概要
主に石油・天然ガスなどの液体やセメントなどの粉末を運ぶために製造・運用される貨車。台枠の上に巨大なタンクが乗せられているのが特徴。近年の車両では積載量の効率化に伴い大きなタンクを両側の台車で支える方式が主流となっている。
用途記号は「タ」。
基本的に、汎用性の高い有蓋車やコンテナ車と異なり積載物に最適化された構造であるため「往路でガソリンを輸送し、復路は塩酸を積む」といった使い方は不可能である。つまり、車両毎に積むことができる品目が『専用種別』として定められており、これを逸脱する使い方は基本的に行われない。
これは、タンクそのものの構造や材質もさることながら、安全対策や荷役装置が積載物によって大きく異なることや、仮に全く異なる性質の積載物に積み替える場合、タンクの洗浄作業は大きなコストと(積載物によっては)危険が伴うためである。
このため、自ずと車両によって荷主が決まるので、荷主たる化学薬品メーカーや石油製品専用の運送事業者などを登記上の所有者としながらも、車籍と運行・保守管理を国鉄やJR貨物などの鉄道会社とした『私有貨車』として在籍されることがほとんどである。
- 但し、例えばガソリン専用の車両に所定の手続き・作業を経て灯油や重油などの性状が似た(或いは危険性と品質の低い)物を載せることなどは可能である(場合がある)。この場合、ガソリンより比重が重い液体を積むことになるが、基本的に車輌本来の積載量(重量)を超えて積むことは不可能。過積載ダメ。ゼッタイ。
(これは分かりやすく言うと、タンクに7割しか液体が入っていなくても、重さとしては貨車の制限重量ギリギリになっている現象が起きるということである)
- 逆に自動車用燃料や洗浄用(工業用)として使用されるガソリンは高い品質と安全性の確保が求められるため、基本的にその他石油類を積む車両には載せないとか。
- 石油製品(ガソリンなど)の場合は、基本的に(揮発など火気に関する部分を除けば)危険性がそれほど高くないため、タンク下部に取り出し口を設けているが、特定の金属類と激しく反応する性質がある腐食性液体(濃硫酸・濃硝酸・水酸化ナトリウムなど)は、漏出した際の危険性が大きいため、タンク下側の開口部は存在せず、荷役(積み降ろし)はすべてタンク上部としている。このため、タンク内を充分に洗浄しても石油製品を運ぶ貨車に腐食性液体は載せられない(逆もまた然り)のである。
塗色
タンク体の塗色は、タンク車の多くを占める私有貨車の場合、基本的に車両の所有者たる化学薬品メーカーや運送事業者などが定めるロゴマークが入れられるほか、貨車の色や図案(例えばコーポレートカラーなど)も貨車の所有者によって指定されるが、積載物によっては法律や政令、その他規則で定められた色になる事もある。例えば常温で気体の物質を圧縮して液状化して輸送する車両(=タンク体がいわゆるガスボンベとなる)の場合は、高圧ガス保安法に基づいた塗色となることが殆どである。
- 毒性の強い塩素を液化して運んでいたタキ5400/タキ5450(通称:毒タキ)は、所有者に関係なく高圧ガス保安法に基づいた「黄色」。同じく常温で気体のアンモニアを液化して運んでいたタキ18600などは「白色」、液化石油ガス(LPG)を運んでいたタキ25000などは「ねずみ色」といった具合である。
また上記の「黄色」タキについては脱線時の漏出など万一の場合に備えて、緊急中和剤の石灰や駆け付けた消防隊に対して塩素の取り扱い・緊急連絡先などが記載されているマニュアル等が入れられている保安箱(石灰箱)が両側に取り付けれていた。
近年の化学工場の化成品輸送のコンテナ化や貨物列車高速化の過程において、上記の化成品タンク車は20ftタンクコンテナ等に置き換えられる形でほぼ消滅しており、現在は石油製品輸送用のタンク車が主流となっている。
なお置き換わった化成品タンクコンテナにおいても高圧ガス保安法に基づいた塗装や上記の塩素など危険物に対する保安装備はそのまま引き継がれている。(コンテナ化の際にタンクがフレームで囲われるなど漏洩対策が更に強化されている)
セメント粉末輸送用タンク車も僅かながら現存しており(タキ1900:塗装は黒色)鉱山のある三岐鉄道の東藤原からJR関西本線経由で四日市駅、更に運河を渡って四日市港のセメント荷役サイロまでバラ積セメントを輸送する運用についている。
また亜鉛焼鉱を輸送するタキ1200のようにJR化後に新製された例もある。
福島臨海鉄道の沿線にある東邦亜鉛の小名浜精錬所(小名浜駅)から、群馬県信越本線安中駅に隣接する安中精練所までを輸送。塗装は赤茶色。