切り崩した雪は遠方へ放り出される。
ラッセル車では押し出せないような豪雪のときや、マックレー車が雪の壁を切り崩した雪を放り投げるときなどに活躍する。
キマロキ編成
キマロキ編成も参照
線路際にできた雪の壁を崩し、雪を遠くに放り投げるために編成された列車。
前から、「機関車・マックレー車・ロータリー車・機関車」という順番で連結されたことから、それぞれの頭文字をとってキマロキ編成と呼ばれた。
前後の機関車が牽引・推進し、マックレー車で雪の壁を崩し、ロータリー車が崩れた雪を放り投げるといった具合である。
- 控車
また、鉄道連絡船は甲板に線路を引いて貨車ごと輸送していたが、貨車を連絡船に載せたり降ろしたりする際に機関車が連絡船にのらないように機関車と入れ替え車両間に挟むようにして連結される車両。
どちらも国鉄での記号はひかえる(控える)の「ヒ」
トンネルや橋が繋がったことによる連絡船の消滅や、コンテナ輸送への転換でヤードでの入れ替えがなくなったことで消滅した。
貨車とは関係のない控車もあるので注意。
- 検重車
前者は貨物ヤードでの貨車重量測定用のはかりの狂いを直すためのものである。橋秤とは、板の上に乗った物の重さを量るはかりのことである。
鉄道線路は規格があり、低規格路線では路盤が簡易であったりすることから一定以上の重量(あるいは軸重)の車両は走行できない。
そこで、貨物ヤードには貨車の重量をはかることで、重量オーバーの貨車を事前に発見する。
しかし、はかりは使ううちに狂いが生じてくるため、重さがわかっている検重車を載せることではかりの狂いを見つけ、適宜修正する。
後者は橋梁の耐荷重を計測するための車両。
重さが一定でなければならないため、定期的に工場で一定の重さか検査された。また、特に丁寧に扱われており、突放などは禁止された。
前者は2形式、後者は1形式しかなく、両者合わせて13両という希少な存在であった。
現在は使用されていない。
- 衡重車
1966年(昭和41年)に「コ」の記号をコンテナ車に譲ると同時に検重車に改称したため消滅した。
詳細は検重車を参照。
- 試験車
国鉄五大事故である鶴見事故で問題となった2軸貨車の原因不明の脱線の原因を突き止めた脱線試験車など、鉄道の安全などに大きく貢献した。
現在は使用されていない。
- 職用車
軌道更新車、電化工事車、除草剤散布車、信号機輸送車、リニアモーター敷設車など様々な用途の事業用貨車があった。
最大積載重量での分類
国鉄では、前述の形状や積荷での分類に加え、貨物がどれだけ積載できるかで分類分けし、記号を付けていた。
貨車の場合は、主に前述の形状・積荷による分類記号の次に記入された。
- 最大積載重量13トン以下
例:ワ、ト、ワフなど。
- 最大積載重量14トン~16トン
例:ワム、ツム、レム、タム、テムなど。
- 最大積載重量17トン~19トン
例:トラ、ワラ、セラなど。
- 最大積載重量20トン~24トン
例:タサ、ワサ、レサなど。
- 最大積載重量25トン以上
例:コキ、チキ、ホキ、タキ、セキ、トキ、シキなど。
換算両数
更に詳しい重量は、貨物を積んだ状態である積車重量と、貨物を載せない状態の重量である空車重量は、10トン=1両とする「換算両数」で表された。これは客車や電車などすべての車両で共通であったが、空車状態と積車状態で重量が倍以上変わることもある貨車では重要な要素であった。
例えば、自重20トンのコキフ10000は現車:1 換算両数 空車:2.0 積車:3.5となる。
つまり、同じ1両でも自重8.7トンのトム5000と全く異なるので、実際に列車を組成するときには注意が必要である。
則ち、自重10トン、積載量15トンの有蓋車(ワム 換算 空車:1.0 積車:2.5)を20両連結し、このうち半分が貨物を積んだ状態である場合は、現車20両 換算35両となる訳である… が、実際には特例運賃の計算などと同じく非常にややこしい規定と計算式があるので、愛好家が貨車の諸元表片手にこの原則通りに計算しても実際に運転されている列車の換算両数にならなかったりする。
特殊な貨車の分類
国鉄では、貨車によっては低速でしか走れなかったり、装備が特殊であったりと、上記の分類では種類分けできないものに記号を付けて分類していた。
通常の上記の「車種での分類」+「荷重での分類」に加え、車種での分類の前に小書きで記号を書き加える。
- アルミタンク車
タンクそのものの強度が弱く、カーリターダーで減速から連結までが自動化された操車場では連結する際の衝撃が大きいため、タンクが損傷する危険性があるそれらの操車場を経由しないよう警告する表記である。濃硫酸という貨物の性状からアルミニウム以外の選択肢がなかったのが主因とか
- 大型ホッパ車
- 大型タンク車
- 小型タンク車
- 小型無蓋車
形式上は「トラ」であるが、実際は「トム」並みの長さしかなかったという。
- 天井氷槽付き冷蔵車
※この記号は冷蔵車の「レ」の記号の後に小書きで表記される。
例:レテ2900
- 氷槽の無い冷蔵車
貨物に氷を入れて輸送するもの(魚の入った箱に氷を詰めるなど)などで使用される貨車。
※この記号も冷蔵車の「レ」の記号の後に小書きで表記される。
例:レナ5000
- パレット荷役対応有蓋車
- 2段リンク式の車両
車体とサスペンションの間を結ぶ装置にリンク式(2段リンク式に対して1段リンク式とも言う)というものがあり、後に2段リンク式が生まれた。
1段リンク式より2段リンク式のほうが高速で運行できることから2段リンク式の車両は区別され、急行貨物などに優先的に使用された。
しかし、1段リンク車は廃車や2段リンクへの改造などで数が減り、2段リンク車が標準的になったため、この表記は廃止され、1段リンク車には代わりに後述の低速車両の記号が付けられることになった。
車体には黄色の帯が巻かれたため一見してそれと判ったが、黄帯は昭和43年の改定により下記の低速車を示すものとなった。
- 低速車
原則として、車体には黄色の帯が巻かれた。貨物列車の高速化が進むと旧型の貨車を中心に淘汰が進められたが、石炭車や石灰石を運ぶホッパ車など比較的重量があって、なおかつ運転区間がある程度決まっていた車両や、旧来の貨車が残り続けた北海道・九州・四国地方には比較的後年までまとまった数が存在した。
北海道地区限定など、運転区間を限定された車両も存在した。
※:北海道地区限定の車両は黄字で『道外禁止』と記入された。
- 有蓋車兼用通風車
- 有蓋車兼用無蓋車
- 雨漏り車
戦争末期や戦後すぐは物資が不足し、既存車の修理すら満足に行うことができず、雨漏りする車両があった。そういった車両を見分けるためにこの記号が付けられた。
しかし状況が改善されるに従ってこの記号も減少し、消滅した。
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